2年連続の完全優勝という華々しい開幕を遂げた今年の早大漕艇部。昨年の全日本大学選手権(インカレ)からの雪辱を誓う早大を率いるのは、内田大介監督(昭54教卒=長野・岡谷南)だ。その温厚な口ぶりの内に秘められた熱い思いを語っていただいた。
※この取材は8月2日に行われたものです。
「誰がどのボートに乗っても同じローイングができるように」
自身もかつては早大漕艇部の主将を務めていたという
――最近はどのような練習を中心にされていますか
まだ大会の1カ月前なんですが、簡潔に言うとスピードのある持久力養成のためのトレーニングをより多く入れるようにはしています。ただボートの場合はテクニックがないと高い負荷のトレーニングができないという特性があるので、テクニック的にまだ十分でないクルーはそちらの方の練習を多くやっています。それと2015年の時に男子のエイトと舵手付きフォアが優勝した時のメニューの配分に沿った配置を今上手くやりつつあるというところですね。
――東日本選手権の短縮レースの原因にもなった藻の繁殖の影響は今もありますか
ありますね。昨日も試験のある部員以外はほぼ全員参加してやりましたけど、これはなかなか我々だけの問題ではなくて、時間と手間がかかります。埼玉県の方からもかなり大きな財政支出をして頂いているんですが、それだけではどうしても不十分で、インカレを戸田で開催するには自助努力も必要かなとは思います。今は以前私がホームとしていた河口湖で行った方法をワセダ全体で試行させていただいて、日本協会の方に提案しているところです。公平なレースができるようにしなければ厳しい状況ではあります。
――先日伊藤大生主将(スポ4=埼玉・南稜)、米川志保女子主将(スポ4=愛知・旭丘)、そして安井咲智(スポ2=東京・小松川)の三選手が世界選手権に出場されましたが、レース展開はご覧になりましたか
ライブは見ていました。米川に関しては、彼女から聞いた話だと、ポーランドのコースはかなり逆風が強くて、海外の大型のクルーに有利な状況だったと。彼女たちは1本目にかなり出遅れてしまったので、その後のレースは積極的に前半から飛ばしていって、後半ついていく作戦だったんだけども海外のクルーは余裕を持って後半に入っているので一気に離されてしまったというところが彼女にとって反省材料だったということでした。まだまだ基礎的な漕力と体力が不足していると痛感していました。それから伊藤に関しては、男子は女子以上に大きな差があるんですが、よく頑張ったと思います。彼の実力から行くと、彼はCファイナルに出たのですがもう少し頑張ればBファイナルだったかなというところだと思います。Bファイナルということになると相当いい結果だと思うので、あと一息、紙一重だったかなと思います。それから安井は残念ながら6月の合宿でスペアになったんですけども、U23の世界選手権はスペアレースというものがありまして、各国の補欠になっている選手がレースをするのですが、それでは見事に1位になりましたから、欲を言えば正選手で出したかったですけども、彼女なりには一つ腑に落ちたレースになったかなと思いますね。きっとそれはいい方向へつながっていくかなと思います。
――今年の練習方針で昨年から変えた部分があれば教えてください
方向性を変えたというより、春先にクロアチアからコーチを招待して、我々が狙っていたところを整理してもらいました。ワセダがやっていたことが全く間違っていたわけではないので、そこのアプローチの仕方をきちんと整理してもらったということです。なので練習方法が大きく変わったというわけではないです。それからテクニカルの面では非常に細かなところの指摘やキーワードを頂けたので、それが今体現できているかなと思います。あとこれは競技成績とは別に、『誰がどのボートに乗っても同じローイングができるようにする』、つまり今部員の中で突出してすごい選手だというトップアスリートが今現在いないので、そういう今のワセダの戦力の特徴を考えて、スーパーアスリートのいる大学に勝つためにはやはり総合力で勝たなくてはいけないと思います。総合力で勝つためにはボトムアップしなくてはいけない。そのキーワードが『誰がどのボートに乗っても同じ漕ぎができる』ということですね。実際に例年に比べると部全体の技術的な面では結構改善で生きていると思います。
――今季を振り返って、今までの成績をどう評価されますか
早慶戦は、女子は圧倒的に底力がありましたし、スイープのトレーニングをたくさんやりましたから、これは自信があったので、それは今につながっています。東日本選手権では、残念ながら藻の影響で一発レースのようなかたちになってしまったんですけども、決勝にワセダがエントリーした3艇が全て出場し、1、2、4位を占めたというところはワセダの今の1本オール(スイープ種目)のレベルを反映しているなと。なのでインカレに向けてはいい材料かなと思いますね。それから男子に関しては、体力的にあるいは体格的に突出した選手はいないです。ケイオーと比べても体格体力共に数値的には劣っている。でもあれだけの差でレースができたということは、テクニカルな向上が著しいのかなと思います。軽量級(全日本軽量級選手権)の男子の(舵手なし)ペアの優勝も全く同じ傾向で、実業団の非常に実力のあるクルーも出ていましたけど、それに基礎体力的には劣る2人があれだけの粘り強いレースができたというのは全く同じことが言えるかなと思いますね。男子は全員は軽量級に出ていないですけど、現在の戦力を一口に言えば、ボトムアップしてテクニカルのレベルは非常に高いところにあると言えると思います。あとはスピードですね。
――これまでで特に成長を感じた選手はいますか
男子でエイトに乗っている田中海靖(スポ2=愛媛・今治西)、伊藤(大生)、飯尾(健太郎副将、教4=愛媛・今治西)、藤井(拓弥、社3=山梨・吉田)、尾崎(光、スポ4=愛媛・今治西)ですね。それから舵手なしフォアの鈴木利駆(スポ2=静岡・浜松西)、舵手付きペアの2人(菅原諒馬(商3=東京・早大学院)と瀧川尚歩(法2=香川・高松)が特に顕著に実力が向上しているかなと思いますね。コックスは男子はエイトのジン(徐銘辰、政経3=カナダ・St.Andrew‘s highschool)ですね。いいクルーメークができるようになってきたかなと思います。女子の方では、安井(咲智、スポ2=東京・小松川)、松井(友理乃、スポ2=愛媛・今治西)、この2人は(舵手付き)クォドルプルですね。それから(舵手)付きフォアの方が木下弥桜(スポ3=和歌山北)、三浦彩朱佳(文2=青森)ですね。このあたりが目立っていますね。あと米川はもちろんです。
――女子は下級生が多く挙がっていますが
そうですね、特に2年生ですね。3年生が少ないのもあって2年生の台頭が目につきます。(漕ぎの)上手さだけではなくて体力的にも成長が見られますね。
――男子の方はエイトのメンバーが安定しているような印象を受けました
そうですね。いくつか選考レースをやったんですが、今のところは結局このメンバーになっていますね。まあ最終的にどうなるかというところははっきり言えませんけども、今の8人が安定した実力を出していますね。
――現時点でインカレのエイトのメンバーが早慶レガッタの対校エイトから変わっていないという点に関しては、力が安定していると捉えていいのか、それとも下からの下剋上がないと捉えるべきなのか、どうお考えですか
まあ両方ですよね。確かにこの8人も頑張っているし、もう少しセカンドグループには頑張ってほしいという希望はありますね。
――エイトの暫定クルーのシートに関して、坂本英皓選手(スポ3=静岡・浜松北)と飯尾選手を入れ替えた意図はどこにありますか
飯尾はポジションによって入れる目的が少し違うんですが、坂本は誰にでも合わせられる器用さ、やわらかさがあります。それがストロークペアにとっては非常に大事なことで、ストロークのリズムを7番が後ろに伝えていかなければならないのですが、坂本はそこが非常に上手いので。まあ飯尾も上手いんですけども。飯尾に関しては、漕力的にパワーがついてきているので、真ん中のエンジンの部分に今回入れてみました。
「一つでも多く表彰台に乗りたい」
――インカレの見込みに関して、まず女子部についてお伺いしたいのですが、昨年と違うという点はありますか
一つは種目が違うというところですね。スイープ種目に関して早慶戦の時からインカレのフォアを意識して組み立ててきましたので、ぜひこれは取りたいなと思います。なおかつスイープというのは少し手足の長い選手向きなので、そういう面で戦力的にもそうやって振り分けています。女子のクォド(舵手付きクォドルプル)に関しては、去年はクルー編成に慎重になって苦労したのですが今年はアジア大会の日程の影響で米川がシングルでないと出られないということだったので、ほぼほぼ軽いクラスの選手で組めました。ロングストロークはなかなか漕げないんですが非常にキレのいいシャープなローイングができるクルーだと思います。これも表彰台を狙えるかなと思っています。あと米川ですね。そこが女子の目玉だと思います。
――目標としては総合優勝を掲げていらっしゃるということですか
そうですね。もう今ワセダが圧倒的優位という時代ではないので、一つでも多く表彰台に上がって点が取れれば、総合優勝につながると思います。
――男子部に関してお伺いします。まずインカレでの目標というのは
実力的に突出した選手がいないので、やはりエイト、(舵手)なしフォアと(舵手)付きフォア、このあたりで一つでも多く表彰台に乗りたいと思います。エイトは優勝を目標にしていますけど、圧倒的な力がないので、あとどれだけスピードを上げられるかというところですね。
――キーとなるクルーを挙げるとすれば
やはりエイトと、(舵手)付きペアですかね。ペアの2人は進捗著しくて、菅原は高校時代学院のボート部でしたけど、それほど顕著な成績を残していないし、瀧川は未経験入部でしたので、この2人の成長が非常に著しくて楽しみです。特に付きペアというのは、2人で3人分(漕手2人+舵手1人)動かさなければいけないのでボートが重いんです。そういう面ではパワーのあるクルーに育てられるかなと思います。
――インカレと並行してオックスフォード盾レガッタが開催されますが、そちらのエイトのクルーにはかなり1年生が多く配置されていますが1年生の様子はいかがですか
オックスフォード盾では2年生の大野(一成、法2=東京・早大学院)がクルーリーダーで、あとはコックスを含め全員1年生なんです。一般入部も2名乗っています。組んだ当初から非常によく頑張っていて、伸び率が大きくかなり上達しているかと思いますね。ただこれで上位を狙えるかというとオックスフォード盾は実業団も出てますので、なかなかAファイナル(決勝)に残れるかどうかわかりませんけども、だいたい他大もオックスフォード盾はセカンド、サードクルーの新人クルーなので、大学生の中ではトップを狙いたいなと思います。
――それでは改めて最後にインカレに向けて意気込みを御願いします
冒頭にもお話しした通り、これからスピード持久力を高めたいと思います。それから去年のクルーの方が男女共に基礎漕力は高かったですがまとめきれなかったので、最後の1カ月は効率よくボートを進められるテクニカルな部分を共有していきたいなと思います。一言で言えばバッチリ合った、無駄をなくした漕ぎにしたいですね。
――ありがとうございました!
(取材・編集 石塚ひなの)
覇権奪還へ、視界は良好です
◆内田大介監督(昭54教卒=長野・岡谷南)
1956年(昭31)6月19日生まれ。早稲田大学教育学部卒。対談中は、クルー表を片手にとても丁寧に答えてくださった姿が印象的でした。インカレに出場する選手だけでも40人に上る大所帯ですが、その人望と指導力で選手スタッフ全員を『日本一』に導いてくださることでしょう!