新体制特集の最終回は今季から監督に就任した山下大悟監督(平15人卒=神奈川・桐蔭学園)の対談をお送りする。長きにわたって日本一の座から遠ざかっている早大の復活を託された山下監督。現役時代には早大、サントリーでそれぞれ主将として日本一を達成している。掲げたスローガンは『BE THE CHAIN』。大きな改革を経て、山下監督が目指すチームとは――。
※この取材は3月30日に行われたものです。
「現実から目を背けてはいけない」
昨季の戦いを振り返る山下監督
――監督に就任された経緯を教えてください
前々から(監督の)お話をいただいていました。2年くらい前からですかね、そういったことも視野に入れておいてくれと。最終的には部長(島田陽一部長)から就任のお話がありました。
――2年前から、現役でありながら早大でもコーチをされていましたが、その時から監督のお話はあったのでしょうか
そうですね。はっきりとは言われていませんでしたけどね。のちのち監督を、という感じはありました。
――コーチとして早大を見ていた印象はどうでしたか
一生懸命やっているな、という印象はありましたね。ただ、その頃も(全国大学選手権)優勝を経験した代がいなかったので、暗中模索というか、勝ち方を知らないなと思っていました。
――やはり日本一を経験している代がいないというのは大きいのでしょうか
そうですね。単純に経験として勝ったことがないというわけですからね。
――予餞会の際に、「日本一の取り方を教える」とおっしゃっていましたが、どんな思いで話されたのでしょうか
もうその通りの思いです。僕の言う勝ち方というのは、自分たちの武器をしっかりつくって、それを相手にぶつけていって勝つということです。
――その武器というのは、今季はどのようなところになるのでしょうか
具体的なプレーで言うと、チームディフェンス、スクラム、ブレイクダウンですね。接点の攻防の部分です。
――そこを武器にする理由は何なのでしょうか
今のワセダの置かれている現状、そしてライバルチームをしっかり分析したうえで、これを強みにしていかないといけない、という理由からきています。今のラグビーのトレンドとかは全く関係ないですね。
――現在のチーム状況を分析したということですが、今のチーム状況をどのようにとらえていますか
まずチームディフェンスに関してなのですが、昨シーズンには帝京大に92点取られています。その現実から目を背けてはいけないと思います。まあ、チームディフェンスがないんですよね。なので、そこをしっかりと構築して、逆に強みにしていかなくてはいけないと思います。あと、対帝京大という風に比較すると、帝京大は25人の選手がスポーツ推薦ではいれます。うちはスポーツ推薦としては3人です。基本的に土俵が違うんですよね。そういうこともありますし、帝京大は勝利もしていますから、非常に優秀な高校年代の代表になっているような選手が帝京大に入っています。なので、一人一人で比べてしまうと、どうしてもポテンシャルという部分では、現状では劣ってしまいます。だからうちは、相手一人に対して常に二人で戦うという状況をつくり出したいんですね。そのために一番なのはチームディフェンスだと思うので。同じように打ち合っていては勝てないということですね。
――チームとして、徹底的にダブルタックルで止めていくということでしょうか
そうですね。その数は徹底的に(データを)とっていきます。ダブルタックル率というものが、自分たちのチームディフェンスが構築できているかどうかというひとつの指標になると思いますね。
――ファーストミーティングではどのようなお話をされたのでしょうか
まずは早稲田大学ラグビー蹴球部としてのミッション、ビジョン、そしてゴール、目標を提示しました。その後にターゲットとしていく大学、そこに対して個人がまずワセダの選手として絶対にやらなくてはならないことを話しました。そして、チームの強みとしてチームディフェンス、スクラム、ブレイクダウンの話をして、セレクションポリシーですね。最後はスローガンを発表して終わりました。
――スローガンである『BE THE CHAIN』を考えたのは山下監督ご自身ですか
僕以外にもいろいろな方と一緒に相談して、最終的には僕が決めました。
――どういった思いで決めたのでしょうか
先ほども申し上げたように、勝ち方を知らないので。『荒ぶる』とか、大学日本一になるということが雲の上にというか、頭の中にはなんとなくあるんですけど、その行き方がわからないと。そういった思いをつなげたいということで、鎖になろう、ということです。でも、鎖というのは個々がしっかりしていないと切れてしまうものなので。そういった概念的なところから、実際のプレーとしても、自分たちが強みにしていく、強みにしていかなければならないプレーを具体的に表しているものにしたかったんですね。僕はチームディフェンスを強みにしたいと思っているので、鎖のように切れないディフェンスをしよう、ということで『BE THE CHAIN』にしました。
――ユニフォームも新しくなりましたが、山下監督はどの程度関わられたのでしょうか
全部です。
――大きく変わった印象ですが新しいものにしたいという思いはあったのでしょうか
新しくしたいとは思っていないんですけど。何かメッセージ性の強いものにしたいな、とは思っていました。なので、nendoの佐藤オオキさんに僕が会って、当初は100周年記念のエムブレムかなにかをつくれればいいな、ということでお話をさせていただきました。その時にむこうから「ジャージーってデザインできないんですか」ということを言われて、じゃあ考えてきてくださいとなりました。そして何回か打ち合わせをして、思いをつなげるものにしたいし、より機能的なデザインにしようとオオキさん自らデザインしてくださって。最初は20個くらい案があったんですけど、あれだこれだと絞っていって、最終的に僕が決めました。
――最初は100周年のエムブレムを依頼する予定だったのですね
そうですね。最初はエムブレムを頼めたらいいな、ということで時間をつくってもらって会いに行きました。個人的に、僕はそういったものが好きだったので。ソフトパワーというか、デザインとかスポーツとかって、ソフトなものですよね。要するに、それがないからって世の中のだれかが生きていけなくなるというわけではないものなので。でも、そういったものが世の中を良くしているということは実感しているので、何か自分たちの象徴的なものもメッセージ性のあるものにしたいな、という思いもありました。それは今度、4月19日に記者会見するので。
――赤黒ジャージーのデザインを変えるということはとても勇気のいることだったのではないでしょうか
でも、ボーダーはちゃんと踏襲していますから。僕としてはそんなに変えたという気はないですね。過去にもいろいろデザインは変わっていると思いますし。ただやっぱり、僕たちだけではなくて、ファンの方とかにとっても赤黒ジャージーというのは(早大の)象徴ですからね。そういう面ではしっかり踏襲している部分もあるので。そんなに変えたという感覚はありません。
――フルタイムでのスタッフが増えた印象ですがそれについてはいかがでしょうか
自分たちコーチングスタッフやメディカルスタッフ、全部のスタッフがファミリーとなってかたまって、毎日選手たちと向き合っていけると思います。そこで、しっかりと組織図をつくって、スキームをつくって、フローチャートをつくって、みんなでいろいろなものを共有しながら一緒に進んでいくということが絶対大事なことだと思っていたので、当然全員フルタイムで、ということになりました。
――潮田健志レスリングコーチ、里大輔S&Cコーチは山下監督がコーチングを要請したのでしょうか
そうですね。ハイパフォーマンスコーディネーターに村上さん(貴弘、平8人卒=東京・早実)がいるので、村上さんにピックアップしてもらって、僕が判断して、来ていただいています。
――それぞれ担当しているレスリング、スプリントセッションを行っている意図を教えてください
ストレングスですね。体を大きくしなければいけない、徐脂肪体重を増やさなければいけないことは前提として、大きくしたものに対して、より機能的にその体を使わなければいけないということでレスリングとランニングですね。そこの二つがキーファクターになってくるので、そこに専門のコーチを置いたということですね。
――体の使い方が重要になってくるということですね
とても重要になってきますね。チームディフェンスをしっかり構築したとしても最後のタックルの部分が大事になってくるので。そこでレスリングはすごく役立ちますし、ブレイクダウンでの低い姿勢だとか、そういうところもレスリングから学べることも多いと思いますね。
「勝つことだけを考えている」
今季に向けた意気込みを語る山下監督
――今はどのような練習をしているのでしょうか
今は二部練です。午前中はストレングス、午後はFW・BKに分かれて、月・水・土がレスリングとファンダメンタルスキル、その後にユニットでの練習をしています。ほかの曜日はレスリングがランニングになる以外同じですね。
――今は基礎の部分に重点を置いているのでしょうか
そうですね。今はベースづくりなので。この時期にベースをしっかりとつくっておかないと、この後のステップ、ジャンプというものはないと思うので、そこを丁寧に、かつハードにやっています。
――練習で選手たちを見ていて、どのように感じていますか
体が変わってきましたね。大きくなりましたし、非常に良くなってきたと思います。ただ、まだまだ帝京大の背中は見えていない状態ですし、一日一日のトレーニングをしっかりやって、食事を含めたリカバリーの部分もしっかりやっていきたいですね。そういうことをしっかりやっていくことがワセダの選手のバリューだと思っているので。いまはそこを徹底的に叩き込んでいます。
――今のお話にもありましたが、食事は大きく変わったのでしょうか
そうですね。食事はとても大事なところだと思います。せっかくトレーニングしても良いものを食べなかったら意味がなくなってしまうので。共立メンテナンスさんの石塚会長とお話させていただいて、多大なるご支援をいただきながらやっています。毎回の食事で、どんなものを、どんな量で、どのタイミングで、という三つの大事なところをしっかり管理された状態でみんな食事を取っています。あとは栄養コーディネーターといって、トータルでそれぞれの食事をカスタマイズする人もいますし、管理栄養士の方も常駐していて、毎食、選手たちにアドバイスをしているということですね。
――練習中はどのような点に注目しながら指導していますか
今はチームディフェンスの練習をメインでやっているので、そこを注目して見ていますね。
――どういう監督でいたいかという理想像のようなものはありますか
ないです。自分は自分なので。よく聞かれるんですけど、僕はヘッドコーチではないし、ゼネラルマネジャーでもないですし、あくまで『ワセダの監督』なので。その仕事というのは自分にしかできないことであるという自負もありますし、それ以上でも以下でもないです。それがすべてですね。
――練習を見ていて、特に目に付く選手はいますか
うーん。1年生も入ってきているので、やはり中野(将伍、スポ1=福岡・東筑)と齋藤(直人、スポ1=神奈川・桐蔭学園)でしょうね。その二人には大いに期待しています。あと柴田(徹、社1=神奈川・桐蔭学園)、桑山(淳生、スポ1=鹿児島実)あたりも期待しています。あと岸岡(智樹、教1=大阪・東海大仰星)ですね。
――上級生のほうで注目している選手はいますか
上級生はここ2年間は年を越してもいないので、経験という意味では、ないと思っていますね。なので、だれがはい上がってくるかというところだと思います。
――新人練ではどのような練習をしているのでしょうか
新人練も2グループにわかれてやっています。上級生と同じメニューを時間をずらしてやっています。非常に筋が良いですよ。
――多くの有望な選手が入部した印象ですが
そんなことないですよ。ことしは外に対してしっかりプレスリリースしただけで、自己推薦で入ってくる選手は毎年一定数いるので。でも、スポーツ推薦は3人、トップアスリートは1人です。ラグビーは15人でやるスポーツなんだけど、純粋なスポーツ推薦という意味ではこれだけの枠しかありません。他の大学と相対的にみても少ないですし、ワセダの中でも少ないです。なので、100周年に向けて、この絶対数を上げるということは必要なことだとは思います。
――昨季はリクルートも担当されていたそうですが、何をされていたのでしょうか
選手に直接会いに行ったりとかですね。きょねんはそういう仕事ばっかりしていました。
――どのような点で注目していますか
やはり体つきがもうできあがっているな、と。まだこれからもっと大学生の体にしていかなければいけないんですけど、スタートの時点でかなり高い位置にいますね。レスリングをきょうの午前中にやっていましたけど、筋が良いですね。齋藤、中野だけではなくて、柴田、桑山淳、岸岡の五人は筋が良いですね。同期の中では飛び抜けていますね。期待しています。
――今季はどのようなチームにしていきたいですか
最初に言ったように、自分たちの強みを、しっかりこだわりを持ってつくって、磨き上げて、叩き込んで相手にぶつけていく。そういうチームですね。
――軸はぶらさずにやっていきたいということですね
もちろんです。
――今のチームでの課題などはありますか
今はベースをつくっている段階なので順調にきてはいるのですが、これまでのワセダにはしっかりとした育成プログラムといったものがなかったんですね。なので、体にガタがきても無理やりやらせたりということがあったんです。でも今は、そういう選手に対してはあえて休ませたりしている場合がけっこう多いですね。ケガして復帰してまたすぐケガするというような出戻りはいやなので。しっかりと根本からなおして体を強くして帰ってくるということを、きょねんよく試合に出ていた選手には言っています。
――桑野詠真主将(スポ4=福岡・筑紫)、本田宗詩副将(スポ4=福岡)に期待することはありますか
大いに期待しています。選手としてまずは絶対的な存在になってほしい。
――山下監督が主将をされていた際に意識していたことなどはありますか
僕は勝つことだけにまい進していましたからね。チームをまとめようとかは一切考えてはいませんでした。勝つことだけです。
――他の委員のメンバーに対しても同じ思いなのでしょうか
そうですね。チームをまとめようとか、運営していこうとかはまったく考えなくて良いです。レギュラーになることは当たり前ですし、自分たちそれぞれが一番の選手になることだけを考えてほしいです。
――山下監督から見て、チームの雰囲気はいかがでしょうか
すごく良いですよ。僕はかなり厳しくやっていますから。体制も変わって、新しいことだらけで戸惑うこともあるかもしれないんですけど、僕は勝つことだけを考えているので。厳しく厳しくやっていきたいと思います。
――15人制としては5月8日の高麗大戦が最初の試合になると思いますが、そこではどんな試合をしていきたいですか
やはりいまつくっている強みのベースの部分がどれだけできているかというところですね。ダブルタックルの回数だったりをデータとしてとって、追っていきたいですね。良い指標になりますから。スクラムとしては良いボールを出せているかが一つの指標になってきますし、ブレイクダウンだったら一つ一つの接点で50センチ前に出られているか、自分たちの目指すかたちでしっかりとスペースを取れているかが大事になってくると思います。それぞれの数はしっかりと(記録を)とって、データとしてみていきたいですね。もちろんデータだけではなくて、印象としても象徴的なシーンは選手たちに見せようと思いますけど、自分たちができているかできていないかということはしっかりデータをとらないとだめだと思うので、そこはしっかりやっていきたいと思います。
――接点の一歩二歩にまでこだわっていくということですね
こだわります。そのために、ボールキャリアーの仕事、2人目の仕事、3人目の仕事を明確に提示しています。まずはそれができるだけの体をつくらなければいけなせん。それも含めて一つ一つをロジカルに説明していますので、そこは徹底的に叩き込みます。で、最終的には接点の50センチですね。そこにこだわりたい。確実に取りたいですね。
――今まで話を伺っていて、とても論理的に組み立てて練習されているように感じましたが、そういった点にはこだわっているのでしょうか
当たり前です。選手に説明するときに、自分で頭の整理ができていないと言ってはいけないと思うんですよ。なので、何を聞かれてもアバウトなことはないようにしています。
――今季のメンバー選考の基準はどんなところになるのでしょうか
セレクションポリシーとしてもあるんですけど、最後まで絶対に諦めない選手、仲間のためにプレーできる選手、何事にも全力で取り組む選手。この三つです。
――春シーズンで帝京大と試合をしないのには何か理由があるのでしょうか
まず春季リーグのグループが分かれてしまったので。そして、僕は年間の計画として、5月8日の高麗大戦までは試合をやらないと決めていたんです。入部式の後から5月のゴールデンウィークまでを第2クールととらえていて、5月8日以降は試合期ということで。なので、それ以降で(関東大学)春季大会もありますし、招待試合も入ってますので、物理的に無理かなと。夏合宿ではやるので。岩出さん(雅之帝京大ラグビー部監督)とはコンタクトとっていますけどね。
――ライバルとなるのは帝京大なのでしょうか
そうですね。まあ、ライバルというよりは倒さなくてはいけない相手ですよね。でもいまは(帝京大の)背中も見えていないところなので、向こうからしたらライバルでもなんでもないと思いますけど。
――最後に、今季への意気込みとこれをご覧になっているファンの方々に一言お願いします
もちろん、目標は大学日本一です。みなさんいろいろと思われることもあるとは思いますが、日本一に向かってしっかりとまい進していきます。それと、上井草のグラウンドは素晴らしいものがあります。春シーズンの試合は上井草で行うものも多くありますし、ぜひ多くの方々に足を運んでいただいて、ゲームを楽しんでもらいたいですし、グラウンドオペレーションとしていろいろなことをやっていきたいと思っていますので、そこでまた楽しんでいただければと思っています。頑張りますので、応援よろしくお願いします。
――ありがとうございました!
(取材・編集 進藤翔太、寺脇知佳)
今季のスローガンは『BE THE CHAIN』です!
◆山下大悟(やました・だいご)
1980(昭55)年11月17日生まれ。神奈川・桐蔭学園高出身。2003(平15)年人間科学部卒。現役時代のポジションはCTB。4年時には主将として大学日本一を達成。卒業後はサントリー、NTTコム、日野自動車でプレーした。2015年度シーズンを最後に現役を引退。2016年度より早大ラグビー蹴球部監督に就任した。