正真正銘の日本一を決める大会である日本選手権が、武道の聖地・日本武道館で開催された。早大からは組手で芝本航矢(スポ4=東京・世田谷学園)、長沼俊樹(スポ2=東京・保善)、天本菜月(スポ1=宮崎第一)の3選手が出場。新型コロナウイルスの影響で多くの大会が中止となった鬱憤を晴らすかのように、気迫のこもった熱戦が展開された。
大学最後の大会はベスト4まであとわずか・・・あまりに悔しすぎる幕切れ
2回戦で中段蹴りを決める芝本
3年連続の出場となった芝本は、3回戦で中野壮一朗(イー・ギャランティ(株))と対戦。中野とは過去2回の対戦で1勝1敗であり、接戦となることが予想された。序盤は互いににらみ合う展開となったが、芝本が相手の虚を突いた裏回し蹴りで先制する。しかし中野もお返しとばかりに回し蹴りを決め、同点で終盤戦に突入。しかし最後に抜け出したのは芝本だった。残り36秒で再び裏回し蹴りを決めて3点差をつけると、中野が攻め急いだ所を上段突きで合わせてさらに1点を追加。大技が飛び交う激戦で主導権を握り続け、自己最高タイとなるベスト8に駒を進めた。
続く4回戦(準々決勝)の相手は、高校生での出場となった北代涼馬(高松中央高)。将来を嘱望される有望株であり、ここまで昨年3位の安藤(近畿大)らを撃破して勢いに乗っている。試合は序盤から一進一退の攻防が繰り広げられた。芝本は持ち味である突きで優位に立てず苦しむ中、北代にリードされるたびに追いつく粘りを見せる。そして残り11秒で自ら踏み込んで上段突きを決め、ついに逆転。初のベスト4を手中に収めたかと思われた。しかし北代が一縷の望みをかけて裏回し蹴りを仕掛けると、芝本はそれを避けた拍子に体勢を崩してしまう。北代はすかさず上段突きを決め、その瞬間一斉に審判の旗が上がった。残り0.3秒でまさかの再逆転。北代は歓喜の咆哮をあげ、観衆からはどよめきが起こった。芝本は天を仰ぎ無念の表情。大学最後の試合は、あまりに悔しすぎる幕切れとなった。
4回戦後、無念の敗北に天を仰いだ
「結果は悔しいがやってきたことに悔いはない」。その言葉通り、今大会では自粛期間中に鍛えた蹴りによる得点が目立った。これまでは突きを得点源としてきたが、得点パターンが増えたことは間違いなくこの1年での進歩の証だろう。これからは実業団には所属せず、一般企業と両立しながら空手を続けていくという。厳しい道のりであることは間違いないが、「来年もう一度出て、悔しい記憶を上書きしないといけない」と芝本の目線はすでに先を見据えている。4年間早大の主力として活躍し、大学トップレベルの成績を収めてきた芝本。しかし今年はチームで思うような成績を残せず、主将として悔しい思いをすることが多かった。それだけに、来年この地で芝本の笑顔が見られることを期待せずにはいられない。
下級生の主力も出場、来季への糧に
突きを決め、気合を前面に押し出す長沼
長沼は昨年に引き続いて出場し、1・2回戦は快勝。特に2回戦では実業団の強豪に対して事前研究が功を奏し、カウンターからの攻撃で流れをつかんだことで無失点で勝利した。しかし3回戦では疲労もあり相手の速攻に対応できず、昨年と同じくベスト16で敗退。目標としていた準々決勝進出はならず、試合後は悔しさをにじませた。
また、天本は初の全日本出場となった。初戦は「相手を警戒し過ぎて」慎重な試合運びとなったが、突きを中心に得点を積み重ねて5-0で快勝。2回戦では反省を生かし、積極的な踏み込みを見せる。しかし相手に的確に合わせられ、徐々にリードを広げられて敗北。「まだまだ」と力不足を痛感した一方で、全国の舞台で自らのプレースタイルを貫けたことを収穫に挙げた。またトップレベルの試合を間近で見たことで、戦術面で新たな課題が見つかったという。
攻める機会をうかがう天本
今季は負けなしとチームに確実に点を持ち帰ってきた長沼。10月の関東大学選手権では帝京大戦でも勝利し、唯一全勝を挙げた天本。両者ともここまでチームをけん引する活躍を見せてきたが、今大会ではトップレベルの壁に跳ね返された。「3年生は一番勝負の年(長沼)」、「(来年は)他校の3、4年生に負けないような組手、試合をしていきたい(天本)」。共に課題ははっきりしている。冬の鍛錬を経て、一回り強くなった姿が見られることだろう。
(記事 名倉由夏、写真 名倉由夏、石黒暖乃)
※掲載が遅くなり、申し訳ありません
結果
▽男子組手
芝本航矢(スポ4=東京・世田谷学園) 5位(ベスト8)
※学連代表で出場
1回戦 〇3-1 中野大輝(大阪)
2回戦 〇3-1 才保佑一朗(鹿児島)
3回戦 〇7-3 中野壮一朗(京都)
準々決勝 ●4-6 北代涼馬(高体連)
長沼俊樹(スポ2=東京・保善) 3回戦敗退
※東京都代表として出場
1回戦 〇6-2 山下僚也(三重)
2回戦 〇4-0 中村良太(山梨)
3回戦 ●0-3 野村駿太(愛媛)
▽女子組手
天本菜月(スポ1=宮崎第一) 2回戦敗退
※佐賀県代表として出場
1回戦 〇5-0 田中良菜(徳島)
2回戦 ●0-4 林風花(長野)
コメント
芝本航矢(スポ4=東京・世田谷学園)
――まず、率直な今の気持ちをお願いします
負け方が負け方だけに、率直に悔しいです。この大会にかけてきたというか、5歳からやってきたことを全て賭ける思いでこの大会に挑んで、やれることはすべてやってきた結果なので、悔しいですけどそこには後悔はないかなと思います。
――4試合とも中身の濃い試合でしたが、それぞれの試合を簡単に振り返ってみてどんな感想でしょうか
1回戦から気が抜けない相手だったので、まずは1回戦という所で、練習から何度もイメージしながら、試合を意識しながら練習してきて、まあ1回戦勝てば調子が乗るだろうと思って、日々過ごしてました。そんなに簡単に勝たせてくれる相手ばかりじゃないので、一戦一戦、相手が誰であろうと自分の組手を貫く、今までやってきたことを信じて戦うということを、本当に心がけてやっていました。
――今大会に臨むうえで、コンディションはいかがでしたか
コンディションは非常にいい感じで来れていて、練習以外でも、ストレッチとか気を配ってやっていたので、そういったものが自信に変わりました。試合前日、前々日からしっかり自分の調子を整えながら今日に持ってこれたので、コンディショニングという意味では自分自身、最高という状態に持ってこれたかなと思います。
――前の試合が早慶戦だったと思いますが、早慶戦のあとから特にどんなことに取り組んできましたか
そうですね。自分の技を磨くプラス対戦相手のイメージといいますか、何で(得点を)とるんだとか、何で来るからこう戦うといったシミュレーションは、常に練習の時からやっていました。
――試合の組み立てとか技の配分について、今大会で意識したことはどんなことですか
突き技が自分の持ち味でもあるんですけど、この自粛期間の中で蹴り技も蹴りの幅、コンビネーション、そういった所でバリエーションを増やしていました。突きばかりじゃなくて蹴りもあるぞということを意識して、自粛期間前の自分とは違う所を見せたかったですね。
――今大会、蹴りで得点を稼いでいる印象があったのですが、それは自粛期間の成果ということですか
そうですね。大会がない中でどうやってモチベーションを保っていこうか思っていたんですけど、新たな技に取り組むことで非常にモチベーションを保てていて、それが蹴りでした。蹴りが練習でも入るようになると練習も楽しくなるので、そういったものがモチベーションになりつつ、上達していきました。蹴りが今大会こうやっていい方向に結果となったので、やっぱり今までやってきたことは間違ってなかったと改めて思いました。
――先ほど、今大会は強敵揃いだというお話がありましたが、特に3回戦で当たった中野選手とは、何度か対戦したことがありますよね
2回ですね。
――実績もあり手ごわい相手ですが、今回当たってみていかがでしたか
そうですね。もちろん、簡単には勝たせてくれないだろうなとは思いました。でもそれで気持ちが引いたら、自分が負けちゃうので。昨年の悔しい思いも簡単になくすことはできないですし、やっぱり空手人生を賭けて戦うので、気持ちでは絶対負けないという思いでコートに立ちました。
――試合中はずっと主導権を握っているように見えました。あの試合のなかで上手く行った点、逆に上手く行かなかった点はありますか
練習した蹴りが入ったのは良かったなと思います。良くなかったのは、そのあと(自分が)蹴りを貰ったのですが、あれは中途半端というか曖昧な逃げだったので、もう少しはっきりと逃げないといけないなと思いました。
――蹴りが決まったことについて、相手としては蹴りをしてくることをあまり想定してなかったということがあるのでしょうか
そうですね。自分は突き技がメインというか、突き技の意識が多少対戦相手にあると思うので、蹴りもあるんだぞ、と。技のバリエーションを増やすことで、多少は攪乱できたのかなと思います。
――相手選手も蹴りを使う印象があり、それを体勢を低くする形でよけていましたが
中途半端な距離で見合わないというのは意識してて。危険な間合いで駆け引きすると相手も上手いので、ダメだなと思ったら切る、行けると思ったら行く。行くか切るかというのははっきりさせる所で、蹴りがしっかり見切れたのかなと思います。
――4回戦は相手が高校生ということで、これほど年下の選手と対戦することはあまりないと思うのですが、対戦相手が決まってどんな心境でしたか
これほど勝ち上がってくる選手なので、よほど強いんだろうなと思っていました。自分の中では誰が勝ち上がってこようと、自分の組手をするだけだと思っていたので、対戦相手が決まっても、別に心は変えずにいました。
――対戦してみて、どんな相手でしたか
高校生なりの勢いもありましたし、しっかり判断力もスピード感もありましたし、自分の技もしっかり見切ってきたのでさすがだな、すごいなと。自分も学べることがたくさんあると思うので、ビデオを見て、相手選手の何が良かったかをもっともっと研究していきたいなと思いました。
――4回戦ではいつもと違い、突きのスピードで互角になっている印象を受けました
そうですね。結構ちゃんとプレッシャーをかけてきたので、そのプレッシャーに自分が押されてしまって、それで自分の本来の突きが出せなくなってしまった、スピードが落ちてしまったということは多少あると思います。
――それによって作戦の変更はしましたか
プレッシャーをかけてきますし、簡単に入ったら相手も見切ってくるので。多少蹴りやフェイントをかけて、自分のペースに持って行った所で技を出すことを心がけました。
――終盤で逆転しましたが、その時の心境は
必死でしたので、あまり覚えていないんですけど。とったんだなという感じで。
――聞きづらい所ではあるのですが、最後に技を決められた時はどんな気持ちでしたか
何でしょうね…必死ではあったので、あと0.3秒しかないから、もう(点を)取りに行かなきゃという気持ちだったんですけど。終わってみれば、勝負はそんなに甘くないと痛感しました。空手は続けるつもりですけど、来年もう一度出て、悔しい記憶を上書きしないといけないなと思いました。
――途中まで勝っていた要因、そして負けてしまった要因はどんなことですか
自分の中で気を抜いたつもりはなかったんですけど。「運も実力のうち」じゃないですけど、勝負はどこで何があるかわからないので、運もそうですけど、あと少しの所を逃さず自分の手にしっかり掴み取る強さを磨きたいなと思いました。
――今大会で空手人生の一区切りになると思います。これまでを振り返ってみて、今どんなことを感じますか
まずは親に本当に感謝したいなと思っています。幼稚園からいろんな道場に連れていってくれて、出稽古とか、大会の応援に来てくれて、いろんな所に連れて行ってもらったからこそ今の自分があると思います。ここまで空手をやらせてくれてありがとうということを率直に伝えたいです。
――今後は空手はどんな形で続けますか
実業団には所属しない会社に勤めるので、今のように部活で毎日空手をする生活ではないんですけど、土日にやったり、合間を見つけて自分でやったりしたいです。空手が大好きなので、このままやめたくないですね。自分なりにランニングしたり筋トレしたり、大学にも顔を出したり、自分のできる範囲で最大限続けたいなと思っています。
長沼俊樹(スポ2=東京・保善)
――今日はベスト16という結果でしたが、振り返っていかがですか
去年はベスト16だったので、今年は一つ上のベスト8以上で何かしら持って帰るということを目標にしていたのですが、それを達成できなくて悔しい気持ちでいっぱいです。
――今日のコンディションはいかがでしたか
コンディションは、良くも悪くもない感じでしたね。身体の方は少し疲れが残っていたかなという感じだったのですが、動き自体はそんなに悪くなかったという感じです。
――3回戦では、相手に攻められる展開となりましたが、どうでしたか
1、2回戦の相手も結構強くて、(3回戦も)意識していた相手だったのですが、それまでで体力がだいぶ無くなっていました。あまり覚えていないというか、とりあえずやられたなという感じです。
――今日の試合で良かった点と改善点を教えてください
特に2回戦は相手が結構有名な選手で、ある程度研究していました。相手がワンツー(連続技)で攻めてくる所をカウンターで狙おうとずっと考えていたので、それが上手くいった点が良かったと思います。改善すべき点は、やはり体力をもっと付けないと。意識して走り込んでいたのですが、まだ足りなかったということです。また、逆転する技が無いという点です。3回戦目も、3点差つけられて、まだ時間があったのですが、一発逆転の蹴り技とか、そういうのが自分には無いかなという印象でしたね。なので、今後はそれを見つけていこうという感じです。
――今回で、今年の公式大会が終了したと思いますが、今年全体を振り返っていかがでしたか
今年は順調でした。今日まで部内戦とか選考会とか、関東団体(関東大学選手権)とか早慶戦とかがあったのですが、ずっと負け無しで来ていて良い感じでした。ただ最後の最後で負けてしまって終わりが良くないので、あんまりかなという感じです。
――新型コロナウイルスの影響で色々あったと思いますが、その点についてはいかがでしたか
練習もみんなで集まってできなかったので…でも、みんな同じ条件だったので、特に(その影響は)そんなに気にしなかったですね。
――このオフシーズンはどのようなことを中心に取り組まれますか
来週、ナショナルチームの選考会(※)があるので、オフシーズンは選考会の結果を踏まえて、これから考えていきたいと思います。
※ 12/18に中止が決定
――来年度は3年生となり、さらにチームの中心となりますが、来年度に向けて、意気込みをお願いします
来年の試合まで、結構時間が空きますが、そこが勝負だと思って、しっかり練習したいと思います。また、3年生は一番勝負の年かなと思っているので、結果を出していきたいと思います。
天本菜月(スポ1=宮崎第一)
――初めての全日本の舞台を終えて、今の心境は
トーナメントを見て思ったことなんですけど、やっぱり有名な選手とか、全国で勝ち上がってきた選手がたくさんいるので、自分が同じ舞台に立つということが嬉しい気持ちもあったんですけど、ちょっと不安はありましたね。終わってみて、ああ自分はまだまだだったなと思いましたね。
――今日の2試合をそれぞれ振り返ってみていかがでしたか
初戦はコンディションも万全というわけじゃなくて、身体が思うように動かず相手を警戒し過ぎて下がって組手をし過ぎたんですけど、2回戦はどちらかと言えば、守りよりも攻めて行きました。負けてしまったけど、攻めの組手ができて良かったかなと思います。
――コンディションや身体の調子が良くなかったというのは、具体的にどんな感じでしたか
自分の出したいタイミングで技が出なかったことです。ここで突いたら入っていたという場面で、相手を見過ぎて出なかったという所ですかね。
――そのコンディションの悪さは、1回戦から2回戦にかけて改善されていったということでしょうか
そうですね。初戦は本当に足が止まっちゃって。どちらかというとよく動く組手の方が自分の技を出せるので、動く組手をしていきたかったんですけど、できませんでした。
――今大会に向けて目標は立てていましたか
もちろん優勝したいという意識ではいたんですけど、現実的に、自分のレベルだったらベスト4に残りたいという意気込みでした。でもそこまでまだまだ(届いていない)ということで、悔しいです。
――早慶戦の後、この大会に向けて取り組んできたことはどんなことですか
早慶戦では接近戦で技が出なくて、そこから一対一で、接近戦を磨いていこうと思って練習してきました。技自体は出せるようになったんですけど、ポイントの取れるような技かといったら、まだダメでしたね。
――今大会で得た収穫や、目標に向けて足りなかった所について具体的に教えてください
先ほども言ったんですけど、2回戦は攻めとしては(良かったです)。反省点としては、色々な選手の試合を見て感じたことなんですけど、連続技、遠い間合いから連続技で決めるとか、そういうパターンを持っている選手が勝ち上がっていったので、そこは自分にはない所なのかなと思いました。
――オフシーズンに入りトレーニングを中心とした時期になるかと思いますが、これから取り組んでいきたいことや、来年への意気込みをお願いします
まずオフシーズンではフィジカル面を鍛えて、ほかの選手の連続技とかをしっかり自分ができるように吸収して、来シーズンに向けて頑張って行きたいです。1年生の時に試合がほとんど無くなってしまったので、2年生になったら他校の3、4年生に負けないような組手、試合をしていきたいです。