学生拳法界の頂点を決める全日本学生選手権(府立)。昨年ベスト8に終わった悔しさを晴らすため、この日のために1年間練習を積んできた。シードの早大は2回戦から登場すると初戦の大阪体育大戦を4勝3分と負けなしで快勝。続く3回戦も難なく突破すると、相対するは関西の強豪・関西大。ベスト4進出を懸けたヤマ場がやってきた。
7人が順番に戦い、先に4勝すれば勝利が決まる団体戦。先手を取って有利に試合を進めたいところだったが、まず主導権を握ったのは関西大だった。早大は先鋒に素早い動きで相手の攻撃を交わす拳法が持ち味の松田道明(基理4=東京・早実)を起用するが、勢いに押し切られ敗北。次鋒を経験豊富な4年生・中山拓也(基理4=智弁和歌山)に託したが連敗を許し暗雲が立ち込める。
だが、簡単には負けられない早大にも意地がある。小枝信介(社3=埼玉・西武文理)、下島海(創理4=東京・巣鴨)が投げ技を軸に攻めて連続二本勝ちでタイに戻すことに成功。三将・田中健博(商3=東京・国分寺)が開始36秒で二本を奪われる痛恨の敗北を喫したものの、あとがなくなった状況で副将戦に登場したのは1年生の橋本周平(社1=大阪・清風)。プレッシャーのかかる場面だったが「ずっと研究をしていて1―0で逃げ切りたいと考えていました。狙い通りです」と強心臓ぶりを発揮。残り24秒、待望の胴突きで一本を奪うとそのまま逃げ切り、望みをつなぐ大金星を挙げた。
望みをつないだ橋本(左)
大将戦に回せば勝てる――。石田勝希主将(スポ4=大阪・初芝立命館)に絶対の信頼を寄せるチームの誰もがそう思っていたかもしれない。だが、勝利を目前に沸き立つ早大の前に関西大のカベは高くそびえ立った。開始15秒で出鼻をくじかれる面突きを浴びると、得意とする蹴り技がことごとく封じられ、自分のペースに持ち込むことができない。苦戦を強いられながらも勝利を信じる仲間の声援を一身に受けて戦い続ける石田。それでも、隙を見せない相手に対し劣勢を覆すには攻め手に欠けていた。最後は繰り出した左足を捕まえられ、試合を決定づけられる一本。熱戦の末にベスト4進出はかなわず、早大の挑戦は幕を閉じた。
足を捕まえられる石田(右)
「早稲田大学に入って自分だけの力じゃなくてチーム全体のレベルを上げることも必要なんだなというのを考えられるようになった」(石田)。敗北の悔しさをにじませながらも、この一年間、主将として、エースとしてチームを引っ張り続けてきた男の表情は晴れやかだ。入学時には日本拳法未経験者が多く、日々の練習によって戦力を保っている早大にとって、先輩から後輩への技術指導は欠かすことができない。その時、技術とともに勝利を渇望する4年生の思いもきっと伝わっていることだろう。打倒・関西勢。きょうの敗戦を糧にし、来年こそはそのカベを破ってみせる。
(記事 中澤佑輔、写真 田中智)
★最後の府立、悔しさの中にも笑顔
最後の府立に挑む新井(左)
女子部員の人数がそろわず、閉ざされたかにも思われた府立への挑戦。しかしそれは思わぬ形で実現する。部の紅一点、新井咲里(国教4=埼玉・不動岡)は早大・東洋大混合チームとして出場した。1回戦の対甲南大。3試合のうち2試合を勝たねばならない状況を2人で挑んだ混合チームには1敗も許されない。中堅戦で白星を挙げ迎えた大将戦、新井は相手のプレッシャーに気圧されて思うように本来のプレーを発揮できない。一本が取れぬまま試合は延長戦に突入したが開始から約1分、新井が動いた。相手を組み伏せ一本。2回戦では敗れたものの試合後のインタビューでは笑顔もこぼれ大学日本拳法最後の舞台を締めくくった。
(記事、写真 田中智)
結果
▽男子の部
ベスト8
1回戦
シードのため試合なし
2回戦 対大阪体育大 4勝3分
○先鋒 小枝信介(社3=千葉・西武文理)
△次鋒 田中健博(商3=東京・国分寺)
○参鋒 橋本周平(社1=大阪・清風)
○中堅 下島海(創理4=東京・巣鴨)
△参将 大栄卓磨(文構2=上智福岡)
△副将 中山拓也(基理4=智弁和歌山)
○大将 石田勝希(スポ4=大阪・初芝立命館)
2回戦 対大阪市立大 3勝2敗2分
○先鋒 田中
○次鋒 小枝
○参鋒 橋本
△中堅 松田道明(基4=東京・早実)
△参将 中山
●副将 下島
●大将 石田
3回戦 対関西大 3勝3敗1分
△先鋒 松田
△次鋒 中山
○参鋒 小枝
○中堅 下島
△参将 田中
○副将 橋本
●大将 石田
▽女子の部
早大・東洋大混合チーム
2回戦敗退
1回戦 対甲南大 1勝2分
△大将 新井咲里(国教4=埼玉・不動岡)
○延長戦 新井
2回戦 対同志社大 3敗
●大将 新井
コメント
石田勝希主将(スポ4=大阪・初芝立命館)
――昨年と同じベスト8という結果に終わっていまのお気持ちはいかがですか
正直悔しいですね。自分のところに3勝3敗で回ってきたので自分が勝ったらベスト4に進めていたのでそれが一番悔しいです。
――きょうはあまり調子が良くなかったのですか
いや、調子は悪くなかったです。
――では、警告に苦しめられたということになりますか
そうですね。やはり関西の大学は圧力があって前に来る選手が多いのでそういうのに苦しめられました。
――4回戦の大将戦を振り返っていかがですか
もっとこうしておけば良かったのかなあとかもっと練習してたら勝てたんじゃないかなあと思って。今後生きていく中でも一番悔いが残る試合になってしまったかなと思います。
――得意の足技が封じられていた印象がありました
多分研究はされていて蹴り技も結構取られたりしたので。ただそこで蹴り技に頼ってしまった自分っていうのがまだまだだったのかなと思います。
――やはり関西のカベはありましたか
やはり前に出てくるのは強かったですね、圧力というか。それにみんな自信を持ってやってくるので簡単には勝てないなと思いました。
――引退を迎えたいまのお気持ちはいかがですか
もっと後輩たちに色々教えたりしてあげれたのかなあと思ったし、もっと練習してせめてベスト4には入りたかったなあという気持ちがあります。
――今後競技は続けられるのですか
いや、一応大学までで終わろうと思っています。
――競技生活を振り返ってこの4年間で印象に残っていること、思うことはありますか
自分は大学に入るまでは個人の結果にしかこだわってなかったんですけど、早稲田大学に入ってみんなでかつっていうのがチームのモットーだったのでそういうのを聞いていたら自分だけの力じゃなくてチーム全体のレベルを上げることも必要なんだなというのを考えられたので周りを見れるようになったのかなあと成長を感じました。
――今後さらに勝ち上がるためには関西勢を倒せるようにならなければいけません。後輩へメッセージがあればお願いします
試合で自信を持てるような練習を日々してもらったら関西勢にも勝てると思います。試合に出るときは万全の調子で会場で自分が一番強いっていう気持ちを持てるような練習を来年からはしていってほしいですね。
中山拓也(基理4=智弁和歌山)
――ベスト8という結果に終わりましたが今のお気持ちは
最後の最後の関西大の試合でピリッとしない試合をしてしまって情けないです。本当に悔しいです。
――きょうのご自身の調子やプレーはいかがでしたか
試合は全然だめでした。
――府立を前にして前日や試合直前にチームでお互いに声をかけあったりといったことはありましたか
はい、ありました。前日泊まってるホテルでミーティングしたんですけど、みんなで一言ずつ言い合ったりしました。あとマネージャーの方が企画してくださった府立に向けての決起集会みたいなものもあってすごくよかったなと思います。
――大学に入学される前から日本拳法をなさっていたと伺いましたが
小学校の時に親の影響で始めて、高校の時にはあんまりやってなかったのですが中高時代に少年拳法をやっていました。
――大学で日本拳法をやってきて新たに得たものはありましたか
殴り方とか蹴り方とかはもちろんそうですね。あと僕はもともと高校時代部活をやってこなかったので、先輩後輩という同学年でない、教えたり教えてもらったりという交流のように深い関係というのがなかったんですね。でもこの4年間ずっと日拳のみんなと練習で顔合わせたり、家に遊びに来てくれたりしてずっと日拳の誰かといて、そういう深い繋がりみたいなものを得ることができたと思います。
――チームメイトとの繋がりを得ることができたとのことですが、試合を終えてチームメイトや監督に伝えたいメッセージなどはありますか
実際関わった上3年と下3年と監督やコーチに伝えたいんですけどやっぱりOBさんですごく試合とか来てくれる感謝の気持ちを伝えたいです。現役は4年間ですけどOBとして考えたらこの先何10年にもなるので、今のOBさんのようにいっぱい練習に顔を出せるかは分かりませんが、できるだけ出して手伝いなどをしたいと思います。
――今後日本拳法を続けられる予定はありますか。
今後、分かんないですね。もし時間あったら大学に顔出したいと思います。
新井咲里(国教4=埼玉・不動岡)
――全国規模の今大会でしたが初戦から関西圏の大学との対戦になりました。御自身のきょうのプレーというのは振り返ってみていかがですか
きのうちょっと体調を崩していて前日に練習できなかったのですごく不安もあったんですけど結果的に1回戦は勝てたので良かったです。
――具体的にどの技で攻めていこうというのはありましたか
ビデオ研究をしていたらすごくプレッシャーで押してくる相手だと思っていたので蹴りとか使っていこうと思っていました。でもやっぱり結構押されてきつい面もあったのでそこはひやひやしました。
――混合チームでの出場になりましたが、チームメイトの東洋大の選手の方とは試合前にどのような言葉を交わしましたか
一応1年の頃からお互いに顔見知りでよく話す仲だったので一緒に練習何回かしたり、ビデオ研究したりして対戦選手について話し合ったり、オーダーも自分たちで考えて決めました。
――初戦の大将戦で決着がつかずにそのまま同じ相手と延長戦に突入しましたが、戦ってみていかがでしたか
そうですね、すごくやり辛かったです。プレッシャーが強くて押してくるので逃げるのに体力を使ってしまい、なかなか自分のプレースタイルができなかった面は多かったです。
――今大会が大学生活最後の日本拳法の試合になりますが、日本拳法を始めたきっかけは何でしたか
私が入学した年に東日本大震災があって入学式がなくて新歓の存在を知らずに乗り遅れてしまったんですね。そのまま5月くらいに学校に行ってもらったパンフレットの中にあったのが日本拳法のパンフレットだったんですけどそれがとてもクオリティが高くて、それに騙されて入部しました。(笑)
――最後の大会にはどのようなお気持ちで臨まれましたか
もともとは人数が足らなくて出られないと思っていたのでそこをなんとか出してもらいました。ですのでもう最後の最後一緒にみんなと胸を張って引退できるように全力を尽くそうと思っていました。
――終えてみて今のお気持ちは
あぁ、終わった、っていう気持ちが半分とすごく悔しい気持ちが半分です。
――今後日本拳法を続けられる予定というのはありますか
分からないですね。今は終わったという感じです。
橋本周平(社1=大阪・清風)
――きょうの試合を振り返っていかがですか
悔しいです。ただただ悔しいです。
――ご自身の戦いぶりはいかがでしたか
きょうは朝から調子が良くて変なプレッシャーも感じずのびのびできたので自分的には良かったと思います。
――どの試合も二本勝ちで三試合とも勝利を収めましたね
僕は投げてからに自信があるので、そこからは練習を重ねた分がきょう出たのかなと思います。
――関西大戦は橋本選手が負けたら終わりという状況でプレッシャーがかかったと思いますがどのような気持ちで戦っていましたか
ずっと研究をしていてこの人と当たりたいと前々から言っていたので、きょねん卒業した沼沢(祐典、平26教卒=大阪・清風)先輩の動画を参考にして戦って1―0で逃げ切りたいと考えていました。なので狙い通りといえば狙い通りですね。
――今季を振り返って課題や収穫はありましたか
もうちょっと立ち技を磨いて石田さんに少しでも近づけるように頑張りたいです。
――来季のチームには今後どのような点が必要になると思いますか
やっぱり1本を取りきる技を各自をもっと磨くべきかなと思います。今回もそうでしたし、どの試合でも取りこぼしがあったのでそこを少なくできるようになればもっと勝てるようになると思います。
――最後に4年生へ言いたいことはありますか
お疲れ様でしたとありがとうございますという一言ですかね。本当にお世話になったので。