【連載】『令和元年度卒業記念特集』第69回 桑山淳生/ラグビー

ラグビー男子

早稲田の集大成

 2020年1月11日――国立競技場に5万人を超える観客を動員した歴史に残る全国大学選手権決勝。相手は関東大学対抗戦(対抗戦)で敗北を喫した明大だった。リベンジを誓った早大は前半に大きくリード。しかし後半、明大のプライドをかけた猛攻により一時10点差に詰め寄られてしまう。次のトライが試合の勝敗を決める。そう思われた後半34分、トライを決めたのは早大WTB桑山淳生(スポ=鹿児島実)だった。優勝の決定打ともいえるトライを決めた桑山の、期待のルーキーとして赤黒に袖を通してからの4年間、そしてトップリーグという新たな舞台に挑戦するこれからのラグビー人生を追う。

 9歳の頃、兄である桑山聖生(平31スポ卒=鹿児島実)が友達からラグビーに誘われ、それについて行ったのが彼のラグビー人生の始まりだった。鹿児島実業高校に進学し、高校2年、3年と花園に出場。2014年にはU17日本代表に選出され世界の舞台を経験する。当時の心境を「兄が中学3年生のころからずっと代表に選ばれていて、やっと同じスタートラインに立てたと思った」と振り返る。この経験は彼にとって、身体能力で勝負していた今までとは違い初めてラグビーを勉強する貴重な機会になったという。高校卒業後、早大ラグビー蹴球部に入部した兄の背中を追いかけるように早大に進学。注目を浴びていた兄に続いて、期待の新人としていち早く赤黒デビューを飾った。

大学選手権決勝で値千金のトライを決める桑山

 1年春の早慶戦で前十字靭帯断裂。順風満帆に思える彼のラグビー人生はけがによって大きな挫折を味わうこととなる。「絶望に絶望でした。高校3年の春に前十字を一回切った経験があり、それは自分の中ですごく成長できたなと思っていて。その上で、早稲田の1試合目の春から試合に出させてもらって、これからどんどん自分が成長していくだろうなっていう感覚があったときにまた同じけがだったので何よりもつらかったですね。全治14か月と聞いて、(高校の時のリハビリから)5か月も増えて頑張れる?みたいな。その時は本当に落ち込みましたね」。当時を振り返ってそう語る桑山だが、この14か月間は彼を大きく成長させた。復帰時にはけがをした時より成長した姿でグラウンドに立つという意識を強く持ち、フィジカル面だけでなく、試合の見方や様々なラグビーの観点を吸収し自分に合ったスタイルを見つけていった。同輩には齋藤直人(スポ=神奈川・桐蔭学園)や中野将伍(スポ=福岡・東筑)など、1年時から赤黒ジャージーに袖を通すタレントぞろい。その中で長期間のリハビリを強いられるものの焦りはなく、当時出場している選手より活躍できるという自信があった。14か月、自分のことだけを考えに考え抜いた。けがからの復帰後、2年ではWTBとして、3年春からは本人の希望であるCTBとして試合に出場。やりたかったポジションだけに、イメージがたくさん沸き、プレーの幅が広がった。しかし、試合ごとにポジションが変わるシーズンも経験し、4年ではWTBとしてプレー。「CTBとして1年間経験したからこそわかることを活かして、長田智希(スポ3=大阪・東海大仰星)になるべく負担をかけないように、外からサポートするのを意識してやっていました」と話す彼だが、どちらのポジションでもコンプリート出来るようにしていたという。

 

 迎えたラストイヤー。桑山は春の心境について「僕が入った時点で僕らの代は優勝しないといけないな、メンツがそろっているなとは思っていたので、やっと自分の代になったなと思っていました」と語る。「義務付けられた優勝をやっと狙える状態になった」とも話す彼は、チームスローガンである『For One』のために下級生にも声をかけ気を配るようになった。選手権に向けて日々練習に励んだものの、「鼻を折られた感じだった」と自身で振り返るように対抗戦の明大戦では大敗を喫する。この敗北以降、『自分たち』に当てていた焦点が『明治ならどうするか』という明確なものに変わった。「優勝のための密度の濃い40日間だった」と桑山は語る。

 「自信」。桑山の発言に度々登場する言葉だ。プレッシャーを感じないという彼は、国立競技場という大舞台でも、5万人を超える観客を前に動じなかった。今までで唯一緊張した場面は中学校の合唱コンクールやピアノの発表会。その違いについては「自信があるかないか」だという。「ラグビーは1人じゃないので。誰かがミスしても誰かがカバーしてくれるだろうくらいのメンタルでいつもプレーしています」と話す彼のメンタルの強さも、決勝で勝利の決定打となるトライを生み出した要因の一つだろう。
卒業後は、ユニホームを着る自分や明確なビジョンがイメージできたという東芝に所属。活躍の場をトップリーグに広げる。自身の強みであるアタックだけでなく4年間で培ったディフェンスも武器に、春からの試合に出場することを目標に練習を重ねる。「最終的には日本代表を明確な目標に設定できるくらい成長したい」と話す桑山。早稲田での経験を活かしながら、どんな活躍を見せてくれるだろうか。

(記事 塩塚梨子、写真 涌井統矢氏、石井尚紀氏)