荒れる隅田川、無念の沈没

漕艇

 強風と荒々しい波が艇を打ちつけた。非常に悪いコンディションの中で行われた、第85回早慶レガッタ。先陣を切った女子エイトはスタートから飛び出すと、そのままゴールへと突き進み見事27連覇を成し遂げた。しかし、予定されていた第二エイトは天候が悪化し延期となる。その後も他種目のレースは中止され、対校エイトのレースのみが行われることに。例年以上のラフコンディションの中、両校共に艇を進めていく。しかし早大が高波に襲われてしまい、沈没。昭和55年の慶大沈没以来となり、昨年に引き続き悔やまれる結果となった。

 大会史上初の女子エイトでのレースは早大が地力の差を見せる結果となった。スタートから積極的なレースを展開し、半艇身のリードをつけると徐々に慶大を引き離していく。荒波にも負けずに安定した漕ぎで桜橋を通過すると、そのまま歓喜のフィニッシュ。全員が高く拳を突き上げ、喜びをあらわにした。例年積み重なる偉大な数字を前にしても、重圧に負けない隅田川の『女王』はことしも健在だった。

27連覇を達成した女子エイトクルー

 続いて予定されていた第二エイトは、レース直前に強風にあおられた監視艇が転覆する事故が起きる。悪天候により隅田川でのレースは中止され、20日(水)に再レースが行われることに。打ちつける雨の中、慶大よりも先に桜橋へと帰ってきたクルーは悔しさを爆発させた。この悔しさは必ず、戸田の地で晴らしてくれるに違いない。その後も予定されていたレースは全て中止となり、対校エイトのみ出漕となる。雨はあがり日が差したものの、風は吹き荒れていた。15時20分、予定通りにレースが開始される。勝敗のカギをにぎるスタートスパートでは慶大に並び、レースプラン通り前半700メートルまでで勝負を仕掛ける準備はできていた。しかし、直後に風の向きによって早大側の波が高くなりかぶってしまう。艇に水が入った影響でリズムも不安定となり、レートも上げ切れず失速。本来の実力を出すことができないまま、宿敵に引き離されていく。そして止むことのない強風は、隅田川特有の高波をさらに荒くさせた。徐々に艇が沈み始めていくも、水をかき出しながらクルー全員が最後まで諦めることなく漕ぎ進めていく。しかし、荒れ狂う波には勝てず、厩橋付近で艇は完全に沈んでしまいレース続行は不可能に。突きつけられた厳しい現実。そこには、桜橋を通過することができなかった無念の叫び声が響きわたっていた。

運ばれてきた対校艇

 昨年の失格判定とことしの沈没。隅田川は何が起こるか分からない。「やりきれない気持ちでいっぱい」(是澤祐輔主将、スポ4=愛媛・宇和島東)。しかし、桜橋に響く『紺碧の空』は対校クルーへの敬意が表されていた。荒れ狂う隅田川に対して最後まで諦めずに漕ぎ続けたその姿は観客の心に、そして早慶レガッタの長い歴史に深く刻まれただろう。そして再び学生王者の座を、そして真の日本一を獲るためにここで立ち止まるわけにはいかない。栄冠の夏に向け、今こそ『One WASEDA』で漕ぎ進めていく時だ。

(記事 黒田菜々子、写真 寒竹咲月、三佐川唯)

結果

【女子エイト】

3分32秒52 【優勝、21/2艇身差】

C:亀本咲季子(人4=埼玉・浦和一女)

S:田口えり花(商3=埼玉・浦和一女)

7:木野田沙帆子(スポ3=青森)

6:木下美奈(スポ3=山梨・富士河口湖)

5:米川志保(スポ2=愛知・旭丘)

4:波多野響子(教4=福岡・東筑)

3:土井鈴奈(教4=埼玉・浦和一女)

2:佐藤紫生乃(スポ4=宮城・塩釜)

B:工藤かれん(スポ2=愛媛・松山東)


【対校エイト】

記録なし 【沈没】

C:藤川和暉(法4=東京・早稲田)

S:竹内友哉(スポ4=愛媛・今治西)

7:石橋広陸(スポ3=愛知・豊田北)

6:石田良知(スポ3=滋賀・彦根東)

5:是澤祐輔(スポ4=愛媛・宇和島東)

4:木金孝仁(社4=東京・早実)

3:伊藤大生(スポ2=埼玉・南稜)

2:東駿佑(政経3=東京・早大学院)

B:内田達大(スポ3=山梨・吉田)

コメント

5:是澤祐輔主将(スポ4=愛媛・宇和島東)※記者会見より抜粋

――きょうのレースで意識したことは

きょうのレースで意識したこととしては、大変な強い順風が吹いていましたので、素早いキャッチと素早いレッグドライブでボディをしっかり飛ばすことを意識してプレーしました。さらにラフコンディションが予想されていたので、オールの高さが低くならないように意識しました。

――報道艇から拝見して艇に水が溜まっていたと思うのですがスタートの時点では

スタートの段階ではほぼ艇に水は入っていなかったのですが、バウサイド側から大変強い波がスタート直後にきていまして、首都高速のあたりで一気にケイオーさんと並んだのですが、そのときに大変強い波をかぶってしまってストレッチャーの上くらいまで波が入り、それで失速してしまいました。

――水を出す判断は誰がしたのでしょうか

そうですね、特に判断ということはないのですが、リガーまで明らかに波がかぶり始めたときから沈み始めたのは分かっていたので、ストロークの竹内(友哉副将、スポ4=愛媛・今治西)がそれに気づいて水をかき出し始めたのではないかと思います。

――きょねんのレースも失格というかたちで負けてしまって、ことしもこのような結果になってしまったことについて

一番思いますのは自分たちが沈没したことによって多くの人たちに迷惑をかけてしまったので、申し訳ない気持ちでいっぱいです。本来の実力を出し切れずに、きょねんもことしも負けてしまっているのでなんとも言えない悔しさと言いますか、やり切れない気持ちでいっぱいです。

――優勝できずに終わってしまったということに対して率直な思いを

自分が勝てなかったという悔しさももちろんあるんですが、それよりも一緒に乗ってくれた後輩を始め、支えてくれたマネジャー、トレーナーに隅田川で勝利する姿を見せられなかったのが4年間で一番心残りですね。

――竹内選手の存在は

僕もまだまだキャプテンとして未熟な部分はあるのですが、僕ができないことを竹内がやってくれます。ずっと高校生から一緒にボートをしていて、大学4年間、主将と副将という立場になってワセダの漕艇部を引っ張っていけたことを本当に誇りに思います。

――是澤主将にとって隅田川とはどのような場所でしょうか

きょねんも失格負けでことしも沈没でいろいろあったんですけど、僕にとっては憧れの場所だったのでそこで大学4年間でこうして3回出場することができたので誇りに思います。

内田大介監督(昭54教卒=長野・岡谷南)※記者会見より抜粋

――きょうのレースを振り返って

まずこの非常に荒れたコンディションの中、最後まで漕ぎ切ったケイオーさんに敬意を表したいと思います。残念ながらワセダクルーは途中で沈没という残念な結果となりました。その要因は複合的な要因があると思います。ただ技術的な問題だけではないと思いますし、セッティングにも課題があったかな、と。ただこのコンディションは予想されていたことなので、可能な限りのラフコンディション用のセッティングをしていましたが、大きな波を一発くらって艇に水がたまってしまってから全く勝負にならなかったなと。

――きょねんのレースも失格というかたちで負けてしまって、ことしもこのような結果になってしまったことについて

わたくしは昭和53年のときのキャプテンだったんですが、まったくそのときと同じコンディションでして、そのときも監督に、艇を絶対に沈ませるなという指示をいただきました。そのときもこういうコンディションになったので、正直私は37年前の自分のレースと重なったので、勝って欲しかったというのが本音です。しかしながらケイオーさんの様々なスキルが上回った結果に敬意を表したいと思います。

――きょうの天候のコンディションを見て、事前に選手たちにどのような指示を出していたのですか

こういう波の中ではピッチを落としてゆったりと漕ぐと、追い風追い波ですので波の上に乗っかってしまうので、とにかく素早いキャッチをして艇を前に進めなさいと。それがわたしの教訓でして、追い風のときに波と同じスピードで進んでしまいますと波がすべて入ってきてしまうのを経験しましたので、それを上回るスピードで、スピードをなるべく落とさないように、と指示しました。

――できるかぎりの対策をしたということですが具体的にどういった対策か、反省点などあれば

ワセダが使った北斗星という艇の真ん中のポールを引っ掛けるところの棒がケイオーさんは1本なんですけど、ワセダは2本になっていまして、そこに波が引っかかるだろうということで艇の中に波が入らないように、ビニールのシートではなくプラスチック製の板をつけてかなり波対策はしたんですけども、スタートのオンエアを見ると、ケイオーさんはほとんど波を拾っていないのに対しワセダの艇は相当の波を拾っていたのが確認できたので、その部分の対策や改造が必要になってくるのかなと思います。