早大の意地を見せつけた、4年生最後の戦い

空手

 早大空手部最大のライバルである慶大との白熱する戦い、「早慶定期戦」が、慶応義塾大学の日吉記念館で開催された。早慶戦最大の見どころは、男子9人、女子4人の13対13で行われる大学自由組手だ。今大会では早大の田中愛治総長と慶大の伊藤公平塾長両校の学長が観覧に来る史上初の大会となった。両校が1年の成果全てをぶつけて行われた第81回戦は、6−7で惜しくも慶大に敗れてしまった。

 最初に行われた形演武では、秋吉優斗(スポ1=埼玉・埼玉栄)が個人形を、益田恵理花(創理4=東京・早実)、岡部茉莉(創理3=千葉・柏)、酒井春帆(スポ3=東京・国分寺)が女子団体形を、岩渕凌(スポ1=茨城・水城)、熊谷拓也(スポ2=東京・世田谷学園)、吉田蒼一朗(スポ2=東京・世田谷学園)が男子団体型を披露。慶大を圧倒する気迫の籠った演武が、来たる戦いに備えた組手選手たちの背中を押す。

「燕飛」を披露した女子、男子団体型

 その後、コロナ禍後初めて復活した伝統演武である約束組手が行われた。約束組手には1、2年生から選ばれた8人の選手が出場し、慶大と戦った。その中には新人の杉山喬脩(人科1=神奈川・山手学院)、田中優大(教1=佐賀・早稲田佐賀)も出場しており、来年以降の活躍が期待できる演武を見せてくれた。

約束組手に出場した選手たち

 そして、早慶戦のメイン、大学自由組手が開幕した。前半戦、「組手の選手でいかに勝ち星を挙げるかカギでした」と話す長沼俊樹主将(スポ4=東京・保善)の作戦は見事に的中した。形の2人が2連敗で迎えた第3戦で、女子組手のエース・天本(スポ3=宮崎第一)がプレッシャーを跳ね除け、強敵を撃破。勝利を収め、悪い流れを断ち切る。続く第4戦では、長沼主将が次期エースと認める時田隼門(社2=滋賀・玉川)が、持ち前である大胆さと繊細さ両方を兼ね備えた攻撃的な組手で相手を圧倒し、2−2の同点に追いつく。その後、第8戦までに藤平梨沙(スポ2=埼玉・花咲徳栄)、野澤颯太副将(法4=長野・松商学園)と、それぞれ組手選手たちがしっかり勝ち星を挙げ、4−4のまま、第9戦へ。

勝利への執念を見せた天本と時田

 第9戦には土谷菜々子(スポ4=北海道・札幌北)が登場した。絶対に負けられないというプレッシャーの中、「いつも通りを心がけた」と話していた土谷は、ラスト1秒のところで中段突きを決め、それが決勝点に。我慢の末に接戦をものにした土谷の活躍により、5−4と勝ち越し、チームの窮地を救った。

劇的な勝利を収め喜ぶ土谷

 しかし、後半は作戦とは裏腹に、後続が勝ちきれず、第12戦終了の時点で5−7と、早大の敗退が確定してしまった。慶大が歓喜に包まれている中、最後の意地を見せつけたのは、第13戦の大将戦で登場した長沼主将だった。チームの敗退が決まってしまったものの、早大空手部主将の誇りを胸に絶対勝つという気持ちで最後の試合に臨んだ。対戦相手の慶大主将に対し、長沼は「彼に負けたことが大学で一番悔しかったから、絶対にやり返したい」という、リベンジの気持ちに燃えていた。その気迫が攻めに繋がり、試合の主導権を握り続けた長沼は見事リベンジに成功し、自身最後の試合を7-3の快勝で締めくくった。この活躍が讃えられ、長沼は今大会の優秀選手に選ばれた。

リベンジに燃える長沼

 この大会で4年生は引退。慶大惜しくも敗れてしまったものの、最後までチーム全体に目の前の1勝をもぎ取るという気迫と熱意が籠っていた。どんな結果であれお互いを讃えあい、誰一人諦めずに戦う姿勢は、長沼主将が作ってきた「上下関係気にせず意見を言い合う」、「とにかく楽しくやる」という方針の表れだろう。長沼主将の最後の勇姿を見て、同輩、後輩たちは「長沼主将のもとで空手ができて幸せでした」と改めて思ったそうだ。

長沼主将が作り上げたチームの雰囲気

 来季からは天本が主将を受け継ぎ、また監督も上坊氏から今泉氏に変わり、新チームが発足する。早慶戦での悔しさをバネに、天本を中心に新体制となった早大空手部。「長沼主将たちを超える成績を残したい」と語る天本をはじめ、部員全員が次なる戦いに向けて静かに闘志を燃やしている。勝つために大きな変化を恐れず突き進む、新たな早大空手部の挑戦が始まる。

               (記事:杉山喬脩 写真:杉山喬脩、名倉由夏)

 

結果

▽大学団体組手

⚫️早大6−7慶大

先鋒 秋吉優斗(スポ1=埼玉・埼玉栄)  ⚫️0-2

次鋒 塩冶城春(人科3=山口・県立岩国) ⚫️0-6

三鋒 天本菜月(スポ3=宮崎・宮崎第一)  〇3-2

四鋒 時田隼門(社2=滋賀・玉川) 〇6-1

五鋒 吉田蒼一朗(スポ2=東京・世田谷学園)⚫️4-6

六鋒 藤平梨沙(スポ2=埼玉・花咲徳栄) 〇2-1

中堅 野澤颯太(法4=長野・松商学園) 〇4-2

六将 澤祐太郎(教2=東京・世田谷学園) ⚫️0-6

五将 土谷菜々子(スポ4=北海道・札幌北)〇1-0

四将 溝井郷介(政経4=東京・早実) ⚫️0-6

三将 池田倖紀(スポ2=北海道・恵庭南) ⚫️1-4

副将 アルフォルテさくら(国教3=フィリピン・ラ・サール) ⚫️0-3

大将 長沼俊樹(スポ4=東京・保善)  〇7-3

 

コメント

★長沼俊樹(スポ4=東京・保善)

――チームは負け、個人は勝ちという結果になった。今の心境は

 悔しい気持ちの方が大きいですけど、皆よく頑張ってくれたなと思いますね。

――オーダーの構想はどうだったか

 オーダーはバッチリでしたね(笑)。慶応が1番目か2番目と女子の最後に強い選手を持ってくると予想を立てていたので、最初の2人は形の選手を置いて連敗スタートもある程度想定に入れて、3番目の選手からこちらのペースに持って行く作戦を立てました。

――実際の流れを見てどう感じたか

 3番目の天本から中盤勝負を仕掛けていたので、(大将の)自分に回ってくるまでに勝ちが決まるのではないかと予想していたのですが、そこまで上手くは行かなかったですね(笑)。ただ溝井、澤、吉田の3人が誰かしら勝てないとチームとしても勝てないと考えていて、自分も練習の内外で3人を徹底的に鍛えていたのですが、3人とも負けてしまったのが予定外でしたね。

――大将戦では両校のエース・主将対決となった。対戦が決まった時はどんな心境だったか

 元々お互い主将なので(大将で)当たることは分かっていました。1年生の時に彼に負けてしまったことが大学で一番悔しい負けだったので、絶対にぶっ飛ばすぐらいの気持ちで臨んでいました(笑)。

――その気迫が溢れんばかりの攻めが決まり快勝した。どんな作戦を練っていたのか

 まず1つは落ち着いてやること、雰囲気に呑まれないことを意識しました。2つ目は1年生の時にやられたパターンがあり、それが自分のカウンターに対してワンテンポずらして対応してくることでした。そのため得意な右手のカウンターをあまり使わず、一旦間合いを切ってからカウンターをすることを常に頭に入れていました。

――突きでの連続得点をはじめ、試合の主導権を握り続けていた。この作戦の効果か

 だいぶ効きましたね(笑)。作戦が上手くはまりました。

――この一戦に点数をつけるなら

 6点差をつけて勝てなかったので、80点くらいですね(笑)。

――チームメイトの試合で印象に残った場面は

 いっぱいあるのですが、連敗スタートかつ高校生も負けて流れが慶応に傾いていた中で、3番目の天本が快勝で流れを引き戻してくれてすごく良かったと思います。あと土谷もラスト1秒で中段突きで決勝点を取れたことがすごく印象に残りました。

――これが自身最後の試合となりました。

 本当に悔いしか残らなかった、悔しい思いばかりした空手人生だったなと思います。あとは本当に多くの人に支えられてここまで来れたことを実感しています。早慶戦でも自分が小さいころからお世話になった先生がいらしてくれたり、両親も来てくれましたし、皆が応援してくれました。改めて自分は支えられていたんだなという実感があります。

――最後に、後輩に伝えたいことがあればお願いします

 まだ何も思い浮かんでないんですけど…(笑)。結果がどうであれ、大学で残された空手人生をしっかり楽しんでほしいです。

 

★土谷菜々子(スポ4=北海道・札幌北)

――チームは負け、個人は勝ちという結果になった。今の心境は

 個人としては良い終わり方だったかなと思います。チームに流れを持って行けるような勝ち方ができたことと、引退試合を勝てたことそのものが良かったです。ただチームは負けてしまったので、去年に続けて勝てなかったことは悔しいし来年リベンジしてもらいたいなと思います。

――ラスト1秒で中段突きを決め、それが決勝点となった

 率直に気持ち良かったですね。最後点を取らないといけない焦りはありましたけど、残り1秒、0秒でしっかり点を取り切れたことは良かったですし、その瞬間は「やったぞ」と。

――序中盤は近距離でもつれながらも、決定打の出ない展開が続いた

 予想通りというか、私自身があまりガツガツやるスタイルではないので、どちらかと言うと自分のペースに持って行けていたように思います。0-0で長くなることへの焦りや不安はあまりなかったので、どこかで1点取ることだけを考えられていて良かったと思います。

――逆に、相手の様子に焦りが多少見られたように感じた

 後半はちょっと焦っていたのかなと思いました。

――引退試合で気持ちも一段と入っていたのでしょうか

 変に気負わずいつも通りやることを意識しないと、逆に焦ったり普段ではない自分が出てしまうので、最後の試合だからこそいつも通りできるように心がけてできたので、いい形でできたかなと思います。

――仲間の試合で印象に残った所は

 天本ですかね。3年間ずっと一緒にやってきたので。作戦の時点で連敗スタートがかなり想定されて三鋒として絶対に勝たなければいけないプレッシャーもあった中で、強敵相手に確実に勝ちを持ってきたことは一安心というか、同じ女子メンバーとしても嬉しかったですね。でも不完全燃焼な試合をした選手があまりいなかったこと、皆が前で戦って逆転もありましたし、力を出せて今後につながる試合ができていて良かったと思います。

――今までの空手人生を振り返って今思うことは

 私は18年間空手をやっているのですごく長かったですし、色々なことがあったので一言では表すのは難しいのですが、空手をやっていて良かったなとは思いました。空手を通して色々な人と出会えましたし、空手があったからこそ自分が成長できたと思います。特に大学での4年間はあまり足を踏み入れたことのない世界に入って、今まで空手をやってきた中で一番レベルの高い環境で先輩や同期、後輩と本気になって取り組めたのは自分にとって財産だったなと思います。すごく良かったなと思います。

――全日本選手権での道代表や、関東大学選手権での 団体組手ベスト4など、「あまり足を踏み入れたことのない世界」でも結果を残した

 自分が関東や全国で勝ち上がることを予想してなかったですし、そこまで行くことをあまり考えられなかった部分はありました。心強い仲間がいたからではありますけど、それでも自分自身が日々成長しながら一つ一つやっていくことで本当に結果につながることを実感できましたね。そこは自分もよく頑張ったと思いますし、周りにも引き上げてもらったと思っているので、すごく感謝しています。

――後輩に一言

 たくさんあるんですけど、まず一つは楽しんで空手をしてほしいことですね。「楽しむ」のベクトルは色々あると思いますけど、真剣に頑張るからこそ、その先の自分の成長やその過程で得られることが本当に多くあると思うので、空手そのものを楽しみながらも真剣にやって行ってほしいですね。皆分かってるとは思いますけど(笑)。もう一つは仲間を大切にしてほしいなと思います。空手をしに部活に入ったからこそ、空手は当たり前に頑張りますけど、そこにいる仲間がいるから部活は成り立っているし、自分も部活ができているので。色々な方の支えがあって部活ができているので、その一員であることを感じながら仲間を大切にして頑張ってほしいなと思います。