【連載】早慶レガッタ直前特集『起死回生』 第2回 7:有田雄太郎

漕艇

 ことしの第二エイトで唯一の最上級生、有田雄太郎(法4=早大学院)。昨年の早慶レガッタは、セカンドは再レースの末勝利をつかんだ。有田はことしもセカンドの一員として、しかし去年とは確実に違う覚悟で最後の早慶レガッタに臨む。そんな有田の今までの道のりと、そして来る決戦についてじっくり語っていただいた。

※この取材は3月12日に行われたものです。

セカンド(第二エイト)唯一の4年生

唯一の4年生として、インタビューに応じてくれた有田

――きょうの練習はどんなことをされましたか

 きょうはエイトの練習ではなく、小艇に分かれて練習していました。自分はフォアに乗っていたのですが、普段エイトに乗っていると繊細な感覚というのがなくなっていくので、そういうものを取り戻すというラウンドでした。比較的いい感じに仕上がりつつも、まだまだ課題点は見つかったので、今後それを生かしてやっていければいいなと思います。

――有田選手自身の調子はいかがでしょうか

 11月、12月、1月とメンタル的にもパフォーマンス的にもなかなかうまくいかない時期が続きました。ただ2月に入ってから同期や同じクルーの支えがあったりして徐々にパフォーマンスも伸びてきて、今はいい感じに、右肩上がりといった感じです。

――では、今のチームの雰囲気を教えてください

 セカンドとしては非常に勢いがある感じです。自分がみんなに目指してほしいのが、『誰しもリーダーになれるクルー」で。下級生が多くて4年生が自分1人だけなのですが、ワンマン体制には絶対にしたくなくて。誰しもがどんな状況でもリーダーシップを発揮できる、誰しもがフォロワーシップを発揮できる、臨機応変に対応できるということがしたいです。全員に当事者意識を持ってもらいたい、というのが上手くはまって、勢いに乗っています。全員が意見をもってやっていこうという意思を感じますし、対校(エイト)にはない「セカンドらしさ」が出ているとは思いますね。

――有田選手はセカンドの唯一の4年生ということで、下級生に対するフォローなど大変な部分があると思います。その点はいかがでしょうか

 逆に自分がフォローしてもらっているというのはすごく感じていますね。自分はいま就活などやらなければいけないことがたくさんある中で、2年生の井踏(直隆、文構3=東京・早大学院)、金子(怜生、社3=東京・早大学院)、尾崎(光、スポ3=愛媛・今治西)を始め、彼らが下をまとめてくれたり、自分に「こうしたほうがいいんじゃないか」と言ってくれたり、陸上でも非常にフォローしてもらっています。自分のやりたいことに向かってみんなが支えてくれているといった感じですね。

――では、後輩の皆さんはやはり頼もしいですか

 はい、頼もしいですね。最初は少し萎縮とかはありましたが、今は全然なくて。それぞれが自分の意見をもって全員が「早慶戦で勝つ」という目標に向かって役割を果たしてくれていると思います。

――では、練習以外のオフの日の過ごし方は

 オフの日は、最近就活などでお酒が飲めない日が続いています(笑)。そういう日は家に帰りますね、飼っている柴犬がかわいくて。きょうその柴犬の誕生日なんですけど、きょうも(家に)帰りたいなと思っていますね。あとは部活の人や学校の人と飲みに行って、コミュニケーションを取ってリフレッシュすることが多いです。

――遊びに行く相手は、チームメイトにとどまらないのですね

 そうですね、部活の人とは普段沢山会っているので(笑)。たまには違う人だったり、家に帰ったりします。

――では、チーム内で仲の良い選手は

 やはり同期は友達というよりかは仲間、だと思います。仲がいいという表現が合うかはわからないのですが、最近一番助けられたのが副将の東(駿佑、政経4=東京・早大学院)ですね。高校からずっと一緒にやってきているのですが、自分の調子があまり良くないときに、東が自分に対して思っていることを素直に指摘してくれたりフォローしてくれたりして。そういう絆という面では東が一番かなと思います。あと、また早大学院で一緒だった得居(亮太、法4=早大学院)。部活も学部も一緒なので、いろいろと話すことは多いですね。

――有田選手にとって同期は仲間、戦友という意味合いが強いのですね

 あまり同期のことを『同期』というくくりで考えたことがなかったので。そこにいるのが後輩であったり先輩であったりしても、「きょう飲みに行く?」と自然になりますね。先輩が(遊びに)誘わなきゃいけないみたいなルールがないのが漕艇部のいいところで。なのであんまり『同期』と分けて考えてこなかったです。でもその同期が4年生になって、それぞれがいろいろなことを考え始めていて、それぞれがこの部活で果たす役割を考えていて、いろいろ葛藤はしたのですが、全員で「もう一回大人になりすぎずやっていきたいね」という話を2週間くらい前にしました。今は「勝ちたい」と思う仲間なのかなと思います。

――では、昨シーズンを振り返ってみていかがだったでしょうか

 昨シーズンは、菅原さん(拓磨、平29国教卒=東京・早大学院)という小・中・高と一緒で、自分がボートを始めるきっかけになった先輩がいたんですが、その先輩がラストイヤーということで。早慶戦からずっと一緒にやっていったのですが、「先輩を絶対に勝たせたい」という気持ちがあって、自分もそれに向けて成長しなくてはいけないという思いでやっていました。最後は勝ち切れなかったところがあって悔しい思いもしたのですが、自分は全部やり切ったのかなという気持ちはあります。ただ、昨年そうやってきたものをいまそうやって出し切れていたり、パフォーマンスを引き継げているかと言うとそうではないので、やはり「誰かのため」ではなく自分のために悔いの残らないようなにかやっていかなければいけないと思います。昨年はそういう軸でやっていました。

――では、ことしの有田選手は「自分のために」漕がれていくのでしょうか

 「自分のために」と「誰かのために」というのは表裏一体だと思っていて。昔から誰かのためにやることが自分のためになっているという価値観を持つ人が集まる環境の中でやってきて、そうやってきました。結果的には自分のためになるのかもしれませんが、今シーズンは「仲間のために」漕いでいって、自分のものにしようかなと思っています。

――その後のオフシーズンはどのような練習をされてきましたか

 オフシーズンに入ってからは…あまり覚えてないな(笑)。(シーズンが)終わってから自分の調子があまり上がってこなくて、身が入らない中でクロアチア遠征があって。クロアチア遠征で仲間がしっかりとやっている中で、自分が100%でできていたとは言い切れなかったですね。そういう海外遠征や基礎的なトレーニングをやっていたと思いますね、あまり覚えていないですが(笑)。

――ではオフシーズンを経て変わったところは

 オフシーズンはウエイト練習をたくさんやるのでやはり体重も付きますし、筋量も増えるのですが、自分は腰を若干痛めてしまって。調子よく伸びていたものが途中から伸び悩んだことはありました。でも全体的に見て筋力は強化されてきていると思います。

――では、チーム内でのご自身の役割というのは

 いままで自分は先輩がやってきた中で、言いたい放題させてきてもらったと思うんです。思ったことをバッというみたいな。ですが今は4年生が自分1人で他は全員年下なので、そうやってきたことを今やってしまうと下が委縮してしまう、それは良くないと思いました。自分が何かを言うというよりは、今の状況をポジティブに捉えて周りに意見を聞くというポジションにつこうと思いました。周りの意見を引き出したり、周りのモチベーションを上げたりしよう、どちらかと言うと支える立場を目指してやってきたいと思ってきました。昔はガンガン(自分の意見を)言っていましたが、今はそれぞれの立場があるのでしっかりフォローする役割を意識してやっています。

――セカンドの中で自分の意見を言ってくれる後輩は例えば誰がいらっしゃいますか

 結構みんな言ってくれるんですが、その中でも6番の金子、ストロークの井踏は特に言ってくれます。早大学院出身でずっと一緒に漕いでいるというのもあるのですが、彼らはちゃんと考えていて、勝つために何をやればいいのかを主体的に考えていると思います。その分努力もしっかりしているので、その二人は特に頼りにしているかなと。あと後ろの方、バウの尾崎。(セカンドは)3年生がちゃんと引っ張ってくれているのですが、尾崎は後ろから冷静に、クルーが沈んでいる時にやる気の出るような言葉を意識してかけてくれます。すごくバランスのとれていると思います。

――有田選手はフォローする立場になったということで、やはり4年生になって自分は変わられたと思いますか

 まあ、変わりたいというのはあります。言うだけ言ってそれで終わり、というのが今までの自分にはあったのですが、そうではなくて。周りが少し見えるようになってきたのかなとは思います。周りがどう感じているのかを考えたうえで振り返ると、自分が後輩の意見を引き出せていたのかなとか、後輩がちゃんと漕ぎやすい環境を作ってあげられていたのかなと考えると、今まではそうではなくて。そこは先輩に甘えていた部分がありましたが、ことしはそうもいかないので、4年生としてしっかりと後輩を育てる、後輩が漕ぎやすいと思える、また自分と一緒に漕ぎたいなと思ってもらえるように、と意識しています。(今は)そこに挑戦している段階だと思うので、その面では変われたかなと思います。

完全優勝

『誰しもがリーダーになれるクルー』を目指す

――それではこれからは、ことしの早慶レガッタについて具体的に質問させていただきます。セカンドのメンバーが決まったときの心境は

 自分は対校選考に敗れてセカンドになったという立場でした。最初は(セカンドの)戦力もバラバラで、エルゴは回るけどテクニックが足りない子、テクニックはすごいけどエルゴが回らない子、上の対校選考から落ちてきた子とバラバラで。最初はどうなるかと思いつつも、全員が主体的に勝ちたいという目標のもとやっていくと、徐々に均一化されていって。最初は正直心配だったのは本音なのですが、「この人たちならやれるな」とは思っていました。そこまでネガティブな感情はなかったですね。

――では最初から前向きなお気持ちだったのでしょうか

 うーん、自分は(対校から)落ちてしまっている中で、やはり精神的に切り替えがうまくいかない部分もありました。でも早い段階で金子、井踏、尾崎などにしっかりと「ここでくよくよしてもしょうがないし、勝ちたいです。有田さんを隅田で勝たせたいので」と言ってくれて支えてくれたところで自分もはっとして。今自分がやらなくてはいけないことは、どんなクルーであってもまずは早慶戦で、隅田で勝つということなんだなと思い、そこからがちっと気持ちも固まりました。そこからクルーもおのずとまとまり、今みたいないい感じの雰囲気ができたと思います。

――では、現在のセカンドの強みと課題は

 強みは…なんだろうな、対校に比べて雰囲気が非常にいいと思います。例年そうなんですが、(セカンドは)背負っているものが軽いんであれなんですけど(笑)。若いというのと、(セカンドは)全員でなんとかしなくちゃいけないんですよ。対校にはパワーで絶対勝てないんです、エルゴの数値も全然違うし。ただまとまりさえあればボートっていくらでも順位が変わるので。最初に「対校にパワーでは勝てない。そこはあきらめろ」と言ったんですね。何で勝つかと言えば、まとまり。テクニックや、それにプラスして雰囲気が非常に大事だと思っていて、そこは強いと思います。全員でクルーを作っているという点に関してはどのクルーにも負けないと思います。弱みは、みんな若いクルーなので自分のことに集中してしまう。クルー全体を客観的に見ることに関しては少し欠けているのかなと思います。一生懸命やっていることは伝わっているのですが、やはり一歩後ろに下がって冷静にクルー全体を見渡す、そういう力を付けていきたいと思います。

――では、その課題を克服するためには

 やはり「誰しもリーダーになれるクルー」を作りたいというのは変わらなくて。そのためには全員が同じ情報を持っていればいい話で、自分がそういうことに気づいたとしたら、ミートで全員にそれを言います。「まずはクルーのことをやろう、個人のことは陸上で準備して、船に乗ったらクルーとして漕いでいこう」と毎回言えば、どんどん植え付けられて行って、みんなの意識の中に入っていきます。今はだいぶ客観的なコールやフィードバックが出てくるので、それは徐々に効果が出てきているのかなとは思います。全員が客観的な視点を手に入れつつあると思います。

――後輩の成長を感じるのはやはりうれしいものでしょうか

 うれしいです。かわいいですね、後輩は。4年生になって後輩がかわいく見えてきて。3年生のうちは、後輩は後輩、先輩は先輩、先輩大好き、みたいな感じだったのですが(笑)。いまはかわいいなと思います。ちょっと生意気なやつもいますけど(笑)。後輩が成長してくれればいいし、逆に脅威ではありますよね。夏の選考において、後輩が成長していくというのは、自分のライバルが増えるということなので。良いライバルになる、その段階まで来ているので成長はうれしいですね。今後のワセダが強くなるためにもいいことだと思います。

――では、有田選手自身の強みを教えてください

 いい意味でも悪い意味でも切り替えが早いです。すごい自分勝手なんですよね(笑)。例えば「ここだけは対校に勝ちたい」と思っていたところで負けてしまったとき、「うわっ」と思うんですが、次から切り替わるところはあります。ただそれは裏を返せばもう少し悔しさとか、振りかえる時間を持つべきなのかもしれません。でもボートをやっていくうえでそれが自分の強みなのかなとは思います。

――昨年の早慶レガッタ、セカンドは再レースの末の勝利でした。その時を1年経った今振り返ってみていかがでしょうか

 やっぱりあれは忘れられないですね。特に大好きだった先輩たちが一緒に乗っていて、早大学院出身のメンバーがほとんどということで、すごい特別なクルーで。学院出身でも大学でこれだけできるんだよというのを証明できたのかなと。あと去年の対校は実力的に絶対勝てたと思うんです。でも沈没してしまってすごく落ち込んでいる同期がいる中で、自分たちも次の日から練習がありました。前主将の是澤さん(祐輔、平29スポ卒=愛媛・宇和島東)は自分たちが沈没した次の日にもう切り替えて、ビデオを撮ってくれたりタイムを取ってくれたりして、それを見て「絶対勝たなきゃいけない」と思ったのは今でも覚えています。初めてワセダのために勝ちたいと持ったレースで勝つことができたというのは、今思い出しても涙が出てきそうなくらいうれしい出来事です。

――それを踏まえて、ことしの早慶戦にはどんな強い気持ちがありますか

 ことしこそは、完全優勝を成し遂げたいと思います。実力的には勝てると思います。例年ワセダは実力はあるんです。ただ運がない、日ごろの行いが悪いからなのかは分からないのですが(笑)。ことしは自分たちの代が主体となっていて、自分たち同期の節目なので、ことしこそは完全優勝したいと思っています。ワセダとして、クルーは関係なく、完全優勝したいですね。

――それと同時に、有田選手のラストイヤーが始まると思います。この1年の意気込みは

 うーん…戸田と気持ちよくバイバイする、って感じですかね(笑)。もちろん表彰台には絶対登りたいですし、日本一を目指しているからには金メダルを取りたい。決勝に残ることができた経験が少なくて、あと一歩のところが多かったので、ことしはあと一歩をしっかりとつかんで、決勝で勝負できるようになりたい。そこで金メダルを目指せるような選手に、人間的にも漕力的にもなりたいと思います。

――では、最後に早稲田スポーツを見ている方々へのメッセ―ジと、早慶戦の意気込みをお願いします

 全員毎朝4時くらいに起きて練習に打ち込んでいます。ボートに大学生活をささげて、本当にボートに真剣に打ち込んでいる全員なので、悔いないようにレースをするのでそれをしっかりと応援していただければと思います。意気込みは、「隅田で勝つ」。これに尽きると思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 鎌田理沙)

◆有田雄太郎(ありた・ゆうたろう)

1995(平7)年8月26日生まれ。170センチ、73キロ。東京・早大学院高出身。法学部4年。ポジションは第二エイトの7番。ボートの練習や就職活動に大忙しの有田選手ですが、就活は苦ではないとのこと。早スポのインタビューもはっきり明確に答えてくださったように、自分が考えていることを話すのがとても得意なようです。そんな芯の通った有田選手が、ワセダの第二エイトを勝利に導きます!