特集の最後を飾るのは、今季監督就任2年目を迎えた大田尾竜彦監督(平16人卒=佐賀工)。昨季は全国大学選手権の準々決勝で惜しくも敗北した。そんな昨季を踏まえ、今季は新たな取り組みを行っているという。『荒ぶる』奪還のために昨季の振り返りと、今後の展望について伺った。
※この取材は3月16日にオンラインで行われたものです。
「スピード感のある1年だった」
――昨季の全国大学選手権(大学選手権)では準々決勝敗退という結果となりました。この結果をどのように受け止めていらっしゃいますか
大田尾 非常に多くのものを昨年1年間で得ることができて、以前と比べて非常に変わった姿で戦えていたのですが、勝負の最後の際のところが足りなかったなと捉えています。
――昨季は練習が社会人並みの練習量に増えたというお話を聞きました。どのような意図だったのでしょうか
大田尾 自分たちが持っていた課題は練習をハードにすることによって埋められる課題だと感じました。だから昨年は練習が非常に厳しいものになりました。
――指導をされる中で、社会人と大学生の違いで苦労した部分はありますか
大田尾 大学生は学年が4年分しかないという限定的な世代を指導することで、社会人とは求めていくものが違うなと感じました。再現性という言葉で表される何回プレーしても同じテンション、同じようなプレーをできるというのを求めようとしましたが、スキルと経験が無いとできないので、限られた4年間というところで達成するのは難しく、このあたりが社会人とは大きく違うなと思いました。ただし、社会人がすべての面で上回っているかといえばそうではなくて、選手の成長の伸びしろ、きっかけをつかんだ時の成長曲線の跳ね方は一緒にやっていて非常に面白いと思いながらやっていました。
――天理大での負けから、昨季はフィジカルの面の強化、ブレイクダウンがテーマになったと伺いました。実際に振り返ってみていかがですか
大田尾 非常に良くなったと思います。ディフェンスとアタックの両方で、数字の上でも非常に成果が出たのがブレイクダウンの部分になったのではと思います。コーチ陣を中心に、選手たちはよく練習についてきてくれたなと思います。
――選手時代も過ごした早大での監督1年目、いかがでしたか
大田尾 初めての監督であったり、コロナもあったりと、ただでさえ大学の現場は卒業したときと今では大きく違い分からないことも多かったですが、学生やコーチに助けてもらい、気づいたら1年間が終わっていました。ものすごくスピード感のある1年間でしたね。
フィジカルの強化
――今季は2シーズン目を迎えられますが、現在の心境はいかがですか
大田尾 どうなっていくのかなという楽しみな部分と怖さや不安な部分もありますが、今はどのように成長していってくれるのかという思いが一番強いです。
――また今年のチーム相良をどのようにしていきたいか、ビジョンはありますか
大田尾 こだわりを持たせたいと思います。ラグビーがどれだけうまくとも、負けるときは負けるというのが昨年の印象です。とにかく日々こだわるというところを、昌彦(相良、社4=東京・早実)には託したいです。彼自身非常に表裏のない非常にまっすぐな人間で、長田(智希、令4スポ卒=現埼玉パナソニックワイルドナイツ)とは違った親しみやすさがあると思うので、昌彦らしいチームを作っていってほしいなと強く思います。
――新チームの印象はいかがですか
大田尾 現在コロナ対策で4つのバブル方式できっちりと分けて練習しています。全体の練習がない中で、個人にフォーカスを当てて練習していますが、やはり今年やってやろうというような選手が何人か目につくなという印象です。
――昨季を経験して、改善すべき点や新たに取り組むべき点はありますか
大田尾 今は体を大きくしています。体重の増加ですね。
――それはフィジカルの強化のためでしょうか
大田尾 フィジカルですね。特にフォワードの話になりますが、昨年の大学選手権でベスト4に勝ち進んだチームのフォワードの合計体重は800キログラム以上で、早大だけ800キログラムを下回っている状況でした。東海大が一番大きくて870キログラムほどあったと思います。すなわち成人一人分ほどの差が生まれていたわけです。体重の面で100パーセント追いつこうとか、体重イコールパワーという訳ではないですが、自分たちがスクラムとモールで劣勢だったことは間違いないので、今の時期にしかできないフィジカルの強化を目指してやっています。
――最終戦から約2ヶ月が経ちますが、その大学選手権の敗退を活かし、現在チームとして新たに取り組んでいることは何かありますか
大田尾 今はフィジカル面ですね。さっきも言いましたように、細かいところにどれだけこだわれるかというのが勝負だと思っているので、そこのこだわりを持たせたいと思っています。
――新体制について伺っていきます。フランカー相良昌彦選手(社4=東京・早実)を主将に任命された理由をお聞かせください
大田尾 色々なことを考えました。リーダーシップにも種類がありますし、昌彦とは違うリーダーシップを持つ学生も考えました。しかし、今年必要なキャプテンは昨年の負けとチームに足りない部分を正確に理解していて、そのうえで自分たちの強みを作っていこうとできる人間、言葉で伝えられる人間が良いのではというところで、昌彦が一番適任だったということが大きなポイントです。
――主将に期待する部分はどこですか
大田尾 飾らない言葉で、ありのままをみんなに伝えてほしいなと思います。そこは昌彦にしかできないことだと思います。
――副将を2人体制にした意図をお聞かせください
大田尾 120人選手がいて、学生スタッフを含めると150人近い部員がいますので、すみずみまで目を行き届かせるというところと、昌彦をサポートできる人間となったときに、2人の方がいいのかなと思いました。
――副将のお二人のどのような部分に期待されていますか
大田尾 昌彦を支えるというよりも、おのおのがリーダーシップをとって着実にチームを前進させるところです。2人にはプレーヤーとしてチームを引っ張ってほしいなと思います。人間性は2人とも素晴らしいものがあるので、みんなをまとめようと頑張るのではなくて、自分のプレーで頑張っていくというところです。そうすることで、彼らの言葉が2倍、3倍になって届くようになりますし、元々備わっているバランス感覚やラグビーの素質で昌彦を支えることができるのではないかと思います。
――委員の選手に期待する部分とは
大田尾 委員は基本的には昌彦が選んで、コーチ陣がアドバイスをするかたちなのですが、日本一を目指す集団にふさわしい人間を選ぶのが大きなポイントとしてあります。そこをしっかりとクリアしているのであれば、次に大事なのが個性です。どのようなキャラクターなのかを昌彦が考えて決めたのではないかと思います。
――今季はコーチ陣が数名変わるということをお聞きしました。この点についてどのように捉えていらっしゃいますか
大田尾 数人のコーチ陣がタイミングが来たというところで一旦退くのですが、新しいコーチ陣が入ったときに新たな知恵がチームの力となっていくのではないかと思います。
――フォワードでは核となる選手が抜け、ポジション変更もあるなど、セットプレーの質が心配されますが、その点についてはいかがですか
大田尾 この課題は非常に強く感じています。スクラムを改善するために体重を増やしている部分もあるので、うまくいくのではないかと思います。
――セットプレーでキーマンはいらっしゃいますか
大田尾 亀山昇太郎(スポ2=茨城・茗溪学園)と平山貴喜(スポ4=北海道・函館ラサール)です。セットプレーで3番がどれだけ高いパフォーマンスを出せるかがポイントですね。
――バックスに関してはいかがですか
大田尾 バックスはバランスよく選手がいるので、とにかくしっかりとしたディフェンスをすることと、大外でボールを失わないことを春の段階で求めようと思います。
――まずは春シーズンの展望をお聞かせください
大田尾 春シーズンはより多くの選手を起用しようと思います。横一線でセレクションしていくので、多くの選手にチャンスを与えたいなと思います。
――新入部員の選手も含めてですか
大田尾 新入部員に関しては実力が未知数な部分も多いので一概には言えませんが、それ相応の力をもつ選手はどんどん試したいなと思います。
――昨季の経験を踏まえて、春季はどのようなチームを作っていきたいと考えていらっしゃいますか
大田尾 細かいところにこだわれるチームです。自分たちのやりたいこと、やらなければいけないことを全員で要求し合えるチームを作ることがポイントです。
――最後に、今季の意気込みとファンの方にメッセージをお願いします
大田尾 昨シーズン皆様に良い姿を見せられなかったですし、本当に悔しかったです。この思いは自分だけではないはずで、この悔しかった気持ちを雪辱したいと思っています。そのためにやるべきことを淡々とやっていく所存ですので、そういうような期待をもってご声援をいただければなと思います。
今季の意気込みをご記入いただきました(写真 早稲田大学ラグビー蹴球部広報チーム提供)
――ありがとうございました!
(取材・編集 森田健介)
◆大田尾竜彦(おおたお・たつひこ)
1982(昭57)年1月31日生まれ。佐賀工業高出身。2004(平16)年人間科学部卒業。現役時代はヤマハ発動機でプレーし、ポジションはSO。色紙には『荒ぶる』と書いてくださいました。今年こそは『荒ぶる』の獲得を期待しましょう!