【連載】新体制特集『Be Hungry』最終回 大田尾竜彦監督

ラグビー男子

 新体制特集の最終回を飾るのは、今季より監督に就任した大田尾竜彦監督(平16人卒=佐賀工)。就任したばかりの監督は、昨シーズン達成できなかった『荒ぶる』の奪還へ向けて、どのようなシナリオを思い描いているのだろうか。就任までの経緯やその思い、また今シーズンの展望を伺った。

※この取材は3月25日にオンラインで行われたものです。

「主体性を発揮できるチームにしたい」

――監督の就任はいつ決定したのですか

大田尾 今年の1月下旬くらいに決まりました。

――どのような経緯で決まったのでしょうか

大田尾 昨年の秋頃から打診があり、そこから数回のミーティングを重ねて決まりました。

――監督就任が決まった時の心境はいかがでしたか

大田尾 非常に責任のある仕事ですので、一生懸命頑張らなければならないと思いました。

――ヤマハ発動機ではコーチングコーディネーターをされていましたが、具体的にどのようなことをされていたのですか

大田尾 監督やヘッドコーチが作りたいと考える戦術を実現するための適切な人材配置などによって、チームの運営を円滑にするという仕事です。ピッチの上では主にアタックとBKを指導していました。

――2003年度には早大の主将として全国大学選手権(大学選手権)準優勝を経験されました。この経験をどのように指導に還元していきますか

大田尾 自分たちが4年生の時に勝てなかった原因として選手の主体性が乏しかったということがあります。そのため、指導をする際には主体性を発揮できるチームにしたいと思っています。

――相良南海夫前監督(平4政経卒)も主体性を重んじる指導方針でしたが、それを変えることはないということでしょうか

大田尾 そうです。

――昨年度早大は大学選手権準優勝という結果でしたが、その結果を新監督としてどのように受け止めていらっしゃいますか

大田尾 試合しか見ていませんが、20点という点差についても、決勝で負けてしまったことについても、実力がそのまま出たのだと思います。

――早大の今の課題は何だとお考えですか

大田尾 ざっくりと言ってしまえば、ブレイクダウンです。

――それをどのように改善していくのでしょうか

大田尾 ブレイクダウンについてはいろいろな要素があるのですが、プレーのフィロソフィーとしてブレイクダウンで足の力を使うということを選手たちには話しています。ブレイクダウンには当然フィジカルも必要なのですが、まずはフィロソフィーを変えることが重要ですね。足の力にフォーカスするということは今年の大きなポイントだと思います。

――スクラムに関して新しく取り組んでいることはありますか

大田尾 スクラムに関しても基本的には同じです。これまでは、8人で組む時に初めのインパクトを重視してやっていたのですが、今年は8人みんなで力を合わせて押すというフィロソフィーでやることを意識しています。そのために、最初に取り組んでいるのが首の強化ですね。

――近年の早大BKにはどのような印象を持っていますか

大田尾 早稲田のBKは非常にスピードがあり、大学でも1、2を争うような能力の高い選手がいると思っています。しかし、先日の大学選手権決勝では劣勢になってしまった時、本来BKはFWを助けなければいけないはずなのに、そのような動きは見られませんでした。FWが負けるとチームが試合に勝てないのであれば、FWが負けた瞬間に敗北が決まってしまいます。しかし、FWが負けていたとしてもBKが補えば負けることはありません。このようなことから、今はBKにも武器を持たせるということに力を入れています。

――武器というのは具体例を挙げると何でしょう

大田尾 ディフェンスですね。前に出られるようなディフェンスに今取り組んでいます。今のままでも試合に出ているBKは非常にスピードがあるので、相手にボールを回されていても追いつけてしまいます。簡単に言ってしまえば、かけっこをしていても勝てるということです。しかし、かけっこをしているということは相手に走られているということになります。そうではなく、ピストルの合図と同時に相手を仕留めることがディフェンスにおいては大切です。今年は相手を走らせないディフェンスができれば良いと思っています。

――早大の強みは何だとお考えですか

大田尾 動きがシャープな選手が多いですね。走るだけのスピードではなく、身のこなしのスピードも早く、スキルの高い選手が多いのでそこは強みだと思います。

「スマートさと激しさが同居したチームに」

――今のチームの印象は

大田尾 物事をポジティブに捉える、非常に前向きな選手が多い印象ですね。

――昨季から継続していきたいこと、逆に変えていきたいところはありますか

大田尾 相良さんが大切にしていらした『選手の主体性を引き出す』ことは、僕も継承して大事にしたいと思います。変えなければいけないところはいろいろありますが、主体性を引き出すための仕掛けやコーチ陣への仕掛けについては、少し変えていこうと思っています。

――どのようなチームを作っていきたいと考えていますか

大田尾 グラウンドの中だけでいうと、スマートさと激しさが同居したチームを作りたいと思っています。激しさという意味では、ブレイクダウンや接点で、どのチームの誰が来ても絶対に負けないという気持ちを前面に押し出していくことが重要ですね。スマートさに関しては、アタックのボールの動かし方になってくるのですが、例えば見ている観客の方々から見たら空いているスペースがあるのに、そのスペースにボールが動かないという場面はしばしば見られると思います。そのような場面はなくしていきたいです。勢いと激しさを勘違いして、激しさだけにフォーカスしてしまうと雑になってしまうチームもあります。だからこそ、激しさとスマートさが同居した時は非常に良いチームができるのではないかと思っています。

――上と下のチームで意識の差が生まれてしまうと選手から聞くことがあります。どのような対策をしていきますか

大田尾 先日、全選手と1対1での10分程度の軽いミーティングを終えました。夏までをめどに全部員に目標を提出させて、その目標に到達するために何をやるのかというアクションプランを作成させたいと思っています。それによって、今何をしなければいけないのかということを常に把握できる状態にさせるつもりです。そのシートに基づいて、年間で選手と4回ほどミーティングをできれば良いと思っています。ミーティングでは目標に対してどうだったのかということを話して、目標を共有していくことができれば、(選手たちの)歩幅が合うのではないかと思います。

――メンバー選考において大切にしたいことや、選手に共通して求めることは何ですか

大田尾 現在セレクションポリシーというものを作っています。赤黒を着るにあたって重要な5つのポイントを選手に提示して、五角形が一番広い選手が赤黒をつかんでいくという話はしようと思っています。

――期待をしている選手はいらっしゃいますか

大田尾 かなり多くいるのですが、長田(長田智希、スポ4=大阪・東海大仰星)や小林(小林賢太、スポ4=東福岡)にはもちろん期待しています。彼ら以外で挙げるとするならば吉村(吉村紘、スポ3=東福岡)ですね。吉村には「お前が変われば、今年の早稲田が変わったと言われる。お前が今年の早稲田の象徴になる」という話をしました。

――吉村選手が鍵となるのですね

大田尾 吉村のプレーにみんな物足りなく感じていると思うんですよね。もっとやれるだろうと。見ていてもっとやれるなと思うし、まだ自分の可能性に自分で気づけていないから、もっと痛いプレーをしたり厳しいプレーをしたりすることで、今年の早稲田の変化の象徴になれという話はしています。

「ハングリー精神無くして勝利無し」

――春シーズンの展望は

大田尾 昨年はコロナの影響で1年で2試合しかしていないといった選手が多くいるので、春シーズンの試合は練習試合も含めて数多く組むようにしています。その後、春季リーグが終わった後の5週間と夏合宿の3週間弱を合わせた約8週間で、対抗戦に向けての下地を作っていくことになりますが、その時に自分がどのチームにいるかというセレクションをすると伝えています。春にやってきたものに対して、自分たち(コーチ陣)の評価と選手の評価が両方できたら、良い春が送れたと言えると思います。

――日本一を獲るために最も重要なことは何だと考えますか

大田尾 『Be Hungry』というスローガンの通りだと思います。昨年は負けていますので、ハングリー精神なくして勝利なしです。

――今季の目標は

大田尾 日本一ですね。

――最後に、ファンの方々へのメッセージをお願いします

大田尾 監督が交代することになりましたが、良いものは引き継いで、変えるところは変え、進化させるところは進化させる。いろいろな人に夢や希望や感動を与えられるようなラグビーを目指しますので、これからもぜひ応援してください。

――ありがとうございました!

(取材・編集 塩塚梨子、大滝佐和)

今季に向けた一言を書いていただきました。

(写真撮影・提供 早稲田大学ラグビー蹴球部)

◆大田尾竜彦(おおたお・たつひこ)

1982(昭57)年1月31日生まれ。佐賀工業高出身。2004(平16)年人間科学部卒業。2003年度に早稲田大学ラグビー蹴球部主将を務め、2004年から14年間ヤマハ発動機でプレーし、日本代表も経験。現役引退後は、同チームのバックスコーチ、アタックコーチ、コーチングコーディネーターを歴任。今年度より早稲田大学ラグビー蹴球部監督を務める。