【連載】第83回早慶レガッタ事後特集 第3回 3:角南友基

漕艇

 早慶レガッタ初の対校エイトでの出場となった角南友基(スポ3=岡山・関西)。エンジン役としてクルーを鼓舞し続けるも、突き付けられたものは『敗北』という二文字だった。しかし、その悔しさが生んだ変化こそが自身を確実に前へと進ませているといういま、春の大一番を終えての心境を語ってもらった。

※この取材は5月1日に行われたものです。

『負けた』ということの大きさ

早慶レガッタでは対校エイトとして初めて出場した角南

――早慶レガッタから3週間ほどがたちました。いまはどのように過ごされているのですか

僕はサイドチェンジして、前はバウサイドで漕いでいたところをいまはストロークサイドで漕いでいて、これちゃん(是澤祐輔、スポ2=愛媛・宇和島東)とペアに乗っています。早慶戦の時より体力の向上が見られて、強くなってきているなということが感じられて良い練習ができていますね。

――あらためてレースを振り返って

負けた当初は負けを認められなかったというか、すごく悔しかったです。でもいま考えてみると、いろいろと準備が足りていなかったと思います。練習自体は足りていたと思うんですけど、それ以外の時間の使い方や当日のホテルでの過ごし方の面でも自分が集中できる環境づくりをできていなかったのかなと思います。

――ワセダはインコースから追うかたちでのスタートでしたが、どんなレースプランを持って臨まれましたか

絶対に750(メートル地点)では前に出ると決めていました。でもそれで出ることができなくてみんな焦ってしまったかなと。自分がイメージしていたのは、100メートル、200メートルですぐに追い付いてそこからは突き放すということで、多分みんなそういうレースプランだったと思うんですけど、結構750まで頑張ってしまって、体力が奪われちゃったかなと思います。

――特にポイントに置いていた橋はありましたか

橋は常にポイントを決めていたんですけど、そこで中村(拓、法3=東京・早大学院)のコールに絶対反応するということは決めていました。コックスの拓の声は集中して聞いて、ポイントごとにコールが入れられたらしっかり自分たちが反応するということでした。

――両国橋付近の大きなカーブについて

そこを曲がるときはほとんどストロークサイドの人たちに任せて、自分はエンジン役として漕ぎ続けていました。3番は常にエンジン役となるので伝わってきたリズムで最大限で漕ぐということは意識していました。

――最終的にケイオーとの差は4秒。このタイム差についてはどのように捉えていますか

僕、4秒差なんて全く分からなくて、どこにいるかもわからなかったんです。もっと差がついているかとも思っていたので、意外に追い付いていたという印象はありました。

――言問橋では2艇身差ということで最後の追い上げで差を詰めたことになりますね

でもよく分からなかったですね。きょねん(の第二エイトのレース)は追い付いてきているのが分かったので、ラストは根性でいったんですけど、今回はあまり追い付いている感じがありませんでした。頑張っているんですけど、桜橋を過ぎた辺りではやばいと思いました。ただクルーの全員が諦めていなかったと思います。

――コックスの中村選手から指示以外にも声掛けなどがあったのでしょうか

全然覚えていないです(笑)。レース直後とかだったら覚えていたのかもしれないんですが、『負けた』ということが大きすぎて、『負けた』ということだけが自分の中に残ったんです。レースの内容もあまり覚えていないんですよね。テレビとかを観れば思い出すのかもしれないですけど、この前放送されたものも僕は観ませんでしたし。

――ご自身の中で3番としての役割はどれくらい果たせたと感じていますか

自分としては80パーセントくらい。出し切れたという感じではあったんですけど、なんで負けたのか分からなくて…。練習以上に力は出せたと思うんですけど、それで勝てないというのは何かが足りなかったんだなと。その何かというのがまだ分からないので、サイドチェンジして自分をもっと強くするためにいま練習しています。

「勝ちたいのは自分たちだけではない」

――早慶レガッタに先立って行われた早慶対校競漕大会観漕会(観漕会)では10秒以上の大差をつけての快勝だったそうですが、本番までの調整を振り返って

観漕会は結構ぶっちぎりで勝ったんですけど、1000(メートル用の練習)は結構ワセダはやっていて、あんまりケイオーは1000の練習をしていないので、勝って当然かなと思います。ただ、隅田では立場が逆になってくると思ったので、そこは気を緩めずに常に危機感を持ってやっていきました。一番いけないことが体調を崩すことで、練習してきたことが全て意味なくなってしまうので、体調管理にしっかりと気をつけてあとは体を休めつつ、ある程度体に緊張感や疲れを残した状態で試合に出ることで日頃の力が出るかなと思ったので、それを目標に僕はやってきました。

――本番でのコンディションは

コンディションはめちゃくちゃ良かったですよ!ただ昼飯を少し食べ過ぎてしまったかな(笑)。レストランがあってスパゲッティの大盛り800グラムを食べました。でも15時からのレースで、10時くらいから食べたんですけど、結果的にはエネルギーになってくれて良かったです。

――隅田川での練習は4月に入ってからも多くなさったのですか

いつもだったら3時に起きて荒川に艇を出して、そこから漕いで隅田川まで行くんですけど、1回トレーラーで艇を運んで、疲れていない状態でつまり本番をイメージした状態で練習しました。

――振り返った上で最大の敗因は何だったと思いますか

一番難しいですね…。やっぱりレースプランを決めていたのにそれができなかったことかな。750で追い付くと決めたなら、絶対に750で追い付かないと駄目だと思いました。ただボート以外でもそうですが、練習でできないことは(本番でも)できないと思うんです。サッカーにしても野球にしても練習でやっていること以外のことを試合でやれって言われてもできないと思うし、ボートはそれが特に出るスポーツだと思います。僕らは750で出られなかったことによって、そこからのレースプランについての不安が漕手に出てしまったり、あまり出てはいけない面が出てしまいました。

――エイトでは全員で漕ぎを合わせる難しさがとりわけ大きいと思いますが、そのなかでも自分の持ち味を出すということはできたのでしょうか

五分五分。自分が漕いで思っていることと、周りから見て漕げているなというのは全然違うと思うので、自分的には頑張ったつもりですが、駄目でしたね。

――第二エイトとして出場した昨年との違いは

僕はポジションが違ったので、まず思っていることが違います。雰囲気は自分が上級生になったので、自分から雰囲気をつくろうとしたりして、雰囲気は良かったと思います。昨年も雰囲気は良かったんですけど、早慶戦に関して知っていることがゼロだったので、全部先輩に任せてそれを吸収するという感じで、ある程度の緊張感がありました。今回は早慶戦の雰囲気も分かっていたので、いまの4年生にある程度は任せて、あとは自分が雰囲気づくりをしていこうと心掛けました。あとはストロークから3番になったことで、ストロークを最大限バックアップして助けるという気持ちでいました。一番前がリズムをつくる役割なので、楽にリズムを出してもらえるように自分がエンジンになって、とにかくパワーでバックアップしてやるという気持ちで漕いでいきました。昨年は(後ろの人たちに)助けられたので。

――レース後に周囲から言われた言葉で印象的だったものはありますか

一番覚えているのは、OBの人たちとご飯を食べたんですけど、その時にすごく怒られて。それだけ怒るというのは僕らに勝ってほしいという気持ちが強いからで、多分僕たちのことを思ってくれていないとしてくれないとことだと思います。そこで一喝入れてもらったことで、ワセダの大きさを知ることができたし、勝ちたいのは自分たちだけではないんだということを感じました。

『I’m not what I used to be』

笑顔を交えつつ対談に応じる角南

――ことしの早慶レガッタを通して今後強化していきたいと感じた点は

個人としては、自分に牙を向けられるように。練習でもきついところで諦めない。きつくなってくるとどうしてもきついと思ってしまうんですけど、最近これちゃんとペアに乗ってストロークサイドになったことで、だいぶそれがなくなってきたんです。強くなりたいという気持ちが強まっているので、いまはあまりごちゃごちゃ考えているわけではなく、自分に牙を向けていこうと思っています。とにかく自分に甘かったと思ったので、一回初心に戻って『I’m not what I used to be』で頑張りたいです。

――サイドチェンジはとても大きな違いがあると思うのですが

ありますよ。やっぱりいままでやってきたことが全て逆になるので、難しいですし。最初は「お前バウサイドの方がいいよ」とかいろいろと言われていたんですけど、周りの声を気にしないでやっていくうちにタイムとかも日大の人のタイムに勝っていたりしているので、だいぶ調子は良い感じです。

――ストロークサイドとバウサイドの両方の経験は今後強みになっていきそうでしょうか

1年生で入ってから、ストロークサイド、バウサイド、ストロークサイド、バウサイドときて、それでいまストロークサイドなんですよね。両サイドの気持ちが分かるということで、バウサイドだけ漕いでいたらストロークサイドはどうしてほしいかということは分からないと思うし、逆にストロークサイドはただリズムをつくるだけではなく、バウサイドがどういうリズムをつくってほしいのかということや、こういうふうにした方が合わせやすいということをみんな絶対に考えているので、そういう部分を僕は他の人より分かると思うので、自分を強くするだけでなくて、合わせやすい漕ぎをすることで他の人の熱が入りやすくなって強くしていけるように。自分も伸ばして、相手も伸ばしてということですね。助長していきます。

――現在是澤選手とペアを組まれているとのことですが、是澤選手の良さは

角南 (側にいた是澤選手の方を見て)でかい!(笑)あと、これちゃんの良いところは先輩にも遠慮なく怒ってくれるところです。「漕げよ!」とかね。

是澤 そんなこと言ったことないですよ!

一同 (笑)

角南 やっぱり遠慮なく言ってくれるのでこっちからしたらすごくやりやすいですね。いままでは自分が先輩に向かって言ってしまう方だったんですけど、1年生の時も僕は4年生に対して怒ったりもしていました。1年の夏で(笑)。ただ自分の言いたいことばかり言っていたら駄目だなと思って、昨年の冬から自分の意見は少し抑えて、受身になる部分もつくるようにしたら自分が伸びてきたかなという感覚があります。言うだけは簡単なんですけど、言ってもらえる環境をつくることで自分の足りないところが分かったりしますしね。

――それが一つの成長点だということですね

そういうことですね!

――ここから勝利のために必要になってくることとは

自分の中で決めているキーワードが三つあります。まず体重。いま体重管理にすごく気を遣っていて、体重を落としているんです。身長が低いので、体重を落とした方が艇が進むと言われたので、落とすことにしました。

――いまの時点でどれくらい絞られたのですか

早慶戦から9キロくらい減りました。この前風邪をひいて、ちょうど痩せる機会はあったので。

――食事の面でもかなり気を遣われているのですか

そうですね。あんまり気にしてはないかなと思いつつ、いい感じに痩せてきて艇もだいぶ進んできています。

――残り二つのキーワードは

一つは環境づくりです。部屋を掃除することです。僕の駄目なところが忙しくなってくると部屋が汚くなるということなので、常にきれいにするということを意識して毎日1時間くらいやっています。

――部屋を掃除することでどんな効果がありますか

心が磨かれる(笑)。あと物がどこにあるか分かるので、どこにあったかなということがなくなって、時間が有効活用できます。最後の一つはさっき言った自分に牙を向けて練習をするということですね。

――今後の目標は

今後の目標はインカレ(全日本大学選手権)で優勝するとかではなくて、近い目標にしようかなと思いました。まず夏のシーズンの本格的な練習に入る前にペアでのタイム目標をつくろうと思います。エルゴではなく水上でのタイム目標をつくって、それを目指して頑張っていきたいです。徐々にしか近づけない目標と、いまは届かないけど、頑張ったら届きそうな目標があって、それだったらどっちがいいのかなと考えた時に、前者はすごく時間がかかりそうなので、常に本気で狙える目標を立ててそれを達成していくことがいいかなと思いました。それが達成できたら自分でまた目標を考えていきます。

――ありがとうございました!

(取材・編集 荒巻美奈、写真 細矢大帆)

◆角南友基(すなみ・ゆうき)

1993(平5)年10月25日生まれのA型。176センチ、76キロ。岡山・関西高出身。スポーツ科学部3年。2013年度成績:第82回早慶レガッタ第二エイト優勝、第54回全日本新人選手権M8+優勝