今年は対面形式での開催となった伝統の早慶戦。選手たちも意気込んで練習してきただけに、道場には独特の緊張感が漂っていた。序盤から大前の山野桃果(先理4=東京・吉祥女)と弐的の山﨑琴葵(社2=東京・早実)が的中数でチームを引っ張る。的中に波が出てしまう選手もいたが、途中交代で入った不藤奈々(創理3=埼玉・早大本庄)が奮闘し、全体として着実にリードを積み重ね勝利を収めた。さらにチームの総合的中数も63中と、目安として定めていた60中を上回る結果に。個人個人には課題を残しつつも、次への自信につながる勝ちとなった。
試合はそれぞれのチームが交互に行射するかたちで行われた。先攻の慶大が11中でまずまずの滑り出しを見せた中、後攻の早大が1立目に入る。山野と山﨑が4射皆中を決め、1立目が終わった時点で13中-11中とした。次の2立目では山野が惜しくも最後の1本を外したが、ここで落前の藤井千裕(スポ2=山口・宇部フロンティア大香川)が皆中する。1立目の後半2本を抜いていた藤井だったが、1立目の結果を引きずらず立て直した。しかし1立目に3中だった落の井上采香主将(文構4=東京・吉祥女)が、この立では1中にとどまる。それでも早大はこの2立目でも慶大から1中のリードを得た。
終始高い的中数でチームを引っ張った山野(右)と山﨑(左)
3立目では1中の選手も出て難しい展開になるかと思われたが、この立から途中出場した不藤が「1本目がしっかり当てられて、そこから落ち着いて平常心で引けた」と3中し、粘りを見せて、慶大に傾きかけた流れを食い止める。3立目は相手に1中上回られてしまうものの、合計の的中数では36中-34中とリードを保ったまま終盤に入ることとなった。
途中から出場し勝利に貢献した不藤
4立目では山野と藤井が皆中したが、ここまで皆中を続けてきた山﨑が最後の一本を外してしまう。しかしこの立で早大はこの試合最高の14中を出し、さらにリードを広げて相手にプレッシャーをかけた。勝敗が決まる5立目では山野と、惜しくも皆中賞とはならなかったが山﨑がそろって皆中を出す。後続も的中数をまとめ、この立でも相手に3中差をつけた。総合の的中数は63中-56中となり、7中差をつけての勝利となった。
次への自信につながる伝統の一戦になったと言えるだろう。勝利という結果はもちろんのこと、チームが目標としていた実戦での60中到達もあった。的中数にばらつきが見られる選手もいるが、試合の中でだんだんと立て直しを図り、戦い抜くことができたことも収穫だ。また選手一人一人からどのようなことを意識して試合に臨み、そこでどのような結果と反省を得て、それをどのように次につなげていくのかという考えを明確に聞くことができた。弓道は自分と向き合う競技である。選手たちは勝ってもなお自分の弱さと向き合い続ける強さを見せてくれた。これからその強さで大きく羽ばたいていく姿を楽しみにしたい。
(記事・写真 新井沙奈)
結果
大前 山野 20射18中
弐的 山﨑 20射19中
落前 藤井 20射13中
落 井上 8射4中 不藤 12射9中 計20射13中
〇早大63中-慶大56中
コメント
山野桃果(先理4=東京・吉祥女)
――今日の射を振り返っていかがでしたか
前回の試合で狙いと、伸び合いと、体の使い方が上手くできていませんでした。前回の相手はすごく強い相手だったのですが、その射を見てその三つがしっかりできていないと当たらないということを実感したので、今回の試合ではこの三つをしっかりやろうと決めて試合に入りました。外してしまった矢もぎりぎりで、比較的うまく自分のやりたいようにできた矢が多かったので、その点では前回の反省を生かして成長できた射だったと思います。
――大前でとても安定感のある射でしたが、緊張はしなかったのですか
入部した時からほとんど大前をやってきて、大前としてのプレッシャーというのは慣れてはいないですが常に感じているので、大前であることに対してのプレッシャーについてはあまりこれまでと変わらなかったです。ですが早慶戦ということもあって結構盛り上がるというか熱が入っていたり、慶大さんの人数も多くて圧倒される部分があって。いつもよりも拍手の音が大きかったり、相手が結構当てている音が聞こえたりと普段と違った空気感の中で、集中しないといけないし当てないといけないという緊張やプレッシャーはありました。自分としてはそこまでプレッシャーを感じて射が変わっってしまうタイプではないので緊張感はありつつも、やることは決めていてそちらをやることに集中できたので、悪い影響は出なかったかなと思っています。またこれから大きな試合があるので、そういうときにも今回こうした状況でもちゃんと対応できたということを糧にしてもっと頑張っていけたらいいなと感じました。
――チーム全体の目標として60中を掲げた中での63中という結果でしたが、この結果についてはどのように考えていますか
早大はここ最近的中がそんなに良くなかったので、63中が出て自分としてはびっくりだなと思ったんですが(笑)、個人個人の的中を見ると19中18中と13中13中で結構ばらつきがあったので、同じ63中でもみんなが15中を越えている状態で63中のほうが自分としては良かったなというのはあります。最終的に総合的中は良かったのでいいかなとも思う反面、全関(全関東学生選手権大会)は団体戦が3人ということで3人の的中を高いレベルでそろえるのが大きな課題だと思うので、そこをこれからの試合に向けて高めていかないといけないなと感じました。
――最終学年になりますが、今後の意気込みをお願いします
弐的の選手とかは結構高い的中をばんばんと出してくる子なのですが、私はそこそこな感じを1年からずっと続けてきて(笑)、試合には出ているけどぱっとしない的中の選手でした。今年はそこから卒業してしっかり高い的中を毎回の試合で出せる、目立つという言い方は変ですが、ちゃんと当たっているなという選手に自分個人としてはなりたいなと思っています。
不藤奈々(創理3=埼玉・早大本庄)
――今日のご自身の射の振り返りをお願いします
始めは交代でのスタートということで多少緊張していたのですが、的がいつも通りの位置にあってそれを見た時にいつも通りだなと思って、落ち着いて引けたと思います。ただ伸び合いがずっと課題で、伸び合いがなくなってしまって早く離れてしまうことが多いのですが、そこをなるべく長く伸び合えるように意識して引きました。
――3立目からの交代で全ての立で3中と役割を果たされたと思いますが、ご自身ではいかがですか
最初の3中に関しては1本目がしっかり当てられて、そこから落ち着いて平常心で引けたので良かったです。一番悔しかったのが最後の立の一番最後の一本で、これに関しては課題の伸び合いもあまり思うようにできずに早めに離れてしまったので、もう一度こういう機会があったら今回のようにならずに、緊張はするのですがしっかり伸び合うことを意識したいなと思います。
――早慶戦という部としても一つ力を入れてきた試合を、勝利で終えられたことについてはどう感じますか
去年私は見ている立場で、ずっと看的だったりのお仕事をさせていただいていたんですが、そこでは数本差で負けてしまいました。オンラインだったのですが、オンラインだからこそ負けた時に相手が見えずに何となく負けてしまったのが、逆にすごく悔しくて。その時から来年こそは絶対にこの早慶戦に出て勝ちたいなという気持ちがあったので、そういう意味で勝ててすごく嬉しいです。
――これから大きい大会も続きますが、今後に向けての意気込みをお願いします
私の今年の目標がインカレ(全日本学生選手権大会)の本戦に出場して結果を残すこと、できれば入賞したいと思っています。ですが緊張したときもしないときも射で伸び合いが足りなかったりとまだまだ課題が多いので、そういうところを一つ一つクリアしていきながら、目標に向かって頑張っていきたいと思っています。
山﨑琴葵(社2=東京・早実)
――今日の射の振り返りをお願いします
最近射について悩むことが多くて、的中もまちまちなことが多くて。当たる日は当たるしうまくいかない日はうまくいかないしですごく不安だったのですが、今日はやることを一つに絞って絶対にそれを貫くというふうに決めてそれを実行できたので、いい結果がでたと思います。
――やると決めていたのはどんなことですか
最近馬手(右手、弦を引く側の手)ばかり気にしていて、馬手の形やひねりがかからないということをずっと気にしていたのですが、馬手に意識が寄ってしまって引くほうが強くなってしまっていました。それよりも私の射は弓手(左手、弓を押す側の手)を的に強く押して、その結果馬手がそれにつられるように引いてくるという方が、安定して引けるし安定して的に向かって矢を飛ばすことができるので、弓手を主体で考えるということを意識しました。
――19中という結果でしたが20射皆中できなかったのは悔しかったですか
とても悔しかったです。抜いた瞬間は本当に悔しくて、あとは4射皆中が続いているときは4立目がいつも弱くて自分の中でそれは課題になっています。今日こそは大丈夫だと思って4立目の前にも、4立目の最後の一本を引く前にも気持ちを入れ直したのですが、どうしても自分の弱い部分が出てしまいました。
――弐的を務めていることが多いですが、どのようなことを意識して引いていますか
大前には山野さんがだいたい入ってくれて当ててくれることが多くて、とにかくその流れを崩さないように、もし山野さんが当たらなくても私が食い止めるという気持ちで、自分は自分のやることをやろうという気持ちで引いています。
――次に向けての意気込みをお願いします
たくさん練習している分絶対に去年よりも成長しているはずなので、自信をもって次も頑張ります!