【連載】早慶レガッタ直前特集『逆襲』 第6回 C:中村拓

漕艇

 劇的勝利を飾った2年前の第二エイトでコックスを務めた中村拓(法4=東京・早大学院)。そのイメージを持って臨んだ昨季の対校エイトだったが、まさかの敗戦。だが対校エイトとして、慶大に負け続けたまま卒業するわけにはいかない――。ラストイヤーとして臨む、早慶レガッタへの意気込みを伺った。

※この取材は3月14日に行われたものです。

「自分のことで精一杯だった」

最上級生として最後の早慶レガッタへの思いを語る中村

――就活をされていると伺いましたがお忙しいですか

そうですね、そうだと言っておきます(笑)。

――オフの日はどのように過ごされていますか

最近はやっぱり就活ですかね。練習中に行って(部に)負担をかけたくないので、オフを使ってやるようにはなるべくしています。

――昨シーズン全体を振り返って

あんまり良くはないシーズンだったのかなと思います。自分は2年生の時に運良く結果を出して、そこからつなげていきたかったのですが、初めての対校エイトでの早慶レガッタ、またインカレ(全日本大学選手権)でも初めて対校エイトに乗らせてもらいました。クルーをつくっていくというところにそこまでフォーカスできず、自分のことで精いっぱいだったのかなという気がしています。結局あまり良い結果を出すことができなかったので、良くないシーズンだったと思います。

――昨年の早慶レガッタでは波の影響もあったと思いますが、コールなどはどのようにされていましたか

ビビらずと言いますか、普段やってきた漕ぎを波があっても出したりだとか、あとは崩したときにすぐに立て直していくようにということを考えていました。いつも通り淡々とやっていこうということは話しました。おととしの第二エイトのイメージでやっていましたね。

――敗因は何だったと思われますか

ユニホーミティーですかね。一つになって自分たちの一番良いパフォーマンスというものが出せていなかったと思います。本番のプレッシャーがかかる部分、きょねんで言えば相手に出られた段階でも崩れずに、自分たちの漕ぎを通せれば良かったのですが…。そこまでのユニホーミティーがなく、結局ばらばらで立て直すこともできずそのままいってしまったのかと思います。その悪いイメージというものはすごく嫌なのですが、そこから学んで生かせるようにことしはやっています。

――昨シーズン、早慶レガッタ以降大きくクルーが入れ替わりました

(対校)エイトのメンバーも(早慶レガッタ以降)変わって、自分はコックスとしてクルーをまとめるということがどのエイトでも与えられた役割だと思います。そこでやり切ることができなかったと言いますか、自分のこともあってなかなか全体としてまとめるということができていなかったのではないかと思っています。

――内田大介監督(昭54教卒=長野・岡谷南)に代わられてから部内に変化はありましたか

いろいろなところが明確になって、組織面でも練習面でも方針がすごくしっかりしてきたなという感じがあります。その結果選手もやることがはっきりして、一つの方向に向かっていけるような集団になったかなと思います。

――具体的に明確になったと感じられる部分はありますか

生活面でも練習面でもいろいろあるのですが、やっぱり漕ぎという意味で監督が明確な漕ぎを打ち出しているので、僕らはそれに合わせて練習していくところです。いままではそのような軸があまりなかったので、毎回クルーによって(漕ぎが)違っていたりしました。いまはもう部員全員が同じ漕ぎを目指してやっているので、練習でもやることがはっきりしています。漕ぎという面ですごくまとまりができたのかなと思います。

――内田監督の印象は

見た目はこわもてなのですが、すごく穏やかで話しやすくて良い監督だと思います(笑)。

――最上級生になるにあたり、どのようなチームをつくりたいですか

エイトなので、9人そろわないとどうしても良いスピードは出ないと感じています。そのために下級生だったりとか、ことしは未経験の選手も対校エイトに入ったりして、すごくバランスが取れたチームだと思います。やっぱり一人一人の力を最大限に出すというところで、乗艇していても積極的に意見を求めたり、全員が一つのチーム、クルーとしてコミットできるような雰囲気や体制をつくりたいなと思って、意識的にクルーをつくっています。

――チーフコックスに求められる役割とは

一言では表しづらいのですが…、コックスの役割はあいまいなので、そこをはっきりさせてあげて、コックスが主体的になって自主的にどんどんチームを引っ張っていけるということを目指しています。というのも平日は監督・コーチ陣がいらっしゃらないので、そういう時に漕ぎなどでイニシアチブを取ってやらなければいけないのはコックスだと思います。そのような意識面というものを、僕は別のコックスたちに話しながらやっています。

――コックスのやりがいとは

普段は漕手と違ってエルゴ(メーター、陸で漕力を測定する機械)だったり、漕いでスピードを出すことはないのですごく苦しいことが多いです。その分やっぱり結果が出た時はすごくうれしいですね。逆に言えば僕らコックスにとっては結果が全てとまでは言いませんが、とても大きいと思います。結果を出せるように日々苦しいこともなんとか乗り越えながらやっています。

――コックスで苦労したことは

漕いでいるわけではないので、漕いでいない人が漕いでいる選手をまとめるのはやっぱり大変ですね。相手が漕ぎながらどういうことを考えているのか、ここで苦しいだろうな、こういうことを言ってもらったらやりやすいだろうなとか、そういうことを考えながらやらないといけないですね。自分が思っていることをバンバン言うだけじゃ絶対にクルーをまとめられないので、そういう意味ではすごく言い方にしても、どういうことを言うのかにしても、本当に一つ一つ考えないといけないと思います。そういう意味ではすごく難しいですね。

――減量も苦労なさっているとお聞きしましたが

そうですね、それが一番きついかもしれないです(笑)。僕の場合は普通に食べていて60キロ前半くらいになってしまうので、55キロ切るところまで持っていくのは毎回きついですね。

「爆発力が武器」

――長田敦主将(スポ4=石川・小松明峰)の印象は

長田くんはですね、絶対的エースかなと。主将としてあんまりこう意識的にやろうとしているというよりも、もともとの淡々と全力で漕ぐというそのままのスタイルが主将に出ているという感じですかね。ただあまり意識はしていないかもしれないですが、全体を見ているなと。下級生だったころと比べると、すごく全体を考えながらやってくれているのかなという気がしますね。非常に頼もしいです。

――対校エイトの雰囲気はいかがですか

いまはすごく順調で、良い感じだと思います。全員がクルーとしてまとまっていくという意識を感じますし、一人一人がやらなきゃいけないことや責任を感じながら漕いでくれているという印象があります。練習がうまくいくこともあればいかないこともありますが、その中でも一喜一憂せずに全員で同じことを感じながら、良い感じでここまできているとは思います。

――早慶レガッタへ向けた特別な練習はされていますか

川練習ですかね。波対策として川での大きいうねりという特殊な波に対応していくため、普段から荒川に多く行って、大きいうねりの中でも崩さずにやっていくということを意識してやっています。

――川練習で見つかった課題などはありますか

まだ完璧に対応し切れていないという感じですね。バランスがまだ不安定なので小さい波で崩されてしまい、一度ふらつくと結構崩れてしまう印象があります。ちょっとくらいの波にぶれずに、もっと淡々と同じ漕ぎを長く続けられるような取り組みをしていきたいです。

――3人の新2年生が初めて対校クルーに選出されましたが、波対策などの面で下級生のフォローはされていますか

一番下級生のことを見ながら個人的には練習しています。全員で漕げていれば問題ないと思うので、あまり隅田川だから、初めてだからといってすることはないですね。それよりも普段の細かい調整を行っています。

――『隅田見聞』を行われたと伺いましたが、いかがでしたか

もう一度あの場所に来たことにより、気持ち的にも一段と気合が入りました。あの場で漕ぐということが全体的にすごく良いイメージをつくることができたと思うので、とても良かったです。

――レースのポイントとなる場所は

前半だと思いますね。細かく見るともっとあるのですが、総じてロングレースになるので、どんどん出られている展開が長くなると精神的にも消耗してしまいます。最初から出てどんどん離していくのが理想ですね。

――カーブが多いのが隅田川の特徴だと思いますが、気を付けていることはありますか

個人的にはいかに膨らまずに最短距離でカーブしていくかということがすごく重要になると思っています。カーブに入る前のコース取りもすごく気を付けています。あとはカーブより少し前で早めに曲げることでロスをなくし、すぐ次の目標(地点)へ行けるように早め早めで行動しています。クルーとしてはあんまり長いことカーブしちゃうとそれだけ消耗も激しく崩してしまうこともあり得るので、早く曲げ切るように一発で決めようという話はしています。

――レースプランはもう決められているのですか

いや、具体的にはまだそこまで決まっていないですね。ただ最初に監督・コーチ陣から話はあったので、ある程度のイメージは持っています。

――ことしは慶大より前の位置でスタートされますが、いかがですか

実はきょねん、インコースが有利だったのではないかと思いながらレースをしていました。しかし風などもあるので実際はそうでもなくて、やっぱり自分たちの最短距離を行ければあまりどちらのコースでも関係ないのかなと思ったので、(スタートの位置が)出ているかどうかはあまり関係ないと思います。自分たちの最短距離を通れるように、僕は準備するだけかなと思っています。

「自分たちの完成度を高めていくだけ」

司令塔として早大を勝利へと導く

――いまの対校クルーの良いところは

すごく個性があるものの、うまく全体としてまとまろうという意識が強いですね。漕ぎにしても雰囲気にしても、みんな全体として一つになろうという意識がしっかりあるので、(雰囲気の)波は少ないのかなと思います。あまり一気にばたっと(雰囲気などが)悪くなったりすることはないですね。あとは爆発力です。ここぞという時の爆発力はすごくあるので、その点は本番でも武器になるのではないかと思います。

――逆に課題などはありますか

漕ぎの面ではやはりバランスが不安定な部分があります。普段バランスが悪いと、本番で波が高くなった時にフラットな状態で漕げないので、もっと良い状態を継続できるように詰めていく必要があるかなと思っています。

――早大の第二エイトの印象は

第二エイトはすごく個人個人が言い合いながらも良い雰囲気でできていると思います。2人くらい離脱などもあって、すごく苦しかったと思います。ですがそこをうまく切り替えて、いまは全員そろって練習し始めているところなので、良い状態だと思います。

――慶大の対校クルーの印象は

あまり戸田のコースで見ないので、印象というのはそんなにないですね。ですがエルゴも同じくらいか僕らよりちょっと上なので、確実に漕力が高いというイメージがあります。川で漕いだ時もすごくまとまってさくさく進んでいくという印象はあります。ただ相手を意識するよりは自分たちの漕ぎを通せるように、自分たちの完成度を高めていくだけだと思っています。

――慶大の選手と交流などはされますか

各学年によってもまた違うのですが、僕の学年はあまりないですね。

――隅田川には大勢の観客がいますがいかがですか

すごくたくさんのお客さんに来ていただけるということは、なかなかボートレースではないことだと思います。プレッシャーに感じる部分もありますが、わざわざ足を運んでくださったお客さん方に良いレースを見せられるように楽しんでやっていきたいなと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 八木瑛莉佳、写真 須藤絵莉)

◆中村拓(なかむら・たく)

1994年(平6)3月28日生まれ。身長175センチ、体重55キロ。東京・早大学院高出身。法学部4年。ポジションは対校エイトのコックス。早慶レガッタへ向けて現在順調に減量されている中村選手。色紙にどのようなコメントを書くか迷われていましたが、好きな食べ物について書いてくださいました。早慶レガッタ後、お腹いっぱい食べられると良いですね!