近年高い人気を得ているフィギュアスケート。羽生結弦選手(ANA)や宮原知子選手(関大)を筆頭にシングルスケーティング選手の活躍が注目の的となっているため、1人で行う競技というイメージを持つ人も多いだろう。しかしフィギュアスケートには複数人で演技を行う競技もあるのだ。そのひとつが16人でリフトやサークルなどの要素を実施し得点を競う、シンクロナイズドスケーティング(シンクロ)だ。今回は、神宮ICE Messengersの一員として世界シンクロナイズドスケーティング大会に出場した齊藤聖果(商1=東京・早実)にお話を伺い、シンクロの競技についてや練習、競技の普及について迫った。
※この取材は6月21日に行われたものです。
「これからもっと楽しみだな」
――入学して間もないですが、大学生活には慣れましたか
思っていたよりも大変ではなくて、わりと慣れてきました。
――商学部ではどのような勉強をしていますか
今はまだ分野が分かれていないので、基礎的な経済やビジネス法をやっています。
――勉強とスケートの両立は大変ですか
今はオフシーズンなのでまだ分からないのですが、秋から冬にかけては大変だろうなと思っています。
――早大のスケート部に入部した理由はなんですか
スケートを始めた時から早稲田のスケート部の監督の福原(美和)先生に教わっていて、「早稲田のスケート部はいいよ」と言われてからずっと憧れていました。
――具体的に言われていたことはありますか
「次はあなたがスケート部を引っ張るのよ」と言われていました(笑)。
――スケート部の印象はいかがですか
ことしも始めから優勝していて、やっぱりすごいなと思います。
――全日本選手権に出場するようなトップスケーターと同じ部でできることについてはどう感じていますか
大学に入らない限り、一緒に滑ることはないと思うんですよ。だから、大学に入ってそういう選手たちと一緒にやれるということは大きいかなと思います。
――先日の関東学生フィギュアスケート選手権(春関)では何か話をされましたか
3月の時点で入ることは決まっていたので、その頃から話はしていました。本当に優しい方々です。
――そこではどんな話をされましたか
最初は「どこで滑ってるの?」とか、大学の授業の話が多かったです。
――安藤美裕選手(教2=東京・早実)は高校の先輩ですが、高校の頃から関わりはありましたか
小学校の頃からずっと先輩です。リンクも神宮で一緒なので、仲は良いと思います。小さい頃から知っているので、先輩というよりは一番話しやすい存在です。
――ことしは新入生が多く入りましたが、1年生同士は仲良くなりましたか
今すごく仲良くなっています。体育会だと他にサークルとかに入らないので、部は部で仲良くなっています。
――大学デビュー戦となった春関は改めて振り返っていかがですか
レベルを取れるところで取れていなかったのが大きくて、練習しなきゃなと思いました。
――大学生の試合の独特な雰囲気は感じましたか
今まで近くで応援されているのを実感する機会がなくて、一人の戦いだったので、試合って楽しいんだなと思いました。
――他の選手の演技をご覧になっていかがでしたか
7、8級の選手を見ることが多かったのですが、もちろんレベルも高いし、大学生ならではの演技力の高さがありました。あとみんなの応援の大きさを見て、これからもっと楽しみだなと思いました。
――同じリンクなどで仲の良いスケーターはどなたですか
シンクロの仲間は仲が良いです。あとは同じチームの鈴木元気くん(学習院大)と濱谷佐理さん(東洋大)は一緒にいつも練習していて仲が良いです。
――目指しているスケーター、好きなスケーターはいますか
私はずっと樋口(豊)先生に習っているのですが、(樋口コーチの教え子である)太田由希奈さんは現役から見ていて、引退してからのコーチの時も見ていて、すごくきれいなんですよ。憧れだなって思います。
「大勢で滑る魅力も伝えていきたい」
笑顔で質問に答える齊藤
――それではここからシンクロについての質問に移ります。まずシンクロとはどのような競技でしょうか
基本的にスケートって1人で、団体(で行う)というのは考えられたこと無いと思うんですけど、シンクロの場合は16人でリンクに乗って演技をします。みんなでつないで滑るのでやっぱり自分の思った方向に行けないとか、思った滑りができないということはあります。でも16人で合わせた時の一体感というか、1人では演じられない部分を大勢だとより表現できるのでそこが一番の魅力かと思います。
――シンクロで注目してほしいところは
やっぱりリフトですかね。前まではリフトは1個だったんですけど今は2つの違ったポーズのリフトをしなきゃいけなくて。持ち上げる側も乗る側もすごい体力を使うのですが、やっぱり最大の見せ場、ダイナミックに使える見せ場なのでそこは見てほしいなと思います。
――シンクロを始めたきっかけは
シングル(シングルスケーティング)をやっていてシングルを続けるつもりしかありませんでした。でも高校一年生の時にいったん辞めてそこから戻ってきたときに仲良い友達が何人かシンクロをやっていました。それで一回見に行かせてもらったときに面白いなと思ったのがきっかけで友達に話を聞いて、セレクションを受けて入りました。
――チームに入るために試験のようなものがあるのですね
神宮のチームでは、2個下にあるグループでは分からないんですけどシニアは入るためにはトライアウトを受けます。ベーシックのスケーティングやスパイラルなどを先生に見てもらって受かったら入れるという制度です。
――小さい頃からやっている人が多いというわけではないのですか
小さい頃からやっている人もいるんですけど、やっぱりシングルである程度スケーティング力があるとシンクロでももちろん押す力は必要なのでそこから入ってくる人も結構います。
――シンクロの練習はどのようなことを行うのですか
シングルは振り付けが決まったらもうそこでジャンプを変えていくと思うんですけど、私たちが滑りやすいようにどんどん演技を変えていきます。ステップも1時間の練習があったらその間にどんどん変わります。自分たちが滑りやすく上手く見えるような演技を自分たちと先生とで話し合ってよりよくしていく感じです。
――リフトはどのように練習をされているのですか
リフトは3人で1人を上げるんですけど、最初はいきなり氷上でやると危ないので、その練習をスケート靴なしでやります。またスケート靴を履いてリンクに乗る前に練習して、やっとまずまっすぐに上げてそこからレベルを取るために下で支える人たちが回転をするんですよ。それをできるようにしていく感じです。
――シンクロの練習がシングルに生かされることはありますか
シングルって具体例挙げるとスリーターンとかモホークとか振り回しても自分の好きな方向にいけるんですよ。でもシンクロの場合って皆が行ってる方向と違うところに行ったら危ないんですよ。だから本当にちゃんとしたエッジに乗っていかなきゃいけないのでステップ力とか自分で振り回さないで合わせるというのが上手くなったかなと思います。
――シングルの練習でシンクロに活きることはありますか
私は樋口(豊)先生に習っていて、長野五輪の時から、円などをどれだけきれいに書けるかを競うコンパルソリーという競技があったんですよ。そのおかげで私たちはすごいスケーティングをやっていて、ひたすらクロスを書くとかいうことは、スケートにおいて使えるなと思います。
――シングルとシンクロの両立で大変なところは
今はオフシーズンで良いんですけど、学校の勉強との両立とかが大変です。シンクロのシーズンに入るとシンクロを優先しないといけないので、シングルはジャンプがありますがジャンプは練習できません。スケーティングは向上するけど技術は追いつかないという状況が起きてきます。
――シングルの技術を補うためにやられていることはありますか
東京は滑れない時間が多いので、陸でジャンプ練(ジャンプ練習)とかするしかないですね。
――お話を伺っていてシングルとの両立をされている方が多いようですが
そうですね。九割以上が(両立)していると思います。
――シングルとの両立をされながらだと練習の時に16人で集まるのは大変ではないのですか
シンクロとシングルの時間は分かれています。わたしはずっと神宮がホームリンクなのでもちろん(時間が)分かれちゃうんですけど、そこまで困ることはないですね。
――シンクロの演技は一人一人演技が少しずつ違いますが、補欠の方など皆さんがいろいろなパターンを練習されるのでしょうか
基本はちゃんと位置が決まっています。もちろんこれだけ滑っているのだから皆の位置が分かるでしょとは言われるのですが、試合直前に誰が出られなくなるとかケガをするとか分からないので。変わるといってもそこまで変わるわけではないのですが、ある程度どこの位置に入ってもやれるようにしろとはやっぱり言われていますね。
――神宮のリンクの練習環境についてはいかがですか
悪いですね。海外に比べて、スケートが人気になってきているというのもあるんですけどリンクも少なくて練習時間も本当に少しになってしまいます。だからどれだけコンスタントに練習をできるかが求められてきます。毎日はシンクロで滑ることができないのでそこが海外チームとの差かなと思います。
――週にどれくらい練習しているのでしょうか
シンクロだと週に3,4(回)くらいですかね。シングルを合わせたら週に5,6(回)ぐらい滑るのですが1日1時間とかで短いです。
――その中でどれだけできるのかを突き詰めていくのですね
そうですね。だからやっぱり1回休んじゃうとすごい離されちゃいますね。
――神宮で練習している選手も多いのですか
そうですね。(樋口)新葉をはじめ、神宮はわりと強いので選手が多いですね。
――きょねんの世界選手権を振り返っていかがでしたか
私も実は先シーズン途中からの参加なのですが、今まではわりと長くやってきた選手が多かったんです。でも先シーズンは今年がワンシーズン目という選手が多くて。たぶん10人くらいはそうだったんじゃないかな。だからそのぶん合宿でも5回一気に休憩なしで通し練習をしたりしました。すごく練習してその前のシーズンより順位が上がりました。世界のシンクロでは、AチームとBチームというのがあります。今までB(チーム)だったんですけど、B(チーム)だと滑走順が前になるんですよ。それがことしA(チーム)にあがって1年目の人が多かったわりに練習の結果がついてきたんじゃないかなと思います。
――外国のチームの演技を見ていかがでしたか
上には上がいますよね。カナダとかロシアのチームってまず個々のレベルが高くてみんなで滑るとスピードが出るんですよ。持ち上げるときの速さとかのスピードが違うなと思いました。
――現在国内にはどれくらいのチームがあるのでしょうか
(チームは)あるんですけど、たぶん人数がそろってないんですよね。
――世界選手権の代表選考はどのように行われたのでしょうか
日本選手権があって私たちが今日本代表なんですけど、点数をある程度出さないと選出されないんですよ。
――チームを結成するのに16人そろうというのはやはり難しいのでしょうか
そうですね。やっぱりマイナーなのでもっと広まってほしいなと思います。海外ではもっと有名なのでメンバーになるのに競争があって。私たちはメンバーになるのにわりと入りやすいというか。練習もしなきゃいけないし、レベルもないといけないけど、海外に比べたらやっぱりレベルが低い。競技が広まらないと強くならないのかなと思います。
――競技普及のためにはどのようなことが大事だと思いますか
今でもいろんなイベントには出させていただいているのですがやっぱりスケートはシングルというイメージがあって。日本だとペアも少ないので2人や大勢でやるのも魅力があるんだよっていうのももっと伝えていけたらいいなと思います。
――今度のドリームオンアイスにも出演されるということですが
そうですね、ぜひ皆さんに観ていただきたいです。
――競技人口を増やすためにはどのようなことが必要だと思いますか
シンクロもシングルにつながると思うし、小さい頃からシンクロをやっている子を育成していくのがいいのかなと思います。私もずっとシンクロってよく知らなかったんですよ。だからもっと前から知っていればよかったなとは思います。
――最後に4年間の意気込みをお願いします
一気に結果を出せるわけではないからはまずはシンクロで結果を出していきたいです。そしてもちろんシングルでも結果を残せるようにしたいです。
――ありがとうございました!
(取材・編集 糸賀日向子、川浪康太郎)
シンクロ、シングル両競技での活躍に期待です!
◆齊藤 聖果(さいとう・せいか)
1999(平11)年3月24日生まれ。154センチ。東京都出身。商学部1年。シンクロについて身振り手振りをまじえて気さくに教えてくださいました。神宮ICE Messengersとして試合だけでなくイベントにも出演している齊藤選手。これからもシンクロの魅力をたくさんの人に伝えていきます。