大学の頂点を決める全日本学生選手権(インカレ)。2015年、ワセダは激戦を制しエイト種目で優勝を果たした。あれから2年。その快挙を目の当たりにした鈴木利駆(スポ1=静岡・浜松西)、田中海靖(スポ1=愛媛・今治西)の二人は、1年生ながらエンジを背負い憧れの大舞台に出場する。正反対の性格の将来有望な二人に、普段の生活からインカレの意気込みまで自由に語っていただいた。
※この取材は7月29日に行われたものです。
「僕もワセダで漕ぎたい」(田中)
1年生ながら驚異的な実力を見せている田中
――漕艇部での生活には慣れましたか
鈴木利 そうですね。学校にも寮生活にも慣れてきて、だんだんボートにしっかりと打ち込めるようになってきました。
田中 僕もだいぶ慣れてきて、先輩方とも最初は話しづらかったのですがコミュニケーションが取れるようになってきて、いい環境になってきたなと思います。
――寮生活が大変だと感じることはありますか
鈴木利 そうでもないです。1年生と2年生が同じ部屋に住んでいるのですが、部屋の先輩も仲良くしてくれて楽しく過ごしています。
――食事は自炊ですか
鈴木利 自炊です。よく二人で作りますね。
――ワセダの漕艇部について、入部前はどんな印象でしたか
鈴木利 2015年にインカレで優勝した時、僕の高校の先輩とかもいらしたので、その時は憧れている大学でした。
田中 僕も2015年のインカレでエイトが優勝したのがすごく印象的でした。そのエイトを見て「僕もワセダで漕ぎたい」と思ったので、今回インカレに出れることがすごく嬉しいです。
――実際に入部してみてどんな印象を受けましたか
田中 施設も素晴らしいのでいい環境で競技をできているなと思っています。『One WASEDA』という目標に向かってチームで一つになってやっていけるのはすごくいいなと。
鈴木利 海靖(田中)も言っていた通り、施設などの環境もすごく充実していますし、先輩方との関係も厳しいところはしっかりとしているのですが、厳しすぎずオンオフを切り替えられているのでとてもいいと思います。
――先輩との関係もうまくいっているとのことで、特に仲のいい先輩は
鈴木利 部屋の先輩ですね。一緒に買い物に行ったりとかゲームをしたりしています。
――逆にまだちょっと話し掛けづらいな、という方は
鈴木利 全体的に4年生の先輩方は、ラストイヤーということで気合も入っていますしちょっと気軽には話し掛けづらいというのはありますが、インカレを優勝した時に乗っていた先輩もいるのでなるべく話して技術などの話も伺えるように頑張っています。
田中 僕も一緒です。ほぼ一緒です(笑)。
――お二人とも同じ学部ですが、期末テストはいかがでしたか
鈴木利 それなりに…頑張りました。ちゃんと事前に対策していればなんとか乗り切れるものが多いので、二人とも多分大丈夫だと思います。
――ワセダという学校に入って驚いたことはありますか
鈴木利 スポ科(スポーツ科学部)なのでやはり他の競技で実績を残している人が多くて、そういう人たちからは学校生活でも刺激をもらえることが多いです。
田中 他の学校にないいろいろな施設があったり、そういう面ではスポーツに打ち込めるという環境を大学側からもつくっているんだなと思いました。
――お二人とも高校から競技を続けていらっしゃいますが、大学競技とのレベルの違いなどは感じられましたか
鈴木利 そうですね。心拍数を気にしながら漕いだりとかは高校の時は全く考えたことがなかったので、練習メニューの細かさとかからレベルの違いを感じています。
田中 僕は高校時代にウエイトトレーニングなどのパワー系のトレーニングは一切していなくて、大学になると体ができている時期で他の大学などもパワーで圧倒してくるので、そのあたりに違いを感じて僕もウエイトトレーニングをしっかりやっていきたいなと。
――高校のチームメートで競技を続けている方はいますか
鈴木利 こっちの方だと、筑波大で一人同期が続けています。
田中 僕の同期だと、明大や青学などです。関西の方にも何人か続けている人はいます。
――この競技を始めたきっかけは
鈴木利 僕はずっと野球をやっていたのですが、高校野球は甲子園とかに行かないとなかなか結果が残せないと思って。結果が欲しくてボートを始めました。
田中 僕も同じく野球をやっていたのですが、新しいことに挑戦したいと思って始めました。ボート部に入ったきっかけは、ワセダの竹内友哉さん(平29スポ卒=愛媛・今治西)に「今治西のボート部に入ったら全国も狙えるぞ」と誘われたので「どうせやるなら全国でやってみたい」と思ったことです。
――お二人とも野球経験者ということで、野球の話などされるのですか
鈴木利 あんまりしないです。「今度キャッチボールしたいね」ぐらいかな(笑)。
――4月に行われた早慶レガッタをご覧になっていかがでしたか
鈴木利 大学に入るまであまり早慶レガッタというものを意識していなかったのですが、実際見てみると観客もたくさんいて「あんなに注目されている中で漕げるというのは憧れだな」と思いました。
田中 最後の対校エイトがゴールする所で見ていたのですが、歓声とかもすごくて僕自身も鳥肌が立ちました。それと同時に「来年以降この舞台で漕ぎたい」という思いがより強くなりましたし、それだけ価値のある大会なんだと改めて実感しました。
――前期を全体的に振り返ってみて、どんな期間でしたか
鈴木利 とりあえず『慣れる』ということで。気づいたら終わってましたね。朝もかなり早い時間に練習があったりして、それに慣れるのも結構大変でした。
田中 僕は高校であまり長い距離を漕いだことがなかったので、ここに入ってからだいたい2倍、3倍の距離を漕ぐようになったのでケガをしないようにと思っていたのですが、ちょっとケガをしてしまって。今はもう治ったので、先輩方と長い距離を漕いでいけるように体づくりをしっかりとしていきたいと思います。そういう意味でこの期間は体をつくることを重視したいなと。
――鈴木選手は春にいくつか大会に出場されていましたが、そこから学んだことは
鈴木利 大学に入ってレースをしてみて感じたことは、やはりまだ自分の体が出来上がっていないということです。それから自主的に体幹トレーニングを取り入れてみたりとかしていました。
――もうそろそろことしの1年生全体の雰囲気が分かってくる時期でしょうか
鈴木利 うーん…(笑)。難しい。
田中 個性はありますね。
鈴木利 面白い人とかもあんまりいないんじゃないかな。確かに仲良くはなっているのですが…。
――遊びに行かれたり、学年会などされたりは
鈴木利 学年会、最近はやってないんですけど最初の方は何回かやって親睦を深めました。
――お二人が初めて会ったのは大学でしょうか
鈴木利 僕は(田中のことを)高校の時から知っていて。
田中 話したことはなかった。
鈴木利 うん、話したことはなかった。でも一回U19の代表合宿の時に彼はトップの成績を残していて、「すごい奴なんだろうなあ」って。
――では、今の田中選手はどんな印象ですか
鈴木利 上にいる人だったのでイメージ的にガツガツして勢いのある人なのかなと思っていたら、おとなしくてちょっと軽くコミュ障なのかなと(笑)。「こんなんだったんだ!」ってちょっと衝撃的でした。
――と、鈴木選手に言われていますが
田中 そうですね。自分自身でもちょっとコミュ障なのかなと(笑)。そういう面では鈴木とは正反対の性格なので、まあ…。
鈴木利 また人見知り発揮しちゃって(笑)。
田中 とにかく、鈴木は「いっぱいしゃべる人だな」と。
鈴木利 いっぱいしゃべる人って(笑)!
――お二人でどんな話をするのですか
鈴木利 学校の話とか。同じスポ科なので、結構同じ授業取ったり、ご飯食べたりとかしています。…性格反対な割にはよく遊びに行くよね。
――よく遊びに行かれるのですか
鈴木利 服とか買いに行きます。彼が興味ないので。
田中 僕はついていくだけです。
鈴木利 僕が連れ回す感じです(笑)。池袋が近いので一番行きますね。
――田中選手は鈴木選手に服を選んでもらったりするのですか
鈴木利 こないだ一緒の服買ったじゃん。色違いのやつ買ったじゃん。
田中 (笑)。
鈴木利 私服がほとんどないって言うので。スポ科は基本みんなジャージとかでいても浮かないので仕方ないんですけど。
――お二人とも関東出身ではないので、大学に入るまで東京に行かれることはあまりなかったのではないですか
鈴木利 そうですね、あまりなかったです。小学校の修学旅行とかぐらいですかね(笑)。それ以来なかったかもしれないです。
田中 僕は高校時代、東京の大会に何回か来たことがあったのでそれなりに知ってはいました。
――東京の生活で大変なことはありますか
鈴木利 通学が…。ここ(寮)からだと遠いので、スポ科の校舎まで1時間半ぐらい掛かったりして、いつも電車もすごく混んでいるので大変です。
田中 僕も電車ですね。一回、息が出来なくなるぐらい押し潰されて、…嫌でした(笑)。
――観光などには行かれましたか
田中 鈴木が行きたがるので、連れて行かれます。
鈴木利 僕はもう東京のいろんな所に行きたいので、彼を引っ張って行きます。一人だと寂しいので(笑)。
――どこが一番楽しかったですか
鈴木利 どこですかね…。どこだろ。
田中 上野。
鈴木利 上野か(笑)! 代官山も一緒に行きたかったのに結局俺が一人で行ったもんな。
――オフの日はいつも今のお話のように出掛けたりするのですか
鈴木利 そうですね、僕は一回ボートから離れてリフレッシュしたいので。
田中 僕も最近はオフのときはボートから離れたいという欲が…。
鈴木利 真面目さが出ない(笑)。
「軽々しく出られる舞台だとは思っていない」(鈴木利)
計画的な練習が身を結び、1年生ながらインカレ出場を果たした鈴木利
――入部してから自分が成長したと思う点はありますか
田中 したっけ。
鈴木利 したよ!ちゃんと(笑)。僕はやはり、さっきも言ったんですけど体づくりをしようと思って意識的に体幹トレーニングを増やしたので、体が強くなったなと。技術面でも、高校時代は専門的なコーチがいなかったのでしっかり見てもらえなかったのですが、今はマネジャーさんがビデオとかも撮ってくれて、ビデオチェックをしていると他の先輩方もいろいろ言ってくれたり。高校時代は誰からも教わることがなく自分で考えてやっていたので。
田中 今はケガをしないための改善とか。僕も体幹が弱くて、ずっと体幹トレーニングをやり続けていたのでそういう面です。
――漕ぐ距離も高校とは倍の距離になりますよね
鈴木利 大学は2000メートルで、技術で勝っていても体の強さで負けることがあるので。体力がしっかり持たないと、というのはありますね。
田中 1000メートルと2000メートルでは全く違うので。2000メートルだと、最後の500メートルで(スピードを)上げようと思っても全然上がらないです。精神面も体力面も鍛えていかなければいけないです。
――今のお話も踏まえて、夏の練習の課題は
田中 僕はとりあえず「もうケガはしない」ということです。2000メートルの試合ばかりなのでしっかり対応できる体の強さをつくってから、技術面にいけるようにしたいと思います。
鈴木利 彼と大体同じで、2000メートルを漕ぎ切る体の強さ や体幹をつくりながら、技術面もしっかりと強化をしていきたいです。
――お二人の漕ぎのスタイルの違いは
田中 僕は手足が長い方なので、肩とかも…。
鈴木利 めっちゃいかり肩(笑)。僕はなで肩です。
田中 そういう体の違いとかでも漕ぎの違いが出てきます。
鈴木利 僕は持久力に自信がある方なのでレートを高めにして、一本が弱くなっても(漕ぎの)本数で稼ぐという感じです。あまりいいことではないので直していかなければいけないところなのですが、持久力に頼った漕ぎ方をするタイプです。
――インカレでの目標は
鈴木利 1年生なので、チャレンジャーとして。
田中 他のクルーに向かっていくだけですね。
――他大で意識するのはやはり日大などでしょうか
鈴木利 最近は日大だけじゃなくて去年とか見ていても明大、中央大とかもかなりきているので、周りが強くても自分がまず流されずにいることが大事かなと思います。
――インカレに対するイメージは
鈴木利 僕はインカレに1年生から出られるとは思っていなかったので、シートレースで運良く勝てたということで出してもらえて。軽々しく出られる舞台だとは思ってないです。
田中 高校の時のインターハイとは違って、こんな大きな大会にいきなり1年生で出られるとは思っていなかったので、出られるという実感があまり湧いていないです。
――出場すると知った時はどう思われましたか
鈴木利 まさかシートレースに勝てるとは思っていなかったので驚きでした。でも出られるからには低いレベルでは恥をかくだけなので、気持ちをしっかり切り替えて頑張ろうと思いました。
田中 日大とか、他の強い大学とかもたくさんいるので、そことレースができるという嬉しさはありました。
――大学に入ってから最も大きな大会に出場されますが、緊張はされますか
鈴木利 僕は結構レース前に緊張します。でも表に出さずにヘラヘラしているのですが(笑)、実は内心はバクバクしてるってタイプです。しゃべりが止まらなくなります(笑)。
田中 僕も結構する方ですが、スタートしたらもうそんなことはもうどうでもよくなっているので。スタートする前にどれだけ力が入らず、緊張せずにいけるかは考えていきたいです。
――1年生として出場するインカレを、今後の競技人生にどう生かしていきたいですか
鈴木利 1年生で大きな舞台を経験できるということなので、この経験をしっかり次の大会に生かしたいと思っています。
田中 大きな舞台で漕いで経験を積んで、その後の全日本(全日本選手権)やらいねんの早慶戦につなげていければいいなと思います。
――これからの4年間、どんな選手になっていきたいですか
鈴木利 僕はやはり2015年のインカレのエイトの優勝を見たので、まずは(早慶レガッタで)対校エイトに乗って、そしてインカレでは優勝したいというのが一番です。
田中 この間見た早慶戦の印象がすごく強くて、4年生で対校エイトに乗ってケイオーに勝利したいというのが一番の目標です。
――ありがとうございました!
(取材・編集 三浦遥)
真剣な表情の1枚を頂きました!
◆田中海靖(たなか・かいせい)(※写真左)
1998(平10)年10月27日生まれ。178センチ。71キロ。愛媛・今治西高出身。スポーツ科学部1年。ポジションは舵手なしペアのバウ。入学した時は私服をあまり持っていなかったそうで、鈴木利選手とよく買い物に行かれるとのことです。シャイで控えめな雰囲気の方でしたが、競技の話になると真剣な表情で語ってくださったのが印象的でした。
◆鈴木利駆(すずき・りく)(※写真右)
1998(平10)年7月30日生まれ。178センチ。71キロ。静岡・浜松西高出身。スポーツ科学部1年。シングルスカルで出場。実は本を読むことが好きだという鈴木選手。この間は代官山の蔦屋書店でオシャレな雰囲気を味わってきたとか。どんな質問にも明るくフレッシュに答えてくださいました!