早稲田スポーツ新聞会では10月1日発行の新聞より、全6回のラグビー蹴球部に関連した連載を掲載しております。今年は『Innovation』というラグビー蹴球部のスローガンにちなみ、部にもたらされた変革について特集します。第1回は今春に開院したワセダクラブ接骨院・鍼灸マッサージ院について執筆しました。今回は院長の榎戸剛太さん、ディレクターの星川精豪さんに伺ったお話を、紙面に掲載しきれなかった部分を含め、インタビュー形式でお伝えします。
※この取材は9月14日に行われたものです。
「医療技術を他のところにも還元したい」
院長を務める榎戸氏
――この治療院が設立された経緯としてはどのようなものがあったのでしょうか
榎戸 もともとラグビー蹴球部などで培った治療の技術や経験を地元の人たちや他の体育会の方たちにも還元したいという思いがあって設立しました。ワセダクラブが母体になった理由としては、大学としてというよりも、ワセダクラブとして展開していったほうが他の体育会にも関わりやすいんじゃないかということもあります。なによりも、この医療技術を他のところにも還元したいというのが一番の目的です。
――一番のターゲットとしてはそういった早大の体育会や地域の方々ということですね
榎戸 そういうことですね。
――ワセダクラブというと、理事長でもある後藤禎和監督(平2社卒=東京・日比谷)も大きく関わっているのでしょうか
榎戸 もちろんです。色々とアドバイスもいただいたりしています。
――この治療院が早大上井草グラウンドの近くにあるということもその影響が大きいのでしょうか
榎戸 そうですね。ここで働いているスタッフもラグビー部のメディカルにずっと関わらさせてもらったりもしているので、最初のターゲットとしてラグビー部がありましたね。早大上井草グラウンドの前に建てた理由としてもそれがあります。同時に、ワセダクラブの事務所が近かったということもあるとは思いますけど。
――スタッフの方々は、この治療院が建つ前からラグビー蹴球部に関わっていたのですね
榎戸 (スタッフ紹介の掲示を指差しながら)あそこを見てもらえば分かるんですけど、もともとラグビー部に関わっていた人たちが多いですね。
――ラグビー蹴球部のチームドクターを務める斉藤徹トレーナーはイングランド遠征に帯同されているとお聞きしました
榎戸 そうなんですよ、いまはイギリスに行っています。斉藤も午前はこの治療院にいて、午後になるとラグビー部の練習のほうに行くという感じでやっていますね。
――齋藤コーチが一番ラグビー部と深く関わっているのでしょうか
榎戸 そうですね。経験も豊富ですし、ラグビー界ではレジェンドですね、斉藤さんは(笑)。菅平に行ったら知らない人はいないというくらいです。あと、ディレクターの星川も、アスレティックトレーナーとしてラグビー部をずっと見ていますし。他のスタッフもラグビー部のメディカルのほうに就かせてもらっています。
――ラグビーという競技はケガが多く特殊だと思いますが、実際に診療してみて印象はいかがですか
榎戸 ケガの多さはやっぱりすごいですね。日々の練習中でも4、5人はケガしてすぐの状態で来るので。急性のケガに関しては、やっぱり治療できる場所が近くにあるということは重要だと思います。すぐに対応出来ますし。その理由もあってここにできたのだと思います。病院まで遠いと対応し切れない部分もあるので。ラグビー部の選手が練習着のままここに来るっていうこともありますしね(笑)。
――ケガした選手がそのまま来るということはよくあることなのでしょうか
榎戸 きょうはオフですけど、練習がある日の夕方は野戦病院みたいな状態になります(笑)。
――どういったケガがラグビーだと多いのでしょうか
榎戸 やっぱり打撲、捻挫、肉離れというのが多いですかね。それは毎日のように起こっています。あとは脱臼などですかね。
――部のトレーナーの方などではそこまで全ての選手を見るということはなかなかできないことですよね
榎戸 それはあると思います。たくさんお金があるような部とかは別かも知れないですけど、そこまでたくさんトレーナー含めてメディカルの人たちを雇えなかったりすると思うので。特にラグビー部は100人以上の部員がいますし、毎日ケガが起きるような感じなので、斉藤さん一人ではかなりつらかったと思います。隅々まで丁寧なリカバリーというか、目が届き切らないところも出てしまうので、少し離れたところにこういう施設を作ることによって選手に目が届きやすくなりますし、細かいケアができるというのはあると思います。
――後藤監督自身もいらっしゃっているとお聞きしました
榎戸 そうですね。監督自身も体を張ったお仕事だと思うので。
――ラグビー蹴球部以外の体育会の方の利用というのもあるのでしょうか
榎戸 はい。できればラグビー部以外の体育会各部にも還元させていただきたいという思いもありますので、大歓迎です。7月くらいからぼちぼちこちらのほうからご案内させていただいて、それで少しずつではありますけどいらっしゃっていただけています。
――実際に利用された方たちからの評判はいかがでしょうか
榎戸 インカレなどの大きな目標に間に合ったなどという話は聞きますね。そういう目的で来ていただいている方が多いので。そういう点では、その目標に対して最高のパフォーマンスにもっていきたいという要望に応えるのがうちの強みでもあるので、そのことについてはお役に立てているのではないかと思います。
――治すだけではなくてベストの状態にもっていくというのも大きな強みの一つなんですね
榎戸 そういうことですね。
「ワセダのスポーツを盛り上げていきたい」
現在もラグビー蹴球部に携わる星川氏
ここからは星川ディレクターにもお話に加わっていただきました!
――スタッフの方々はどのようにして集められたのでしょうか
榎戸 鶴の一声と言いますか(笑)。ディレクターの星川が集めたような感じですね。
星川 ご縁です。もともとずっとラグビー部でトレーナーをやっていたのですが、5年前くらいにこの事業の話をワセダクラブのほうからいただいて、いろいろ相談していました。当時は別のところで開業しようかとも思っていたので。その話をしていく中で、実際にいろいろな人たちからの賛同も得られてここを建てるということになりました。そこで、実は私と院長はいつも一緒に授業を受けて、活動していた同級生ですごく信頼もしている方だったので、院長のお願いをしました。
榎戸 基本的には星川が全部ピックアップしてきたメンバーです。
星川 なので、早大の元スポーツ科学部の学生もいて、小黒(喬史氏)とか渡瀬(由葉氏)とかは学部を卒業した後に鍼灸(しんきゅう)の学校に行ったりとか、そのまま早大の大学院を卒業したりとか、一般就職してからこっちに戻ってきた人もいます。ラグビー部のメディカルのトップトレーナーである斉藤さんもいますし、皆さんの力、いろいろな人たちの力で成り立っています。
――以前、後藤監督にお話を伺った際に、スポーツ科学部の進路としてこの治療院が受け皿になれれば、とおっしゃっていたのですが、そういったビジョンというのもあるのでしょうか
星川 そうですね。まだここがスタートしたばかりなので色々と難しいところがあるのかも知れないですけれども。スポーツ科学部にはトレーナーコースがあるのにも関わらず、トレーナーになれないから一般就職するという学生が多いんですね。不幸中の幸いと言っていいのかわかりませんが、ワセダの学生って銀行だったり広告だったりなどに就職できちゃうじゃないですか。そうなると、揺れるときがあると思うんですよね。これ以上トレーナーをやる必要はないんじゃないかと。つまり、トレーナーではない別の進路にいく一番の理由が、受け皿がないからというところなんですよね。でも、こういう受け皿が大学の提携施設としていろいろやっていければ、もしかしたら今後ここからいろいろな部に行ったりなどして、早大のスポーツを盛り上げたりすることもできると思うんです。ワセダのプライドみたいなものってあるじゃないですか。そういう熱い人たちが集まっていろいろできれば、と思っています。将来的なビジョンではあるんですけど、そういった思いはありますね。後藤監督含めて、そういう話はよくしますね。結局はワセダの為に、と。
――この治療院の話が出たのが5年ほど前ということでしたが、その頃はちょうど後藤監督が監督に就任された時期だと思うのですが、なにか関係はあるのでしょうか
星川 そうですね。もともとワセダクラブを運営されながらラグビー部でコーチをやられていたじゃないですか。なので、どちらかというと、言葉は悪いかもしれないですけど、資金繰りとかも含めて後藤さんが全部やっていたようなかたちなので、いろいろ考えるところはあったのだと思います。
――他の治療院に比べて、この治療院の強みのようなものはどのようなものがあるのでしょうか
榎戸 最新の治療機器というのもありますし、治療で終わりというスタンスではなく、ケガしない体だったり病気しない体だったりをつくる、提案するということが強みとしてはあります。あとは、ケガの治療が終わった後に再発しないようにするという指導までしっかりとやる点が他の接骨院ではなかなかみられないようなスタンスだと思います。コンディショニングルームというのも併設しているので、そのあたりも徹底的にみることができるというのが強みだと思います。
――ラグビー蹴球部の選手が多く利用していると思うのですが、その中で特に印象的なエピソードのようなものがあったら教えてください
星川 今年から村上S&Cコーチがワセダの専任で来られたというのもあって、きょねんまでとケガの種類が変わったんですね。その中でも肉離れが特に多くて。その肉離れからの復帰ということも含めて、名前を挙げるとしたらキャプテンの岡田一平(スポ4=大阪・常翔学園)ですかね。肉離れですごく苦しんでいたんですけど、ここで治療することによって復帰して、いまはイングランド遠征でもプレーしたりしているので。ラグビー部にはない機械というのもこちらにはありますし、ここと部との連携もしっかりできているので、そういう点はとても良いんじゃないかと思います。
――ラグビー蹴球部との情報共有ということもしているのですね
星川 そうですね。選手がひとりひとり小さなノートを持っていて、そのノートを持ってここを含めた外部の治療院に行って、先生からどういう治療をしたのかということを書いてもらうことで、それを基にしたリハビリテーションのメニューを部のほうで組んだりすることをしています。スムーズに連携はできていると思います。
――将来的には他の部ともそういった連携をしたいという思いはあるのでしょうか
星川 ありますね。いまもラグビー部以外の人たちが来てくれているので。特に、これまで上井草を使っていなかった人たちも来てくれています。わざわざ上井草駅で降りてくれて来てくれたりもしていますし、部のトレーナーの方も帯同してきてくれたりもするので、うまく連携していきたいと思います。
――最後になりますが、この治療院を起点として将来への思いを聞かせてください
榎戸 西武線沿いに支院を建てるということですかね。もっと密接に関わっていきたいというのはあります。ここが第一歩目なので、ここでくじけるわけにはいかないです。うちがしっかり他の部とも連携してやっていくことで、ワセダのスポーツがもっと盛り上がっていければなと思います。そういったことが達成できたら、他にも支院ができていたりもするかもしれないですし。後は病院とも連携していきたいと思っているので、病院としても建てたりとか、そういうようなところまで考えています。
星川 ぼくは早大の卒業生なのでワセダに対する思いもありますし、ワセダのスポーツ盛り上げていきたいです。これまでワセダのスポーツを見に行ったことがない人たちもここをきっかけにして試合を見に行ってくれたりだとかしてもらいたいです。これまでは大学の援助があっていろいろなスポーツが強かったのを、こういうところから発信をして、大学のスポーツを強くしていけるのもここの良いところだと思うので、そういうことをしていきたいです。ワセダの為に、というところですかね。
――ありがとうございました!
(取材・編集 進藤翔太)
早大上井草グラウンドのすぐそばです。体の悩みがある方、一度訪れてみてはいかがでしょうか