早慶レガッタ2年連続完全優勝から、今年の早大漕艇部はすべての大会で金メダルを手にしてきた。昨年の全日本大学選手権(インカレ)でメダルなしの屈辱を味わってから、着々と準備が整っている証拠と言えるだろう。伊藤大生主将(スポ4=埼玉・南稜)、飯尾健太郎副将(教4=愛媛・今治西)、そして井踏直隆副将(文構4=東京・早大学院)の三人は、その中心となってチームを引っ張ってきた。インカレを目前に、何を思うのか――。その胸中に迫った。
※この取材は8月3日に行われたものです。
「世界の強豪は本当に強い」(伊藤大)
U23日本代表として世界選手権を戦った伊藤大。収穫は大きい
――最近はどのような練習をされていますか
井踏 一応インカレの仮クルーが決まって、どのクルーも練習を始めたところという感じです。
――伊藤大選手は先日U23日本代表として世界選手権に出場されていましたが、レースはいかがでしたか
伊藤大 全日本(級の大会)とはレベルが違うもので、世界の強豪は本当に強くて、ヨーロッパの強さであったり体格の違いでどういう違いがあるのかを学ぶ機会になりました。
――今後に生かせるポイントはありましたか
伊藤大 レースの展開だったりそういったところは海外の選手がすごく上手かったので、そこは学ばないといけないなと思いました。
――改めて今シーズンを振り返っていただきたいのですが、まずは早慶レガッタでの完全優勝についてはどうお考えですか
井踏 どうだった?
飯尾 まあ非常によかったかなと思います(笑)。チームでこうやってやりましょうと決めたことをチームでできたことはすごく良かったと思います。
――その後全日本軽量級選手権(軽量級)と東日本選手権がありました。結果についてどう見ていらっしゃいますか
伊藤大 軽量級に関しては体重制限があるので、体重制限を簡単にクリアできるメンバーだけが出る大会にしたのですが、その中でも今回はしっかり結果を残すクルーがあったのでそういうところで部としての全体的な力は上がっているのかなと思いました。その後東日本の話に移すと、今度は軽量級に出なかったメンバーで組んだ大会だったのですが、少し練習メニューと仕上がりの部分で少し上手くいかない部分があったのと、練習不足で思うような結果が出せなかったかなと思うところはあります。そこは今度の大会で生かすべき反省点なのかなと思います。
――東日本からインカレに向けてつなげていく大会にしたいという話もありましたが、短縮レースになってしまったところで物足りなさはありますか
伊藤大 やはり2000メートルに向けての練習がメインとなるので、1500になるだけでレース展開が全然変わってしまうので、そういったところでは他大と出遅れたかなと感じました。
――ご自身の代が最高学年になられて、主将、副将と役職に就かれてから意識していることはありますか
井踏 役職があるからというよりも4年生なので、まず自分たちがやることをきっちりやった上でないと、下に言っても説得力というか言葉の重さがないので、そこは気をつけるようにはしています。
飯尾 僕はいい雰囲気で部員が練習に取り組めるようにというのは役職就く前に比べたら意識するようになったかなと思います。下級生から上級生に対して声がかけにくいというのはぬぐい切れないものだとは思うので、こっちから話しかけられるような先輩になりたいと思っていましたけど…どうなのかは僕が判断することではないので(笑)。
井踏 あとは他の部員とかの考え方を僕自身がかみ砕いて他の主将、副将だったりとか監督に伝えるということもそうですし、監督の意図とかをきっちり部員目線で他の部員に伝えていくのも意識しているところですね。
伊藤大 周りに目を向けるようになったというか、全体を見るようになったというのは主将になる前と後では少し変わったのかなと思います。主将になる前は本当に自分のことばかり見ていたので、そこは変わったかなと思います(笑)。
――それは競技面でということですか、それとも生活的な面でということですか
伊藤大 どっちもですね。やっぱり男子は全員ここで生活しているので、色んな意見が入ってくるので、全体的に目を向けるようになったかなと思います。
「いい意味で落ち着いてきた」(井踏)
その実力と人格から、部員からの信頼が厚いという井踏
――幹部の3人から見た各学年のカラーを教えてください。まずは4年生に関しては
飯尾 4年生はみんなしっかりやろうというか、自分のポジションが明確な人間が多いので、そういうのを理解して過ごしてくれている人間が多いと僕は思います。
井踏 いい意味で落ち着いてきたかなという印象はあって、ラストシーズンを迎える中で自分たちがやるべきことそれぞれ認識してどっしり構えているような感じはしますね。
伊藤大 もう2人が言ったことで(笑)。
――3年生に関してはいかがですか
飯尾 …難しいですね、彼らは。
井踏 見ていて思うのは、喜怒哀楽が結構はっきりしているなというのはあるので、彼らが思っていることとかはすごく伝わってくるので、自分たちの意見としてこうというのは昔に比べては持ってきているのかなと思います。
――実力としてはいかがですか
井踏 ポテンシャルは持っているのかなと思います。
飯尾 体が大きいですね。
井踏 僕らの代より全然大きいので、まだ伸びるんだろうなとは思います。
――2年生に関しては
伊藤大 真面目な感じ?
飯尾 結構真面目な人が多いかもしれないですね。
井踏 コツコツやる人間が多いなという印象はあります。いい意味で同期でいがみ合っているというか。海靖(田中海靖、スポ2=愛媛・今治西)と利駆(鈴木利駆、スポ2=静岡・浜松西)だけかもしれないけど(笑)。互いに負けたくないという気持ちはすごく伝わってきて、切磋琢磨していて非常にいいなと思います。
――選手としてはいかがですか
伊藤大 力を持っている選手は今現在もいて、真面目な人間が多いので伸びるとは思います。
――1年生に関しては部になじんでいる感じはありますか
伊藤大 なじみ始めた感じですね。早い子でもう5カ月なのでもう慣れてきているとは思います。
――1年生はどんな人が多いですか
飯尾 坊ちゃん。
一同 (笑)。
飯尾 僕からしたらみんな坊ちゃんです。
井踏 内部生多いからね。
――4年間共に過ごされてきて、改めて他己紹介をお願いします。まず伊藤大選手から
飯尾 サイコパス(笑)。
伊藤大 すぐみんなそれ言う…。
井踏 健全なサイコパス。
伊藤大 どういうこと…(笑)。
井踏 いい意味で相変わらずのんびりしているなとは思いますね。
――井踏選手に関してはいかがですか
飯尾 井踏か…。(しばし考え込む)
伊藤大 なんでサイコパスってぱっと出たのに…(笑)。
一同 (笑)。
飯尾 まあ真面目ですよね。羽目を外さないです、彼は。1回も一線を超えたことがない。確実に踏みとどまるというか、まずその崖まで行かないですね。信頼はされているんじゃないですかねみんなに。
伊藤大 真面目で面倒見がすごくいい人なので、早慶戦のセカンド(第二エイト)も4年生1人でずっとまとめ上げてきていたのでそういう意味では本当に後輩からの信頼はすごく高い存在なのかなと思います。
飯尾 たぶん彼じゃないと無理ですね。
――飯尾選手に関してはいかがですか
飯尾 真面目?
伊藤大 うーん…?(笑)
一同 (笑)。
伊藤大 (真面目)になったなというのはあります。
飯尾 なんやそれ(笑)。
伊藤大 役職就いてから変わったところはあるかなと思いますね。
井踏 健太郎(飯尾)も周り気にするようになったよねって思う。
飯尾 どういうこと?
伊藤大 役職就いて。
井踏 後輩とかに話しかける回数が多くなったかなって。
飯尾 それはね、それは自分がしてもらったことだからね。
井踏 クルーが違うと、下級生とは部屋も違うので話すタイミングって話しかけないとそんなにないんですけど、例えば食事とか風呂とかで「調子どうなの」って話しかける姿はよく見るので、変わったなと思いますね。
――プライベートで4年生が集まることはありますか
井踏 最近ないね。
伊藤大 全体が集まるというのはないですね。元々人数も多いので…。
井踏 みんな就活もしていたので。本格的に就活が始まる前に1回飲み会をしたときは全員集まりましたね。
――そういうのは誰が幹事なんですか
井踏 健太郎だっけ?
飯尾 俺だっけ?言い出したのは怜生(金子、社4=東京・早大学院)じゃない?
井踏 そうだっけ。
飯尾 誰かが言い出すと大体みんな行きますね。
伊藤大 そういう学年ではあるよね。誰かがやろうって言ったらみんななんやかんや来てくれる。
「もう1回やりたいと思えるようなレースをしたい」(飯尾)
未経験入部から対校エイトまで上り詰めた飯尾
――ここからはインカレに向けての質問に移らせていただきます。今の各クルーの雰囲気はいかがですか
飯尾 エイトとかは昨日乗り始めたばかりで…。(伊藤大が)帰ってきたばかりなんで、それまでは色んなやつを間に乗せて練習していました。エイトに関しては早慶戦と同じ人になったので確実に春先からの貯金はあると思います。
井踏 自分の(舵手付き)フォアに関してはまだ先週までメンバーを色々変えたりしながらやっていたので、本格的に始まったのが僕らも今週です。やっぱりまだまだ合わせなくてはいけない部分はあるという感じです。
――他のクルーに関してはどういう印象がありますか
井踏 (舵手)付きペア楽しみだよね。
――どういった意味で楽しみなんですか
井踏 菅原(諒馬、商3=東京・早大学院)・瀧川(尚歩、法2=香川・高松)ペアなんですけど、結構前々から言われてたよね。今年付きペアなんじゃないかって。で実際にそうなって、見ててしっくりはきますね(笑)。
伊藤大 なるべくしてなった感はある。
飯尾 デカいしね、二人とも。
井踏 そこは雰囲気とかもいいんじゃないかなと思いますね。
――昨年はメダルなしに終わりましたが、今年はここが違うという点があれば教えてください
伊藤大 目標自体は去年と大きく変わったわけではないんですけど…。
井踏 思うのは、部全体での漕ぎに対してのイメージというか、そういったところでの共通認識は去年よりも取れてきているのかなと思います。
――監督にインタビューさせていただいて、昨年は実力があったけれどもまとめきれなかった部分があり、今年はその点ではボトムアップはできているというお話を伺いました。実際にどう感じていらっしゃいますか
伊藤大 昨年は海外で学んできたことを土台づくりしっかりできないままインカレになってしまったかなと思うんですけど、それに比べて今年は全員が土台づくりを十分にできてから練習ができているので、そういう面ではボトムアップができていてよくできていると思います。
――目標を踏まえてキーとなるクルーや部員がいれば教えてください
飯尾 結局全員なんじゃないですかね。
井踏 難しいよね。誰っていうのは…。
――クルーの中で挙げるとすれば
伊藤大 まだ2回しか漕いでいないのでエイトの中ではというのはまだ何とも言えないですね。
井踏 付きフォアだと…うーん…。
伊藤大 自分って言っとけ。
飯尾 ストローク(井踏)じゃない?
井踏 …まず自分が頑張らないとという思いはあるんですけど…(笑)。
伊藤大 (笑)。
井踏 キーマンじゃないけど、たぶんバウの土屋(夏彦、スポ3=山梨・吉田)がすごい形相で漕いでいると思うので、そこは注目してください(笑)。
――今年成長が著しいと感じる選手はいますか
井踏 セカンドで漕いでいた身としては、利駆(鈴木、スポ2=静岡・浜松西)とかは結構調子は上がっているのかなと思いますね。もともとセカンド乗った時点ではスイープ(種目)経験はほとんどなかったんですけど、そこからうまくなったかなと思います。褒めると調子乗るんであんまり言いたくないんですけど(笑)。あとは瀧川とか?
飯尾 たしかにね。
井踏 まだ成長途中な部分はあるんですけど、そういった意味でも期待値は大きいかなと思います。
飯尾 あとは菅原かなあ。
伊藤大 選考の時のタイムよかったよね。彼は早慶戦の時とインカレの時に選考にかけられてレースをしたんですけど、その早慶戦の時に比べてインカレの時の成績がだいぶよくなっているのかなと思います。
飯尾 パワーはありますね、彼は。
伊藤大 あとは舩越(湧太郎、社2=滋賀・膳所)ですかね。彼はすごく努力する人で、その成果がだんだん数字上でも出てきているかなというところが見られるので楽しみですね。
井踏 こないだも(エルゴの)ベスト出してたしね。
飯尾 ベストってそんなに簡単に出るものではないので。
――ご自身のクルーでこれから練習すべきだと思う点はどこですか
飯尾 全部です。
伊藤大 まだ全部だな。
飯尾 貯金はあるけども、全部ですね。今度は直線のレースなので。
井踏 まあ僕らも全部というところに集約されてしまうんですけど、特に今回はセカンドエイトに乗っていたメンバーとサードエイトで乗っていたメンバーで組んでいるので、そこの早慶戦に出たメンバーと出ていないメンバーの感覚のすり合わせはこれからもっともっと詰めていかなければいけないなと思います。
――最後のインカレになりますが、どういった大会にしたいですか
飯尾 結果はもちろん掲げている目標(優勝)を狙いますし、このクルーで漕げてよかったなと、もう1回やりたいと思えるようなレースをしたいですね。
井踏 僕も同じですかね。早慶戦とかを思い出しても勝ったクルーって補正があるにしても解散するのが惜しいなと思うクルーが勝ってきたクルーだと思うので、結果はもちろん、そういったクルーをつくっていけるようにしていきたいなと思います。
伊藤大 結果はとりあえず置いておいて、自分たちのクルーがこれ以上なかったというレースを最後にしたいと思っていて、4年生で次がないので、自分たちの力を出し切って悔いのない、「これでもう俺たちは終わったな」とちゃんと言えるようなレースをしていきたいなと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 石塚ひなの)
部を率いる頼もしい主将、副将の三人。最後のインカレでの勇姿から目が離せません
◆飯尾健太郎(いいお・けんたろう)(※写真左)
1995(平7)年4月28日生まれ。176センチ、70キロ。愛媛・今治西高出身。教育学部4年。ポジションはエイトの3番。高校時代は野球部に所属していたという飯尾選手。その漕ぎの器用さは監督も太鼓判を押すほど。最後のインカレは花形種目・エイトで有終の美を飾ります!
◆伊藤大生(いとう・だいき)(※写真中央)
1996(平8)年9月13日生まれ。180センチ、73キロ。埼玉・南稜高出身。スポーツ科学部4年。ポジションはエイトの5番。どんなときでも冷静であまりに穏やかな人柄から、同期からはサイコパスなんて声もちらほら…。インカレでは要となるエイトの中心に座り、静かな闘志でクルーを勝利へと導きます!
◆井踏直隆(いぶみ・なおたか)(※写真右)
1996(平8)年6月25日生まれ。171センチ、75キロ。東京・早大学院高出身。文化構想学部4年。ポジションは舵手付きフォアのストローク。早慶戦やインカレで後輩と同じクルーに乗ることの多い井踏選手は、その漕ぎのリズム感と人間性で後輩からの絶大な信頼と尊敬を集めています。最後のインカレも4人の後輩をまとめあげるその活躍ぶりに注目です!