ついに開幕した大舞台、全日本選手権。全国のスケーターたちが集い、ことしも熱戦を繰り広げる。無観客試合が続いたシーズンだったが、今大会の客席にはファンの姿があった。フィギュアスケートを愛する人々が、万感の思いで迎える1試合である。競技1日目の25日、男子ショートプログラム(SP)に早大から2名の選手が出場。石塚玲雄(スポ3=東京・駒場学園)は楽曲のイメージを鮮やかに体現した。しかし、ジャンプミスが響きフリースケーティング(FS)進出が叶わなかった。スイスから帰国して参戦した島田高志郎(人通1=岡山・就実)も、高い表現力が光る滑りを披露した。技術面にはやや悔いが残るが、あすのFSでリベンジを誓う。
3番滑走で会場を盛り上げた石塚
「アイスショーのように今回滑走順が3番滑走で早かったので、オープニングで盛り上げよう」と意気込んでいたという、第1グループ3番滑走の石塚。試合のときを待ち望んでいた観客たちの、あたたかな拍手に迎えられて登場した。赤いポケットチーフを胸にあしらい、落ち着いた面持ちでスタート位置に立つ。プログラムは、昨シーズンから磨き上げてきた『ロシュフォールの恋人たち』。上半身を伸びやかに使って始まりの音を取ると、美しい弧を描きながら一気に加速した。華やかな滑り出しで、観客全員を楽曲世界に誘う。 まずは冒頭、大きくて流れのある2回転アクセルを着氷。滑りのスピード感を存分に活かし、美しい姿勢で決めた。勢いそのままに挑んだ3回転トーループは着氷が少しぐらついたが、回転数は十分であるとの認定だった。連続で予定していた2本目の3回転トーループには繋がらなかったものの、踏ん張りを利かせて演技の流れを保った。得意の足替えシットスピンでは、全体4番目にあたる高得点を獲得。レベル4評価に0.77点の出来栄え点がつき、合計3.77点と実力が表れる出来である。強い軸で、速い回転のままスムーズにポジション移動を行った。 最後のジャンプである3回転フリップでは、バランスを崩し転倒。演技に連続ジャンプが組み込まれない形となった。それでも、雰囲気を切らすことなく表現を続けた。深みを増す曲調に呼応するように、フライングキャメルスピンからステップへと感情をのせて演じる。腕を長く使い、伸びやかな滑りに的確なアクセントをつけながら、体を確実に制御して品よくまとめた。最後の要素となる足替えコンビネーションスピンでは、ポーズを取る直前まで回転速度を保ってフィニッシュ。粘り強く健闘したが、50.28点で29位とFS進出を逃す形となった。 「ジャンプが全然練習でやってきたことが出せなくて悔しい」と、本来の力を発揮しきれなかった石塚であったが、持ち前の滑らかなスケーティングはこの日も輝いていた。最後まで笑顔を絶やさず、楽曲の世界観をドラマチックに演じてみせたその姿は、今後への期待と共に観客の心に残ったことだろう。コロナ禍という異例の環境と、股関節の痛みに悩まされた今シーズン。ままならないこともあったが、石塚は前を見据えている。「完璧に演技してやっと60点いくかどうかというところだったので、技術力が足りなかったなと思いました」と冷静に分析し、掲げてきた「全日本でフリーを滑る」という目標へ向かって再び滑り出す。来年こそはきっと、笑顔でFSの日を迎える。
(記事 犬飼朋花 写真 アフロJSF)
少し悔しさが残る島田、FSでの演技に期待が高まる
そうそうたる顔ぶれが揃う男子SP後半グループ。全30人が出場する中、29番目に登場したのは、今年度新たに早大スケート部の一員となった島田。スイスを拠点とする島田は新型コロナウイルスの影響により今シーズンほとんど試合に出場できていなかった。しかし、その間も地道に練習を積み、同門の宇野昌磨(トヨタ自動車)と共に試合のシミュレーションを重ねてきた。満を持して出場した全日本、SPで披露したのは宮本賢二氏振付の『ファイヤーダンス』。島田の持ち味である豊かな音楽表現を生かしながら、技術的にもレベルの高いプログラムとなっている。特に力を入れたというジャンプの構成はシニアデビューの昨シーズンからさらに難易度を上げてきた。冒頭には4回転サルコーを組み込み、見事成功。着氷後、氷にトーが引っかかったように見えたものの、しっかりと堪え切り笑顔を見せた。続く3回転ルッツ—3回転トーループの連続ジャンプも決まったかと思われたが、着氷した直後にバランスを崩し惜しくも転倒。すぐに立ち上がりスピンへと向かう。ステファン・ランビエールコーチのもと磨き上げてきたスピンはポジションや回転速度に安定感がある。そして、昨シーズンから進化したのは4回転だけではない。ジャンプの基礎点が1.1倍となる演技後半に3回転アクセルを持ってきた。曲のテンポが加速する中、勢いに乗って跳び上がり、乱れることなく着氷。流れのあるジャンプで、加点のつく出来栄えであった。続いての要素はステップシークエンス。艶やかなピアノの音色に乗せた、身体を大きく使いつつ、指先まで洗練された身のこなし、そしてひときわ輝いたのは島田らしさ満天の豊かな表情。このSPでは「内から出る⾃分というものを⾒せたい」と語った島田。その言葉通り、ため込んだ情熱を静かに爆発させるパフォーマンスで、見る者を存分に魅了してみせた。自身も久々となった試合での演技を楽しみ、「晴れ晴れとした気持ち」で終えることができたという。SPの得点は71.88点。連続ジャンプでの転倒のほか、最後のスピンが無得点になるなど、技術面においては完璧な出来とは言えず、目標としていた90点台には遠く及ばなかった。一方、難易度の高い4回転サルコーや後半のトリプルアクセルを成功させたことは確かな自信に繋がるだろう。自身のSPを「合格点」と評した島田だが、FSではさらなる高みを見据え、「150点満点」の演技を目指す。披露するのは『パガニーニの主題による狂詩曲』。「会場全体と⼀体になれるようなプログラム」で、ビッグハットを島田の世界観に染め上げる。
(記事 小出萌々香 写真 アフロJSF)
結果
▽男子SP
島田高志郎 9位 71.88点 石塚玲雄 29位 50.29点
コメント
石塚玲雄(スポ3=東京・駒場学園)※Zoomでの囲み取材より抜粋
――今日の演技の感想を聞かせてください
もうジャンプが全然練習でやってきたことが出せなくて悔しいんですけど、明らかに技術力が低かったので。やっぱり完璧に演技してやっと60点いくかどうかというところだったので、技術力が足りなかったなと思いました。
――アイスショーのつもりで滑ったという声が聞こえてきたのですが演技の面ではいかがでしたか
演技の面では、アイスショーのように今回滑走順が3番滑走で早かったので、オープニングで盛り上げようと思って滑れたんですけど、ジャンプがちょっとひどいこけかたをしてしまったので、よくなかったなと思いました。
――コロナ禍で色んなことが難しいシーズンだったと思うのですが、ご自分の中で今シーズン達成感がある、新たに挑戦できたことがあるなということがあれば教えてください
トリプルアクセルとかはこの試合に間に合わなかったのですが、そのかわりジャンプの空中の感覚だったり、ジャンプ降りた時の感覚だったり、いろんな感覚をこの全日本までの間に研ぎ澄ませたというか、濃くしていけたのでそこは収穫かなと思います。
島田高志郎(人通1=岡山・就実)
※24日の公式練習後、Zoomでの囲み取材より抜粋
――公式練習で滑ってみて、みんなと⼀緒は久々でしたが、どのような感触でしたか
すごく調⼦も良く、いい感触で公式練習を終えれたので、今のところすごくホッとしている気持ちと、久々に⽇本のトップの選⼿たちと⼀緒に練習させてもらう機会っていうのですごくワクワクした気持ちで練習に臨むことができました。
――コロナ禍でなかなか⼤会が開催されず、イレギュラーなシーズンでしたが⽇々どのような練習をおこなってきましたか
⽇々、毎⽇同じ練習の繰り返しでした。曲かけの反復練習をして、とにかく体⼒⾯の不安やすべての不安を取り除こうとして毎⽇練習を積み重ねてきました。主にジャンプとかの技術の⼀つ⼀つにも気を配りながらやってきました。
――特にメインで取り組んできたことを教えてください
特にはジャンプですね。特にはジャンプなんですけど、プログラム全体の流れが毎回できるように練習をしてきました。
――今シーズンのプログラムの⾒所を教えてください
ショートプログラムは情熱的な、内から出る⾃分というものを⾒せたいなというふうに思っていて。フリースケーティングではすごく雄⼤な、空に⾶び⽴つような、会場全体と⼀体になれるようなプログラムとなっているのでその点に注⽬していただきたいなと思います。
――最後に、今⼤会の⽬標を教えてください
⾃分がいい演技をするという⽬標を掲げながら⽇々練習してきていたので、もちろん表彰台も狙って良い結果を残れたらなと思うんですけどまずは、本当にいい演技がしたいです。それが⾃分の願望であり、⽬標です。
※以下SP演技後、Zoomでの囲み取材より抜粋
――まずは滑り終えてご自身の感覚、感触いかがでしたか
まずはこういった多くのお客様に見ていただいてほんとに楽しかったというか晴れ晴れとした気持ちでショートプログラムを終えることができました。でも、すごく悔しい部分も多くあるのでそういった部分、悔しい部分のミスというものが点数が伸びなかった理由に繋がっていると思うので明日はその自分にリベンジしていきたいなというふうに思います。
――今回のショートプログラムの演技で実際にどの辺が課題かなと思いましたか
ほんとに宇野昌磨選手とスイスの練習でシミュレーションを何度も行って、試合のような感覚を得るために頑張ってきていたんですけど、やはりこの大きな試合の感覚とは全然違うもので、その感覚をまず得ることが今日の課題だったのでその課題はクリアしたと思います。でもやっぱりジャンプだったりとか、95パーセントの自分を信頼して、自信を持って臨んだんですけど残りの5パーセントでミスが出てしまったので、明日は120パーセントの自信で臨みたいと思います。
――その95を120にする秘訣というかそういうものは自分の中であるんですか
秘訣ですか。今までの自分がこなしてきた練習をとにかく信じるしかないですね。公式練習の調子が悪いとかいいとかはほとんど関係ない、もちろん気持ちの面で関係あると思うんですけど、最後に信じるべきは今までやってきたことであったり、自分の心の奥底にあるものだと思っているので、それを表にひき出してやりたいなというふうに思います。
――観客がいる中ではじめての演技だったと思うんですけど、実際にお客さんの前で滑ってみてどうでしたか
怖気付く自分と、頑張るぞという自分とすごく戦っていたんですけど、その中で去年の自分だったらミスしていたと思える4回転だったりだとかトリプルアクセルというものはクリアというか、それこそ今までの自分を信じることができたので、自分の中では100点ではないですけど、まあ合格点をあげたいなと思います。 でもほんとに明日は150点満点の、さらに上がっちゃいましたけど(笑)それを出していきたいなと思います。
――先ほど宇野選手とシミュレーションをしたというお話がありましたが具体的に教えてください。また、宇野選手と一緒の練習になったことでジャンプに特に良い影響は感じていますか
ジャンプだけではなくスピンやステップ、プログラムの通しの練習などすべてにおいて良い影響を受けています。宇野選手とシミュレーションというのは6分間練習をして、自分以外の1人もリンク中で滑らず演技を通していったりだとか、試合感を得るための練習を3、4回はしてきたのでそれがここでいきたかどうかはわかんないですけど、2人して同じミスをしてしまったので、そこを2人で明日はリベンジできるようにしていきたいと思います。
――キスアンドクライでステファンコーチと満足そうにしていらっしゃって、得点が出たときの気持ちはどうだったのでしょうか
あの、過去の自分を点数で超えることができなかったのでそこは本当に悔しい部分ですし、1番の目標としていた90点台というものとは程遠い結果になってしまったので明日のフリーではショートは終えたことなので明日はしっかりと切り替えて自分のやるべきことをあとはやるだけだなというふうに思います。
――ステファンコーチからはどんな言葉がありましたか
あの、練習から口を酸っぱくして言われていた自分の着氷する足だとか使う足を100パーセント信じろというものをキスアンドクライでも終わった後でもまた言われてしまいました。なのでそれを明日は言われないような練習をして、さらに曲かけの中ではそれを自然とできるようにしていきたいなというふうに思います。