【連載】『平成30年度卒業記念特集』第32回 千葉朔海/射撃

射撃

『わたしの世界』

 「プレッシャーを感じることはありませんね」。その言葉こそが千葉朔海(スポ=埼玉・栄北)が射撃を通して得た強さである。高校時代から数々の大舞台を経験し、進学後も国内外の試合で輝かしい成績を残してきた千葉はそう語った。対人競技とは違って個人との戦いであるという射撃。彼女にとってこれまでの射撃人生とはどのようなものであったのだろうか。

 千葉は射撃の強豪である栄北高校に入学したが、入学以前から射撃に触れてきたわけではなかった。むしろ射撃そのものについての知識は全くなかったという。幼い頃からバレエを始めた千葉が射撃に出会ったのは高校入学後。たまたま射撃部の文字に興味を持った彼女は、気づいた頃には射撃部に入部していたという。幼少期から続けてきたバレエを通して得た強靭な体幹は、高度なバランス力を要する射撃においても十分に通用するものであった。高校3年次には全国高等学校競技選手権で優勝し、ナショナルチームにまで選出されるようになった千葉は早稲田に進学する。

2018年の全日本選手権で笑みを浮かべる千葉

 早稲田にはスポーツ推薦で進学した千葉であったが、射撃を続けるかについても悩んだ時期があったという。そんな時、支えになったのはかつて高校時代にしのぎを削ってきた仲間の存在だったと千葉は語る。ルーキーイヤーから中心選手の1人となり、2015年の全日本学生選手権では10メートル立射40発部門で当時の部内新記録である415.9点の高得点を出し4位に入賞する快挙を達成した。その後もルーキーながら部内新記録を更新し続け、1つ学年が上がった2016年の関東学生選手権春季大会では、得意とする10メートル立射40発部門においてファイナルで205.4点を出し悲願の個人優勝を成し遂げるまでになった。千葉は自身の性格を「他人に興味がない」と分析するが、決してネガティブな意味ではない。同年の全日本学生選手権において同じく得意とする10メートル立射40発部門で411.1点の高得点を残し個人優勝に輝いた後のインタビューで千葉はこのように語っている。「4年生にとっては最後のインカレ、4年生が良い試合だったと思ってもらえるように自分が役立ちたいという意気込みでした」。個人との戦いであるから周りのことは気にしないと強調する千葉の普段は見せない温かい人間性が垣間見えた瞬間であった。

 早稲田の射撃部として迎えた最後の1年は海外での試合を優先し国内大会ではファイナルを欠場することもあったが、2018年の全日本学生選手権では50メートル三姿勢部門のファイナルで一時4.4点まで開いたトップとの差を見事にひっくり返し逆転優勝を掴み取るなど、ここ一番での勝負強さは衰えることはなかった。そして迎えた同年の早慶戦。早稲田での4年間を締めくくる舞台でも千葉は結果を残す。50メートル三姿勢60発部門では、個人として573.0点の優勝を果たし、団体としても1683点での優勝を達成した。それは千葉が兼ねてから抱えていた早慶戦で個人・団体ともに優勝という目標を達成した瞬間でもあった。この試合の後に千葉は「もうちょっと撃てたかな」と語っている。その言葉には2020年の東京オリンピックに向けた期待も込められているのだろうか。

  物静かな性格で自身を分析する際も謙虚さが溢れているのが千葉である。社会人になってからも射撃を続け2020年の東京オリンピック、その先の2024年のパリオリンピックを目指し、的を撃ち続ける千葉にとっての「わたしの世界」は誰よりもまっすぐで、芯のある強いものなのであろう。

(記事 妹尾貫太郎、写真 成澤理帆)