全日本選手権(全日本)最終日。女子フリースケーティング(FS)が行われた。永井優香(社4=東京・駒場学園)はジャンプのミスはあったものの持ち前の美しい滑りを見せ24位で最後の全日本を終えた。そして川畑和愛(社1=沖縄・N高)は前大会の反省を生かした演技で会場を湧かせ11位となった。
持ち前の表現力で観客を引き込む永井
ついにこのときがやってきた。永井にとって最後の全日本での『エデンの東』を会場の観客のみならず画面越しに応援する多くのファンが心待ちにしていた。スケート人生で大きく飛躍した2014-15シーズンのSPに使っていた永井にとって大切な曲だ。大きな拍手に迎えられ、それを噛み締めるように観客を見上げながら登場するとゆっくりと息を吐き最初のポーズに立つ。美しい調べに合わせ両手をふわっと広げて滑り出す。冒頭、得意のルッツジャンプは連続ジャンプを予定していたがタイミングが合わずに単独の1回転に。2回転アクセル-2回転トーループは1本目でやや着氷が詰まったもののなんとかまとめた。前半残り2つのジャンプである3回転サルコー、3回転トーループは演技の流れの中で綺麗に決めた。特にトーループはジャッジ全員が出来栄えでプラスの評価を下すクリーンなジャンプだった。ポジションや軸のぶれることのないレイバックスピン、そして最高評価のレベル4との判定で出来栄えでも加点されたフライングチェンジコンビネーションスピンといった要素でも長年磨かれてきた永井の技術が発揮される。美しくも切ないメロディーに乗せて優雅に舞ったコレオシークエンスを終えると演技は後半へ。永井らしい高さのある3回転ルッツは軸が前に傾き着氷時に手をついたものの、きっちりと回りきって降りる思いの強さが感じられた。終盤、体力的にも限界に近づいていたのだろうか、1回転となってしまうジャンプのミスが続いた。しかし、ここでは終わらない。曲の盛り上がりが最高潮に達するラストのステップでは「今までありがとうございましたという気持ちを込めて」最後の力を振り絞り大きく柔らかな上半身の動きとともに一つ一つ丁寧にターンを踏んでいく。腕の動きにも工夫が見られたチェンジコンビネーションスピンを高速で回り、天を仰いでフィニッシュ。さまざまな思いが溢れた表情を浮かべる永井に、観客は立ち上がって惜しみない拍手を送る。なかなか鳴り止まない温かな拍手の大きさが永井がいかに愛されたスケーターであったかを物語っていた。その拍手に応えて丁寧に四方にお辞儀をしてリンクを後にする。ジャンプのミスやレベルの取りこぼしが響き得点は87.95と伸びなかったものの要素間のつなぎでのエレガントな所作、見るものの心を浄化する美しいスケーティング、終盤の思いのこもったステップは観客の記憶に深く刻まれたことだろう。
最後の全日本選手権、感謝の気持ちをこめて滑り切った永井
ノービス時代から全てのカテゴリーで欠かさず出場してきた全日本の舞台。数々の素敵な演技で大会に華を添えてきたことは紛れもない事実だ。嬉しいことも辛いことも経験してきたこの大舞台で見せた最後の滑りからは「今まで支えてくださった方がいたから今日ここの舞台に立てたと思っていて、本当に今までありがとうございましたっていう気持ち」が存分に伝わってきた。長いスケート人生、決して楽な道のりではなかった。学業との両立やジャンプの調整に苦しんだ時期もあり、辛いこともたくさん経験してきたはずだ。しかし常に周りの人への感謝の気持ちを忘れずにスケートに正面から向き合う姿勢はまさにアスリートの鑑そのものだった。「これからの人生でいろんなことがあると思うんですけどどんなことがあっても諦めないで最後までやっていかなきゃいけないなっていうのを感じました。」と演技後、涙ながらに語ったように集大成となったFSでの演技、そしてスケート人生で得たものは次なるステップでそっと永井の背中を押してくれることだろう。
流れるようなスケーティングを見せる川畑
第3グループ4番滑走で登場した川畑。演技直前、リンクサイドで樋口豊コーチから掛けられた言葉に大きく頷いてからリンクの中央へ。FSで披露するのは『夢二のテーマ』。最初の一音を聞くとわずかに微笑みを浮かべて滑り出す。しっとりとした曲調に合わせしなやかに上半身を使いながらも足元はしっかりと氷を捉えてどんどん加速していく。最初に予定していた3回転ルッツ-3回転トーループの連続ジャンプは、1本目でやや軸がずれてしまい単独のジャンプに。立て続けに跳んだ3回転ループは空中姿勢で両手を挙げて加点を得た。2回転アクセル-3回転トーループに挑むがスピードに乗り切れず回転が不足し両足着氷となる。3回転フリップはエッジエラーの判定となってしまったものの美しく軽やかに降りた。ウィンドミル(フリーレッグと上体を斜めに傾けた風車のような姿勢)の難しい入り方からのレイバックスピンはビールマンに至るまでのポジション変更が見事で、曲調が一転する演技後半の幕開けにふさわしいものだった。まるで川畑自身が音楽を紡ぎ出しているかのようにぴたりと曲に合った、はつらつとしたエネルギッシュな動きで観客の手拍子を誘う。2回転アクセルからの3連続ジャンプを軽々と決めると、続く3回転ルッツに2回転トーループをつけて冒頭で単独になったジャンプのリカバリーをする余裕も感じられた。ジャンプによって演技の流れが途切れることなく、ますます勢いに乗りクライマックスへ。全身を大きく使い、躍動感あふれる印象的なコレオシークエンスでプログラムの魅力を余すところなく発揮し加点が大きく伸びた。レベル4の最高評価との判定を受けたフライング足換えコンビネーションスピンを終えてフィニッシュポーズを決める。滑り切った達成感や安堵ともとれる表情を浮かべて息を整え、拍手を送る観客に笑顔で応えた。FSの得点はシーズンベストの121.62。総合得点186.18で、11位でシニアデビューシーズンの全日本を終えた。演技後、「練習でしっかりとミスした時も集中して最後まで続けたり、ノーミスの演技も練習ではできていたのでそれもあって自信を持って集中力を続けながら最後まで滑ることができたと思います。」と振り返った。ジャンプのミスを引きずってしまい悔しい思いをしたNHK杯から1ヶ月。演技後半からの見事な立て直しは、その思いを胸に練習してきたことが実った結果だったのだろう。着実に一歩一歩前に進んでいる川畑のこれからの演技により一層期待が高まる。
先が見えないシーズンだったがその中でも練習を積み重ね、精一杯の演技を披露した両選手の演技は胸を打つものがあった。永井主将が残してくれた「うまくいかないことも生きてればたくさんあるけどどんなときも頑張ってね」というメッセージは川畑をはじめとする早大の後輩たちにしっかりと届いていることだろう。この言葉を受けた後輩たちが見せてくれる新たな景色が今から楽しみだ。
(記事 中島美穂、写真 アフロ/JSF)
結果
▽全日本選手権女子FS
川畑和愛 11位 186.18点(FS 121.62点) 永井優香24位 146.94点(FS 87.95点)
コメント
永井優香(社4=東京・駒場学園)※Zoomでの囲み取材より抜粋
――最後の全日本という形で臨んだと思うんですけれども、この二日間滑ってみて感想をお願いします
そうですね、ショートはぎりぎり楽しんで滑れたんですけどフリーは直前の練習があまりにもよくなかったので楽しむっていうこと以上に他のほうに気をとられてしまってちょっと悔しい結果に終わってしまいました。
――昨日ショートが終わって、どういう気持ちで今日を迎えられましたか
ショートの日と今日は別の日なので気持ちを切り替えてというふうには思っていました。
――ご自身のフリーの演技を振り返っていただいて、ミスが出てしまった部分はどういったことが原因でしたか
そうですね、まぁそういう日だったのかなというふうに思います。
――今回、お客さんからも温かい拍手が送られたと思うんですけど、実際に拍手を受けてどのような思いでしたか
そうですね、本当に今まで支えてくださった方がいたから今日ここの舞台に立てたと思っていて、本当に今までありがとうございましたっていう気持ちと同時に最後にいい演技を見せることができなかったので、すごくというかちょっとごめんなさいという気持ちでいます。
――今回ラストの全日本でしたが、永井選手が感じた充実感、手応えを話していただけますか
きれいなことを言えればいいんですけど、実際はうまくいかないことが多すぎて、今シーズンに入ってからうまくいかないことがすごくたくさんあってすごい辛かったんですけどそれでもフリーまで出て、酷い演技だったけれども最後まで滑り終えることができたのでこれからの人生でいろんなことがあると思うんですけどどんなことがあっても諦めないで最後までやっていかなきゃいけないなっていうのを感じました。
――ステップの前はステップでお客さんに気持ちを伝えることを優先したのかなというふうに見えていましたが、お客さんに何を伝えたいと思って滑りましたか
会場にいる方もそうでない方も含めてたくさんの方に応援してもらっていたのでステップのときは今までありがとうございましたという気持ちを込めて今できることを一生懸命滑ったつもりではあります。
――ショートはお母様が好きな曲を選んだということですが、フリー進出が決まった後にお母様やご家族とお話をされたり、言葉をかけられたりしましたか
まぁ、よかったねっていう感じでした。
――本当に長い競技生活だったと思いますが、後輩の選手たちに残したいことや自分の演技に残せたなと思うことはどのようなことでしょうか
何か残せていればいいなと思うんですけど、うまくいかないことも生きてればたくさんあるけどどんなときも頑張ってねっていうのを伝えたいです。
川畑和愛(社1=沖縄・N高)※Zoomでの囲み取材より抜粋
――フリーを終えてご自身の感想、感触を聞かせてください
ルッツ-トー(ループ)とダブルアクセル-トリプルトー(ループ)という1番大きな二つのジャンプをミスしてしまったのはすごく悔しいんですけど、最初のルッツがああなって、アクセルにもあったんですけど、慎重になってはいたんですけどそれでも最後まで集中力をもって自分の演技を続けられたかなと思います。
――昨年全日本に出たときはジュニアながら3位、今年出てみて去年との違いは何かありましたか
今シーズンずっとだったと思うんですけど、自分の気づかないうちに去年の全日本3位というのがプレッシャーになってしまっていたというところもあって、やらなきゃいけないと思ってしまう試合が多かったんですけど、今回はコロナの自粛明けから結構自分のジャンプの調子が戻らなくて焦ったりもしたんですけど、自分が飛びたいと思える形のジャンプも飛べるようになってきて、自信が持てるようにこの大会までになってきていて今シーズン頑張ったことを全日本で出し切りたいという気持ちで滑れたと思います。
――今後シーズンどうなるかわかりませんけれど戦っていく上で何か乗り越えていく課題みたいなものは見つかりましたか
やっぱり、ずっと自分の課題にはなっていくと思うんですけど、練習でできていたことを本番で100パーセントの自信を持って滑るということがこれから今シーズン、来シーズンの課題にもっとなっていくと思います。
――逆に課題は見つかったと思うんですけど、全日本、シニアの立場で出てみて、手応えだったり収穫はありましたか
やっぱりショートでは最終滑走というとても良い滑走順で滑れて、その中でショートの演技をまとめられたことははすごくどんな時でも自分が集中して演技ができるという自信にまずはなりましたし、今日のフリーではミスがあって自分のいいイメージの中ではないことが起こってしまっても、まあ焦りも感じはしたんですけど、練習してきたイメージ、感覚を壊さず最後まで自分の集中力を続けていけたことがすごく収穫になりました。
――この曲2シーズン続けて滑られて、世界ジュニアの時は1本目で崩れてからなかなか立て直せなかったところを、今回の全日本ではすごく力強く終盤から立て直してきたなという感じがあったんですけども、自分で成長はどのように感じましたか
世界ジュニアの時は、すごく自分がルッツ-トー(ループ)失敗すると思ってなくて、そのルッツ-トー(ループ)失敗した時に次のジャンプを飛ぶのが怖くなってしまって、それが後半まで影響してしまったんですけど、今回はルッツで失敗してしまってまあ次のジャンプに対する緊張感とかもあったんですけど、練習でしっかりとミスした時も集中して最後まで続けたり、ノーミスの演技も練習ではできていたのでそれもあって自信を持って集中力を続けながら最後まで滑ることができたと思います。
――樋口先生からはどんな話があったでしょうか
やっぱり、ルッツ-トー(ループ)とダブルアクセル-トー(ループ)の得点源となる大きなジャンプを失敗してしまったので、それはやっぱり先生にもしっかり決めなきゃいけないジャンプだよと言われました。