【連載】『令和4年度卒業記念特集』第7回 小室笑凜/フィギュアスケート

フィギュアスケート

「幸せ」

 今年度、早大スケート部フィギュア部門の主将を務める小室笑凜(スポ4=東京・開智日本橋学園)。伝統ある早大フィギュア部門をまとめあげ、支える姿からはフィギュアスケートに真摯に向き合う姿勢や、部員から慕われるその優しい人柄が見えてきた。そんな小室が主将として臨んだラストシーズン、主将として抱く早大フィギュア部門への想いに迫る。

 1月の国体で演技を披露する小室

 多くのスケーターは、大学卒業とともに競技生活を終える。小室もまた、大学4年生として迎えた今シーズン、幼い頃から打ち込んできたフィギュアスケートの競技生活に終止符を打つ。ひとりのスケーターとして、そしてフィギュア部門の主将としてラストシーズンに臨んだ小室。しかし、シーズンインして早々、試練に見舞われる。出場を予定していた東京夏季フィギュアスケート競技大会の直前に重度の捻挫を負い、氷の上に乗れない日々が続いた。ケガの様子を見ながら練習に励んだものの跳ぶことができないジャンプも多く、思うように演技ができない状態が続いた。「ひとつひとつの試合で想いを込めて」「しっかりと楽しむ」と想いを口にしていたが、状況は理想とかけ離れていた。ケガと向き合いながらの練習に、気持ちのコントロールの難しさ。悩みや不安を抱えながらのラストシーズンとなっていた。

 東京選手権や東日本学生選手権、都民大会を終えた12月。小室が大学入学後、毎年出場している国民体育大会冬季大会(国体)の予選会が行われた。国体出場を目指していたがコンディションが整わず、予選を通過できない可能性を考えていたという。最後の試合になるかもしれないと、「後悔のない練習、後悔のない4分間を」と覚悟を決めて試合に臨んだ。その結果はシーズンベストを更新しての7位。見事予選を突破し、栃木県代表としての国体出場を決める。欠かさず出場してきた思い入れの深い舞台で、引退試合を迎えることとなった。
 国体では、たくさんの観客と仲間たちに見守られながらしっとりと柔らかに、小室らしい演技を披露。ジャンプなどのエレメンツは完璧ではなかったものの、想いをのせて伸びやかに滑りきり、晴れやかな表情でラストステージを終えた。コロナ禍以降は観客の前で演技を披露する場は少なく、特に国際大会や全日本選手権に出場する機会が少ない学生スケーターたちにとっては観客に直接演技を届ける機会がなきに等しい時期もあった。久しぶりに有観客で行われた試合に小室は、「お客さんに目を向けて滑ることは一番やりたかったこと」、「こんなに温かい空気感で滑れる時間が終わってほしくなかった」と語る。温かく、優しい雰囲気に包まれる会場で競技人生最後の大会を終え、幸せをかみ締めた。困難を乗り越えた先に待っていた「幸せ」。最後の最後に見せた演技、そして演技を終えた小室の感極まったような表情からは、競技に打ち込む選手の強さや美しさが伝わってくる。ファンとして、観客としてそれを見ている人々もまた、選手からたくさんの「幸せ」を受け取っているのだろう。

 昨年のWASEDA ON ICEにて

 そんな小室は今シーズン、主将として部門全体の活動を支え続けている。以前は個人競技という特性上、いわゆる大学の部活で見られるような部員の交流は少なかった。しかし、ここ数年は拠点が異なる部員たちが1時間程度集まって練習を行う部門部活練習をはじめとする交流の場を設けている。さらに、2021年からは部員が一から作り上げるアイスショー、WASEDA ON ICEを開催。個人で練習に励んで試合に出場するという個人競技の垣根を越えた、部としての結束力や温かさ、和気あいあいとした雰囲気がより感じられるようになった。フィギュア部門の一員として過ごした4年間の中で、コロナ禍に見舞われながらも新しいことへの挑戦を続ける先輩の背中を見てきた小室。「先輩たちが作ってくださった温かい部活を受け継いでいく」だけではなく、「ひとりひとりの個性を発揮できるような場を作っていく」と心に決めて、さまざまなバックグラウンドを持ったスケーターが集まる部の主将としての役割を果たしてきた。小室が支え、まとめてきた早大フィギュア部門の部員全員が作り上げるアイスショー、WASEDA ON ICEは2月25日に行われる。小室をはじめとする多くの4年生にとっては最後の演技の場。おととし、昨年と「幸せ」あふれる時間となったWASEDA ON ICEで、今年はどんな光景が見られるのだろうか。

(記事 吉本朱里、写真 及川知世)