【連載】『奪還』への船路 【第7回】2:小林大河×6:田﨑佑磨

漕艇

 この特集は主に早慶レガッタに対校として出場する9人にスポットライトを当ててきた。今回は最終学年を迎えた田﨑佑磨副将(スポ4=茨城・潮来)、小林大河(国教4=東京・早実)に早慶レガッタへの思いを伺った。その言葉にはこれまで負け続けた早慶戦への悔しさ、そして先輩たちのためにも負けられないという決意が感じられた。

※この取材は3月4日に行われたものです。

「最後の年を迎える上でのいい準備ができた」

留学の経験を力に対校エイトのシートを勝ち取った小林

――4年生になって変わったことはありますか

小林 自分は最上級生としての自覚を感じざるを得ないなということは感じています。自分は人を怒ったりというタイプではないんですが、自分が留学から帰って来たら、同期たちが上級生らしく後輩を叱ったりできるようになっていたので、自分もそうやって成長しなければなとは意識しています。

田﨑 最上級生になったということもありますが、自分としては副将になったことが大きいですね。いま部内にはチーム制度というものがあって、チームT(田﨑)という自分のチームができたことで責任が増しました。最上級生だからというところではあまり変わらないですね。ただこの前、誕生日にいろんな後輩からプレゼントとかメッセージカードとかもらってこんなに後輩いたんだなと実感してびっくりしました。

――チーム制度という話がありましたがチーム制度とは具体的にはどのようなものですか

田﨑 部で新体制になるにあたってもっと競争力を増したいということと、もっと縦のつながりを強くしたいということがありました。チーム制度をつくることでおのずと競争も活発になるし、後輩も分からないことがあったらどの先輩に聞けばいいのか分からないじゃなくて、同じチームの誰に聞けばいいのか明確にできるので縦のつながりの強化にはつながっています。いままでは同期同士、横のつながりがメインでしたが新体制で変えてみました。

――どのような感じでチームは別れていますか

小林 自分は田﨑と一緒のチームです。もともと仲はそこそこいいんですけど、同じチーム唯一の4年生なので一緒にいる時間は前よりも増えましたね(笑)。

田﨑 チームは人間関係とか力とかバランスがうまく取れるようにはつくってあるんですよね。

――昨シーズンはどのようなシーズンでしたか

小林 自分はずっと孤独な戦いでした。留学先(アイルランド)でずっとボートを漕いでいたのですが、なかなかコミュニケーションが取れなくて、自分としても努力したのですがなかなかうまくいかず。結局何を自分はしたいんだと考えて、なんとかボートであいつらを認めさせたいと思って、ボートハウス通って練習を続けました。自分もその時はとてもつらくて、周りに留学生はたくさんいるのになんで自分はボート漕いでるんだろうと辞めたくもなりました。でも、それを続けられたのは同期が新人戦(全日本新人選手権)を2連覇していてここでサボっていたら会わせる顔ないなと思って頑張りました。帰ってきてからは全日本大学選手権(インカレ)、全日本選手権と出してもらって、自分の一緒にクルーを組んできた長山さん(文哉、平26基理卒=東京・早大学院)の最後に関われたのは良かったですね。

――アイルランドの選手はいかがでしたか

小林 やっぱデカいですよね。そもそも軽量級なんて自分くらいしかいなくて。軽量級の選手がいてもエルゴ(陸で漕力を測定する機械)とかもものすごく速くて本当に信じられない世界でした(笑)。ただいろいろと努力してその学校の対校クルーに乗れてアイルランド選手権でメダルを取ることができたのはいい思い出になりましたが、その過程はつらかったです。

――田﨑さんにとっての昨年はいかがでしたか

田﨑 終わってみれば最後の年を迎える上でのいい準備の年になったなと感じています。きょねんインカレで対校から落ちて、悔しさを通り越して妙な気持ちになりました。実際に対校エイトが走っている姿を見ると自分が乗ってないのを実感しました。インカレは対校よりいい成績を取ることしか考えていませんでした。ピンク(日大)をつぶして金を取るためにはどうするべきかだけを考えていました。結果的には取ることができたので自分のボート人生の中では良かったなと思います。日々艇速の伸びが実感できたのはいい経験でした。

――舵手付きペアということで一番つらい艇だと思うのですがそれで得たものはありますか

田﨑 得たものっていうか、自分が選んだ種目だったんですよね。対校から落ちて、バウサイド、ストロークサイド両方ができるということもあって自分が補欠になりました。対校はメダル当たり前、セカンドの自分たちの艇も最低でもメダルという目標で誰とどれを漕ぎたいか聞かれて、付きペアでいくと決めました。自分で選んだのですが実際つらかったですね。終わってから美談みたいな感じであの三人だからできたとか言いますが、本当にそんな気持ちでしたね。

カギは一体感

終始熱いコメントを残した田﨑

――大学人生最後の早慶レガッタに懸ける思いはいかがですか

小林 自分はとても早慶戦への思いは強いです。早実はあまりボートに真剣な学校とは言い難い状況でした。ただ、早慶戦だけはみんなが一致団結して漕ぐことができて、負けましたけどその経験が元で大学でもボートを続けています。2年時の対校で絶対勝てると思って負けて、3年は自分は留学していて出られないけどきっと勝ってくれると思っていたのに負け。その知らせを聞いた瞬間、次こそ自分が乗って勝つと誓いました。自分はまた乗ってスタートラインに立てたなと思います。

田﨑 いま自分は6番に乗っていて、おととし吉原さん(至、平25スポ卒=現中部電力)の後ろに乗っていて、早慶戦どうこうという問題ではなくて6番の借りは6番で返したいというのがあります。ことしどんな艇に乗るかは分かりませんが、全く同じ場所で同じ景色を見て3年間漕げるのは自分だけなのでどうしても勝ちたいです。

――早慶レガッタに向けていまのクルーの練習状況はいかがですか

小林 それは自分はあんま分からないですね(笑)。田﨑頼む。

田﨑 何だそれ(笑)。例年の対校に比べてことしのいい点は自分から水中を出すという意識が強くて、自分も出すし、周りにも出すように伝えるということがうまくできていますね。8人が漕ぐわけで、1人さぼったら他の人がつらくなる。一人一人が精一杯出すことが重要だと思います。今回はジャパン組とかが抜けることが多いのですが、結果的に一人一人が成長して艇が速く進められるようになればいいだけだと思います。いままで基礎を築いてきてこれからクルーとして伸びるところですが、ここまでは問題ないと思いますね。

――隅田練もありましたが自分たちなら勝てるという感触はありますか

小林 自分たちのクルーは間違いなくこの部で最も速い8人が乗っている。それがいかにまとまれるかというのがポイントです。ただ、うちのクルーは隅田川に出てもなぜか問題なく漕ぐことができました。例年はどのクルーもバタバタ崩すのですがそれがうまくいってるのはいいことだなとは思います。どう?

田﨑 その通りだね。

小林 割とみんなそういう感触だとは思いますね。

――自分たちのクルーで伸ばしていきたいことはありますか

小林 やはり隅田練のときに漕ぎ自体は悪くなかったのに一人一人考えてることがバラバラなのが分かりました。ストロークペアは長くいいリズムで漕ごうとしているのに、後ろは「全然リズムが悪かったので(シートが)ラッシュしていました」というように言っていて、それは目指している方向が全然違いますよね。いろんな意見があってもいいけど、最終的にはキャプテンである青松(載剛主将、スポ4=京都・東舞鶴)がまとめて一つの方向性を決めたいなと思います。

田﨑 自分が思うのはどのクルーにも言えることですが、ここぞってとこのクルーの強さを決めるのは一体感だと思うんですよね。気持ちも重要。小林もいったけど同じ方向性を持って練習することは当たり前。ただ、一体感へのきっかけはなんでもいいんだけど、コックスがこのコールをかけたら必ずみんなこう返すということを決めることがものすごく大事。8人で艇速を上げることは一体感なくしてはできないと思うし、これができるかできないかは長距離の3750メートルで勝つためには強みにも弱みにもなり得ると思います。

――3750メートルという距離の感覚はいかがですか

小林 おととし3000メートルを漕いだときは何が何だか分からなくて短く感じましたね。波の影響で頑張るのですが、全部が一枚入っている(ブレードの上端が水面にぴったりと合っている)わけでもないのでちょっと戸田とかとは感覚は違うんですよね。自分はもっと隅田練をしたほうがいいと思います。ケイオーのOBの方と会った時に「ワセダは隅田練をしなさすぎる。あと3回やってればワセダが勝ってた」と言われたのでもっと川に慣れるのが必要ですね。

――田﨑さんは隅田川についてはどのように感じていますか

田﨑 隅田川で勝つポイントはいつも漕いでいる場所とは違うということですよね。注意を散漫にする要素がたくさんある。いつも見たことのないようなデカい船が5隻もあってそれが自分たちを追いかけてくる。途中には観光客を乗せた観光船、観衆、おまけにスカイツリーがあったり何個も橋をくぐったりする。声を掛けられるし、波もすごい。普段のレースでも風や波に気を取られるのに隅田川だとその何倍も気を取られる要素がある。そのことに当たり前だと慣れることが必要かなとは思いますね。

「自信を持つことが大事」

強い思いを胸に、最後の隅田へ挑む

――これまでの早慶レガッタで負けが続いていることについてはいかがですか

小林 やはりどこかでケイオーをなめているんでしょうね。「なめたら負ける」と毎回口に出しては言っているけどそうなんでしょうね。やはり、コースで戦うと10秒以上差を付けて勝てる相手なんですよね。それにとても変わった漕ぎをする。正直2年前どこかで勝てるという気持ちがあったのに負けました。彼らの漕ぎは川に特化しているんだと認めてまねできるところはまねしていかなければいけないなと思いますね。

――そんなコースでは負けない相手に負け続けてそのときの気持ちというのはいかがですか

田﨑 負けたときにゴールテープを切った時の記憶は鮮明に覚えている。おととしなんか特に覚えていますね。ゴールして新藤さん(耕平、平26スポ卒=山梨・富士河口湖)が泣き崩れて、吉原さんも下を向いていて、コックスのコールは涙をこらえながらも自分たちを励ましてくれて、「とりあえず帰ろう」と言ってくれて。観客席では罵倒されることもなく、「お前ら良く頑張った。らいねんこそ勝ってくれ」と言われて。罵倒してくれれば気は楽なのですが、みんなそんなことはしなくて。負けたからこそ背負うものの大きさが分かりますよね。あらためて自分たちは負けちゃいけないんだなと。それを2回もしていますから、負ける訳にはいけないですよね。(

 

――ケイオーを倒すために必要なものはどういうものだと思いますか

小林 高校を含めて4回ケイオーに負けて、勝つ準備はできている。あとは勝つだけだと思いますね。個人個人はいいんだからあとはまとまる。うちのクルーは絶対的な漕ぎの見本みたいなのがいないんですよね。だからこそ一人一人が責任を持って積極的に絡むことが重要だと思います。

田﨑 自分が思うのは「本当に勝つ自信があるのか」ということだと思いますね。「俺は勝つよ」そんなことは誰でも言える。ただ練習を積み重ねてスタートラインに立って果たして本気でその言葉が言えるのか。いままで日大に本気で勝てると思ってスタートラインに立っていたか、時の運とか抜きで勝てるとみんな思っていたかと聞かれると自分は自信はないですね。もちろん日大のエイトは速いから仕方のないことだけど。自分は3回目の早慶戦で負ける気はしない。勝ちますか?と聞かれたら「勝ちます」って即答すると思う。ただ本当に冷静に考えて、隅田川という場所のことも考えて100パーセント勝てますか?と聞かれたら何パーセントかは違うんじゃないかと思う。ただそれをつぶして気持ちとしても勝って、絶対に俺たちは勝つ。「ワセダは負ける訳ないじゃん」じゃなくて冷静になっても「絶対に勝てる」と感じて試合に臨めるか臨めないかはとても大きいと思います。チームとして「俺たちは勝てるんだ」と自信を持つことが大事だと思います。

――最後に早慶レガッタへの意気込みをお願いします

小林 早く漕ぎたい。これだけですね。

田﨑 みんなで勝ちたいですね。1年前、早慶戦が終わってから自分たちの代をいい代にしようと取り組んできました。積極的にコミュニケーションを取るように同期ミーティングの数も増やしました。だから、自分が勝ちたいのもあるけどみんなで勝ちたい。女子クォド、セカンド、対校。そうすれば試合に出ていない人もみんなうれしい。飾る訳でもなくみんなで勝利を味わいたいです。

――ありがとうございました!

(取材、編集 辛嶋寛文、写真 末永響子)

◆小林大河(こばやし・たいが)(※写真左)

 1992年(平4)9月29日生まれのO型。180センチ、65キロ。東京・早実高出身。国際教養学部4年。ポジションは対校エイトの2番。きょねん早慶レガッタで負けたことをツイッターの速報で知った小林選手。3750メートルでことし勝つためにアイルランドの地で3750回腹筋と背筋をして意識を高めたとのこと。隅田川でその力を発揮してくれることに期待が高まります!

◆田﨑佑磨(たさき・ゆうま)(※写真右)

 1993年(平5)1月25日生まれのO型。181センチ、82キロ。茨城・潮来高出身。スポーツ科学部4年。ポジションは対校エイトの6番。最近ハマっていることを就活と語る田﨑選手。川で30キロ漕いだあとにそのまま東京駅へ向かうこともあったとのこと。4年生にとって早慶レガッタの練習はひときわ厳しいようです。就活、早慶レガッタ両方で成功を修められることを祈っています!