ベスト8を懸けた関大との大将戦、2勝3敗1分と負け越していたところに出場したのは「自分は負けるわけにはいかない」といつも勝利に貪欲だった主将の小坂怜亜(教4=大阪・関西福祉科学大高)。互いに一本を取っており、どちらがもう一本を先取するかで試合が決まる中、チームメイトからの応援の声、OBからの「もっと落ち着け!」といったアドバイスが響き渡る。しかし現実は甘くない。8強への道は遠かった。先に一本を取ったのは関大の選手。小坂の率いる早大拳法部の1年間の戦いはここで終わったのだ。
試合に挑む田部井を鼓舞する小坂
師走に入り肌寒さが一層増したこの日、全日本学生拳法選手権大会(通称・府立大会)が行われた。いわば大学日本拳法の集大成の戦いだ。今までの大会で苦しめられた関東の強豪・明大や中大に加え、関西の強豪校も加わり今まで以上にどこの大学も気合は十分。早大は昨年の初戦敗退という結果からシードではなく1回戦からの戦いとなった。しかし昨年の府立、そして3回戦敗退となった6月の全国学生選抜選手権大会での雪辱を果たすべく、早大日本拳法部も熱気に満ちあふれていた。
1回戦、2回戦を快勝で進んだ早大日本拳法部。3回戦の相手は昨年、一昨年と敗北を喫している関西大学。トーナメントの関係で休憩時間が1試合分のみだった早大だが、円陣を組みいつも以上に声を張り上げ気合十分な様子で挑んでいった。先鋒はことし練習を取り仕切ってきた森川晋平(スポ3=奈良・青翔)。試合開始から互いに攻め合っていたが、開始52秒のところで相手の拳が胴に入り一本を取られてしまう。その後森川も攻撃の手を止めなかったが、なかなか一本につながらない。残り時間も減り不安が募っていたが、ここで負けてはいられないというかのように、残り12秒で相手を押さえ込み面を突いて一本を奪取。「引き分けてしまい、いい流れを作れなかった」とは語ったものの、負けることは何とか防ぎ次へとつなげることができた。続いて次鋒は機敏な動きでチームの勝利に貢献してきた杉井政樹(スポ1=大阪・関大高)。「できる限り早く、完勝して次の選手に繋げたいなと思っていました」の言葉通り、開始3秒でいきなり胴突きを成功させる。さらにその8秒後には再び胴を突き快勝、早大がリードした。続く参鋒は田中照将(商3=東京・麻布学園)。杉井の作った勢いに乗り開始4秒で面を突き一本を獲得。しかしその後は相手に押され気味になってしまう。開始1分を過ぎたところで続けざまに2回押さえ込まれてしまい、二本を献上してしまう。1勝1敗1分けと試合が振り出しに戻ったところで中堅に選ばれたのは毛利公名士(商3=東京・つばさ総合)。対する相手は3段と格上。果敢に挑むも押さえ込まてしまい一本も取ることができずに敗北、今度は関大にリードを許すことになる。
小田の押さえ込みはこの日も一本を奪取していった
残る3人はこの大会で引退となる4年生。はじめに参将として出場したのは小田修一郎(スポ4=大阪・関大高)。得意の押さえ込みで1、2回戦を勝ち進んできた小田は、関大戦でも押さえ込みをさく裂させる。開始1分で相手を倒すと、離さんとばかりにがっちりとつかまれた相手の腕を振るい落して面を突き一本を獲得。さらに残り40秒のところでも相手の足をつかみひっくり返したうえで面を突き一本。試合を再び振り出しに戻した。続く副将は田部井達也(スポ4=東京・日大二)。この日はまだ勝てておらず何とか一勝を挙げたいところ。しかし開始わずか2秒、いきなり勝負に出た相手の攻撃を防げず一本を取られてしまう。さらにその後足を滑らしたところをそのまま押さえ込まれ再び一本。勝利とはならなかった。ここまで2勝3敗1分け。こうして勝負の行方は主将の小坂に託された。チームのメンバーから、OBから、様々な応援の声が響き渡る中、大将戦が始まった。激しい戦いが繰り広げられていたところで、小坂が蹴りを入れた際にその足をつかまれてしまい、それがそのまま一本と判定を受ける。しかし後がない状況でも焦りを見せず、落ち着いて機会をうかがう小坂。そして試合開始から半分の時間が経過しようとしているとき、小坂の面突きが見事に決まった。互いにあと一本という状況、会場のボルテージが上がっていく。しかし終わりは突然やってきた。再び小坂が蹴りをいれ、相手の胴に入るかと思われたが、相手が小坂の足をしっかりつかんだ。それを振り切れぬまま、審判により白の旗があげられた。ここで試合は終了、結果として2勝4敗1分けで集大成となる府立大会はここで幕を閉じた。
試合を終えた小坂のもとへ集まるチームメイトたち
ベスト16という結果に選手は何を思うのか。府立での全国優勝を目標にしてここまで突き進んできた早大拳法部にとって決して満足いく結果ではないだろう。しかし少なくとも昨年の戦績を超えたというのも事実だ。副将の森川の言うように「シンプルに自分の実力が足りなかった」とまだまだ実力不足を痛感したと同時に、この一年を通して主将の小坂が「チームとしてはよくなれた」と感じられるほど早大拳法部が一つになれた。各々が悔しさ、嬉しさを感じ、その思いを競技にぶつけていく。そうして個人として、チームとして成長し強くなっていけるのであろう。来年度以降も日本拳法部が目指すものは変わらず府立で優勝すること。引退する4年生の思いを背負って、これからも彼らは突き進んでいく。
戦い抜いた早大日本拳法部
(記事 鈴木隆太郎、写真 鈴木隆太郎 柴田侑佳)
結果
▽男子団体戦
1回戦 対大産大 5勝1敗1分
先鋒 〇太田翔一朗(先理2=愛知・海陽中等教育学校)
次鋒 〇田中照将(商3=東京・麻布学園)
参鋒 〇森川晋平(スポ3=奈良・青翔)
中堅 △杉井政樹(スポ1=大阪・関大高)
参将 〇小田修一郎(スポ4=大阪・関大高)
副将 〇小坂怜亜(教4=大阪・関西福祉科学大高)
大将 ●田部井達也(スポ4=東京・日大二)
2回戦 対名工大 6勝1敗
先鋒 〇毛利公名士(商3=東京・つばさ総合)
次鋒 〇森川晋平(スポ3=奈良・青翔)
参鋒 〇田中照将(商3=東京・麻布学園)
中堅 〇杉井政樹(スポ1=大阪・関大高)
参将 〇小田修一郎(スポ4=大阪・関大高)
副将 〇小坂怜亜(教4=大阪・関西福祉科学大高)
大将 ●田部井達也(スポ4=東京・日大二)
3回戦 対関大 2勝4敗1分
先鋒 △森川晋平(スポ3=奈良・青翔)
次鋒 〇杉井政樹(スポ1=大阪・関大高)
参鋒 ●田中照将(商3=東京・麻布学園)
中堅 ●毛利公名士(商3=東京・つばさ総合)
参将 〇小田修一郎(スポ4=大阪・関大高)
副将 ●田部井達也(スポ4=東京・日大二)
大将 ●小坂怜亜(教4=大阪・関西福祉科学大高)
コメント
小坂怜亜(教4=大阪・関西福祉科学大高)
――試合を終えて、率直な感想は
きょうは関大に一番思いをぶつけるというか、対策を練って挑みました。結果としては負けたけれど、やることをやって負けたので気持ちいい終わり方でした。
――小坂選手は関大戦では、2勝3敗と重要な場面でしたがそれに対するプレッシャーなどはありましたか
プレッシャー自体は特にはなかったです。相手が前の遠征の時には勝ってる選手で、絶対に勝てない相手ではないという思いで気楽には戦えたんですけどその中でも少し硬くなってたりするところがありましたね。
――ことし1年を通して、求めていたチームに慣れたと感じますか
最初のほうは漠然と試合に勝ちたいという思いでみんなやっていたんですけど、途中から府立で優勝するという目標を立てたことで練習の質も上がっていましたし、チームとしてはよくなれたのかなと思います。
――日本拳法部とはどのような存在ですか
一番素が出せる場所なのかと思います。みんなミーティングで意見をぶつけ合っていたし、気を遣わなくてもいいという部分で一緒にいやすい場所だったのかなと思います。
――今後競技はどうされますか
選手としてはもうやらないと思うんですけど趣味として続けたいとは思っていて、そこでもし早稲田に練習しに行くことがあれば後輩の役に立っていければと思います。
――後輩たちに向けてメッセージをお願いします
今年1年通してけがで練習がまともにできなかったという人が多かったので、けがだけには注意して、府立に向けて全力を出してください。
森川晋平(スポ3=奈良・青翔)
――きょうの試合を振り返ってみていかがですか
悔しい部分が多くて。自分は先鋒で出て、勝つつもりで挑んだのですが引き分けてしまい、いい流れを作れなかったというのは反省です。シンプルに自分の実力が足りなかったのかと思います。
――1、2試合目は快勝でしたが、3試合目は苦戦を強いられました
相手が高校で拳法をしていた時から知っていた相手でした。しかし大学に入ってから戦ったことがなかったので手探りの部分があって、やってみて意外と違ったなと思いました。当初予定していた戦略とは感覚が違って使えなかったので、もう少し早く対策していればまた違った結果になったのかなと感じます。
――この1年を振り返ってみていかがでしたか
練習は僕が仕切らせてもらったのですがあらためて先輩方のすごさに気づけました。部活自体も4年生のおかげで楽しくできたかなと感じます。
――4年生の先輩にメッセージをお願いします
3年間と一番長くお世話になった先輩方なので感謝の気持ちを、「ありがとう」と伝えたいです。
――来年は森川選手たちの代となりますがそれに向けて意気込みをお願いします
自分が全勝するのはもちろん、チームとしてももっと上を目指して、賞を取れるようなチームにしていきたいと思います。
杉井政樹(スポ1=大阪・関大高)
――きょうの試合を振り返っていかがですか
全体を通しては、早稲田が狙っていた戦いはできたと思います。
――狙いはどのように定めていたのでしょうか
事前に組み合わせを見て、試合を研究したりした上で、誰がこういう動きをしよう、だとか、この役割は誰にやってもらおうとか細かく取り決めました。それぞれが仕事をきっちり果たせていたと思っています。
――ではその中できょうの杉井選手にはどのような役割がありましたか
主に3回戦(関大戦)での話になってしまうんですけど、先鋒の森川さん(晋平、スポ3=奈良・青翔)に続いての自分の出場で。森川さんが1本取り返して引き分けで帰ってきて下さったので、自分が負けてしまうと一気に悪い空気がチームの中に流れてしまうような状況でした。なので自分は、できる限り早く、完勝して次の選手に繋げたいなぁと思っていました。
――では正に思った通りの展開の戦いだったのではないでしょうか
そうですね、ことし一番くらいで集中できていましたし。技とかも狙っていた通りに決まってくれたので、自分にできることはしっかり果たせたと思います。
――きょねんは入学前ではありましたが、この大会を見に来られていました。ことしはどのようなお気持ちで出場されましたか。
ちょうどきょねんのこの大会で、初めて早稲田の試合を生で見たんです。そして、あの悔しい結果を目の当たりにして、このチームに自分が入ってリベンジをしようと誓っていました。ことし1年戦わせていただいて、この大会を迎えてチームの力として一役担うことはできたんじゃないかと思っています。
――この大会で一年間の試合が全て終了となりましたが、入学初年度はどのような年でしたか
まず痛感したのは、大学生と高校生の拳法の差ですね。フィジカルだったりパワー、テクニックと全ての項目で力の差がありました。大学生になってくると、技術的に出せる技とかの幅も広がってくるので特にですね。
――高校から続けてこられた選手の方は、関東と関西の拳法の違いで少し苦労されるというお話も伺ったことがありますが
一応、拳の握り方であったりだとか、型の違いであったりだとか細かい違いもありますし、戦いの組み立て方とかも異なってくるので、大学から始めた他大の選手との戦いには少し合わせづらさもありましたね。
――来年度へ向けての意気込みをお願いします
ことしで絶対的なエースであった小坂さん(怜亜主将、教4=大阪・関西福祉科学大高)がこれで引退となってしまって、来年度は森川さんを中心としたチームを作っていくことになると思うんですが、ことし森川さんが担ってくださっていた主将の下で実力を発揮しなければならない立場は自分にも回ってくると思っています。今年度、小坂さんと森川さんが担ってくださっていた役割をしっかり引き継いで、チームに勝ちという形で貢献できるような選手になっていきたいと思います。