【連載】『平成30年度卒業記念特集』 第9回 渡邊顕士/弓道

弓道

『和』の心の体現者

 今年度は全国大学選抜大会(選抜)で準優勝を飾るなど、大きな飛躍を遂げた弓道部。その背後には主将としてチームの団結力向上に腐心し続けた一人の男がいた。渡邊顕士(社=東京・日体大荏原)はこの一年を、「思うようなチームづくりがうまくできた」と振り返る。渡邊にとってチームとは何か。四年間を通じて追い求めたものに迫る。

 全国大会に出場するも、入賞することさえかなわなかった高校時代。「まだまだ弓道はやめられない」と大学弓道の世界に飛び込む決意をした。自分の経験を十全に生かせる場として選んだのが、ここ早稲田の弓道部だった。当時の上級生が整えてくれた環境の中で必死に練習に打ち込み、がむしゃらに駆け抜けた下級生時代。学年代表として、同期を代表する立場になった2年生時代。そしていつしか渡邊は部全体を見渡すことのできる、広い視野を持った存在へと進化していた。そんな2年時、転機が訪れる。当時の主将・中村浩太郎(平28創理卒=東京・芝浦工大高)がよく口にしていたのが「部活以外でどれだけ部員と付き合えるか」という言葉だ。その言葉が、後の渡邊の在り方に大きな影響を与えることになった。

渡邊は常に部全体を見渡していた

  4年生になり主将に就任した渡邊は、弓道部全体の『和』を重要視した。悩みを抱える部員に対してアンテナを張り、トラブルに発展する前に解決できるよう心掛けた。積極的に後輩をご飯に誘うなどして心理的なカベを取り払った。こうして部員間の関係改善に努める一方、監督とも信頼関係を構築した。お互いを尊重し、意見を伝え合い、共に頭を悩ませた。そして渡邊が部をまとめる上で何よりも大切にしていたのは、同期の結束だった。「部という組織の中で食い違いが起こってしまうと、私的感情が入り乱れてどんどんどんどん崩れていってしまう」と渡邊は語る。とりわけ弓道という競技は感情の乱れが的中を左右しやすい。それを避けるために渡邊は、まず自分の意見を同期の中で共有することを徹底した。そしてきちんと意志と方向性の統一を図った上で部全体に落とし込み、部を運営していった。皆の意見を尊重し『和』を大事にしながらも、皆を引っ張っていく立場上曲げられないところは曲げずに。その絶妙なかじ取りが、やがて弓道部を、部員全員が目標と課題を共有する一つの大きな組織へとまとめ上げていった。そして、そんな渡邊の姿勢に下級生も応えた。実際、今季は下級生からもチームを支える選手が多く生まれ、全員が口をそろえて「『練習通りの射を出すこと』が重要だ」と言っている。このように下級生からも主張が出てくることを「とても感謝している」と語る渡邊。彼がつくり上げた雰囲気の中で、チームは団結して試合に臨み、選抜準優勝という躍進を遂げた。

 日本一を取れなかったことは心残りだと渡邊は言うが、「楽しんでシーズンを終えられた。次につながる一年にはなった」とも言うように、確かな手応えを感じる一年であった。選抜準優勝という結果に部は大きな自信をつけ、渡邊のつくり上げた部の雰囲気は今年も引き継がれていく。それ故「今年の弓道部には夢を継いで日本一を取ってほしい」と、渡邊は大きな期待を寄せている。

 大学卒業後、「社会人になってからも直接的あるいは間接的に、何らかのかたちで弓道部とはかかわっていきたい」と話す渡邊。「色々あったけれど、少し弓から離れると引きたくなるし、引くと楽しくなってしまう。やっぱり好きだったのだな」。そう話す渡邊の顔には晴れやかな笑みが広がっていた。

(記事 菊元洋佑、写真 廣瀨智優)