ノーサイドの瞬間まで
「もっともっと練習して、うまい自分でいたい。強いSHでいたい」。主将として、そして一人のラグビー選手として、ひたむきに上を目指し続けた男がいる。ラグビー蹴球部主将・岡田一平(スポ=大阪・常翔学園)だ。今季のラグビー蹴球部は関東大学対抗戦4位、全国大学選手権セカンドステージ敗退と苦しい戦いを強いられた。しかし、どんな試合であってもチームはノーサイドの瞬間まで諦めずに戦い抜いた。なぜ戦い続けることができたのか――。そこには主将としてチームを鼓舞し続けた岡田の存在があった。
ラグビーとの出会いは中学生の時。一足先に競技を始めていた兄の後を追ってラグビーを始めた。みるみるラグビーに夢中になった少年は、ある日早大の試合を目にする。赤黒をまとい戦うその姿はあまりにも印象的だった。その後強豪校である常翔学園高に進学すると、3年時にはSHとして花園に出場。惜しくも日本一への夢は準決勝でついえた。しかし、悔しさは新たな志へと変わる。『日本一を取りたい』。中学時代に抱いた赤黒への憧れと日本一への志を胸に、早大に進学することを決意する。入学した頃は練習についていくのがやっと。それでも「入学時から自分が前に出て戦うんだという気持ちでずっとラグビーをやってきた。」と振り返るように、気持ちがぶれることはなかった。2年時に主力を担うようになると、U-20日本代表とジュニア・ジャパン選出、3年秋シーズン全試合スタメン出場と、ラグビー選手として大きな飛躍を遂げる。そして迎えたラストイヤー、主将就任が決まった。
熱いプレーでチームに勢いを与え続けた岡田
『一生懸命』。シーズンを通して、岡田はたびたびこの言葉を口にした。この言葉はシンプルで、それでいてずっしりと重みがある。どんなに点差をつけられても絶対に諦めない、どんなに勝っていても手を抜かない。頭では分かっていても、実行するには難しさがある。80分間一生懸命戦い続けられるチームを目指して岡田組はスタートした。「一平はすごく熱い男なので、最前線で体張っているのを見ると、自分も頑張らなきゃと思います。」と同期の門田成朗(法4=早大本庄)が言うように、岡田は自らの熱く激しいプレーでチームを鼓舞。秋からコンバートしたCTBというポジションも熱いプレーを存分に引き出した。すると、主将一人を熱くさせるわけにはいかない、と同期を始めとするチームメイトはそれにしっかりと応えた。岡田が目指したものが体現されたといえるのが早慶戦だ。29-31の2点ビハインドで迎えたラストプレー。この時選手は誰一人として勝利を諦めてはいなかった。「周りから見たら絶望的な状況から、4年生の力を僕は見ましたね」。4年生が次々とアタックをすると、ロスタイムに執念のPGを決め、見事な逆転勝利を収めた。最後の試合となった東海大戦後には、同期に対して「感謝の気持ちでいっぱいです。」と語った。誇りに思うような同期だった。
卒業後はトップリーグのクボタスピアーズへの加入が決まっている。トップリーグでの目標は、と尋ねると「恥ずかしいな」とはにかみながら、「夢のまた夢だったスーパーラグビーに、サンウルブズとして試合に出られるチャンスがある、ということを少し意識しています。まずはSHとして基礎的なスキルを磨いて、土台を作るところからトップリーグはスタートしたいと思います。」と答えてくれた。サンウルブズという大きな目標を持ちながらも、しっかりと先を見据えている。どんな状況でも諦めない姿勢、前に出る熱いプレーは、自身をさらなる高みへと連れていくだろう。クボタスピアーズ、そしてサンウルブズのユニフォームをまとい、スタジアムの観衆を沸かせる日もそう遠くはないはずだ。
(記事 本田理奈、写真 進藤翔太)