慶大に終始リードしての完全勝利を誰もが確信していた。目標達成を喜ぶクルーをいきなり襲った悲劇。3番の内田達大(スポ2=山梨・吉田)は、初めての対校エイト出場で、失格という痛過ぎる現実を突き付けられた。早慶レガッタから時間がたったいまの心境を含め、早大期待のホープが改めて振り返った『あの日』の真実とは――。
※この取材は5月3日に行われたものです。
「クルーの漕ぎは100点満点」
自身の力を出し切った内田
――レガッタ本番直前はどのように調整していましたか
当日はみんなと話したりしてリラックスしていて、でも12時ぐらいに第二エイトのレースで敗北する姿を見ました。それで「絶対に対校エイトは死に物狂いで勝とう」と思い、自分の心の中で気持ちがすとんと落ちて覚悟を決めることができました。試合の時間までは、自分で音楽を聴いたりして過ごしていました。
――隅田川での練習は行っていましたか
冬を含めて合計で3回隅田川練習をしました。
――きょねんの5回から少し回数を減らしたのですか
早慶レガッタ当日の潮の流れに合わせた日にちで行っていました。何回も行うと負担になってしまうと思うので、少し的を絞って行ったようです。
――レース前にクルーでどのような話をしていましたか
本番前のミーティングでは、自分たちがやってきたことを全部出して勝とうという話をしていました。
――早大はアウトコースから1艇身リードしてのスタートになりましたが、気持ちに余裕はありましたか
リードしていると言ってもそこで気持ちを緩めないようにしていました。でも自信を持っていこうという感じでした。
――当日の隅田川の波や潮はどうでしたか
当日は練習とはまた違って。ある程度覚悟はしていましたが、隅田川本来の波の大きさは全然違ったし、潮の流れも強かったです。
――思ったよりも強かったということですか
体験したものよりは強かったですが予想通りといえば予想通りでした。
――緊張はしていましたか
緊張はもちろんしていました。ただ先程も言ったように勝つという気持ちは固めていたので、緊張は自分の中で押し殺して自信を持って漕げるようにしていました。
――周りの景色は気にはなりましたか
スタート地点の方ではみんなが応援していたので、そこはみんなの応援を受けながら、良い感じに刺激になっていました。
――レース中これだけは意識しようと思っていたことはありましたか
やはり波が高いので、オールが波に当たってしまうとそこで艇全体が揺れてしまうので、オールが波に当たらないように高く上げることを意識していて、あとはとにかくストロークを長田さん(敦主将、スポ4=石川・小松明峰)に合わせるということを意識していました。
――長田さんに合わせることが艇のバランスを保つ秘訣(ひけつ)なのでしょうか
そうですね。長田さんのリズムが自分のリズムになるようにしっかり練習してきたので、自然にみんな(のリズムが)合っていました。
――このバランスは終盤まで崩れることはなかったですか
なかったです。
――内田選手自身のポジションは3番でしたが、自分の役割は気にしていましたか
3番というのは一番漕ぎやすく力も出しやすいポジションだと自分は思っているので、ストレスが少ない分、みんなに声を掛けて盛り上げます。練習の時もそうだったのですが、みんなの気持ちが沈んだときに起点になるということを心掛けました。
――体力的には終盤まで保つことができましたか
そうですね。ラストスパートで出し切れたと思います。
――ご自身の漕ぎは何点だったと思いますか
クルーの漕ぎとしては100点満点だったと思います。自分の漕ぎは足を引っ張っていなければその中の一部に入っているのかなと思います。
――100点満点とおっしゃいましたが、思い描いていたレースプランは完璧に達成できたということですか
そういうことです。
――桜橋が近づいてきた時、歓声が大きくなっていくという実感はありましたか
夢中だったのですが、「ワセダ!」という声はすごくよく聞こえて、ラストで「もう限界だけどここでもう一度出し切ろう」と自分の気持ちが支えられましたね。
「まだ夢心地」
――ゴールした瞬間の心境は
うれしかったですね。本当に自分たちが積み上げてきたものが全部出せたというか、ケイオーを離してゴールするという本当にイメージ通りのレースだったので、自分たちが完全勝利したという心境でした。
――旗が上がって判定に入ると言われた時、状況を理解できましたか
その時はなぜ審議なのかはいまいちよく把握していなくて、何となくどういう感じなんだろうとあまり深くは考えずに待っていました。
――結果が出たときの思いは
「ん?なんでだろう?」と、すぐには受け入れ難いというか、納得できないという感じでしたね。
――レース後、内田大介監督(昭54教卒=長野・岡谷南)はどのような言葉をクルーに掛けましたか
(レースが)終わった後は監督にお会いしていないです。たぶん長田さんの方に行っていたと思うので。
――監督には父親として何か言葉を掛けてもらいましたか
肉親ではありますが、部の中では学生と監督という関係なので、特別僕に言葉を掛けるということはなかったのですが、レース後の懇親会でみんなに一人一人、僕にも「頑張ろう」と言ってくださいました。やはり監督も相当悔しかったと思うので、きっとそういうふうに自分の気持ちを押し殺して選手一人一人に「次は頑張ろう」と言っているのが伝わりました。
――早慶レガッタから時間がたったいま、あの日について改めてどう感じていますか
まだ夢心地というか自分の中ではすとんと胸に落ちてきてくれてはいないです。胸に穴が開いている感じです。でも考えても結果は変わらないので、振り返るということはあまりしていないです。
――内田選手はまだ2年ということで来年以降も早慶レガッタに携わることになると思いますが、今大会のレース自体には手応えはあったのではないでしょうか
そうですね。ビデオを見てみても本当に自分たちが目指していた漕ぎそのものだったので、このまま油断はしていないですけど、初心を忘れずに頑張っていけば来年の早慶戦もレース通りの結果になるかなと思っています。
初心を忘れず最強の挑戦者として
自らの漕ぎを冷静に分析する
――シーズンはまだ始まったばかりですが、目の前の目標は何ですか
やはりインカレ(全日本大学選手権)優勝、全日本(選手権)メダル獲得というのが全体の目標であり、自分の目標ですね。早慶戦の結果は戻ってこないので、ただ前を向くしかないです。インカレと全日本に向けて振り返らず全力で進んでいきます。
――インカレの前には大会に出場しますか
次は3週間後の軽量級(全日本軽量級選手権)に舵手なしフォアで出場します。もちろんそれは勝ちにいきます。
――インカレや全日本に向けてどういった練習をしていきたいですか
やはり毎年インカレでは優勝している日大や、社会人のNTT東日本に比べるとフィジカルもテクニックも少々劣っているところはあるので、テクニックは伸ばしつつフィジカルもばんばん鍛えて両方バランスよくしていきます。負けた悔しさは勝たないと自分の中で埋められないので、そこを目指してやっていけたらと思います。全部底上げしていけたらいいと思います。
――後輩となる1年生が本格的に入部してきますが、楽しみですか
楽しみですね。後輩がいるから気付けることもきっと自分にはあると思うのでその面でも、そして何より人数が増えるというのは、これだけ一緒にいると(部は)家族のようなものなので、家族が増えるという感じでうれしいです。
――シートの希望はありますか
実は僕早慶戦の時にバウサイドだったのが、反対側のストロークサイドに変わったので、もしかしたらポジションが変わるかもしれないですけど、とりあえずどの場所に乗ってもみんなを支えられるようにしたいので、シートの希望はないですけど対校エイトには乗りたいです。
――改めて今後に向けての意気込みをお願いします
スポーツなので絶対勝つとは言い切れないですけど、挑戦者であるという気持ちは忘れずに恐れずにやろうと思っているので、最強の挑戦者として王座奪還を目指してやっていきたいと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 高橋豪、写真 渡部歩美)
◆内田達大(うちだ・たつひろ)
1996(平8)年1月7日生まれのO型。173センチ、72キロ。山梨・吉田高出身。スポーツ科学部2年。2014年度成績:2014アジアカップ第1戦M4×5位、第41回全日本大学選手権M8+3位、第92回全日本選手権M8+7位、第55回全日本新人選手権M8+3位