【連載】早慶レガッタ直前特集『花信風』 最終回 内田大介監督

漕艇

 昨年の早慶レガッタでは、9年ぶりの完全優勝で歓喜に沸いた早大クルー。2014年の就任以来初の完全優勝を達成した内田大介監督(昭54教卒=長野・岡谷南)に、ことしの早大の勝算を伺った。

※この取材は3月1日に行われたものです。

「突出していないけど全体的にレベルは上がっている」

ことしで4年目を迎える内田監督

――新体制の雰囲気はいかがですか

現4年生(3月当時)が比較的ぐいぐいファイトを全面に出して部を引っ張っていくというタイプが男子も女子も多かったのですが、今度の新体制に関しては着実に一歩一歩踏み出していくという感じですかね。ディスカッションをベースにチームワークというか、個の力よりチームの力を重視しているという感じはします。

――今どのような練習をされていますか

もちろん早慶戦のトレーニング期間中ではあるんですが、狙っているところはやっぱり夏のトップシーズンを視野に入れていて、この早慶戦の期間中にベーシックなテクニックを高めることと、酸素摂取量、持久的な能力を高めることと、この二つが今大きな目標になっています。

――対校エイトのメンバーを選ぶにあたって重視された点はありますか

新4年生に関しては安定感と言いますか、安定的に実力を出せる人間をピックアップしました。新3年生以下については伸び率というか、この冬のオフシーズンで顕著に頭角を現してきている選手をピックアップしたという感じです。

――第二エイトについては

ここは非常にある意味激戦区で。飛び抜けてすごくパフォーマンスを出している選手もいないんだけど、かと言ってかなり改善しなきゃならないっていう選手もいなくて。技術的、体力的にはひしめき合っている状態です。まあ切磋琢磨(せっさたくま)していますね。そういう中での選考だったので、逆にセカンド(第二エイト)のほうが質が安定しているというか、均一なので強化はしやすいです。対校はさっきも言ったように4年と伸び盛りの下級生で組んでいるのでそこの少しギャップがあるかなと思いますね。

――女子エイトの選考はもうされましたか

女子はベーシックなクルーはきのう選考しました。まだ若干の変更はあるかもしれません。女子の場合は(ポイントは)非常に技術的に高いものを持っているので、フィジカルなところですかね。

――そのポイントは

女子の場合は非常に技術的に高いものを持っているので、フィジカルなところですかね。フィジカルな強さの人間をまず選んで、あと1年生に関してはオールを2本持つスカルから1本のスイープに変わり技術的な差異が今までとあるので、1年生に関してはそういうところを重視しました。

――昨年は完全優勝を遂げられました、勝因は何だとお考えですか

男子に関してはやっぱりボトムアップができてきているという感じだったと思います。現4年生は若干名は秀でた突出した力を持っていた者がいたんだけど、新4年生についてはあまりそういう人間はいないので。その代わり色んな手立てで部全体のレベルアップができていて、去年の早慶戦はそれが上手く当たったかなと。

――女子に関してはいかがですか

女子もそうですね、2015年の(全日本大学選手権で)完全制覇したときの選手に比べると高校時代に日本代表で世界に行ったという選手もほとんどいないんだけど、ワセダに入ってから伸び率がある選手が増えて、そういう意味では突出していないけど全体的にレベルは上がっているという。それが総合優勝の原動力かなと思います。

――昨年の全日本大学選手権(インカレ)の結果についてはどのように受け止めていらっしゃいますか

それも全く同じで、インカレの結果に関して言えば顕著にボトムアップが出ていると思います。それとともにトップダウンも出ていると。突出した選手がいないので他大に優勝を持っていかれるところもいくつかあって、だけど今までなかったと思うんですけど、男女ともにエントリーした種目のほとんどがB-Final(順位決定戦)以上なんですよ。これは今までになかったことなんですよね。だから優勝の数だけぱっと見て「優勝が全然ない、ワセダ何やってるんだ、競技力落ちてるんじゃないか」という一面的な評価ではなく、全体的に今右肩上がりにいっているので、ことし来年にはまた2015年(インカレ女子全種目優勝、男子エイト優勝)のチャンスが巡ってくるかなと思っています。

――昨年の「早稲田スポーツを学ぶ」の講義を拝聴いたしました。その際触れられていた艇「稲冠」について詳しくお聞かせいただけますか

2016年に沈没レースがあって、その時にいわゆる水密構造、ウォータープルーフのない艇だったということが主な敗因でした。それを改善するために、たまたまボートの更新時期でもあったのでオックスブリッジ(オックスフォード大とケンブリッジ大)で使っているボートをベースに新しい艇「稲冠」を発注しました。ただその艇は日本に一つもないスペシャルオーダーなので、写真や話を聞くだけでは実際どんなものができるのかわからなかったので直接ドイツのメーカーに行って確認をしてきたという感じです。まあ細かい部分はいろいろありますが今回の「稲冠」の最大の特徴としてはウォータープルーフが完璧であるということですね。

「大胆かつ繊細に」

――伊藤大生新主将(スポ4=埼玉・南稜)の印象はいかがですか

冷静沈着、カームな性格で。エモーショナルじゃないので、そういう意味で信頼を置けるというか、安心して任せておけるという印象です。

――米川志保新女子主将(スポ4=愛知・旭丘)については

1年生のときは優しい女子選手だったんだけど、ここ三年間で経験を積んで、人をまとめる力を身につけたことと、彼女自身が芯が強くなったというかぶれなくなったという印象です。1年生の頃は感情的というか弱気になったりしていたところがあったけど、自信がついてきた感じですね。

――先日タイムトライアルのアジア新記録も更新されましたね

そうですね。それもひとつの成長の成果だと思います。

――ことしの慶大の印象はいかがですか

うちとちょっと同じような傾向ですかね。決してすごく速そうな感じでもないけど、セカンド、対校共によくまとまっているなというか。(メンバー内で)同じ漕ぎ方でイメージが共有できているなという感じですね。

――レースにおけるキーマンを挙げるとすれば

対校エイトはストロークの田中(海靖、スポ2=愛媛・今治西)。理由として一つはフレッシュマンというか初の大舞台で、トレーニングしてきたことが落ち着いてできるかどうかという点です。彼のポジションというのが最も重要なポジションなので。そこを任せるので、いつも通りできるかというところです。女子も南(菜月、教3=新潟南)ですかね。南もストロークで、彼女も大きい舞台でのストロークは初めてなので。彼女の場合は自分自身がすごく力のある選手ではないんですけど、淡々とリズムを刻んでいくので。去年最初慶大に出られて後を追いかけるような展開になってしまったので、ことしは彼女のリズム感に期待はしています。セカンドは高山(格、スポ3=神奈川・横浜商)と堀内(一輝、スポ3=山梨・富士河口湖)ですね。No.5とNo.6です。井踏(直隆副将、文構4=東京・早大学院)がストロークなんですけど、彼は去年もストロークをやっていてきっとどのようなときでも冷静にやるべきことをやると思うんです。それを後ろへつないでいくのが5番6番なので、彼らがちゃんと練習通り漕いで後ろのポジションの人間に井踏のリズムを伝えていけるかというのがキーになります。

――失格や沈没など何が起こるかわからない隅田川ですが、選手に特に伝えていることはありますか

まだ川を意識した練習は今のところしていないんですよ。ただどんなコンディションでもどんなストロークレート(スピード)でも同じローイング、基礎基本通りの同じローイングというのを最大の目標にしています。これからレースペースに上げていくんですけど、そのときに、まあ隅田川がそうなんですけどラフコンディションでも基本通りのことができる、それを目標にしていきます。それが夏のベースになっていくと。あとコックスに関して言うと、今度はインコースになると同時にスタートが1艇身下がって出なくてはいけないので、両国でインコースになる際にカーブで慶大に被されてしまうとワセダが思いっきり舵を切らないといけなくなるので、舵を切るということは減速していかなくてはならないので、それがないようにスタートの時点で慶大に並びたいんです。そういう意味でコックスのラダーワーク(舵の取り方)が非常に大きなポイントだと思いますね。対校(のコックス)のジン(徐銘辰、政経3=カナダ・St.Andrew‘s highschool)は去年も良い舵、ラインを通っているので、ジンには期待しています。それから菱谷(泰志、スポ2=鳥取・米子東)がセカンドなんですけど、菱谷には慌てないように、ジンによく指導してもらいたいなと思っています。

――最後に改めて意気込みをお願いします

あまり硬くならずに、勝ちを意識せずに良いローイングを目指したいと思います。ただ、選手はそういう意味でカームな状態を作っておいて、レースの中では、とにかくことしはインコースですから勝ち切りに行くというか、並んだら絶対に出るという。それを僕は選手には「大胆かつ繊細に行きなさい」と言っています。『大胆かつ繊細に』。今までやってきたことをきちんと出すけれども、競争の場面では大胆に攻めていけと。そう伝えています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 石塚ひなの)

色紙には”Best Rowing”の文字とWの入ったオールのイラストを書いてくださいました

◆内田大介(うちだ・だいすけ)

1956年(昭31)6月19日生まれ。早稲田大学教育学部卒。競技経験のない記者にもわかりやすいよう、丁寧に答えてくださった姿が印象的でした。昨年とは大きく顔ぶれの変わったことしの早慶レガッタ3クルー、どのようなレースを披露してくれるのか、監督の采配に期待がかかります!