唯一無二のアイスショーがつないだ部員18人/配信に映らなかったWASEDA ON ICE

フィギュアスケート

 「部員全員が一人一人演技をして、グループ演技をする。こういうショーは本当に素晴らしいし、もしかしたら日本で唯一かもしれない」。今年のWASEDA ON ICEの最後の挨拶で、主将である石塚玲雄(スポ4=東京・駒場学園)はこう話した。

 大学で競技を始めた選手から、海外で活躍する選手まで幅広く在籍する早稲田のスケートフィギュア部門。そこで昨年から始まった、部員が主催、運営、出演全てをつとめるエキシビションがWASEDA ON ICEだ。2回目を迎えた今年は、昨年はオンラインでの出演となった選手も東伏見のリンクに集結し、また昨年はプログラムが無かった部員も演技を披露。部員18人全員が個人演技をし、全員がオープニング、グループナンバー、フィナーレに登場する、いわば部の完全体としてのパフォーマンスを配信越しのお客さんに届けた。

 多くの部員から「今までスケートをやっていた中で一番幸せ」という言葉が聞かれ、部の歴史にも、部員や観客の心にも刻まれるイベントとなった今回のWASEDA ON ICE。その成功の裏には、部員全員が持っていた「WASEDA ON ICEを成功させたい」という思いと、配信に映らなかった部員たちの努力があった。



昨年を超えるものを

 昨年11月頃に発足したWASEDA ON ICEの実行委員内で、今年のショーを昨年より超えるものにしたい、お客さんを驚かせるようなものにしたい、という思いは一貫してあったという。その思いを実現する取り組みとして今年新たに取り入れたものの一つが、照明による演出だ。

オープニングにてスポットライトの中に立つ主将の石塚と副主将の佐々木

 照明を入れるという案は、早慶アイスホッケー定期戦のエキシビションで、照明演出の中で演技を披露した佐々木風珠(政経4=東京・早実)からの提案。やや競技会のような雰囲気だった昨年のものよりも、よりアイスショーらしくする工夫の一つとして取り入れ、早稲田大学放送研究会の照明部門への依頼によって、本番での照明演出が実現した。ショー前日、照明担当者や、映像配信を担った福生映像のスタッフを入れたリハーサル後には、佐々木と主将石塚が自ら、担当者と長時間相談する姿が見られた。その念密な協議の上、オープニングや各個人演技の前後の挨拶の時にはスポットライトが各選手を照らし、グループナンバーの時には、曲に合わせて色を変える灯体がパフォーマンスを彩った。

 新しいことをすれば仕事も増える。WASEDA ON ICEの実行委員は個々の練習や部活全体での練習に加え、ショーの運営に関する協議、パンフレット等の制作・発送、映像等の外部団体との交渉も行った。新たな挑戦や、ショーに関連する工夫は、このような実行委員の働きや、部員の協力の上に成り立った。

ガールズナンバーのスタート位置につく女子部員たち。両脇に照明の灯体が見える



個性織りなすグループナンバー

 もう一つ今回のWASEDA ON ICEで特筆すべきがグループナンバー。昨年の第1回から実施していたが、今年は引退生、海外拠点の選手も含め、全部員が同じ氷上で一つのナンバーを作り上げた。また、全員が出演するグループナンバーに加え、ガールズナンバーとボーイズナンバーを追加。そして、オープニングとフィナーレも部員全員で踊るパートを増やし、よりWASEDA ON ICEならではの要素が増加した。

グループナンバーでの部員のインターセクション(交差)

 グループナンバーの指揮や振付を担当したのは副主将の佐々木。シンクロナイズドスケーティングのチーム、神宮Ice Messengersのメンバーとして活動した経験を生かし、隊形変化や複数の選手が組み合ってのスケーティングも取り入れたナンバーを作り上げた。普段シングルスケーターとして演技をする機会がほとんどで、部活としての形態は持つものの、個人で練習することが多い部員たち。チームで一つの演技を作り上げるにあたり、昨年よりも部活練習(部練)の回数を増やし、部員一丸となって、本番に向けて努力を重ねた。

前日の部練で部員に指示を出す佐々木(一番右)

 何より今年は部員18人全員がグループナンバーに参加したということが特別な意味を持つ。新型コロナウイルス禍中の移動制限等により、海外拠点の選手たちが当日現地で出演できるかは直前まで決まらなかった。全員が揃った状態でグループナンバーの練習ができない、ということのみならず、海外で活躍している選手のソロを入れるか入れないか、複数の選手が出演できなかった場合の隊形はどうするのか。複数の可能性を想定しながら、練習を積んでいった。佐々木も「最後まで心配だった」と振り返る。最終的に、本番約1週間前に部員全員の現地での出演が決まり、そこから構成を当てはめ、本番で披露した構成でのグループナンバーが出来上がった。

ボーイズナンバーにてソロを披露する島田高志郎(人通2=岡山・就実)。昨年は拠点のスイスからのリモート出演だった。



「部員全員で」

 学生主催のアイスショーまたはエキシビションで部員全員が出演し、さらにグループ演技も行うショーは珍しく、冒頭で挙げた石塚の言葉を借りるならば「日本で唯一」かもしれない。学生の限られた時間の中で、ショーに向けてのミーティングを行い、グループナンバーの練習をし、さらに自分の個人演技やその他の試合に向けての練習を行うことは容易ではないことは確かだ。しかし、早稲田の部員たちは、「部員がメイン」、「早稲田ブランド」というところにこだわりを持って、ショーを作り上げていった。それはミーティングの中で部員共通の意思として確立していく。

 全員で作りあげ、全員で参加する。石塚、佐々木ら上級生は、グループナンバーの曲や衣装を決める際には、敢えて全員に案を出すように促した。その他にも、実行委員内はもちろん、他の部員から出た新しい意見はどんどん取り入れていったという。「WASEDA ON ICE を通してお客さんに何か届けたい、伝えたいという気持ちを部員みんなが持っていて、すごく積極的に取り組んでくれた」と佐々木は話す。全員でWASEDA ON ICEを作り上げていく、その過程で、普段バラバラに練習する部員たちの仲も深まっていった。そして、その共通の意思が、最終的に部員18人全員を3月12日のダイドードリンコアイスアリーナに呼び寄せ、かけがえの無い演技の数々を生んだ。

前日の部練にて。現チームで初めて部員全員が一同に会した



WASEDA ON ICEという道標

 大成功を収めた今年のWASEDA ON ICE。部員の一人は「部員全員が揃って、ショーに向けての練習を行うことはなかなか叶わなかったが、離れていたとしても部員全員がこのショーを成功させたいという思いが共通してあったことが、成功に繋がった」と話す。レベルも拠点も普段の競技で目指すところも様々。そんな選手たちがWASEDA ON ICEを成功させるという共通の思いのもと集ったことにより、個々の持っているパワーが昇華され、唯一無二のショーが完成した。

  ショー終了後、現役生、特に新4年生からは、早くも来年以降に向けての意気込みが多く聞かれた。今年のショーをさらに進化させ、受け継いでいく。WASEDA ON ICEは来年以降も、部員たちを束ねる糸となり、目指す共通の目的地となる。

主将の石塚を中心に部員全員で作ったWのマーク

(記事 及川知世、写真 荒井結月、及川知世、田島璃子、吉本朱里)