一年で最後の、そして間違いなく一年で一番熱い戦いである早慶定期戦が、早稲田アリーナで開催された。早慶戦の最大の見どころは男子10人、女子3人の13対13で行われる大学自由組手。両校が死力を尽くし、閉会式で三田空手会(慶大)の奈藏稔久氏に「60年の早慶戦でもベストバウトに値する」と言わしめた戦いは8-5で早大に軍配が上がった。早大としてはこれが3年ぶりの勝利となり、ホームの地で有終の美を飾った。
最初に行われた形演武では、熊谷拓也(スポ1=東京・世田谷学園)、アルフォルテさくら(国教1=フィリピン・ラ・サール)が個人形を、益田恵理花(創理3=東京・早実)、岡部茉莉(創理1=千葉・柏)、酒井春帆(スポ2=東京・国分寺)が団体形を披露。会場に選手の気迫と、来たる戦いへの緊張感が高まっていく。
「燕飛」を披露した女子団体形
その後約束組手、高校自由組手を経て、大学自由組手が開幕した。激しい攻防の中、前半6戦では交互に勝ち星を積み重ねる。折り返しとなる第7戦では、吉田翔太主将(スポ4=埼玉・栄北)が「キーマン」と話す土谷菜々子(スポ3=北海道・札幌北)が登場した。「先取は取りたい」とのプラン通り、開始23秒で中段突きの打ち合いに勝ち先制点を挙げる。その後も攻め合う展開となったが、終盤は焦りを見せた相手に落ち着いて対処し1-0で勝利。ここで早大が初めて星取でリードを奪い、「土谷がすごくいい雰囲気にしてくれた」(吉田)とチームの流れを作る貴重な勝ち星となった。
虎視眈々と得点のチャンスを狙う土谷
「10番目以降は上級生で固める」(吉田)。早慶戦はその年の集大成に位置づけられ、チームの総力がぶつかる戦いとなる。会場の熱気はすさまじく、下級生がその独特の雰囲気に呑まれることも少なくない。そのため特にプレッシャーのかかる後半に経験豊富な上級生を配置したのだ。
その10戦目、四将を任されたのは伊坂夏希(スポ4=鳥取・米子東)。今年は団体組手でレギュラー漏れとなったが、その悔しさをぶつけるかのような攻めが炸裂した。遠い間合いから中段蹴りの攻めが決まると、今度は差し合いから上段裏回蹴り。この快進撃に早大陣営のボルテージが一気に上がり、後方で見守るチームメイトからはガッツポーズが飛び出した。そして直後には再び中段蹴りを決め、伊坂自身も大きくガッツポーズ。6点以上の差をつけたためここで勝利となり、これでチーム6勝目。早大の勝利に王手をかけた。
蹴り技で仕掛ける伊坂
その伊坂から勢いを受け取ったのは天本菜月(スポ2=宮崎第一)。強敵を相手に先取を奪うと、その後は互いに突き技から得点を重ねて行く。終盤、先制攻撃をカウンターで合わせられ逆転を許すが、天本もあきらめず食らいつく。残り7秒で再逆転に成功すると、最後は相手の猛攻をしのいで試合終了。ついにチームの勝利が決まり、戦いを終えた天本を中心に歓喜の輪が広がった。
早大の勝利が決まり、チームメイトが笑顔で天本を迎え入れた
13番勝負の最終戦を任されたのは吉田主将。チームの勝利を噛みしめながら、自身最後の試合へ臨んだ。序盤から切れ味鋭い突き技が決まり、吉田は着実にリードを広げていく。その後も隙のない立ち回りを見せ、自身最後の試合を5-0の快勝で締めくくった。
最後は頼れる主将が早慶戦を締めくくった
「一番お世話になった先輩方をいい形で送り出すことができた」(土谷)。この大会で4年生は引退。ここ3年は早慶戦で慶大に敗れ、下級生は悔しい形で引退する4年生の姿を見てきた。だからこそ、今回の勝利は大きな意味を持つ。そして最終スコアこそ差がついたが、1点差、さらには先取の差で決まった試合も多い。この僅かな差に、吉田主将のもとで作ってきた「先輩後輩関係なく意見が言える環境」、そして自ら考えて練習に取り組んできた成果が見えたのではないだろうか。
これからは長沼俊樹(スポ3=東京・保善)を主将に据えた新チームが発足する。今年は早慶戦では勝利を収めたが、公式戦ではまだまだ伸び代は大きい。「もっと上を目指してほしい」(吉田)。再び挑戦者として、さらなる高みを目指す日々が始まる。
(記事・写真 名倉由夏)
結果
▽大学団体組手
〇早大8-5慶大
先鋒 溝井郷介(政経3=東京・早実) ●0ー6
次鋒 池田倖紀(スポ1=北海道・恵庭南) 〇9-3
三鋒 田部明音(法4=東京・早実) ●2-8
四鋒 時田隼門(社1=滋賀・玉川) 〇6-2
五鋒 澤祐太郎(教1=東京・世田谷学園) ●1-8
六鋒 野澤颯太(法2=長野・松商学園) 〇6-3
中堅 土谷菜々子(スポ3=北海道・札幌北) 〇1-0
六将 長沼俊樹(スポ3=東京・保善) 〇2-2(先取)
五将 吉田蒼一朗(スポ1=東京・世田谷学園) ●1-5
四将 伊坂夏希(スポ3=鳥取・米子東) 〇7-1
三将 天本菜月(スポ2=宮崎第一) 〇2-2(先取)
副将 土居笙太(商4=東京・早実) ●0-6
大将 吉田翔太(スポ4=埼玉・栄北) 〇5-0
コメント
吉田翔太(スポ4=埼玉・栄北)
――優勝おめでとうございます!今の気持ちをお願いします
早慶戦で勝つために1年間見据えていたので、最終的に個人としてもチームとしても、高校生も勝利することができて本当に最高の1日だったと思います。
――出番が回る前に勝利が決まりましたが、その瞬間は
自分にとってこれが空手人生最後の試合なので、最後内容がどうであれ勝って終われたことはすごくほっとしています。
――オーダーがかなり勝敗を左右したと思いますが、どのように組んだのですか
早慶戦はどうしても接戦になるので、10番目以降の勝敗が決まるところでは上級生で固めて、負けていたら踏ん張り勝っていたらさらに勢い付けて勝ち切ると決めていました。今日はその通り伊坂(夏希、スポ4=鳥取・米子東)が思いきり暴れてきてから勢いがついたので、狙い通りの流れで行けたんじゃないかと思います。
――自身も快勝でしたが、試合を振り返っていかがでしたか
前半は落ち着いて得点を重ねられて、自分の組手ができたのではないかと思います。すんなり4点、5点と行けたので、最後もう1点取り切ってやろうと思ったら逆に気持ちが焦ってしまい、 点が取れなくなってしまいました(笑)。唯一の心残りはそこですね。
――仲間の試合を見て印象に残ったところはありますか
本人には言っていなかったのですが、戦前から土谷(菜々子、スポ3=北海道・札幌北)がキーマンだと思っていて彼女の試合がチームの勝敗を分けると思っていました。土谷がしっかり勝ってくれて伊坂の快勝への流れにもつながったので、自分の中では土谷がすごくいい雰囲気にしてくれたと感じています。
――主将として最高の形で締めくくることができましたが、この一年間を振り返って今どんなことを感じていますか
もう本当に手探りで、どうすればチームがいい方向に向くのか、何を変えれば去年よりいい成績が取れるのかと考えていました。「去年と同じ練習をしていても去年以上の成績は取れないから、何か変化しなければいけない」と監督にも言われていたので、自分たちの代の色を出すために考えているうちにすぐ終わってしまったなと。あっという間の一年間でした。最後チームみんなが大人数で出れる試合で良い結果が残せたのがチーム力が上がった証拠なんじゃないかと思うので、自分たちがやってきたことは間違いじゃなかったと思えて嬉しいです。
――吉田主将のもとでチームの風通しが良くなった印象を受けますが、主将自身が実感しているところはありますか
声かけや練習中のアップの盛り上がりですかね。スポーツ推薦や自己推薦で入ってきた選手は結構強いので、一匹狼というか個々にやっていることもあったのですが、そうではなく先輩後輩関係なく一人ひとりが声を出してみんなで盛り上げることを意識してました。今日もアップの時からみんな良い調子で声も出して行けたので、試合の流れにおいても良い影響を及ぼしてたのではないかと思います。
――ここまで共に戦ってきた同期や後輩に一言お願いします
同期のみんなには本当に今までありがとうということと、このメンバーだからこそこういう雰囲気のチームにできたんじゃないかと思っているので、本当にずっと感謝していきたいです。後輩たちには最後はいい形で自分たちは終われたのですが公式戦では正直良い成績を取れていたわけではないので、来年は公式戦でももっと上の成績を目指して、そうすれば早慶戦でも自ずと勝利が近づいてくるのかなと思います。ここで満足せずにもっと頑張って欲しいです。
伊坂夏希(スポ4=鳥取・米子東)
――優勝おめでとうございます!今の気持ちをお願いします
やってやったぞという気持ちです。この1年間は、公式戦の団体戦でメンバーから外れたりしてなかなか悔しい1年だったので、早慶戦に向けて頑張ってきました。それが報われたかなという気持ちはあります。
――四将で出場し快勝でしたが、試合を振り返っていかがですか
けっこう試合の時にあがってしまうタイプだったのですが、今回はそんなことがなく落ち着いて考えながらできました。だから、やりたい技を、やりたい感じでできて良かったです。
――伊坂さんの前で(早稲田が)5勝していて、もう(団体戦の)勝利に近づいている状況でしたが、試合に臨む心境はどんな感じでしたか
ここで勝てば、後ろに控えている吉田とかに楽をさせることができるので、自分で落とすわけにはいかないという気持ちで挑みました。
――天本さんのところで勝利が決まったわけですが、勝利が決まった瞬間はどんな気持ちでしたか
報われたなという気持ちが本当に強かったです。去年、一昨年と負け越しているので、自分の最後の年で勝てたというのは、良かったなというか、感無量という感じでした。
――今回は全員でつかみとった勝利だと思いますが、最後に、同期、後輩に向けて思っていることをお願いします
そうですね。同期に関しては感謝しかないです。同期がいたからここまで続けてこれたと思っているので、その同期と最後に早慶戦に出られて勝てたのは良かったなと思います。本当にありがとうという感じです。後輩に関して、同期と重なる部分はあるのですが、かわいい後輩たちがいたからここまで続けてこれたというのはあるので感謝はありますし、どうしても早慶戦は苦しい戦いになるので、来年も切磋琢磨して頑張ってほしいと思います。
田部明音(法4=東京・早実)・土居笙太(商4=東京・早実)
――最後の大会が終わりましたが、今の気持ちをお願いします
田部 率直に嬉しいです。(前回勝った)1年生の時は見ているだけだったので、今回は参加できて良かったなと感じました。優勝した瞬間は「よくやった」という感じでした(笑)。
土居 自分自身は試合に負けてしまったのですが、自分の前で決めてくれたので頼もしい後輩だと思いました。自分の一つ前で(早大の勝利が)決まったので、気持ちが楽になったと言いますか「やった!」となりましたね(笑)。また同期の伊坂の試合には本当に感動して、自分は不甲斐なかったのですが嬉しいです。
――他の選手の試合で印象に残ったことはありますか
田部 自分は土谷の試合が印象に残りましたね。土谷自身も去年おととしは負けてしまっていて、今年ようやく勝てたのでそれが自分も嬉しかったです。
土居 伊坂の試合ですね。四年間一緒にやってきた同期で、ずっと練習してきた技を決めて勝ったので、感動しました。
――2人は大学から空手を始めたとのことですが、
田部 4年間を振り返って楽しいことばかりではなく辛いことも沢山あって。後期ではこれが初めての試合でもあり、苦しいこともあったのですが最後は早慶戦に出られて、自分は負けてしまったのですがチームとして勝つことができ、ここまでやってきて良かったなと思いました。
土居 先輩方のおかげでここまでずっとやってこれて、今日負けてしまったのですが来てくださった先輩方に成長した姿を見ていただけたらなと思いました。試合では負けてしまったのですが自分の四年間を出しきれたと思うのでそこは良かったです。悔いなく終われました。
――最後に、同期や後輩に一言お願いします
田部 これからも頑張ってください!(笑)応援に行くので、会いたいです。
土居 先輩方には本当にお世話になって、「ありがとうございました」という気持ちです。同期とは楽しい時も苦しい時も一緒に過ごしてきたので、これからも関係は続いて行くと思いますがとりあえず「お疲れ様」と言いたいです。特に今日はすごく楽しかったので、後輩たちは来年以降も頑張ってほしいですね、
土谷菜々子(スポ3=北海道・札幌北)
――優勝おめでとうございます!今の気持ちをお願いします
率直に嬉しいです。勝ったのは初めてですし、早慶戦で勝つのは特別な思いがあると聞いていたので、今年勝てて「ああ、こんな感じなんだな」と思いました。4年生を良い気持ちで送り出せて嬉しいです。
――相手は強敵だったと思いますが、どんな心境で臨みましたか
観客がいたり声援がある中で、焦らず冷静になることを意識していました。そこを徹底出来て、かつ先取は絶対取りたいと思っていたので、取れてから自分の流れに持って行けたかなと。悪くない試合だったと思います。
――仲間の声援は励みになりましたか
なりますね。自分がちょっとまずい時に「大丈夫だよ」と声を掛けてくれると気持ちも落ち着きますし、後ろを振り返るとたくさんの仲間が応援してくれているので、それが冷静に戦えた要因かなと思います。仲間がいたから頑張れました。
――天本選手がチームの勝利を決めた瞬間は
天本は一旦リードされたのを追いついて勝てた(先取の差で勝利)ので、全員で戦ったからこそ勝てた勝利なのかなと思います。本当にありきたりな言葉なんですけど、とにかく嬉しかったです。
――以前、「4年生をいい形で送り出したい」と言っていましたが、有言実行ですね
全日本ではあまり良くない試合でしたし、ここ2年連続で4年生が悔しい思いをして引退している所を見ていました。さらに自分の1つ上の世代で一番お世話になった先輩方をいい形で送り出すことができたので、素直に嬉しいですし、結果を残せて良かったです。
――チーム最後の試合が終わりました。4年生に向けて一言お願いします
もう感謝しかないです。4年生がいなかったらやってこれなかったし、一番自分たちの意見を汲み取ってくれて、4年生だけじゃなく下の学年も意見を言える体制を作ってくれたので、本当にこれからも4年生の意志を引き継いで自分たちも来年勝ちたいなと思います。
――来年は最上級生ですね。来年の意気込みをお願いします
自分も主務になるので、色々と大変なこともあると思うんですけど、4年生が今まで築き上げてくれた「全員で戦う風潮」をもっとブラッシュアップできるように自分たちの代で頑張っていきたいです。