【連載】早慶レガッタ直前特集『起死回生』 【第7回】4:内田達大主将

漕艇

 悪天候による沈没から約1年。主将として、ことしの漕艇部を支えることになったのは、内田達大(スポ4=山梨・吉田)。内田自身3回目の隅田川であるが、まだ一度も勝利を経験していない。ことしは主将として、さらに勝ちたい気持ちが強いはずだ。伝統の一戦を前に、どのような思いを抱えているのか。今の心境を伺った。

※この取材は3月2日に行われたものです。

「やっぱり勝ちたい」

なみなみならぬ決意で自身3度目の早慶レガッタに臨む

――主将就任から半年が経ちました。この半年を振り返って

 自分の考えを部員に伝えるのに少々苦労した半年でした。

――今までにも主将の経験はあったのですか

 中学校の時にやったことはありました。でも中学生の時なので。やはり中学時代とはまた大きく違う難しさがあります。

――新体制になった部の雰囲気はいかがですか

 競技に対して部員みんなが真摯(しんし)に向き合っているので、みんなで勝ちたい、勝とうという気持ちが芽生えてきているかなと思います。

――主将就任にあたって是澤祐輔前主将(平29スポ卒=現明治安田生命)からかけられた言葉などはありますか

 「大変だと思うけど、この仕事をやりきった時にまたよりいっそう競技に対する気持ちが深くなるよ」と言われました。

――目指す主将像はありますか

 やっぱり勝ちたいので。勝利追求がこの部の本質だと思うので、勝利に向けて自分の決めたことはやりきる、貫き通す、自分の言ったことを曲げない、そんな主将にはなりたいなと思いますね。それが自分の決めた目標をやり通すことにも繋がると思うので。

――声を出してひっぱるタイプか、背中で示すタイプか、自身はどちらのタイプだと思いますか

 僕は両方ですね。この半年やってて気づいたんですけど、何も言わなくても着いて来てくれる部員と、言葉で本質を理解しないと着いて来てくれない部員と2種類いて。背中で見せて着いて来てくれる部員と、言葉で引っ張らなければならない部員と、自分が両方やれば、着いて来てくれるかな、と。

――主将に就任して何か変わったことはありますか

 部のことがよりわかるようになりましたね。

――主将の仕事は大変ですか

 そうですね。物事を決める時は僕だけでなく主務だったり、学生幹部のサポートしてくれるメンバー皆で決めないといけないので、そこで考えをまとめたりもしなくてはならなかったりするので。

――主将として監督との接し方に変化はありましたか

 僕は父が監督なので、少し難しい関係なので。でもそこはあまり変わらないですね。今まで通りこの部活の寮にいる限りは監督と部員という立場を守って。監督の方針を部員たちにちゃんと伝えて、監督と部員をつなげるという役割になっただけですね。

――戦略は監督が考えられるのですか

 方針を監督が決めて、戦略はクルーで話し合ってから監督に助言を頂いたりして、一緒に決めていくという感じですね。

――普段の生活もともにする漕艇部ですが、そこも含めてまとめる難しさはありますか

 やっぱり色んな人間がいるので、良くコミュニケーションをとって話していくことは重要ですね。そうしないと隙ができてしまうと思うので。

――まとめるにあたって気をつけていることはありますか

 さっき言ったように部員には2種類いるので、ちゃんと言葉で伝えて、背中でも見せることを意識しているというか。言ってしまえば、自分が先駆者でリードしてく立場なので、リードしつつも、ちゃんと後ろを振り返って部員が着いて来てくれているかどうか、確認することも大切だと思います。皆のベクトルが勝ちたいという方向に向くようにも意識しています。

――今季のチーム全体の目標は

 早慶戦完全優勝が一つと、インカレでは男子では対校エイト優勝と2種目以上表彰台、全日本では対校エイトが表彰台、2種目以上で入賞といった感じです。

――今季のチームの特徴は

 去年に比べると新4年は騒がしい人が多いですね。下級生も賑やかで、全体的に元気なチームですね。

――主将から見て同期の皆さんの様子はいかがですか

 自分のできないところは誰かができるというか、補完し合える関係で、凄く良いです。もう3年も4年も一緒にいるので、兄弟というか家族みたいな感じですね。

――後輩の皆さんを見ていてどう思いますか

 楽しいですね。新2年生も新3年生も後輩の面倒を良く見てくれるようになったので。かつ僕らを支えてくれるという意識もあると思います。技術面でも精神面でも、成長していますね。

――後輩の皆さんとの仲は良いのですか

 最近は特に仲良くなって、良い関係を築けていると思います。

――部の皆さんでオフの日に遊んだりすることはあるのですか

 部のイベントがある時はそうですね。年末にはクリスマスパーティーをしようと計画していました。感染症が流行ってしまって、その時はできなかったんですけど、この間代わりのものをやりましたが、凄く盛り上がりました。新人が入ってくる時には新歓をまとまってやったりだとか、季節ごとに色々やります。

チャレンジャーとして、泥くさく

昨年も、一年間対校エイトのメンバーとしてチームを支えた

――去年は悪天候による沈没で、記録なしという結果に終わりました。去年の早慶レガッタを振り返って

 何というか、まぁ負けてしまったことは事実であって。実力に関しても夏思うような結果にならなかったので、悪天候によるハプニングがあったのもそれも実力のうちだったのかなと思いますね。弱さが出てしまったのかな、と。

――船が沈んでしまった当時の気持ちは

 僕はバウという進行方向から見たら一番前のポジションだったんですけど、いや、まだ漕げるだろうと思って、オール握って漕いだんですけど、全然動かなくて。本当に諦めたくなくて、止まってはいけないという感じでした。本当に、諦めきれなくて。

――ことしのレガッタに向けてはどのような練習をしていますか

 今は長い距離を漕いで、テクニック中心に確認しているというところですね。

――レガッタに向けて、どのようなクルーを目指していますか

 早慶戦というのは本当に夏につながる大会でもあるので、日本一を目指すクルーとして、泥くささを求めていくというか。僕らはチャンピオンではないし、あくまでチャレンジャーなので、泥くさく、やれることを全てやって、ケイオーであったり、他の強豪大に向かって突き進むしかないですね。

――対校エイトのメンバー編成について、主将としてどう思いますか

 選考を勝ち抜いてきた人間も、乗るだろうと思っていた人間もいて。前回とは違って新4年生も多く乗っていて、ずっと一緒に頑張ってきたメンバーもいるので、支えになるというか。ラストシーズン、最後の早慶戦勝ちたいという気持ちが特に強いと思います。

――過去2回レガッタには出場していますが、この2回の経験をどのように生かしたいですか

 おととしは反則で負けてしまったんですけど、先輩たちが隅田川を駆け抜ける方法というか、隅田川で勝つためのクルーメイクの仕方を教えてくれたので、そこを受け継いでいけたらいいかなと思います。去年はそうですね、早慶戦の時というよりか、早慶戦後の先輩の姿が心に残っていて。どん底の淵に立たされていたというか。僕ら自身も先輩たちを勝たせてあげられなかった悔しさもあったんですけど。ただ、そこで先輩たちは腐ることなく立ち直って、夏以降に向けて努力を積み重ねていたので、その姿から学んだことを生かしていきたいなと思いますね。ことしはこの2年分の思いも背負って臨もうかなと思います。

――今のクルーに足りないものがあるとしたら、何が足りないと思いますか

 まだまだ精神的な面もそうですし、自分がやってやるぞという気持ちがもっと必要だと思いますし、技術的な面に関してもまだまだ課題が多く残されているので、足りてないところ、まぁ全部ですね(笑)。

――隅田川の状態はいかがですか

 隅田川は波の種類が全然違っていて、風などで起こる波とはまた別で、モーターボートの波なので。波というか、うねりという感じですね。コンディションに左右されてしまうスポーツなので、その点に関してはやりにくさも感じますね。

――多くの観衆に見守られてのレースですが、緊張はありますか

 そこはあまり考えてなかったですね(笑)。観衆見られているというより、ただ純粋にレースに勝てるかどうかを考えているので、観衆が多いことに関しての緊張はあまりないですね。

――内田選手はレガッタでの勝利を経験していませんが、そのことも含めてレガッタに対する特別な思いはありますか

 去年おととしと先輩たちの姿を見ていて、本当に早慶戦は悔しいというか。去年は特に思いがそのまま隅田川に沈んでしまったという感じなので。もう一回どん底の淵から、日の光を浴びてみたいですね。

――相手のケイオーの印象は

 練習を見ていても速いなと思いますね。絶対に油断できませんし、死ぬ気でやらないと勝利の2文字はかすれていくと思います。

――このレガッタを主将としてどのように引っ張っていきたいですか

 積み上げるものは科学的に、やるべきことは理論的に、正しいことを積み上げて、精神的には本当にもう根性論でいくしかないと思うので。正しいことを死ぬ気で積み上げて、あと1か月、ケイオーも死ぬ気でやってくると思いますし、僕らはそのさらに上をいかないと勝てないので。まだレベルの底上げが必要だと思っているので、本当に死ぬ気で引っ張っていこうと思います。

――ご自身の調子はいかがですか

 今は追い込みの期間でもあるので、結構疲労はたまっています。ただその分良い練習ができているので、もっともっと追い込みたいと思います。調子自体はまだ6割も行ってないかな、5割ぐらいなので。

――他の選手の調子はいかがですか

 皆も同じで結構疲労がたまってきていて、疲労がたまっているときに、本来の漕ぎが出ると思うので、そのなかでさらに精度を高めていければいいなと思っています。

――普段よりも圧倒的に距離が長いですが、当日のレースプランはありますか

 まだレースプランまではいってなくて、まずは技術をという感じですね。きょうちょうどそのことに関しての戦略会議があるので、話し合って、あと1か月かけて詰めていくという感じですね。

――3750メートルの長いレースですが、どこがポイントになると思いますか

 3750のどこも外してはいけないので。一つもミスは犯せません。最初から最後までポイントというか。1メートルもミスしてはいけないので。全部ポイントです(笑)。

――最後にレガッタへの意気込みをお願いします

 2年分のリベンジもありますし。苦楽をともにした同期もクルーの一員で、色んな思いがあります。他の同期への思いや勝たせてあげられなかった先輩たちの思いも背負って、挑んでいきたいです。全てを捨てて、本当に勝つために、早慶戦に臨みたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 當間優希)

◆内田達大(うちだ・たつひろ)

1996(平8)年1月7日生まれ。173センチ。山梨・吉田高出身。スポーツ科学部4年。季節ごとにイベントを行うという話をして下さった内田選手。どのような盛り上がりを見せるのでしょうか。漕艇部の仲の良さが伺えるエピソードですね!