早稲田大学・慶応義塾大学定期戦の歴史に残る、わずか1.4点の差の戦いとなった。昨年はこの伝統の一戦で敗れたため、慶大の連覇を阻止し優勝旗を奪還することが今年度の至上課題。早大はシミュレーションを重ねて備えてきた。AR(エアライフル)立射60発部門、SB(スモールボア)伏射60発部門では慶大に及ばず優勝を譲ったものの、三姿勢120発部門において大躍進を見せた早大はこの部門において優勝。さらにAR立射60発部門、SB伏射60発部門において計9.5点差あった総合得点の差を寄せ切り、見事総合優勝をも果した。
今季チームを引っ張ってきた主将の橋本龍太朗(文4=東京・早実)は笑顔で射撃を終えた
日本学生ライフル射撃連盟主催の大会と異なり、男女混合のチームを編成し競う今大会。普段の大会では男女別で戦うため、まさに早大の総力を結集したメンバーが選出された。中でも「伏せ撃ちとエアーの3人目を選ぶのには苦労した」(髙淳一監督、平6人卒=神奈川・桐蔭学園)と語るように、実力が拮抗するメンバーからのレギュラー決めは難航した。今年度編成されたのは下級生が主体となるチーム。AR立射60発部門には、平田華(基理3=大阪・四天王寺)、鈴木志佳(人2=東京・目黒星美学園)らが出場。今年度の大会においても安定した成績を残し続けた二人は、今大会でも得点を重ねる。60発のうち半数以上、満点のX圏(10点圏)を撃ち抜く好成績を収め、鈴木はこの部門の個人戦で優勝。平田も続く2位となり、強さを見せつけた。
SB伏射60発部門には加藤東(社3=神奈川・聖光学院)、満井菜月(社3=東京・早実)らが出場。加藤東は終始隙のない戦いを見せる。すべてのシリーズで100点超えを記録し、この部門において個人優勝。満井は惜しくも2位と0.4点差の3位となったが、午後から行われた三姿勢120発部門においても、個人3位の成績を収めた。
早慶戦の勝利を呼び込んだ前田留那(スポ2=埼玉・栄北)
午前中の競技を終え、折り返した時点での総得点は慶大がリード。背を追う形となった早大陣の三姿勢120発部門には田中美沙(スポ4=埼玉)、加藤モナ(スポ3=埼玉・栄北)、前田ら各学年のエース級選手が出場。加藤モは序盤こそ少しの乱れを見せたものの、後半は巻き返しを見せ得点を引き上げた。さらに「4年生の最後の大会だったので優勝して喜ばせたかった」と語った前田が、2位以下に圧倒的な差をつけて部門1位の成績を収める活躍を見せる。射撃を終えた選手から順に得点が掲示され、ついに最後の一人となった田中が日程を終えた。唯一4年生でレギュラーに選ばれた田中は「楽しかった」と今大会を振り返った。ここまでの早大レギュラーメンバーの総得点は4738.5点。田中の得点が557点以上であれば総合部門においても早大の優勝となる。ざわめきとともに得点が発表され、スコアボードに書き込まれた数字は『558』。数字を確認した早大側からは歓喜の声が漏れ、選手たちは抱き合ってその喜びを共有した。
史上初の僅差となった今大会。「5290点くらいの中で1.4点なんて、ちょっと銃口が1ミリか2ミリくらいどちらへ向いているかの本当に僅かな差」(髙監督)との統括があったようにまさに紙一重の戦いとなった。そして、今大会をもって4年生は引退となる。4年生が口をそろえて言った「明るくて、和気あいあいとしていて、学年間の隔たりのない楽しいチーム」というかたちは、この代の入部以降に定着した新たな空気だ。この雰囲気が形成されていく過程を肌で感じ取っていたメンバーの引退がチームに与える影響は、決して少なくないであろう。しかし、着実に伸び伸びとした空気の中で後輩たちは育ってきている。現に今年の早慶戦を戦った九人のメンバーのうち、八人が3年生以下の選手。さらに個人戦に出場した下級生選手も今大会において自己新記録を更新するなど、さらなる伸びしろが期待される。「君たちは強い!」(清水)と飛ばされた檄を胸に、冬の間に個々の技術を高め、見据えるのは春の関東学生選手権だ。寄せられた期待に応えるために、そして今年の自分を超えるために。早大射撃部の新たな挑戦が始まろうとしている。
一年間を戦い抜いて。前列四名が4年生
※掲載が遅くなり大変申し訳ございません。
(記事 柴田侑佳、写真 柴田侑佳、橋口遼太郎)
全出場選手結果
【10m立射60発競技】
▽団体 1802.3点(2位)
鈴木 志佳 613.5点(個人優勝)
平田 華 609.0点(個人2位)
澤井 祐音 579.8点
▽個人
清水拓海 593.1点 新
澤井祐音 579.8点
熊田圭祐 588.5点 新
平田華 609.0点
大貫裕矢 568.0点
井手悠太 578.0点
上山敬之 531.0点
泉田瞳 566.2点
宮崎晃斗 558.0点
江澤誠 590.4点
粕谷美知 580.0点
椎野凌 591.9点
髙橋祐衣 584.0点
岩脇輝和 594.9点
鈴木志佳 613.5点
岡部藍 579.9点
柿原結衣 517.1点
小林大輔 533.4点
杉山瑞季 585.7点 新
陶山絹香 584.5点 新
須田智晴 570.5点
宮本裕喜 574.4点
吉間民音 552.3点
渡辺泰央 562.6点 新
【50m伏射60発競技】
▽団体 1808.2点(優勝)
大芝 嶺花 591.8点
加藤 東 609.8点(個人優勝)
満井 菜月 606.8(個人3位)
▽個人
橋本 龍太朗 600.6点 新
濱本 和樹 597.8点 新
大芝 嶺花 591.8点
加藤 東 609.6点
満井 菜月 606.8点
保坂 剛志 591.1点
梅津 怜 603.8点 新
【50m三姿勢60発競技】
▽団体 1686点(優勝)
前田 留那 572点(個人優勝)
田中 美沙 558点
加藤 モナ 556点
▽個人
橋本 龍太朗 542点
濱本 和樹 529点
田中 美沙 558点
梅津 怜 545点 新
加藤 モナ 556点
保坂 剛志 521点
満井 菜月 560点
前田 留那 572点
髙淳一監督(平6人卒=神奈川・桐蔭学園)
――計算通りの勝利だったのではないですか
だいたい読み通りといったところは本当にその通りでした。ただ内容を見ると全然予測と違っていました。というのは、本来はエアーで勝てるだろうと。SBで負けるだろうと。エアーで勝つという予測だったのですが、これは意外にも実際に勝てたのは3×60。三姿勢が団体で唯一トップで、伏せ撃ちとエアーは慶応が取るという展開は予想と違いました。これは何故かというと慶応の3×60のメンバーが、それほど点数を伸ばせなかったというのが大きいと思います。三姿勢で11点勝ちまして、伏せ撃ちで7.7点負け、エアーで1.9点負け。伏せ撃ちとエアーの3人目を選ぶのには苦労したのですが、選手が踏ん張ってくれました。点数的には他の選手と比べると見劣りはしますが彼女たちが彼女たちのレベルでしっかりと踏ん張ってくれたことと、3×60で慶応の調子が悪かったところで、早稲田が頑張ったことが、なんとか1.4点の差でまくったというかたちだと思います。
――本当に僅差でした。3人目で選ばれた選手の踏ん張りが大きかったのですね
5290点くらいの中で1点なんて、ちょっと銃口がどちらへ向いているかの本当に僅かな差なので、このような1.4点差なんて講評にもありましたが歴史上ない事です。2点差が今まで1回と、3点差が確か2回のような感じなので、それよりも更に近い差なのでこういうところをしっかり勝ったというのは大きかったと思います。早慶戦は内容も大事ですがそれよりも勝つか負けるかというのが大事なところなので、しっかりと取れたのは大きかったです。
――今大会で引退となる4年生にはどのようなお気持ちですか
最後に早慶戦でレギュラーを張ったのは田中さん(田中美沙)だけで、他の選手は個人参加だったのですが、チームをまとめるという点では本当にリーダーシップを発揮してくれました。主将、主務、OB担当と三役いるのですがそれぞれがしっかりとした仕事をするメンバーでよくやってくれたと思います。
――かなり少数精鋭の4年生だったと思います。競技面というよりは部の空気を引っ張る活躍でしたか
早慶戦は男女混合の9人団体なのですが、キャプテンの橋本なんかは男子の全日本学生スポーツ射撃選手権大会(全日本)のレギュラーとして3年生、4年生とレギュラーを張ってくれました。そういう意味では最後力及ばず早慶戦でのレギュラーは取れませんでしたが、部の雰囲気をしっかりつくってくれた。そういう4年生でした。またそういった面が結実して1. 4点差で優勝旗を取れたことにつながったのではないかと思っています。いいチームができました。
――シュミレートを行った数字はどのように導き出しているのですか
選手全員の春からの通算成績と、最近2試合の得点動向というのを比べて選手を選ぶということをやっています。一方で早慶戦みたいな試合でのデータの取り方は、秋の関東大会、そして全日本で選手がそれぞれ目標としている試合の得点結果を分析してそれでこれくらいの期待ができるだろうという期待値をこちらで出してシュミレートしています。男子はこれまでスタメンを張ってきた橋本や梅津(怜)が外れて、事前の点取りで彼らが勝てなかったので彼らは納得はしていると思いますが、メンバーとしては非常に心配でした。まだまだ経験が浅い選手でチームを固めたので非常に心配はしておりましたが、いい結果になってよかったと思います。
橋本龍太朗主将(文4=東京・早実)、濱本和樹主務(政経4=東京・早実)、清水拓海(文4=千葉・市川学園)、田中美沙(スポ4=埼玉・栄北)
――今大会を振り返ってください
橋本 優勝できてうれしいという気持ちでいっぱいです。
濱本 去年は負けて4連覇を達成できず悔しかったので、今年は勝てて良かったです。
田中 後輩の力を借りることになってしまったのですが、勝つことができて良かったです。
清水 みんな頑張ってくれてありがとう、という感謝の気持ちです。
――最後の早慶戦となりましたが、どのような意気込みで臨まれましたか
橋本 悔いなく撃てるように、全力で楽しもうと思っていました。
濱本 射撃をすること自体が、たぶん今後の人生にもうないので最後の試合を楽しもうと思っていました。
清水 自分は逆に、あまり意識しすぎず普段通りにやろうとしていました。
田中 頑張りました(笑)。
橋本、濱本、清水 それだけか(笑)。
――4年生という立場から見て、ことしのチームはどのような代だと思われますか
橋本 明るくて、和気あいあいとしていて楽しいチームです。
濱本 私が入部した1年生のころと比べると、学年間の隔たりが少なくなって、風通しが良くなったと思います。中でも下の学年からの意見も取り上げやすくなったので、楽しいだけではない、いいチームになったと思います。
清水 一人一人の持つ意識の高さは間違いなく高くなっていましたし、チームとしての目標も高いところに維持できていたのではないかと思います。
田中 そうですね…。
清水 楽しかった(笑)?
田中 うん。楽しかった(笑)。
――田中選手以外の方は、大学から競技を始められたかと思うのですが、なぜこの競技を選ばれたのでしょうか
橋本 僕はシンプルに友達に誘われて始めました。
濱本 僕もそれもありますね。でも、選んだ理由としては中高と続けてきたバスケットボール以外のスポーツに取り組んでみたくて。そこで声を掛けていただいていた射撃という競技を始めました。
清水 本当のきっかけのきっかけは彼(橋本)に声を掛けてもらったからなんですよね。語学のクラスでたまたま隣に座っていたんですけど。射撃の話を聞いたら、楽しそうだなって思いましたし、日本で銃を撃てる環境ってなかなかないじゃないですか。そんな世界に憧れて入ったっていうのもあります。
――射撃部で過ごされた四年間はどのような時間でしたか
橋本 辛いことも少しはあったのですが、今こうして終わってみると、ここで過ごせて良かったと心から思える時間でした。
濱本 大学に入学した時「今後人生でやらないようなことをやろう」と思って射撃部に入部したんです。この部の中で、今後味わえないような競技の魅力であったりだとか、部活の雰囲気とかを味わい尽くして、目標を達成できたのが良かったです。
清水 自分は本当にひょんなことからこの部に入部することになったのですが、射撃という競技を楽しめたことよりも、射撃部の仲間に出会えたことが、かけがえのない思い出になりました。
濱本 すみません、これ僕が言ったことにしてもらってもいいですか(笑)。
橋本 いいとこ持ってくなぁ。
一同 (笑)。
田中 高校生の頃の全国大会で早稲田の先輩に声を掛けていただいて、この大学に入学したのですが、最初は部活の中で自分がどう振舞っていけばいいのかとか全然分からなかったんです。でも先輩からどう振る舞えばいいかを教えていただいて、自分に後輩ができた時には、教えていただいたことを伝えてあげることができたので、充実した時間になりました。
――最後になりましたが、後輩達へメッセージをお願いします
濱本 ここは主将がバシッといこう。
橋本 本当に今の3年生以下はいい選手がそろった代だと思うので、来年度もぜひ早慶戦で優勝して欲しいです。
清水 君たちは強い(笑)!
濱本 それは普通に言えよ(笑)!
加藤モナ(スポ3=埼玉・栄北)、 前田留那(スポ2=埼玉・栄北)
――この早慶戦にはどのような意気込みで臨まれていましたか
前田 4年生の最後の大会だったので優勝して喜ばせたかったです。
加藤モ 私も自分のことというよりかは4年生のために一生懸命撃とうと思って臨みました。
――午前中は慶大がリードをして終えました
前田 どっこいどっこいというか。どっちが勝ってもおかしくないような、これまで一年を通して結果などを見てきてどちらが勝ってもおかしくないようなメンバーでした。
加藤モ 私もそう思っていたので、自分が撃つ時には点数とかには惑わされず自分の撃ち方をちゃんとできるように、点数は全く気にしないで一発一発ちゃんと丁寧に撃つように心掛けました。
――ご自身のきょうの試合はいかがでしたか
加藤モ 私は1発目、本当に思ってないところで引いてしまって最初(点数が)低くて、そこから持ち上げていくのは大変だったのですが、心を落ち着かせて最終的にはいつも通りの点数で撃てたので良かったです。
前田 きのうの前日練習では結構きょうの大会のために調整ができていたと思っていたのですが、なかなか練習したことを大会で発揮できないのでそれが今後の課題だと思いました。
――前田選手の立射の成績は団体戦の結果をひっくり返すような好成績だったかと思います
前田 ベストを尽くせたとは思っていなくて、運が良かったです。
――今大会で4年生が引退をすることになります
加藤モ 本当に悲しいです。射撃以外の面でもお世話になっているので、きょうの試合本当に勝てて良かったなと思います。
――新体制になることについてはいかがですか
加藤モ 今回のレギュラーは九人中八人がまだ現役(下級生)なので、これから来年に向けてもっと、きょう撃った点数より成長して挑めたらなと思います。
――来シーズンに向けての意気込みを聞かせてください
前田 3年生になってまた後輩が増えて上級生という立場になるので、技術面でも指導面でも後輩を引っ張っていけるように頑張っていきたいと思います。
加藤モ 私は1年生の時からレギュラーとしてやってきて、先輩に点数的にもメンタル的にも引っ張ってもらってきてもらって、留那(前田)とかもすごく点数が伸びてきて、自分が足を引っ張ってしまうことも多かったので、4年生になって最高学年としてちゃんと自覚を持ってもっと一生懸命練習して、点数でも後輩の面倒も見られるようにこれから頑張りたいと思います。