【連載】第84回早慶レガッタ事後特集 第8回 長田敦主将

漕艇

 主将として初の大舞台は思わぬかたちで幕が下ろされた。漕歴10年の長田敦主将(スポ4=石川・小松明峰)でさえこれまでに経験したことがないと語った失格判定。悔しさとやりきれない思いを残し、隅田川をあとにした。早慶レガッタから2週間がたったいま長田は何を思うのか。レース当日を振り返ってもらうとともに、今後のワセダの進むべき道について語っていただいた。

※この取材は5月2日に行われたものです。

「はっきりした結果が欲しかった」

一度も早慶レガッタでの勝利を経験していない長田主将

――早慶レガッタから2週間がたちましたが、その後はどのように過ごされていましたか

 試合が終わってから3日間ほどオフがあったのですが、そこでしっかり休むことと気持ちを切り替えるということを、自分の中でしっかり行っていました。いまはもう練習を再開しているのですが、もう5月の軽量級と8、9月のインカレ(全日本大学選手権)と全日本(選手権)に向けて、時間は掛かったのですが気持ちを切り替えることを頑張ってやってきました。

――早慶レガッタを終え、率直なお気持ちをお聞かせください

 レース後も話したのですが、少し自分の中で納得いかない部分が大きくて。そして、その気持ちは時間がたってもあまり変わらなくて。でもその結果は受け入れるしかないので…。できることならもうちょっとはっきりした結果が欲しかったなと思います。

――当日の他のクルーの皆さんの様子はいかがでしたか

 ことし内田監督(大介、昭54教卒=長野・岡谷南)が就任してから『One WASEDA』というスローガンを掲げて、ちょうど1年くらい取り組んできまして、ことしはそれに基づいて『完全優勝』で女子も第二エイトも対校エイトも優勝するということを目標にしていたので、すごくお互い励まし合うことができました。女子に関してはすごく良い知らせを僕たちがレースする前に持ってきてくれたので、それはとても心強いと思いました。

――当日クルーの皆さんにどのような声掛けをされましたか

 (当日は)僕たちのレースが最後なので、直接最初から最後まで応援に行くことはできないかもしれないということと、良い結果を待っているということと、部員全員を信じて待っているということを伝えました。

――今回の自分たちのレースについてはどのように評価されますか

 僕はその後レースのビデオとかしっかり見ていないのですが、漕いでいる感じはすごくレースプラン通りというか、クルーで狙うポイントを決めたことが前半部分に関してはよくできたのかなと思います。もっと慶大と差をつけることができればよかったのですが、その辺はやはり相手もすごく練習を重ねてきていたのでうまくはいきませんでした。ですが、前半に関しては僕たちの計画通りと言いますか、予想通りに自分たちが先行して逃げ切る展開に持ち込むことができたのではないかなと思います。

――当日の慶大を見て、どのような印象を抱きましたか

 水上に出てアップしている中で、慶大の方が僕たちよりも漕げているのではないか、という不安感みたいなものがレース始まる直前まで募ってきました。僕たちは正直思うようなウォーミングアップというか最後の確認が水上でできなかったので、それのせいもあり、レース直前まで慶大にもしかしたら劣っている部分があるのではないかという不安感がありました。

――当日実際に隅田川に出て、波対策はできていましたか

 例年そうなのですが予想を上回るような波がきて、ことしも特に例年よりもすごい荒れると聞いていたのですが、やはりその僕の予想を上回って、結構艇の中に水が入ってきてしまうような展開というか結果になってしまいました。波対策で言えば、監督を始め、部で試行錯誤を繰り返していたので、僕自身もっとああすればよかったなと思う部分はあるのですが、慶大よりは良い対策ができていたのではないかなと思います。

――当日のユニホーミティーに関してはいかがでしたか

 出だしからまとまりに関してはすごくいつも通りというか、いつも以上のパフォーマンスが出せていたと思います。ビデオとか見ていないので何とも言えないのですが、3750メートルつらい中、終始クルーのユニホーミティーが高いままで漕ぎ通せたと思います。

――ご自身のストロークというポジションで意識していたことはありますか

 とりあえず第一に、後ろに7人も乗っているので漕ぎやすいリズムを漕ぎ通すということ。あとは、コックスの中村(拓、法4=東京・早大学院)とうまく連携を取り合って、落ち着いていこうと。僕と中村が連携取り合えば、リズムが狂うことなくどんな展開でも落ち着いたレースに持ち込めると思っていたので、その点は練習でもレースでもできたのではないかなと思います。

――ストロークペアの石橋広陸(スポ2=愛知・豊田北)選手との連携はいかがでしたか

 彼(石橋)が早慶レガッタ初めてということで正直7番を任せることにも不安があったのですが、どうしても(早慶レガッタで)負けたくなかったので日頃から結構きついことは言い続けてきました。ですが、それを忠実に守って努力してくれたので、本番は僕と7番でしっかりと安定したリズムを一緒につなぐことができたのではないかなと思います。

――当日のレースは自分たちの力を出し切ることができたと思いますか

 思い返せば、ちょっと守りのレースになってしまったかなと思うのですが、結果として慶大より先にゴールしたので、僕たちの力は出し切ったのではないかなと思いますね。

――桜橋をゴールした直後のお気持ちをお聞かせください

 ゴール直後は正直よく分からなくて(笑)。やはりいままで負け続けても応援してくれた人たちに少しでも格好いい姿を見せることができたのではないかなとゴール直後は思いました。やっぱりあと自分のためにどうしても勝って終わりたかったので、正直にそこはうれしかったですね。

――その後、判定を聞いてからのお気持ちは

  僕10年間(ボートを)やってきて、このような経験ないので。正直、判定が覆ることすら考えていませんでした。その場で失格が言い渡されるとは思っていなかったので、びっくりしたと言いますか、正直何が何だか分からない状態になって。慶大の応援団が喜んで、慶大の校歌が流れているのを聞いて、「負けたんだな。」っていうような実感が湧いてきましたね。

――観漕会で勝利を挙げ、当日のレースでも先に桜橋を通過し、レース後の記者会見でも慶大の吉田航主将が「実力的には負け」とおっしゃっていましたが、このことについてはどのように思われていますか

 まあでも負けは負けなので、そのことがあっても僕は慶大の方が強かったと思いますし、どんなかたちであれ勝てなかったので。やはり僕の中でも、ワセダの中でも足りない部分がいくつかあったのではないかなと思います。

「一人一人本当に努力してくれた」

――その後、内田監督から何かお話はありましたか

 このことに関しては、監督とコーチ陣を始めいろんなOBの方たちも、結構悩んでいるというか問題視しているので、特にないと思いますが、「一緒に切り替えて、もう一度夏に戦おう」というお話はしました。

――クルーの皆さんともそのような話をされたのですか

 クルーの中でも一人一人受け止め方は違うと思うのですが、この結果は引きずっていても今後何にもつながらないことだと思いますし、クルーの中ではやはりもう夏を見据えていて、もう一度練習からどこのチームよりも励んでいこうという方針は話して、伝わったかなとは思います。

――対校クルーを組んでからいままでをご覧になっていて、何かクルーの皆さんの変化や成長は感じましたか

 一人一人勝つために目に見えるようなレベルアップはしてくれていたと思うのですが、それでも僕は不安が大きくて。でもその不安を取り除こうとしてくれていたのかは分からないですけど、みんな一人一人本当に努力してくれたし、特にいまの新2年生や新3年生は、僕たちを勝たせてくれようと必死に努力をしてくれたのではないかなと思います。

――主将として初めてこのような大舞台を経験されて、ご自身にも何か成長はありましたか

 毎年、早慶戦はすごく緊張してプレッシャーも感じるレースでした。ことしはそれが一段と増していて、その中で慶大相手にかたちはどうあれ、ああいうレースができて、結果として慶大よりも先着できたのは僕の中でやはり大きいことです。あまり自分では感じていないのですが、ちょっとは成長できたのではないかなと思います。

――この経験は今後のレースや試合にどう生きてくると思いますか

 僕がこれから夏に向けてやらなければならないことが少しは明確になったと思います。でもこのままでは、夏に(戸田の)コースで負けた日大や一橋大相手にまだ勝てるとは思わないので、この数カ月早慶戦に向けて取り組んだ経験を生かし、ちゃんと考えてこれからの練習や後輩とか部員の指導にはつなげたいなと思います。

――内田監督のご指導はいかがでしたか

 監督自身、別の仕事を持っていてサラリーマンということもあるので、自分の仕事が休みの日しか対応できないのですが、それでも毎週のように駆け付けてくれて、熱心に指導してくださって助かっています。あとプロコーチのような人がワセダにはいないのですが、多くのOBの方々が僕らの指導に駆け付けてくださり、その点はすごく恵まれていると思いますし、本当にそれがあっての今回の結果だと思うので、とても助かっています。

――夏までに修正すべき課題は何か見つかりましたか

 僕自身、早慶戦を終えて思ったことは、選手としてもやはりよりいっそう強くならなければならないのですが、キャプテンとしてみんなを支えるというかまとめるという部分がまだまだ足りていないと思いました。次に部で掲げる目標が『インカレ優勝』なので、それを達成するためには僕だけが強くなるだけではだめなので、しっかり主将として部員と一緒に強くなって成長していきたいです。

「いままでのワセダにいなかったような主将に」

一度も早慶レガッタでの勝利を経験していない長田主将

――次のレース予定は軽量級ですか

 ことし日本代表になって、その練習が軽量級と重ねって(軽量級を)辞退することになりました。なので、僕は軽量級には出ないです。

――日本代表の方の練習はいかがですか

 僕はスイープの方が好きなのですが、ことしはスカルの方で代表になったので、ちょっと嫌だなって気持ちもありながら…(笑)。でもレベルの高い練習をすることで、帰ってきた時に何か持って帰ってこないと何も意味がないので、そういうものを探しながら、強くなるために考えながら、日本代表の合宿の方では練習しています。

――今後の目標をお聞かせください

 僕一人で達成できる目標じゃないですけど、やはりインカレで日大を倒したいですね。日大を倒せれば僕は2位、3位でも全然いいのですが(笑)、たぶんあいつら(日大)は常に1位なので、そういうためには優勝するしかないなと思います。そのためにいままでのワセダにいなかったような主将になれればいいかなと思います。

――最後に今後に向けて意気込みをお願いします

 僕は引退まで半年切っていて、残り4、5カ月なので、やはり一日一日濃いものにして、悔いの残らない結果で最後は笑って終わりたいなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 須藤絵莉、写真 渡部歩美)

◆長田敦(ながた・あつし)

1993年(平5)5月9日生まれのO型。身長182センチ、体重70キロ。石川・小松明峰高出身。スポーツ科学部4年。2014年度成績:第83回早慶レガッタ対校エイト2位、第36回全日本軽量級選手権M1X+5位、第41回全日本大学選手権M8+3位、第92回全日本選手権M8+7位