【連載】第83回早慶レガッタ事後特集 第9回 7:青松載剛主将

漕艇

 「隅田川は最悪な思い出の場所」。レース後の記者会見で、対校クルーをけん引し続けた青松載剛主将(スポ4=京都・東舞鶴)は悲痛な思いをこう述べた。かつての悔しさを胸に、並々ならぬ決意を胸に挑んだことしの一戦。だが青松の目に映ったものは、高々と掲げられた宿敵のガッツポーズだった。なぜ隅田で勝てないのか。そのカギは、難コースという条件だけでなく、早慶レガッタ特有の雰囲気にあった。

※この取材は5月2日に行われたものです。

「なんとなく不気味でした」

主将として、早慶レガッタの振り返りを語る青松

――早慶レガッタから約2週間たちましたが、どのようにお過ごしでしたか

セカンドのレースが2週間後にありましたが、僕の中では早慶戦は13日に終わったという考えが強かったですね。でも運営委員会や監督、コーチ陣も言っていましたが、公式なセカンドの再レースをやるということで、そこまでは全力で応援しようということになりました。そこからは軽量級に向けて追い込んでいますね。(早慶レガッタ後の)オフ期間中は切り替えなきゃと考えたのですが、そんなに簡単にできることではありませんでした。なのでいったんボートから離れて、学校行って帰ってのんびりして過ごしていました(笑)。完全にリフレッシュですね。

――早慶レガッタの前日はよく眠れましたか

はい、がっつり寝ました(笑)。プレッシャーとかはあまり考えないようにしました。次の日のことを考えると眠れなくなりそうだったので、できるだけ音楽を聴いたりしてリラックスしていました。

――主将として迎えた早慶レガッタでしたが、いままでとの違いは

やっぱり主将かつクルーリーダーという立場になって、周りの目がより強く集まっている感じはしましたね。キャプテンということでいいプレッシャーを受けつつできたかなとは思います。

――岡本剛前監督(昭45法卒=大阪・上宮)にとって最後のレースとなりましたが、直前に声を掛けられたりしましたか

特にはありませんでした。いつも通りの剛さんでしたね。最後まで剛さんを貫いたなという感じで、本当に特別なことはなかったですね。やっぱり岡本剛という監督が最後ということで、勝ちたいという気持ちはありましたが…なかなかうまくいかないですね。

――記者会見の際に慶大の山本尚典主将と会話をなさっていましたが、普段から交流等ありますか

そうですね。特に二人でご飯に行ったりすることはあまりないですけど、この間のU―23の合宿にもお互い参加していて、一緒にご飯食べて話したりしました。交流は普通にはありますね。

――3月の取材の際にはクルーのずれが大きいと語られていましたが、その課題の克服等は

その取材の時はまだ組んで2週間程度だったので、その点に関しては本番に向けて良くなっていったと思います。でもコースで詰め切れなかった部分が隅田でも出てしまったかなという感じはするので、まだまだ納得できるものではなかったですね

――7番というポジションについて

やっぱりストロークの竹内(友哉、スポ2=愛媛・今治西)のリズムを僕が切らしてしまうと後ろに全く伝わらなくなってしまうので、とにかくそこをしっかり取り組むことが大事ですね。あとストロークペアは後ろの漕手の見本になることが多いので、そういう意味でも安定した漕ぎをできるように心掛けていました。

――いままでストロークは長田選手(敦、スポ3=石川・小松明峰)が務めてきましたが、今回竹内選手に代わっていかがでしたか

長田がストロークの場合は、クルーのずれが大きくなるほど彼自身が燃え上がっていく感覚を受けるのですが、竹内は少し萎えてしまうところがあるのかなと感じましたね。ストロークのリズムとしてはどっちもいいと思うので、優劣があるとかはないと思います。竹内は竹内でいいところがあって、長田には長田のいいところがあるという感じですね。

――早慶レガッタ直前の早慶対校競漕大会観漕会(観漕会)ではタイムにおいて大差で慶大に勝利しましたが

観漕会での漕ぎ自体もまだまだ納得できるものでなくて、勝ったからって浮かれるような顔をしているメンバーは1人もいなかったですね。全然満足できるものではなかったので、みんな締まって考えているなとは感じていました。(観漕会では)慶大とは10秒以上タイムが開いていたのですが、それが逆になんとなく不気味でした(笑)。逆に怖さがあったので、それをみんな感じて甘く見ているような人はいなかったと思います。本番は本当に自滅してしまったという感覚が強いですね。

伝統の一戦における『違和感』

――レース直前のクルーの雰囲気は

セカンドが沈したことによってレース時間も何時になるのか分からなくて、焦りとか気になることがほかにいろいろあったので、ちょっと注意が散漫だったかなとは思いますね。そこでも焦らずにじっくりできたら、もっといい結果になっていたのかなとは思います。セカンドのレース自体もどうなるんだろうというのがあって、動揺がありました。

――やはりスタートから攻めていくというレースプランだったのですか

プラン自体はそうでしたが実際の内容はそうではなくて、練習のときはいつも思い切ってスタートから入ることができたのですが、本番はどこか抑えてしまっているところがあったと思います。本当に思い切って入ることができていなくて、なかなか追い付くこともできずにむしろ相手にするっと出られてしまいました。そこからはもうやばいやばいって感じでしたね。焦って焦って崩れていって、最後コンディションが良くなって初めて勝負できる段階になったので…。そういう意味ではスタートから思い切ったレースはできなかったですね。

――スタート地点はかなり波が立っていましたが、予想していた程度でしたか

ちょっと想像よりは(波が)大きかったですね(笑)。でも毎年あれくらいは荒れるので、想像よりも2倍も3倍も荒れるもんだと思って心の準備をしていかなければいけなかったですね。

――以前中村選手(拓、法3=東京・早大学院)がスタートが勝負だと語っていて、両国橋過ぎのカーブまでに追い付くか捉えるかしたいところだったと思いますが、それによって動揺等はありましたか

やっぱりそこはありましたけど、漕ぎながらなんとなく思い切って漕げていないと感じていたので、それで余計に焦りにつながったのかなという感じです。

――青松選手や中村選手からコール等は

練習で隅田に行ったときはコックスのコールに少なからず反応があったのですが、本番はすごく静かで、中村がコールを入れてもあんまり反応がありませんでした。そこでなんかおかしいなと思って、すごく盛り上げようと努力はしました。何を言ったかは覚えていませんが(笑)。変えようとはしたんですけど、おとなしいままにずるずるとゴールしてしまいました。

――中盤でもあまり詰めることができませんでした

最初出られなくて相手に離されたということがやはり大きいですね。そこで崩し続けてしまった感じが強かったですね。

――終盤は少し相手を詰めましたね

どちらかといえば後半の方がいい漕ぎができましたが、やっぱりどこかバラバラな感じがしました。誰かが頑張って誰かは焦り続けているような感じで。全員で漕ぐというところが足りず、追い付くまでには至らなかったかなと思いますね。

――一時は2.5艇身差程度まで広がってしまいましたが

そこから追い付けるほどの力はなかったというのが正直な感想です。力自体を出し切れてはいなかったので体力は残っていたと思いますが、全員で艇を押すという部分の能力がなかったですね。

――スパートのタイミングは事前に決めてあったのでしょうか

もともと残り500メートルくらいで入れようと思っていたのですが、差が開いていたら臨機応変に動こうと話はしていました。そういう意味では(早めにスパートをかけたことは)プラン通りですけど、やはり相手が見えない中でずれたまま出し切れずスパートに入らなければならなくなったので、そこがつらかったですね。スパートをかけた時には竹内がやけになったのかというくらい一気に切り替えて良かったのですが、それが後ろまで伝わっているという感じはあまりなくバラバラだったかなと感じます。つらいところでどうしてもクルー全体で集中することはできなかったですね。

敗戦を胸に、狙うは金メダル

夢の金メダルに向け、チーム再建を誓う

――敗戦が決まった瞬間の感覚は

また負けか…という感じしかないですね。途中で上げた時もやっぱりそれが1人な感じがして、全員で漕いでいると感じられなくて…。やっぱ無理かもと思った瞬間もあって、終わってすぐはやはり落胆しましたね。

――その中で青松選手のみ悔しがる素振りをあまり見せなかったように感じましたが

すごく悔しかったのはもちろんなんですけど、下を向いたら全てが終わってしまいそうな感じがしたので、できるだけ平然を装ってはいました。自分もがっくりしたかったのですが、やっぱりどこかで自分が前を向いていなければならないという気がして下を向きませんでした。でも観客の前を通るときにやっぱり涙が出てきて、あそこはやはりこらえられなかったですね。

――昨年の7艇身に対してことしは11/4艇身差でしたが

特に変わんないですよね。負けは負けなので。コンマ差でも10艇身開いていても負けには変わりないのでそんなに大きな違いはありませんでしたね。

――記者会見でもいまも「思い切りいけなかった」と語られていましたが、その最大の原因は

やっぱり意識の問題だと思いますね。体力があるにしてもないにしても最初から思い切っていくことは誰にでもできるはずです。恐れずに全員で漕ぐという意識が弱かった感じですかね。ちょっと慶大を意識してしまったりだとか、周りに気が取られたりしてしまったことによって、思い切りいけなかったんだと思います。

――昨年は7艇身差での歴史的大敗を喫しましたが、今季の敗戦で早大は13年ぶり3連敗となってしまい、ある意味記録に残る大会となってしまいました

一言に悔しいですよね…。きょねんの歴史的大敗にも僕が乗っているわけで、何かちょっと自信をなくしてしまいそうな負け方でもあったので。でもまだまだこれからなので、頑張りたいと思います。

――お花見レガッタ(お花見)の際には「このままでは慶大に負ける」と語られていましたが、そこからの成長は

もし早慶戦にこの流れのままいって、負けましたってなったときに、もっと真剣にやれば良かったなとかあの時もっとこうすれば良かったとか思わないように、いい状態に仕上げていこうと決めていました。クルーの雰囲気自体も良くなったとは思います。お花見以前よりは締まって、いい雰囲気になっていきましたね。

――例えば、来季以降慶大の漕ぎを参考にした方がいいのではないか、などといった考えはありますか

やっぱり慶大は川に対応した漕ぎをしているので、ある程度参考になる点はあると思います。全部を全部まねするのは無理ですけど。いまワセダは水中(を強く押すこと)からリズムをつくっていこうとしているのに対して、ケイオーはリズムから水中、そこから(漕ぎの)長さという順に取り組んでいるので、多少漕ぎが小さくなってもワセダもリズムから組み立てることを考えてもいいのかなという気はしなくもないです。

――コースだと慶大を圧倒し続けていますが、それはやはり水中からリズムをつくっているからということになるのでしょうか

コースは基本的にコンディションがいいので、そうなると水中からつくっていった方がいいと僕は思いますね。もし水中からリズムをつくって速く漕げるのであればそのままでいいと思いますが、それが早慶戦ではできていないので、やっぱりリズムからというところも考えなければいけないのかなと感じますね。

――2週間たったいま、あらためて隅田川はどのような場所でしたか

やはりあまりいい感じはしないですね。

――今回の対校クルーはどのようなクルーでしたか

いい意味でも悪い意味でも安定感はあったかなと。特別速いわけではありませんが、一回一回の練習にしてもあまりタイム差がありませんでした。誰かが元気がないときにも、周りの人が声を掛けたりできていたりもして、安定感のあるクルーだったと思います。

――男子部としては悔しい結果に終わりましたが、来季以降後輩たちにはどのような漕ぎを期待したいですか

いろんなOBの方々にも言われていますが、自分たちで考えてやってほしいですね。いまの監督さんは漕ぎの指導とかもしてくれるので、しっかりとそれを聞いて吸収してやっていってほしいなと思います。

――内田大介新監督(昭54教卒=長野・岡谷南)の指導はいかがですか

結構熱心に教えてくれるタイプですね。いままでのワセダの男子部はクルーごとに目標や狙うポイントが違っていました。ファイナルからつくるクルーもあれば、キャッチからつくるクルーもあって。いまの監督さんは一つポイントを決めて、それに向けて全クルーに指導する感じですね。ある意味目標が明確なので、いいと思います。

――次戦は全日本軽量級選手権(軽量級)となりますが

僕は舵手なしフォアで出場するのですが、正直あまり調子は良くないです。現段階では優勝という目標は遠いと思うので、最終日に残るのは必須条件かなとは思います。

――今季の男子部としてのチーム目標は

いまの最大目標はインカレ(全日本大学選手権)優勝です。軽量級ももちろん狙っていきますが、インカレに向けての通過点といいますか、インカレで優勝するために頑張っていきたいです。全日本(全日本選手権)もありますが、まずはインカレを最大目標として取り組んでいきます。

――夏のシーズンに向けて

金メダルが欲しいです。ひたすらに。ここで金メダルが取れたら何してもいいくらいの気持ちで取り組んでいきたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 細矢大帆、写真 渡部歩美)

◆青松載剛(あおまつ・のりたか)

1992年(平4)4月7日生まれのA型。174センチ、74キロ。スポーツ科学部4年。京都・東舞鶴高出身。2013年度成績:第40回全日本大学選手権M8+3位