インカレ(全日本大学選手権)直前特集の最後に登場するのは、部員数70人近くにのぼるチームをまとめる内田大介監督(昭54年教卒=長野・岡谷南)。学生を教える『大人』。選手を率いる『監督』。さまざまな立場で選手と接する内田監督に、それぞれの立場から自身の思いを一つ一つ語ってもらう。
※この取材は8月1日に行われたものです。
「(早慶レガッタで)積み上げてきたものが間違いではなかったというところは感じました」
現在は漕艇部の監督業に専念する身だ
――最近はチームとしてどんなことを意識して練習していますか
インカレ(全日本大学選手権)のベースクルーができあがったので、徐々にストロークレートを上げながら、スピードを上げているというところですね。
――春には、男子部は例年より技術力が高い反面、パワーが不足している、女子部は例年よりレベルが高いとおっしゃっていました。その認識に変化はありますか
男子も、上位層は昨年を上回るくらいの状況にはなってきました。女子は安定的に層が厚いですね。
――春の早慶レガッタでは完全優勝を果たしました。そこでチームとして学んだことはありますか
チームとしては…積み上げてきたものが間違いではなかったというところは感じましたね。と同時に、女子は優勝したんですけど、あまりいい勝ち方ではありませんでしたし、男子も勝たせてはもらったけど紙一重で、どちらが勝ってもおかしくありませんでした。頑張ったといえばそれまでなんだけど、安定した力を習得したというレベルにはまだ行っていないかなと感じましたね。
――その後のチームの雰囲気はどう感じましたか
4年生がチームのボトムアップをしていこうという気概が比較的あるので、下級生がどんどん伸びているなと感じますね。女子は比較的層が厚い中で、特に1年生は実力を伸ばしているなと感じますね。男子は2年生を中心に伸び率がいいですね。全体的にまだボトムアップが進んでいます。
「相談が増えていますね」
――監督ご自身についてお伺いします。以前は艇庫とご実家を行き来する生活をしていると伺いましたが、現在もそれを続けられていますか
今はもう仕事を退職したので、監督業に専念できる環境にはありますね。ただ、自分が職を持って監督業を兼任していた時と比べると、漕艇部の業務にかけられる時間が多い分、処理することも多いですね。学生も多分頼りにするでしょうし、OBのかたもそうですし。仕事をもっていた時にはやれる範囲も限られてきましたし、できないことはできない。でも今はそういう(監督業に専念する)状況なので、仕事の幅の量も増えていますね。
――余裕が出たというわけではないですか
じゃないですね。逆にマネジメント関係と、学生のいろいろなストレスの相談が増えてはいますね。ボートを教えてボートを強くするというヘッドコーチ的な業務以外のところがふくらんでいますね。それでチームがうまく成り立っているのでいいんですけど、自分としてはそこの負担が増えましたね。
――ご自身と選手との距離感についてはどう感じていますか
そこが非常に難しいよね。そこが私も非常に気になっていて、あまり近すぎてもね。良く言えば状況把握が良くできるということがあるんだけど、学生の自主的な解決能力でどこまでを運営させるかということも考えると、やはり業務も増えてきますね。
近さという点では総合的にはいいと思うんだけど…何と言ったらいいかな。もう少し学生に自立して欲しいという部分は強く感じます。
――そういった思いから、距離感については気をつけている部分がありますか
あるんじゃないですかね。例えばSNSなんかも自分の携帯には入っているんだけど、極力自分からの発信は避けたり、距離感を置くために私の指示を伝えてもらう人間を決めてあったり。私が直にいろんな指示を出さないように、マネジャーだけじゃなく選手の中でそういった担当をつくって、その担当に考えたりして問題解決をさせるようにしていますね。すべて私が仕切るということのないようにはしていますね。
――監督が選手から個人的に相談されるというケースはそう多くないと思いますが、実際に相談を受けてみてどう感じますか
まず、私が大事にしているのは「ホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)」をしっかりしなさいというところです。多分その結果として相談が増えている。それは私の指示だから、それでいいんです。
相談が増えるということについては…以前の大学スポーツと違って、学生が抱えることというのはすごく重くなっていますからね、すごく。社会が大学に求めるものが変わっているから、同じく運動部もスポーツに秀でているだけではダメなわけです。そうなってくると、さまざまなストレスを抱えてくるわけです。そういう意味で相談が増える。
あともう一つがね、コミュニケーション能力。これは教員をやっていたという前職から感じたことかもしれないんですけどね。文字文化なわけですよ。だけど、実際に生きた言葉で相手の表情を見ながら一つの物事について問題解決していくということは、以前と比べると少し(能力が)落ちているかなと。それがやっぱりトラブルだとかうまくいかないことだとかも多くなって、相談につながっているのかなという感じですかね。
――総合的に考えると、相談が増えるのはあまり良いことではない、と感じていますか
いや、遠慮なく相談できる人間がいるということは、競技力を上げていくことになりますからね。企業チームだとかナショナルチームみたいに、専門のカウンセラーがいて、いつでもどこでも聴き取ってくれるという状況ではないわけだから、ある意味風通しが良くなるという感じはするね。もちろん秘密も守っていますし。学生が競技生活に集中していく上で良いことだと思います。
「一つでも多く表彰台に乗ってもらいたい」
――チームのことについて戻らせていただきます。まず女子部については、1年生が大きく伸びているとおっしゃっていましたが、実際に1年生の選手たちを見ていかがでしたか
大学の競技生活をスタートさせる時点としては、非常に高いパフォーマンスを持っているということは感じましたね。毎年そういう選手はいるんだけど、特に今年は人数が多いので、学年としてのパワーを非常に感じますね。
――クルーはどの程度までを決定していますか
クルーはね、上級生はもちろん1年生に比べてパフォーマンスが高いんだけど、ケガ人もちょっと多いので、8割方くらいですね。上級生の動向によっては1年生も投入していかなければいけない。そういった意味で8割くらい決定しています。
――ことしの女子部の具体的な目標は
総合優勝ですね。クルー編成もそれを念頭に置いた編成にしています。つまり、ベスト4をつくる(クォドルプルに乗せる)、突出したチームをつくるのではなく、まんべんなく勝てるクルーをつくるということをインカレでは意識していますね。
――総合優勝のカギとして考える部分はありますか
クォドルプルは、1年生が1人乗っています。1年生の誰が乗るかということについてはまだ確定はしていませんけど。残りの3人の4年生(木野田沙帆子女子主将(スポ4=青森)、木下美奈女子副将(スポ4=山梨・富士河口湖)、石上璃奈(スポ4=長野・下諏訪向陽)の三人)は、安定した実力で、かなり高い競技力をもっているので、クォドに関して言うと乗る1年生の状況でたいぶ変わるかなと。
ダブルスカルに関しては、3年生同士で組んでいるんですけど、米川(志保、スポ3=愛知・旭丘)も北村(綾香、スポ3=滋賀・膳所)も若干腰痛を抱えているので、どちらもそのケガが出ないように仕上げていかないと、というところですね。
それから舵手なしペアに関して言えば、やはり田口(えり花、商4=埼玉・浦和一女)かな。青木(華弥、教3=東京・本所)はかなり上達してきていて、安定しています。田口は過去に2年連続で優勝しているのですけど、結果の出来不出来の差が少し大きいので、田口がキーマンですかね。
シングルについては、1年生が行けるところまで行ってほしいなと。
全体のキーマンとしてはやっぱり主将の木野田ですね。こういう人間をまとめていけるリーダーシップを発揮してほしいところです。
――続いて男子部についてお伺いします。エイトでは早慶レガッタから大きくシートを変更しましたが、これはまだ確定段階にはありませんか
確定はしていないですね。もしかするとメンバー変更もないわけではないですね。下級生も伸びてきてボトムアップしているので。
――エイトのシート変更のねらいはどこにありますか
内田(達大主将、スポ4=山梨・吉田、今大会のストローク)が東(駿佑副将、政経4=東京・早大学院、早慶レガッタでストロークを務めた)よりも長い漕ぎができるので、2000メートルレースは隅田川と違って長い漕ぎでより加速的に漕ぎたいというねらいで内田をストロークにしています。他のポジションの変更も、それに伴って長い漕ぎが後ろに伝わるように考えてやっているんだけど、なかなかうまくはいかないですね。
――隅田川と戸田ボートコースのコンディションの差を意識することはありますか
ありますね。隅田川は去年の経験から、長い漕ぎでは比較的漕ぎにくい。逆にラフコンディションを想定して、ハイレートで手数を多くする中で、スピードを維持できる配列をねらいました。
インカレは静水のコースでレースをするので、あまりそういうラフコンディションは考えなくて良い分、長い漕ぎで、爆発的に速くパワフルなローイングをしたいというところです。それが狙いです。
――男子部全体の目標はどこに置いていますか
まず、種目優勝ということで、エイトはぜひ勝ちたいですね。それからボトムアップをしているので、他の種目もぜひ表彰台に乗せたいというところがありますね。それが来年以降にもつながっていければと思います。
――早慶レガッタで第二エイトに乗っていた3年生を小艇に多く配していますが、それについての意図はありますか
いや、特に意図があったわけではなく結果的にそうなったということですね。いろいろな選考要素をトータルすると、あのかたちになりました。特に、セカンドクルーをばらして乗せたというわけではないです。
本当はセカンドクルーから対校エイトに乗ってくる選手がいなければならない、切磋琢磨(せっさたくま)という意味でね。あと1カ月弱ですから、そういうこともあるかもしれないですね。
――それぞれの選手たちに期待するポイントは何になりますか
そうですね…。ことしはセカンド、サードという風にランキング的な意識はしていないので、さっき言ったように一つでも高いところ、表彰台に乗ってもらいたいですね。
それから、強いて言えばオッ盾(オックスフォード盾レガッタ、インカレと同時開催)のエイトにぜひ順位を上げてほしいなと思います。というのは、オッ盾のエイトのメンバーは必ず来年のセカンドクルーのエイトクルーに成長していってもらわなければいけないところなので、ぜひこの夏場で成長してほしいなと思います。当然インカレのメンバーもそうなんですけどね。
「学生の目標を一つでも多く実現させたいと思っています」
――他校に目を移すと、エイト種目を中心に戦力が拮抗(きっこう)しています。そこについてはどう感じていますか
うーん、そうだよね…。スポーツ推薦枠で高校のトップ選手を獲っている大学がかなり多い中で、エイトで勝つというのは、ある意味指導力を試される場なのかなとも思います。高校時代はいわゆるトップ選手ではなかった人間が、大学でトップになるということは、結構大きな財産になります、漕艇部にとっても。そういうチームになってほしいなと思いますね。
――「今年は例年よりも期待を持てる」という部分は何かありますか
まず、女子はおととしの完全優勝に近い結果になればいいと思います。去年の1種目以外はすべて優勝できたんだけども、今年もそういうチームになければいけないと思いますね。
男子は…やはり対校エイト(の結果)が大学の総合力になってくると思うので、対校エイトはぜひとりたいですね。それはチームとしての指標になりますから、総合優勝以上に。
――最後に、インカレへの目標を一言お願いします
学生の目標は、ぜひ実現できるように最大限のバックアップをしていきたいです。私自身も、学生の目標を一つでも多く実現させたいと思っています。
――ありがとうございました!
(取材・編集 喜田村廉人)
再びの歓喜へと、チームを導きます!
◆内田大介(うちだ・だいすけ)(※写真右)
1956年(昭31)6月19日生まれ。早稲田大学教育学部卒。地元での教職業を辞され、監督業に専念することとなった内田監督。しかし前職の名残か、競技以外の面で選手たちについて語る際には、『教育者』としての表情がのぞいていました!