【連載】『令和2年度卒業記念特集』第11回 矢内健/弓道

弓道

「自分を成長させてくれた学び小屋」

 「自分を成長させてくれた学び小屋」――。矢内健(人=東京・広尾学園)は、弓道部での4年間をこう振り返る。他の体育会部活の主将を見渡せば、高校時代華々しい実績を残し、入部した選手が多い。だが矢内は違った。中高時代は野球部に所属し、弓道は未経験の初心者。さらに1年生秋に途中入部した経緯を持つ。そんな矢内が過ごした弓道部での4年間とは、どのようなものだったのだろうか。

 「何か一つでも打ち込めることがしたい」。1年生の秋までサークルにも部活にも所属せず、大学生活に充実感を見いだせないでいた。その頃出会ったのが、早大弓道部だった。もともと武道に興味があったと話す矢内。弓道部に見学に行き、「これだ」という感覚を覚え、入部を決める。だが最初のうちは、的の前で弓を引くことすらできなかった。そのため、まず1年後のリーグ戦(東京都学生連盟リーグ戦)出場を目標にして練習に励んだ。

  そんなとき、矢内を支えたのは周囲の存在だった。「特に当時の4年生は未経験者の自分に熱心に指導してくださり、そのことがあったからここまで頑張ることができた」。自分がここまでやってくることができたのは、周りの人々のおかげ。質問の中で、何度もこの言葉を繰り返した。そして2年生となり、リーグ戦を迎える。矢内は周囲の支えと、自身の努力を実らせ、リーグ戦初出場を果たす。それは入部当初の目標を達成することができた瞬間だった。

射の練習をする矢内

  初心者でありながら、弓道の腕前を上達させ、努力を続ける姿勢に周囲も心を動かされる。4年生となり、周りの推薦から矢内は弓道部主将に就任した。だが知っての通り、2020年は日本中が、新型コロナウイルスの影響にさらされた。早大弓道部もその例外ではない。練習も思うようにできず、苦しい日々を過ごす。環境の変化、自身にのしかかる責任の大きさ、矢内自身も苦悩を挙げるとキリがない。そんな状況でも、矢内は主将として、部員一人一人と向き合い、弓道部を引っ張った。

 「やりきった、後悔はない」。矢内は主将としての一年をこう振り返る。例年とは違うことが多く、苦労した1年間だった。それでも最後、1年生に「矢内さんが主将でよかったです」と言われたとき、1年間の苦労も報われた。主将として、酸いも甘いも味わった矢内。この経験は矢内自身にとって、まさに『かけがえのないもの』になったに違いない。

 弓道の魅力とは何かという問いに、「自分自身と向き合うことができるスポーツ」と答えた。弓道は、的前に立ったら、自分一人だけの世界になる。だからこそ自分としっかり向き合わなくてはならない。そして普段気づかない自分の弱さに気づかされる。的前を去った後の自分は、立つ前の自分と比べて、別人のように成長することができるのだ。

 早大弓道部での4年間で非常に多くのものを学んだ。それは、矢内の血肉となり、自身を大きく成長させた。大学卒業後は弓道にいったん区切りをつける。それでもやることは変わらない。正射必中の精神を胸に、これからも一直線に突き進む。

(記事 荻原亮、写真 早稲田大学弓道部提供)