各予選会を勝ち抜いた選手が集まる東日本選手権。全日本選手権の予選会でもあるこの大会では、毎年独特の緊張感が会場を包む。早大から出場した4人の選手は、それぞれのコンディションや課題、目標と向き合いながら力を振り絞って演技を披露。その中で、ジュニア男子の山田琉伸(人通1=埼玉栄)が今大会の上位10人が出場することができる全日本ジュニア選手権(全日本ジュニア)への切符を掴んだ。
★シニア女子
東京選手権を10位で通過し、シニア2回目の東日本選手権に臨んだ木南沙良(人通3=東京・日大一)。東日本学生選手権(東インカレ)後には「昨年はただ出るだけという感じだったので、今年はもうちょっと上を目指していけるように」と意気込んでいたが、コンディションは万全ではなく、思うような練習ができていなかったという。6分間練習でもミスが出ていた冒頭の3回転トーループでは転倒。続く3回転サルコウに2回転トーループをつけてリカバリーをするも、1本目がダウングレードの判定となった。「不安と緊張が大いにあった」影響か、全体的に細かなミスが見られた。それでも、ジャンプを全て跳び終わった後は、身体を大きく使ったダイナミックなステップシークエンスで魅せた。不安を抱えながらも「強い芯を持った女性」をテーマとしたプログラムを演じ切った木南。演技後は浮かない表情を見せながらも八戸に集まった観客に丁寧に挨拶をし、リンクを後にした。
得点は33・60点で26位となり、上位24人が進めるフリースケーティング(FS)への進出は惜しくも叶わず。今大会は「(今回の演技内容は)悔しいの一言に尽きる」と悔いが残る結果となってしまった。1月の日本学生氷上競技選手権(インカレ)をはじめ、木南のシーズンはまだ続く。「今回の試合を活かして、満足する結果を得られるよう練習に励む」と前を向き、残りのシーズンを歩んでいく。
『SkyFall』を演じた木南
木南の後に出番を迎えた吉本玲(国教1=兵庫・芦屋国際中教校)は緊張した面持ちでリンクに立った。「美術作品で出てくるような彫刻をイメージ」した振り付けで『展覧会の絵』の演技をスタートするが、冒頭のコンビネーションジャンプは1本目が2回転になり、単独の3回転サルコウでは転倒してしまう。課題としていたジャンプでミスが相次いだ。終盤は伸びやかなステップシークエンスや最高評価のレベル4を獲得したスピンを見せ、魅力がたっぷり詰まったプログラムを演じ切ったが、緊張から「エレメンツだけでなくパフォーマンスの部分でも自分の滑りを出しきれずに終わってしまった」と、満足のいく演技内容とはならなかった。ミスが響き得点を伸ばすことはできなかったが、18位でSPを通過した。
『展覧会の絵』を演じた吉本
第2グループでFSの演技に臨んだ吉本。2013年版の『ロミオとジュリエット』の楽曲に合わせて、定評のある美しく大きな滑りで観客を魅了していく。SP同様、3回転ジャンプでは転倒や回転の抜けがあったが、2回転フリップや2回転アクセルは流れるように着氷。疲れが出る後半も、盛り上がっていく曲に合わせて緩急豊かなスケートを見せた。「見てくださってる方にプログラムのストーリーが伝わるぐらい表現面も大切にして、思い切って滑り切ることを目標に演技ができた」。ジャンプのミスはあったものの、得意としている滑りやスピン、ステップで力を発揮できた演技となった。
総合18位で初めての東日本選手権を終えた吉本。シニア初参戦の今シーズンは、学びも多かったようだ。「エレメンツと表現面を磨いて、シニアで戦っていける選手になれるように」と、経験を糧にさらなる高みを目指す。
『ロミオとジュリエット』を演じた吉本
★シニア男子
シニア男子の競技に出場した廣田聖幸(スポ3=千葉・東邦大東邦)。今回は「氷に乗れるようになったのが1週間前の土曜日」という、体調面で大きな不安を抱えた中での出場となった。それでも「今できることの中で人の心を動かせるような全力で滑る姿をお見せしたい」と、強い気持ちでSPの演技に臨んだ。明るく軽快な音楽に合わせて滑り始めると、演技構成をこなせるような状態ではなかった中、果敢にジャンプやスピンに挑んでいく。ふらつくような場面もあったものの、全力でダンサブルなプログラムを演じた。「大丈夫、うまくいくよ」という歌詞が繰り返される楽曲、『It’s gonna be alright』に乗って、見ている人に元気を与えるような演技を見せた廣田。苦しい状況での演技だったものの、「たくさんの手拍子や声援の中で滑れたことに幸せを噛みしめながら滑れた」と振り返る。FSは棄権し、『ロケットマン』を披露することは叶わなかったが、滑る楽しさや幸せを感じられた大会になった。
『It’s gonna be alright』を演じた廣田
★ジュニア男子
山田琉伸(人通1=埼玉栄)は、全日本ジュニアへの切符がかかった大事な一戦を迎えた。SP7番滑走で登場すると、観客席から大きな声援が送られる。『Bicycle Race』の音楽に合わせて演技を始めた。冒頭の3回転フリップ+3回転トーループのコンビネーションジャンプは、1本目の着氷で詰まり、トーループは回転不足に。6分間練習で念入りに確認していたジャンプにミスが出たが、続く2本のジャンプは危なげなく着氷した。その後はスピード感のある滑りを披露し、見せ場の多いプログラムを滑り切った。得点源のコンビネーションジャンプでミスが出てしまった今回の演技。「満足いくジャンプが跳べず、満足いく点数を得ることができなかった」と振り返ったように、得点は54・17点と伸び悩んだ。それでも、SP終了時点で全日本ジュニア進出圏内の全体9位につけ、決戦のFSへ進むこととなった。
『Bicycle Race』を演じた山田
納得のいく演技ができなかったSPから一夜明け、FSに臨んだ山田。全日本ジュニア進出がかかった演技に、「緊張していると思っていなかったが、滑ってみると緊張していた」という。それでも、落ち着いた様子でジャンプの踏み切りを念入りに確認しながらスタート位置についた。3回転アクセルは回避し、最初は単独の3回転フリップを綺麗に跳ぶと、続くジャンプも順調に成功させていく。しかし、スピンのチェンジエッジ時にバランスを崩し、手をついてしまうミスが出てしまった。その後のジャンプでも、回転不足やエッジエラーが取られるなど所々乱れがあった。それでも「良いジャンプもいくつか跳べた」と語ったように、最後の3回転ルッツはしっかりと着氷。身体を大きく使った伸びやかな滑りやジャンプで大きなミスをしない安定感など、山田の強みを存分に見せた演技となった。FSでは107・96点をマーク。その時点で全日本ジュニア進出を決め、キスアンドクライでは安堵の表情を見せた。「(SPとFS)両方自己ベスト」という目標を掲げ、2年ぶり、そして最後の全日本ジュニアに挑む。
チャイコフスキーの『ピアノ協奏曲第1番』を演じた山田
(記事・写真 吉本朱里)
結果
▽シニア女子
吉本玲
SP 18位 39・05点
FS 18位 74・32点
総合 18位 113・37点
木南沙良
SP 26位 33・60点
▽シニア男子
廣田聖幸
SP 23位 21・81点
FS 棄権
▽ジュニア男子
山田琉伸
SP 9位 54・17点
FS 6位 107・96点
総合 5位 162・13点 Q
コメント
▽シニア女子
木南沙良(人通3=東京・日大一)
――東インカレの前に腰の痛みが出ていたとおっしゃっていましたが、今大会でのコンディションはいかがでしたか
東インカレ後、思うような練習ができず、今大会の1週間前から練習を再開することができました。万全な練習をするコンディションを保てなかったことが今回の悔しい結果に繋がってしまいました。
――緊張はされていましたか
練習が積めていなく、自信がなかったため不安と緊張が大いにありました。
――今回の演技内容を振り返っていかがですか
内容は悔しいの一言に尽きます。今シーズンまだ試合が続くので、今回の試合を活かして、満足する結果を得られるよう練習に励もうと思います。温かい応援ありがとうございました!
吉本玲(国教1=兵庫・芦屋国際中教校)
――今大会に向けてどのような練習を積んできましたか
プログラムを滑るときにどうしてもジャンプばかり気にしちゃっていたので、自分の強みである部分、例えば大きく滑ることやスピンステップを取りこぼしのないようにやり切ることにも意識をおいて練習をしていました。ジャンプはスケーティングを止めないままプログラムのコースで続けて跳ぶ練習を主にしていました。
――SP、FSの演技内容をそれぞれ振り返っていかがですか
SPでは緊張していた部分がそのまま演技に出てしまい、エレメンツだけでなくパフォーマンスの部分でも自分の滑りを出しきれずに終わってしまったので悔しかったです。FSではSPの反省を活かして、見てくださってる方にプログラム(『ロミオとジュリエット』)のストーリーが伝わるぐらい表現面も大切にして、思い切って滑り切ることを目標に演技ができたと思うので良かったです。この滑りの中でジャンプを確実に決めていけるのを目指してまた練習を頑張りたいです。
――今季は東京選手権から東日本選手権まで、初めてシニアの大会に出場されましたが、いかがでしたか
シニアの選手は一つ一つのエレメンツがプログラムの一部になって完成していることを本当に感じました。スケーティングのスピードと勢いがすごいことと、特に腕と指先の使い方が大事なんだなと改めて実感しました。また、昨年までは西で試合に出ていたので初めての東での試合に慣れない所もありましたが今まで身近で見ることのできなかった選手を観察できてとても勉強になりました。私もエレメンツと表現面を磨いて、シニアで戦っていける選手になれるように頑張ろうと思える試合でした。
▽シニア男子
廣田聖幸(スポ3=千葉・東邦大東邦)
――今大会でのコンディションについて教えてください
東日本選手権の2週間前にインフルエンザに感染し、処方された薬の副作用で意識を失ってしまって、救急搬送されました。なんとか治りましたが、思ったより後遺症がひどく、なかなか歩くことができない日々が続いていて、氷に乗れるようになったのが1週間前の土曜日でした。体に力がなかなか戻らなかったため、最低限できることを試合でやろうとコーチと話し、試合当日朝の公式練習ギリギリまで出場を悩んでいた状態でした。
――どのような気持ちで演技に臨みましたか
予定していた演技構成が全くできるような状態ではなかったですが、点数も順位も気にせず、今できることの中で人の心を動かせるような全力で滑る姿をお見せできれば良いなと思って臨みました。
――今回の演技を振り返っていかがですか
まずは歩くことすらままならなかった1週間前の状態からよくここまでできたなと思います。内容どうこうではなく、たくさんの手拍子や声援の中で滑れたことに幸せを噛みしめながら滑れました。演技後もたくさんの方が声をかけてくださり、人の心を動かせるような演技をできて良かったと思いました。フリーは競技人生で初めて棄権することになりましたが、最後まで力を振り絞ってやりきれたと思います。こういう体の状態ではあったものの、改めて滑ることの楽しさと幸せを感じることができた2分40秒でした。
▽ジュニア男子
山田琉伸(人通1=埼玉栄)
――今大会に臨むにあたって、コンディションの方はいかがでしたか
東インカレの時と比べ、ジャンプの安定や体力面が、あまり良くなかったです。
――SP、FSの演技内容をそれぞれ振り返っていかがですか
SPは、満足いくジャンプが跳べず、満足いく点数を得ることができませんでした。FSは、良いジャンプもいくつか跳べましたが、スピンで大きなミスをしてしまいました。
――全日本ジュニア出場がかかった試合でしたが、緊張感はいかがでしたか
緊張していると思ってなかったのですが、滑ってみると緊張していたなと感じました。
――全日本ジュニアに向けて、一言お願いします
両方自己ベスト出せるようにがんばります。