早大春季総括&他大学情報

ラグビー男子
◆早大春季総括 『山あり谷あり』

 春季最終節の帝京大戦に照準を定め、春シーズンは特に個のビルドアップに尽力。専門コーチを置き、当たり負けない強靭(きょうじん)な肉体作りに時間を割いた。また、すべての局面において『数で勝つ』のゲームスタイルを確固なものとすべく、前提となる持久力を高めた上で、基礎となる形を徹底的に叩き込んでいった。

 だが強化は順調に進まない。4月にケガ人が相次ぎ、ベストな布陣が組めないまま、開幕を迎える。開幕戦の中大戦こそ快勝したが、次の釜石シーウェイブス戦では再三チャンスを作るも決定力を欠き、惜敗。続く格下の同大、法大戦では勝利するのがやっとの厳しい内容で、先行きが危ぶまれた。その不安が明るみに出たのが、石巻で行われた春の早慶戦。強化を図ったはずのフィジカルで圧倒され、まさかの大敗を喫する。精神的ショックは大きく、チームは強化計画の修正を余儀なくされた。

帝京大戦で好タックスを見せた藤近

 しかし「大敗のおかげで、チームの意識がかなり変わった」(プロップ垣永真之介主将、スポ4=東福岡)とあるように、この敗戦がチーム成長の起爆剤となる。3週間後の明大戦では、それまでの不安を払しょくする歴史的大勝。FWとBKが素晴らしい連携を見せ、好敵手を叩きのめした。そして迎えた帝京大戦。相手は屈強なフィジカルを武器に猛攻を仕掛けてくるも、早大は持ち味の運動量を生かし人数でカバー。気迫のこもった好タックルも連発し、守備力の高さを示す。勝負のカギとされた接点でも、素早い集散とワセダらしい激しさで敵の配球を苦しめた。また、昨季の弱点であった終盤の失速も改善。最後まで高いパフォーマンスを維持し続け、後半はトライ数で上回った。5点及ばず金星とはならなかったが、1か月前のチームを考えると、大変評価すべき内容であったと言える。

 洗練された組織力でタレント集団を苦しめた反面、課題も浮き彫りになった。特に顕著なのが、規則の順守だ。早大は自陣でのペナルティから幾度も失点危機を招いたものの、帝京大はノーペナルティにこだわり、自陣深くでの反則を最小限に抑えた。よって、早大はボール支配率で帝京大を大きく下回り、80分の多くを自陣での守備に費やす結果となった。反則を減らしボール支配率を上げることが、今後勝利するための絶対条件になりそうだ。

春シーズン後半から赤黒に定着した坪郷

 春シーズンを通して、多くの選手がAチームを経験。帝京大戦で存在感を放ったCTB坪郷勇輝(商4=東京・早実)もその一人だ。「突破力が強み」と話す坪郷は、数少ないペネトレーターとしてチームに欠かせない存在となっている。チャンスを掴む者がいた一方で、アピールできずに終わった選手が多いのも事実。今後長いシーズンを戦う上で、選手層は重要な戦力基準となるだけに、夏季の鍛錬の中でスターターを脅かす存在が出てくることを期待したい。

 遠かった王者の背中も、手の届くところまでやってきた。捉えるか、それとも離されるか――。8月25日の再戦に向け、垣永組は勝負の夏合宿に挑む。

(記事 坂田謙一、写真 西脇敦史)

★他大学情報
◆帝京大 『新たな目標に向け、順調な滑り出し』

 昨年、史上初の全国大学選手権4連覇を成し遂げた帝京大は、今季新たに『打倒・トップリーグ』を目標に掲げた。その野望を果たすため、目指すのは『スタンディング・ラグビー』。立ってボールをつなぐことを意識し、春シーズンを通してその徹底ぶりがうかがえた。大学生相手には力の差を見せつけ7戦全勝。春季大会では2年連続の優勝を果たした。またトップリーグとの対戦では、コカ・コーラウエストレッドスパークスに大敗を喫するも、その敗戦を糧にして豊田自動織機シャトルズには快勝。さらには日本選手権3連覇中のサントリーサンゴリアスとの合同練習を経験するなど、王者ならではの充実した春シーズンを送った。今季も個々のフィジカルの強さが武器となっているが、その中でも一際目を引くのは、日本代表にも招集されたフッカー坂手淳史だ。得意とするタックルで何度も相手を仰向けにし、またアタックにおいても簡単には倒れない縦への突破を見せ、まさに『スタンディング・ラグビー』を体現する存在といえる。現時点で最も大学日本一に近く、さらに上を目指し進化する帝京大に、ライバル校が打ち勝つ術はあるのだろうか。

(記事 田中絢)

◆筑波大 『個の活躍光る』

 昨季、『二強』としての地位を確立した筑波大。今季は日本代表の大型SH内田啓介を主将に据え、新体制の幕が開いた。そして迎えた春シーズンは、個もチームも波に乗っている。ことし日本代表入りした2年生WTB福岡堅樹は4月のフィリピン戦で代表初キャップ、初トライ。黄金ルーキーSO山沢拓也も、U20日本代表の司令塔として公式戦全試合で先発出場を果たした。一方のチームもここまで敗戦は5月の帝京大戦のみで、関東大学春季大会では強豪ひしめくAグループで2位と上々の結果を残している。今季、筑波大の武器となるのはタレント豊富なBK陣だ。内田、福岡を欠いてもそのアタック能力は大学界屈指。FW陣でゲームをつくり、BK勝負に持ち込むラグビーが理想形となるだろう。FWはHO村川浩喜をはじめ昨季よりもすごみを増したが、ラック周辺のプレーをもう少し安定させたいところ。帝京大戦では、超大学レベルのフィジカルを前に力負けする場面も見受けられた。『二強』の殻を破るためにも、球出しの精度が今夏以降のキーポイントとなりそうだ。

(記事 北川翔一)

◆明大 『新生明大は雲行き怪しく』

 丹羽政彦監督を新たに迎えて今季をスタートした明大。『人間性を高める』ことをテーマに掲げ、主将のNO・8圓生正義を中心とし例年以上に体作りに取り組んだ。しかし、関東大学春季大会の初戦・筑波大との一戦は完封負け。その後も調子が上がらず、早大、帝京大には10トライ以上奪われる屈辱的大敗を喫した。戦力面ではFWで核となったメンバーが卒業したが、昨季終盤に頭角を現したプロップ須藤元樹、U20代表を経験したロック寺田大樹を中心に頂点を目指すだけのタレントは揃っている。一方で課題はBKだ。SOとして試合を作れる選手が見つからず、ゲームコントロールが出来ていないのが現状。一刻も早く司令塔を育てたい。それでもこの春は多くの選手をU20代表やケガで欠いたため、それらの選手が復帰する夏以降は連携面で向上の余地がある。試練の春を経験した明大が、夏を乗り越えどう生まれ変わるのかに注目したい。

(記事 御船祥平)

◆慶大 『秋に向け好発進』

 春季大会ではグループBで見事全勝優勝を収め、好スタートを切った慶大。和田康二氏を新監督に迎えた今季は、昨季4強の東海大や早大に快勝し、大きな自信を得る。また勝利を通じてチームの結束を強め、チーム力の向上につなげた。豊富な運動量を武器とするFW陣は、低く突き刺さる『魂のタックル』に磨きをかけたほか、試合ごとに大きくメンバーを変え、個々の経験値を高めることで、選手層の薄さも改善。またBK陣は、今季からWTB服部祐一郎とFB児玉健太郎がAチーム復帰を果たし、関東学生代表にも選出されたWTB浦野龍基との抜群のコンビネーションで実力を発揮。大学ラグビー界随一の決定力を誇る強力バックスリーとして、慶大を勝利に導いた。だが、失点につながるミスやペナルティの多さなど課題も残った春シーズン。今季の目標に関東大学対抗戦優勝及び大学日本一を掲げる以上、春季の結果に一喜一憂せず、秋に向け修正点の見直しを図る。

(記事 大口穂菜美)