『楽しく』つかめ世界の頂
12月27日、藤田慶和副将(スポ・東福岡)のラグビー人生が一つの区切りを迎えた。ラグビーを純粋に『楽しむ』ことを胸に、駆け抜けた四年間。ワセダで幾度も見せた、仲間と共にトライを挙げ笑いあうその姿は、藤田のラグビーに対する姿勢を象徴したものだった。入学当初から日本代表の招集を受け、チームを離れることが多かった。だが、チームを離れることに不安は無かったという。それは、自身のことを認め、送り出してくれた仲間の存在があったからだ。引退から1か月、黙々と練習に励む男は仲間の支えを背に次のステージへと進み始めていた。
母校である東福岡高の花園三連覇の立役者として、鳴り物入りで入学。しかし、そんな順風満帆なラグビーキャリアには思わぬ落とし穴がひそんでいた。5月の同大戦で赤黒デビューを果たすものの、左ひざじん帯の断裂という大ケガを負ってしまう。初めての大ケガに戸惑いながらも、必ず治ると信じ、気持ちを切らさずリハビリに励む。一方で自分をもう一度見つめなおし、急変した環境にゆっくりと順応していった。1年のリハビリを経て、ワセダ復帰戦となったのは伝統の早慶戦。ピッチには異様な緊張感が張りつめ、ブランクのある藤田には非常に難しい試合になると思われた。だが、「初めてワセダに貢献できるチャンス。楽しくプレーすることを心がけました。」と語った藤田は、自身の力を存分に発揮。3トライをあげる大活躍でチームを勝利へ導くと、以降はチームの絶対的エースとして並みいる強豪校と戦い続けた。
ワセダのエースとして活躍した藤田
一方、国外にも活躍の幅を広げる。18歳7か月という異例の若さで代表戦に出場。史上最年少出場記録を塗り替える。その後も代表としての活動や国外クラブへ練習生として参加するなど、世界のトップレベルの戦いに身を置き続けた。その集大成となった2015年のラグビーワールドカップ(W杯)イングランド大会では、米国戦に出場し、見事トライを奪う。国を背負う、計り知れない緊張感の中で心がけたことはやはり『楽しむ』こと。そんなラグビーに対する純粋な思いが、大舞台での藤田の活躍の根底にあるものだろう。
卒業後はリオ五輪での金メダル獲得を目指して、7人制ラグビーに専念する予定。リオ五輪終了後は15人制ラグビーに復帰し、国内のトップリーグへと飛び込んでいく。「非常に素晴らしいプレイヤーが多く在籍するトップリーグで海外に通用する選手になれるよう成長したい」と語り、将来の目標を世界最高峰のラグビーリーグであるスーパーラグビーへの挑戦と掲げた藤田。2019年に日本で開催されるラグビーW杯については「イングランド大会では引っ張ってもらう立場だったので、次は自分がチームを引っ張っていきたい」と意気込んだ。日本ラグビー界の将来を託された男は、『楽しむ』思いを胸に夢路を駆け上がる。
(記事 浅野純輝、写真 黒田菜々子)