【連載】『平成29年度卒業記念特集』第25回 岡田奎樹/ヨット

ヨット

結果は通過点

 早大のエースとしてはもちろん、国内のみならず、世界を舞台に活躍したセーラー岡田奎樹(スポ=佐賀・唐津西)。大学ヨット部での競技を通して、人と感情を共有することによって喜びや悔しさが倍増することを知ったという。そんな岡田奎の早大での4年間を振り返る。

 父の影響で、5歳のときに競技を始めた。初めはヨットに乗ることが純粋に楽しかったため、競技を続ける道を選んだ。しかし、大会で優秀な成績を収め始めると、周囲から勝つことが当たり前だと思われるように。いつしか勝つことが重要視され、自身でも勝つことが全てだと思い込むようになってしまった。

 高校卒業後、個人で競技を続けるという選択肢もあったが、早大への進学を決めた。入部当初の目標は「全ての大会で勝つこと」。大学入学まで、勝って当然という考えの下で競技を続けてきたため、早大に進学したあとも「勝たないと僕の存在している意味がない」と思っていた。その言葉通り、入部直後からレギュラーを任され、全日本学生選手権(全日本インカレ)の復活完全優勝にも貢献。しかし2年生になると、勝ちたいという気持ちはある反面、どのように勝っていけばいいのかわからなくなってしまう。大学進学という選択は間違っていたのではないかという考えが何度も頭をよぎった。葛藤する日々が続いたが、3年生に上がるころになると、二人乗りのヨットで一人だけの力では勝つことができないと気がつく。当時、一緒に乗っていたのは岡田奎に比べてヨット経験の浅い同期の選手。自らやるだけではなく、誰かを上手くさせるために自分がどう動き、どう教えれば良いのかを考えるようになった。すると、他の部員も岡田奎を頼ってくれるようになる。さらに3年時には470級のチームリーダーを任されることに。自らの行動に対して、周囲が評価してくれることがうれしかったという。そこから、そのうれしさを早大に還元しようという気持ちが生まれた。そして、この年の470級ジュニア世界選手権では優勝という日本人初の快挙を達成。岡田奎はこの結果について、自分自身を変化させてくれたチームとその変化に気づけたことによるところが大きいと語る。そこでやっと、大学進学の選択が間違いではなかったと自信を持つことができたという。さらにその年の秋、早大は部としても2度目の全日本インカレ3連覇を果たした。

在学中から世界での活躍を見せた岡田奎

 迎えた最終学年、岡田奎は主将に就任する。当初は主将に就かないという考えもあった。初心者も多く在籍する早大ヨット部。競技歴も学年も上である自分が主将になることで、部の雰囲気が息苦しくなると考えていたからである。雰囲気だけを考えれば自分が部を辞めたほうがいいのではないかとまで考えた。悩んだ末に入学時の誓いを思い出し、主将に就くことを決心する。大学から競技を始めた部員にとって、実績や技術のある岡田奎は遠い存在だっただろう。初心者である部員と、世界の舞台を目指す自分との考え方の違いがある。しかし、それを理解している岡田奎は、下級生も発言しやすく、各々の行動に責任が持てる風通しの良い環境づくりを目指した。主将としての務めには「(他の部員の)距離との苦労」があったと振り返る。世界で戦うという個人の目標のために国際大会への出場も考える一方で、出場すれば部の練習が疎かになり、さらに部員との距離ができてしまう。そのような葛藤がありながらも、全日本インカレで総合優勝できるチームを作るために、引退のその先まで考えた部のあり方を求め続けた。

 そしてついに、創部史上初の4連覇もかかった全日本インカレを迎える。早大は最後まで追い上げを見せたものの、恵まれない天候や反則が響き、結果は2位。最終レースが終わり、岡田奎はしばらく呆然としたという。総合優勝への挑戦が終わった。徐々に現実が理解でき始め、陸に上がると悔しいという思いが湧いてきた。技術には自信があっただけに、不運が重なったこの結果は悔しいものとなった。しかし、岡田奎は今、この結果を受け入れている。「悔しいのは頑張ってきたから。勝つことと同じくらい、勝つために何をするかが重要」と語る。大学入学までは、レースで勝っても負けてもその喜びや責任は自分自身にしか返ってこなかった。ところが大学ヨット部での競技を通して、チームメイトと感情を共有することが楽しいと思えるようになったという。そんな岡田奎にとって、チームでのこの経験は今まで以上に心に残るものになったのではないだろうか。「苦労もしたけど、すごい価値のある1年だった」。主将として部に尽力してきた1年をこう振り返る。全日本インカレでの王座奪還は、1年間育成してきた後輩たちに託された。

 卒業後の近い将来の目標は『東京五輪での金メダル』。東京五輪で競技が行われる江ノ島を拠点に、海外遠征で経験を積む予定だ。さらにその先には、ヨットのクラブチームを活性化させ、海を楽しむ人がもっと増えてほしいという願いがある。今後について、「結果はゴールではなく、通過点。結果を通して競技を楽しみたい」と語る岡田奎。はっきりと感じられるヨットへの熱い思い。きっと日本ヨット界に新たな歴史を刻んでくれる存在になるだろう。

(記事 加藤千咲、写真 松澤勇人)