涙の全日本選手権(全日本)から約1カ月。膝と股関節には依然痛みが残るが、今季最終戦は新潟県代表として出場する国民体育大会(国体)だと決めていた。ショートプログラム(SP)、フリースケーティング(FS)共にジャンプではところどころでミスが見られたが、強化してきた体力を生かしリカバリーを成功させる。さらに深みを増した表現力は圧巻。個人7位入賞と今できることをやり切り、今井遥(人通3=東京・日本橋女学館)の1年が幕を閉じた。
自身が「大好きなプログラム」と語るSP『レジェンド・オブ・フォール』。今井にぴったりなこの優雅な曲に乗せ、至福の2分50秒をつくり出した。最初のジャンプ、猛スピードのまま踏み込んだトリプルサルコーは高く上がりすぎ、セカンドをつけられず。2つ目のジャンプは、ルッツを回避し取り入れたトリプルループ。これを決めると、さらにダブルトーループをつけしっかりリカバリーしてみせた。スピンは確実にこなし、表現面でも他を圧倒。熟練されたスケーティングでリンクを大きく使い、その美しさに観客は徐々に引き込まれていく。それは点数にも現れ、演技構成点は全体の3位。SPのシーズンベストを更新し、最終グループ入りを果たした。
豊かな表情でSPを舞う今井
グループの第1滑走ということもあり、体力的な不安のあったFS。完璧な出来ではなかったが、今季一番の演技であったことは間違いない。冒頭のダブルアクセルはステップアウトとなり、またしてもコンビネーションにはできず。SPでは跳ばなかったトリプルルッツはなんとか着氷した。苦しい1年の成果がかたちになったのは、4つ目のジャンプ。幅のあるダブルアクセルにトリプルトーループをつけ、会場を沸かせる。「弱気で滑っていたらリカバリーをすることもできなかった」との言葉通り、強気の姿勢、そしてそれを裏付ける体力強化へ向けた努力が功を奏した。後半最初のトリプルループは転倒。それでも立ち上がり、最後は気持ちだけで残る2つのジャンプを決めた。演技後、和やかな表情で深々とお辞儀をし、リンクを去った今井。始まりから終わりまで、全身で表現した『プリマヴェーラ』は、大人の魅力が詰め込まれたあまりにも美しいプログラムだった。
都道府県の垣根なく多くの選手に見送られ、フリーの演技に臨んだ
「私にとって特別なシーズンになりました」。強化選手を外れ、痛みと戦いながらブロックから参戦した今季。苦しいことの連続だった。だが、今井はこの逆境を「いい経験」と捉え前を向いている。来季は、多くのベテランスケーターにとって節目の年となるオリンピックシーズン。今季を終えたばかりの今、まだスケート人生の終着点は見えていないが、誰もがまた氷上に舞い戻る日を待っている。
(記事、写真 川浪康太郎)
結果
▽成年女子
今井遥 7位 152.64点(SP 6位 55.19点、FS 9位 97.45点)
コメント
今井遥(人通3=東京・日本橋女学館)
SP
――今回のショートではルッツは入れていませんでしたが
体の状態とかをいろいろ考えて、最善はループかなと思ったので、コーチと相談してループにしました。
――それでもシーズンベストを出せた要因は
国体(国民体育大会)が最後の試合になりますし、とにかく縮こまった演技をしないで思い切り滑ろうと思って、最初からスピードを出していきました。思い切りいきすぎて最初のジャンプは上がりすぎてしまってセカンドジャンプをつけられなかったのですが、落ち着いてループジャンプにリカバリーも付けられましたし、最後までエッジを使うであったり、スケートの伸びを意識してできたので、全体的な得点アップにつながったのかなと思います。
――膝と股関節の状態はいかがですか
あまりよくはないのですが、薬とかを飲みながらいろいろ治療をして、ちょっと無理をしてでも国体に全力でいけるように調整してきました。
――全日本選手権(全日本)以降重点的に練習してきたことはなんですか
全日本が終わってから練習できる時間も限られていたので、最低限しかできなかったのですが、その中でもしっかりここに向けてやってきたので、あとはやるだけだという思いで来ました。
――ステップなどはこの期間で強化してきましたか
ステップも練習しましたし、自分の動きとしては、上体とかは大きく使えたかなと思います。
――ショートのプログラムは演じるのがこれで最後だと思いますが、振り返って
私自身本当に大好きなプログラムなので、このプログラムを滑れてよかったなという思いで滑りました。
――新潟県代表として出る国体は特別な思いがありますか
国体は個人ではなく団体での結果しか出ないのですが、2人合わせて100パーセントの力が出せるように、私自身も精一杯頑張って新潟チームとして頑張りました。
――ことしの目標はどのあたりですか
団体入賞とかではなく、とにかく自分ができる精一杯の演技を見てくださるみなさんに、私らしい思い切ったスケートを見てもらえるように、それを第一に考えています。
FS
――フリーの演技を振り返って
6分間練習のあと1番だったので体力がもつか不安でした。転倒もあったし、最初のダブルアクセル―トリプルトーループが単発になってしまって、本当は4つ目のダブルアクセルが単発の予定だったのですが、そこにトリプルトーループを付けたので体力的にはきつかったです。失敗したジャンプもあったし、タイムオーバーもあったのですが、きつい中でもスピンや最低限のステップをやろうと思って最後まで滑り切りました。
――やはり疲れは感じましたか
本当は4つ目のダブルアクセルがスピードのない状態から跳ぶ単発のダブルアクセルだったので、そこでトリプルトーループを付けることによってスピードもいりますし、休憩がてらダブルアクセルを跳ぶ予定だったのが、休憩ではなく思い切り跳ぼうという気持ちでいったので、その分体力的にはきつかったです。きつい中、2つ目のトリプルループにセカンドをつけられたり、最後のトリプルサルコーも気合いで跳んだという感じで、最後の方は本当に気持ちだけで滑っていました。
――ルッツの出来はいかがでしたか
どういう判定になっているかは分からないのですが、最低限まとめることはできたかなと思います。
――苦しいシーズンの中で得たものはなんですか
今季は北海道東北ブロックから始まって、そこでも全然自分の本調子というわけではなく、シーズンの最初から終わりまで万全の状態で臨めた試合はありませんでした。練習ができない時期もありましたし、うまくいかないことの方が多かったのですが、一つ一つの試合で改善点を見つけて、「次は、次は」という思いで試合に臨んでいったので、そういう面ではいい経験にはなりました。この国体は弱気で滑っていたらリカバリーをすることもできなかったと思うのですが、最後まで強気の姿勢で滑り切れたことはよかったです。
――気持ちの面では成長できたシーズンでしたか
そうですね。ケガとか体調不良とかがなく毎回万全な状態だったら、こういう思いとか経験もなかったと思いますし、全てのことは今後の自分の人生にも生きてくると思うので、私にとって特別なシーズンになりました。
――武器になった部分、今後磨いていかなければいけない部分はそれぞれどこですか
ショートは柔らかい曲で私自身滑りやすい曲で、フリーはショートとはガラッと変わって大人っぽい凛とした雰囲気のプログラムになっているので、そういう滑り分け、演技を分けられることは強みだと思います。ですが一番大事になってくるのはジャンプですし、コンスタントに練習できる体調であったりそういう面(が課題)かなと思います。練習が納得できるまでできていなかったり、ジャンプの練習ができていなかったりすると、どうしても不安になってしまうので、そういった面で心技体の3つ全てが大事になってくるスポーツだなと改めて思います。
――最後に、来季に向けた意気込みを聞かせてください
ようやく今季が終わったので、まだ全然来季どうするかとか、プログラムも何も考えていない状態です。とにかく国体が終わってからいろいろ考えようと思っていたので、新潟に残ることも含めてまたコーチと相談していきたいです。まだ、頭がまとまっていない感じですね。