全国大学ラグビーフットボール選手権大会 12月20日 対天理大 ヤンマースタジアム長居

大阪の地でも響いた『One Shot』の掛け声。部員から観客へと波及するその一体感でつば迫り合いのゲームを制した。1トライ1ゴールで試合がひっくり返る小さな点差の中、規律正しい早大のディフェンスは何度も漆黒のジャージに食らいつき、年越しへの切符をつかんで見せた。試合開始から天理大にノーホイッスルトライを許し、暗雲が立ち込めたヤンマースタジアム。しかし焦りを見せなかった早大はシーソーゲームの展開となりながらも得点を重ねる。ラインアウトの安定性は欠いたが、スクラムで優位に立った早大。反則を獲得しながら前半を19ー14と5点のリードを奪って終えた。続く後半はノースコアのまま時計の針が進み、次の1トライがその後の行方を左右することは間違いなかった。我慢強い守備で天理大アタックのミスを誘発した早大は少ないチャンスで得点を生み出し、天理大を突き放す。点差を縮められた試合終盤は引退のかかった緊迫感のある雰囲気の中、タックルで勝利を手繰り寄せた早大が2026年1月2日の国立競技場へ駒を進めた。

試合終了後に勝利を喜ぶ選手たち
天理大のキックオフで始まった運命の大阪決戦。いきなり自陣深くでボールを奪い返された早大はFWの圧力に屈し、早くも先制のトライを許してしまう。立ち上がりで失点した早大だったが、再開のキックオフでボールキャリアーをピッチ外へ押し出し、敵陣でのプレータイムを伸ばした。6分、SO服部亮太(スポ2=佐賀工)のラインブレイクから天理大22メートルライン陣内に入ると、NO・8松沼寛治(スポ3=東海大大阪仰星)の鋭いキャリーでハイタックルの反則を誘発。ゴール前でのモールからキックでボールを展開すると、WTB田中健想(社2=神奈川・桐蔭学園)がインゴールに飛び込んだ。試合序盤に両チームにトライが生まれ、殴り合いのゲームになるかと思われたがここからは守備が光る展開に。15分、自陣でのペナルティーで再び危機を迎えた早大。しかし、規律正しいディフェンスで耐え忍ぶと試合の流れをつかんだ。18分、服部が意表を突く逆目の裏のスペースへのキックで50:22を成功させる。その後のラインアウト一次攻撃で天理大守備網を破壊したのはLO栗田文介(スポ4=愛知・千種)。ダイナミックなプレーで逆転トライを生み出した。得たリードも束の間、22分に天理大にSO上ノ坊駿介(天理大)を中心とした流動的なアタックで再び失点を許してしまう。29分、今試合最初のスクラムは天理大ボール。早大が押し込みながらも展開されたボールは高く蹴り上げられた。WTB池本晴人(社3=東京・早実)から服部を経由し、FB矢崎由高(スポ3=神奈川・桐蔭学園)に託された楕円球。軽快なステップで自陣からタックラーをかわし、フォローに走っていたSH糸瀬真周(スポ4=福岡・修猷館)にラストパス。中央にグラウンディングし、CTB野中健吾主将(スポ4=東海大大阪仰星)のキックも成功。19ー14とまたも早大がリードを奪った。36分、早大は自陣のマイボールスクラムでコラプシングの反則を獲得し、加速していく。試合の主導権を握ったまま前半を終え、勝負の後半へと臨む。

ラインブレイクするLO栗田
5点差で迎えた後半。早くも早大がチャンスを得る。攻撃で天理大を押し込み、敵陣深くで長い笛が吹かれると糸瀬が速攻を仕掛ける。守備を後手に回すことに成功したが、惜しくもノックフォワードで得点にはつながらない。転じて7分、天理大がハイパントキックの再獲得に成功し、一気に自陣に流れ込まれた早大。ピンチを迎えたが、ここでチームを救ったのは守備の要FL田中勇成(教4=東京・早実)だった。値千金のスティールでターンオーバーすると、早大は持ち前の攻撃力でゴール前まで侵入した。1トライ1ゴール以上の点差が欲しい状況だったが、ここでもスコアすることはできず、リードを広げることはできない。次のトライが流れを大きく左右する展開の中、試合はボールを保持するフィジカルの勝負へと移り変わっていく。20分、天理大の継続するアタックで少しずつ陣地を奪われながらもトライを奪われることはなかった早大。24分、ついに天理大のアタックにミスが生まれ、攻撃権を得るとハイタックルのペナルティーからゴール前に侵入。モールを組まずにボールを展開し、細かくパスを繋ぐと最後は矢崎がトライ。今試合幾度ものチャンスを生み出してきた15番が千両役者ぶりを発揮した。難しい角度のキックを野中が決め切り、スコアは26ー14に。12点差のリードを得て、このまま安定感のある試合運びにしたかったが天理大が関西王者の意地を見せつける。大外での力強いゲインで早大の守備が乱されると、雪崩れ込むようなアタックでゴール中央をこじ開けられた。キックも決まり、26ー21。またも5点差となり、試合は残り10分に。36分、天理大に攻められる時間が続いた早大だったが、自陣でも反則を犯さないディフェンスで天理大の猛攻を凌ぐと、NO・8粟飯原謙(スポ4=神奈川・桐蔭学園)の好タックルでついにボールを奪い返す。FWでフェーズを重ね、ノータイムを告げるホーンが鳴ると同時に服部がボールを蹴り出した。

インゴールに向かって走るFB矢崎
「早明戦が終わり、大学選手権のトーナメントを見た時にここが最大のヤマ場になると思っていた」と大田尾竜彦監督(平 16 人卒=佐賀工)が振り返ったように、一進一退の攻防はまさに手に汗握る戦いであった。5点のリードを追いかけられるというプレッシャーのかかる展開の中、早大のディフェンスは最後まで乱れることがなかった。「(関東大学)ジュニア選手権で優勝したメンバーが勢いを与えてくれた」。試合後のインタビューで田中勇が語ったのは天理大のアタックをコピーしたBチームへの感謝。関西王者との対戦に向け、チームが一丸となった証が今試合の勝利だろう。チーム野中は年越しに成功し、次戦は国立競技場での帝京大戦。昨季の決勝での借りを返し、頂を懸けた戦いに駒を進めることができるか。『荒ぶる』への大きな一歩を踏み出すため、避けられない真紅のジャージとの対戦で白星を奪い取れ。
(記事:村上結太、大林祐太 写真:安藤香穂、伊藤文音)
コメント
※記者会見から一部抜粋
◆大田尾竜彦監督(平 16 人卒=佐賀工)
ーー試合を振り返ってみていかがですか
早明戦が終わってからトーナメント表を見てここが一番の山場だと自分自身思っていました。2年前に京産大に大阪で負けてからの反省を全てかけて選手と一緒に準備してきました。非常に準備もよくできて、選手みんなで同じ方向を見ることができたと思います。次に進むことができた選手を誇りに思います。
ーー2年前の反省は具体的にどういうものでしたか
2年前、試合前にバスがルートを間違えて到着が遅れたり、前の試合が伸びてウォーミングアップができなかったりと、試合前の準備ができない状況でした。2年前はハーフタイムの指示であったり、試合前の選手を落ち着かせることができなかったからこそ、前日のミーティングでもどんなことがあっても動じないことを意識し、選手をいつもの形でピッチに立たせることに注力しました。
ーースタートに松沼でリザーブに粟飯原をおいた理由を教えてください
松沼も粟飯原もいい選手で、どちらが上かは評価できません。粟飯原の爆発力を後に持ってきて、松沼のリーダーシップを前に持ってきたかったので、このような布陣になりました。松沼も膝の状態がよくなって、そこが対抗戦とは違うのかなと思います。
ーー試合の勝因について教えてください
どれだけ敵陣でセットプレーをできるのかということだと思います。実際にスコアできたものも敵陣でのセットプレーが多かったと思います。ブレイクダウンでも天理大のプレッシャーを受けましたが、どれだけ丁寧に自分たちのアタックをできるのかだと思います。その中でも矢崎のカウンターは大きかったです。
ーー22メートルラインに入ってからの遂行力はいかがですか
まだまだ精度を高められるなという印象です。今日の試合を見てみても、我々も色々と研究をされてきたなという印象なので、より精度を磨かないといけません。22メートルラインに入った回数は早稲田の方が多かったと思います。より22メートルラインに入った時に得点を取り切るところを50%から60%に挙げたいです。
ーー次戦の意気込みをお願いします
帝京大は春季大会や夏合宿、対抗戦と1年間通してやってきた相手で、勝因は自分たちがいかに負けた時の敗因を潰して新たな要素を取り入れられるかだと思います。
◆CTB野中健吾主将(スポ4=東海大大阪仰星)

ーー試合を振り返って見ていかがですか
僕自身もこの一戦が山場になると理解していて、『荒ぶる』を狙うのはもちろんですが、この試合に全てをかけたことが勝利につながったのかなと思います。これを80分間つなげられたのが勝因だと思います。
ーー大阪の地で響いた部員、そして観客のOne Shotコールや早稲田コールはいかがでしたか
厳しい試合だと分かっていました。その厳しい中で、声援が大きな力になっていました。One Shotコールや早稲田コールといった本当に素晴らしい声援をありがとうございました。
◆PR杉本安伊朗(スポ3=東京・国学院久我山)

ーー今試合はどんな思いで臨まれましたか
負けられない一戦ということで、自分たちがこれまで取り組んできたことを最大限出そうという思いで戦いました。
ーー実際のプレーで意識していたことを教えてください。また、それらの試合中での出来栄えはいかがでしたか
僕の役割はスクラムなので8人でヒットすること、自分たちの形を出し切ることを意識していました。出来としては良かったかなと思います。
ーースクラムでの手応えはいかがでしたか
相手が特殊な組み方だったので、そこに対する対策は取り組んできました。その結果、試合の中で自分たちのスクラムを組むことができたと思います。
ーー今試合のチームのディフェンスを振り返っていかがですか
接点の勝負で負けないことをテーマに掲げていたので、横とコネクトして最後まで守り切れた場面は多かったのでかなり良かったかなと思います。
ーー次戦の帝京戦への意気込みをお願いします
対抗戦で僅差に負けた帝京に対して、スクラムで圧倒してチームを勢いつけられたらと思います。
◆LO栗田文介(スポ4=愛知・千種)

ーー今試合はどんな思いで臨まれましたか
関西で、天理との試合ということで難しい試合になることは最初からわかっていたので、コンタクトの場面で絶対に負けず、そこからムードを作っていくことを意識しました。
ーー実際のプレーで意識していたことを教えてください。また、それらの試合中での出来栄えはいかがでしたか
チームの共通意志として『接点』というものを掲げている中で自分が中心となって引っ張っていかなければならないと思っていましたし、今日は前後半通じていいパフォーマンスができたので良かったかなと思います。
ーー試合の立ち上がりでFWに押し込まれる場面もありましたが、コンタクトの手応えや課題はいかがですか
立ち上がりでやられてしまったのは間違いないのですが、自分たちのやってきたことは間違っていないとチームの中でも共有することができ、その結果勝つことができたのかなと思います。
ーー2年前の敗戦から、どのような成長を遂げることができたと思いますか
2年前、この大阪の地でなにもできず、大量失点で負けてしまったことからどこかに苦手意識はあったのですが、それを乗り越えないと日本一には届かないと思っていました。2年前を知っている者として、誰よりも強い思いで今試合に臨みました。
ーー次戦の帝京戦への意気込みをお願いします
対抗戦負けてしまった相手でもありますし、帝京に勝って最終的に日本一に輝くために上井草で良い準備をしていきたいと思います。
◆FL田中勇成(教4=東京・早実)

ーー今試合はどんな思いで臨まれましたか
負けたら終わりという中で自分たちがやってきたことを出そうという思いでチームは試合に臨みました。個人的には2年前の試合の思いが強くあって、それを払拭したいという思いがありました。
ーー2年前は試合には出場できなかった中で、今試合は試合に出場して勝利を掴むことができていかがでしたか
試合に出られなかったことが自分の中のターニングポイントとなって、そこを乗り越えることができて、関西に戻って勝つことができたのはよかったのかなと思います。
ーー実際のプレーで意識していたことを教えてください。また、それらの試合中での出来栄えはいかがでしたか
ディフェンスのところで相手がすごいプレッシャーをかけてくることは分かっていたので、我慢し続けるということはみんなにもいいましたし、そこを徹底できたのかなと思います。まずはペナルティーしないところと、自分たちのディフェンスは強いという自信があったのでフェーズを重ねたとしても無理にボールを取り返しにいかないことを意識しました。
ーー今試合のチームのディフェンスを振り返っていかがですか
相手はどこからでもボールを動かすことは分かっていて、アンストラクチャーの部分はかなり意識していたので、そこを試合では出せたのかなと思います。Bチームが特に今週の木曜日に練習ですごくプレッシャーをかけてくれて、田中大斗(教2=東京・早実)が上ノ坊役をやってくれて、自分たちも何本かトライを取られてしまって。そこがすごい天理大のようなアタックをしてくれたというか、萩原武大(スポ4=茨城・茗渓学園)も圧力をかけてくれて、ジュニア選手権で優勝してくれたメンバーが勢いを与えてくれたので感謝しかないです。大舞台でもそれが活きたと思いますし、しっかり準備できたと思います。
ーー立ち上がりでいきなりトライを取られる展開でしたが、チームにどのように声をかけましたか
80分あるので80分後に勝てばいいと話していましたし、そういった声がけをしていこうと健吾とも話してトライ取られた後の想定もしていたので、そこが活きたのかなと思います。
ーー次戦の帝京戦への意気込みをお願いします
みんなで年越しができるのは喜んでいいと思うのですが、1個ずつ勝ち上がって対抗戦で負けた相手にリベンジしにいきます。
◆SO服部亮太(スポ2=佐賀工)

ーー今試合はどんな思いで臨まれましたか
負けたら終わりという中で、僕がアタックでしっかりリーダーシップをとってやろうということを意識して試合に臨みました。
ーー実際のプレーで意識していたことを教えてください。また、それらの試合中での出来栄えはいかがでしたか
エリアをしっかりとるためにキックゲームに持ち込むという中で、自分のやるべきことを遂行できたのではないかなと思います。
ーー点差の小さなゲームでしたが、どんなゲームメイクを意識していましたか
3点もある中でトライを取りにいくかをしっかり判断して、いいゲーム展開になったのかなと思います。
ーー次戦の帝京戦への意気込みをお願いします
対抗戦とは違う帝京大になっていると思います。しっかり準備していたことを出せば負けることはないと思うので、準備をしっかり出せればなと思います。
◆WTB田中健想(社2=神奈川・桐蔭学園)

ーー今試合はどんな思いで臨まれましたか
アウェイでしたし、2年前の先輩方の悔しさを背負いつつ、優勝に向けた大事な一戦だったので、いつも以上に準備して臨みました。
ーー実際のプレーで意識していたことを教えてください。また、それらの試合中での出来栄えはいかがでしたか
前回の課題であったディフェンスの横とのつながりというところで、前半は切れてしまうところもあったのですが、後半はしっかり改善できたので良かったかなと思います。
ーー天理大は大外で勝負してくる展開が多かったですが、今試合のディフェンスはいかがでしたか
ディフェンスは早稲田としてはかなり頑張っていたなという印象で、ペナルティーも少なく、横と繋がりながら守備ができたことで今回のようなスコアで勝つことができたのかなと思います。
ーー次戦の帝京戦への意気込みをお願いします
選手権で戦う帝京は対抗戦とは違った強みを持っていると思うので、そのプレッシャーを楽しみながらアタックでトライを取り切るという役割を遂行したいと思います。
写真ギャラリー
メンバー表





