早大剣士、悲願の早慶戦優勝

剣道

 昨年あと一歩のところで敗れ、雪辱を期した早慶対抗試合(早慶戦)から1年。79回を数える伝統的一戦が早大記念会堂で行われ、各校の精鋭20名が誇りを懸けて戦う熱い展開が繰り広げられた。前陣では、延長にもつれ込む厳しい試合が続くが、辛くも早大がリードを死守。しかし、好敵手たる慶大も負けてはいない。徐々に差を詰め、勝負の行方は10‐9と大将・西村慶士郎主将(スポ4=佐賀・龍谷)に託される。西村が30分を超える長い戦いを制し、早大が見事3年ぶり、悲願の優勝を決めた。

 両行のOBが見守る独特なプレッシャーの中、先陣を任されたのは大﨑泰拓(社1=奈良大付)。思い切ったメンで1本勝ちを収め、幸先のよい出だしを飾る。勢いに乗りたい早大だが、互いの実力が拮抗(きっこう)し大幅なリードを奪えないまま十二将・和泉裕介(法3=愛知・明和)へ。ここで和泉が強さを見せる。「勝てばこう着状態を打開できる状況だった」と語るように自身初の公式戦の場でメンとドウを奪うとチームに貢献。後を継ぐ十一将・越智泰介(社4=愛媛・新田)もこれに応えるように延長戦の末にコテを決める。しかし、流れをつかんだかに見えたが、慶大の激しい攻めを前に思惑通りに進展しない試合が続き、まさかの連敗を喫してしまう。

2本勝ちで流れを変えた和泉

 戦いは終盤に差し掛かる。団体戦では主力となる大浦彰一郎副将(スポ4=大阪・上宮)が本来の力を発揮できず、まさかの2本負けと散っていく厳しい局面で登場したのは五将・久田松雄一郎(スポ1=佐賀・龍谷)。積極的に攻めると技術面、精神面ともにレベルの高さを見せつけ、相手の虚をついたキレのあるメンで勝負を制した。両者一歩も譲らないまま勝利の行方は大将戦へ。10-9と勝者数では上回るものの総本数では11-11と並び、落とすわけにはいかない場面を両校が固唾(かたず)を飲んで見守る。自身の剣道について「攻めるタイプの剣道をするほうではない」と語る冷静な西村と敏しょう性に富んだ相手側との攻防により、30分を超える長時間の争いに。しのぎを削る両者だったが、ついに運命の瞬間が訪れる。西村が敵の引き際に素早く間合いを詰めると、完璧なメンを決め、3年ぶりとなる優勝をもたらした。

鮮やかなメンで激闘を制した西村主将

 早慶戦での勝利はこの後に控える全日本学生優勝大会(全日本)へ弾みをつけたといえるだろう。だが、早大剣士たちはこの結果におごることはない。「優勝をとるしかない」(越智)、「(早慶戦で)勝った者も負けた者もそれぞれ努力して一丸となって頑張りたい」(西村)。より上を目指し続ける剣道部の活躍に期待したい。

(記事 八木美織、写真 藤川友実子)

結果

○早大11-9慶大

優秀選手 西村主将、和泉、久田松

コメント

西村慶士郎主将(スポ4=佐賀・龍谷)

――最後の早慶対抗試合(早慶戦)にどのような気持ちで臨みましたか

2年間連敗していて、きょう勝つために練習してきたので絶対負けないという気持ちと、大将である自分のところまで回してくれたみんなのためにも頑張ろうという気持ちで臨みました。

――きょうの試合のオーダーの意図は

だいたいは4年生を後ろに固める感じだったのですが、チャレンジャーなので確実に勝ちに行くポジションと言うか、5人目、10人目、15人目、20人目に4年生をおいて5人で1チームという気持ちで1陣、2陣、3陣と勝利を重ねていこうというのはありました。

――きょうの試合を振り返って

絶対負けられない試合ではありましたし、周りの声も伝わってきて自分では落ち着いて自分のペースで試合ができました。

――厳しい状況でまわってきたことについて

総合戦力では、ワセダのほうが上回っているとは思いますが、早慶戦では絶対大将勝負になることは分かっていたのでそこまで緊張しなかったです。

――長い延長線を制したことについて

じっくりやって、自分はあまりがんがん攻めるタイプの剣道をするほうではないので、タイミングを見計らって、技が出せればいいなと思っていたのであまり時間は気になりませんでした。

――優秀選手に選ばれたことについて

大将で勝てればだいたい優秀選手なのであまり意識はしてないです。

――全日本学生優勝大会(全日本)への意気込み

例年は早慶戦で引退になるのですが、全日本が最後になるということで勝った者も負けた者もそれぞれ努力して一丸となって頑張りたいと思います。

越智泰介副将(社4=愛媛・新田)

――優勝したいまの率直なお気持ちは

4年間で最後の早慶戦(早慶対抗試合)だったので勝てて本当にうれしいです。

――2年間慶大に敗れ、悔しい思いをされてきたと思います

2年間負けて、エール交換の時にケイオーの塾歌を目に前にして、見せつけられて。その悔しさがあったので最後に自分たちがワセダの校歌を歌って終われたことがすごくうれしいですね。

――ご自身の試合まで、仲間の戦いぶりはどのような気持ちでご覧になっていましたか

人の試合を見ると僕は緊張してしまうので、なるべく見ないようにと思っていたんですけど、やはり見てしまって(笑)。ちょっと緊張してしまいました。みんな頼むから勝ってくれと(笑)。

――直前には和泉裕介選手(法3=愛知・明和)が2本勝ちを収めましたが

すごくやる気は出たんですけど、僕は今回調整ミスで調子が悪かったので、後輩が前で良い試合をしてきてくれたらちょっとやりづらいというか(笑)。嬉しいけど、自分も良い試合したいけど無理かなって。

――ご自身の試合はとても長い試合でした。何か戦略などはありましたか

戦略はもうないです。正直、本当に調子が悪かったので、試合中もやりながら調子悪いなと思いながらやっていたんですけど、自分のポジションはとても重要な位置だと思っていたので、ここで負けるわけにはいかないと。調子悪くてでも、調子が悪いなりに絶対に勝つと思ってやっていたら最後に運良く当たったという感じです。

――決めたコテについては運良く当たったという手応えだったのですか

そうですね。運が良かったと言うしかないですね。当たっちゃったというか。

――ご自身の試合を終えてからは慶大が少しずつ迫ってきていましたが、大将戦を見ている時はどのようなお気持ちでしたか

もうヒヤヒヤですね(笑)。西村(慶士郎主将)のことをすごく信じていたので絶対勝ってくれるだろうと思っていたんですけど、毎年大将戦になって勝つだろうと思っていてもなんだかんだでケイオーが勝ってしまうので、それが怖かったです。なのであまり見ていたくなかったですね(笑)。

――最後に全日本学生優勝大会(全日本)への意気込みをお願いします

早慶戦も1つの締めくくりの大会だったんですけど、ことしは早慶戦と全日本(の日程)が逆なので。本当の締めくくりという意味では全日本は一番の集大成ということで、優勝を取るしかないという気持ちで、あと2週間ほど、稽古を頑張っていきたいと思います。

勇佑多(社3=東福岡)

――きょうの試合を振り返っていかがでしたか

前半は手元を上げたところを打たれ、入るときの手元を上げるくせやつばずれからの引き技なども全部読まれていて、攻略されている気がしたのでそこがきつかったです。くせを狙われて、少し焦ってどうしようかと思いましたが、途中からは粘り強くやっていこうと試合に臨みました。

――前の試合でワセダの選手が負け、流れを取り戻さなくてはならない大事な場面で技を決めたときの気持ちはいかがでしたか

試合前や試合中は何も考えなかったですが、終わった後、がむしゃらでも何とか勝ててよかったという感情がこみ上げてきました。

――早慶対抗試合への意気込みはどのようなものだったのでしょうか

きょうは競った試合になりましたが、こんなに競るとは思っていなくて、もう少し楽に勝てると思っていました。もちろん勝つつもりでいたのですが、もっと圧倒的に勝ってやろうというような余裕な気持ちでいたので、それがダメだった原因かもしれないと思います。

――決めた技についてはいかがですか

思い切って出たコテが当たったのでよかったです。

――勝ちに行くための戦略はどのようなものだったのでしょうか

得意の引き技などをしっかり打たせて、それでペースを作って自分の流れを持ってきて勝とうと思っていたのですが、そこはうまくいきませんでした。

――延長戦になりましたが集中力などの点で何か影響はありましたか

特になかったです。こういうときこそ集中を切らずにやっていこうと思っていました。

――このあと出場する全日本学生優勝大会について意気込みを教えてください

一応選手として選ばれているので、7人として出してもらえるなら、自分のポジションの仕事をしっかりとできるように試合に臨んで、優秀を目指して頑張っていきたいと思います。

和泉裕介(法3=愛知・明和)

――きょうの試合を振り返っていかがでしたか

きょうは最後の最後まで手に汗を握る試合で緊張しましたが、勝ててよかったです。その中で自分が、何の苦もなく順当に2本勝ちという形で終われたことや、優秀選手という賞をいただけたことなどが、自分にとってすごくよかったと思います。

――今季初の公式戦でしたが

今季に限らず、私自身の初の公式戦でした。いままで部内の試合でなかなか成果が出せなくて苦しんだのですが、やっと試合に出て自分の持てる限りの力を出せたと思います。

――早慶対抗試合(早慶戦)への意気込みはどのようなものでしたか

ワセダに入ったからには慶大というのは意識してしまう存在で、あまり日の目を見ないスポーツですけど熱いものはあるので、その中で自分の役割をしっかりと果たせればという風に考えていました。

――決めた技について詳しく教えてください

無心でやっているのであまり覚えていませんが、1本目のメンは担ぎメンという技で、正統派の剣道ではなく、きれいな剣道とは言い難いので、いわゆる邪道な剣道というか、邪剣ですね。2本目のドウは、自分が1本取っている余裕があるので、相手が焦って手元の浮いてきたところというか、焦って飛び出してきたところを返してドウを打ったという形です。

――勝ちに行くための戦略はどのようなものだったのでしょうか

勝たなきゃいけないというか、前の試合で勝負がこう着していた状態なので、私が勝てればそのこう着状態を打開できるという状況でした。その中で、自分の持ち味というのが先ほど言った担ぎメンのように正統派ではない、相手の意表を突くような、邪道な剣風なので、それを遺憾なく発揮できれば勝てると考えていました。それが気持ち的な面での戦略だと思います。

――ワセダで唯一の2本勝ちでしたが

私は9番目なので、そのときは2本勝ちが私だけになるとは思っていませんでした。結果的にきれいな2本勝ちで勝てたことは気持ちよかったです。ただ、気持ちよく2本勝ちできた反面、初めての早慶戦だったので、もう少し早慶戦の緊張感というものを試合の中で味わいたいとは思いました。

――優秀選手に選ばれたときの気持ちはいかがでしたか

1人だけ2本勝ちでこう着状態を打開したので、正直、期待はしていました。率直に言うと、うれしいです。

――今後に向けて一言お願いします

早慶だけではなく、まだ部内にも部外にも強い人はたくさんいるので、レギュラーと呼ばれる選手になれるように頑張りたいと思います。

久田松雄一郎(スポ1=佐賀・龍谷)

――自身初の早慶対抗試合(早慶戦)を終えて、感想をお願いします

苦しい試合だったという感想と、勝ったときの喜びはどの大会で優勝するよりもここ一番かなと思います。

――2連敗していたところからの出番となりましたが、どういった意気込みで臨みましたか

私が(連敗を)止めないといけないという気持ちを忘れずに臨みました。

――プレーをする上でなにか意識したことはありますか

とにかく前に前に出ることですね。

――先輩方の気持ちのこもった試合を見て、なにか感じることはありましたか

最後の早慶戦だということで先輩方のそういった姿を見て、足を引っ張らないようにと思い精一杯やりました。

――優秀選手賞の受賞おめでとうございます。なにか感想はありますか

なんで自分なのかなあという感じです(笑)。それでもこうして頂けたことは素直にうれしいです。

――最後に全日本学生優勝大会(全日本)への意気込みをお願いします

きょうは調子が良かったので、この好調を維持して優勝したいと思います。