一年で最後の、そして間違いなく一年で一番熱い戦いである早慶定期戦が慶大・日吉記念館で行われた。昨年のメンバーの内6人が卒業し、下級生主体で挑んだこの大会。早大は敵地で昨年のリベンジを期したが、中盤での連敗から巻き返せず5-7(1引分)で敗北。1年間の集大成を勝利で飾ることは叶わなかった。
最初に行われた形演武では細田悠乃(社4=沖縄・開邦)が個人形を、細田、アルフォルテさくら(国教1=フィリピン・ラサール・ゾベル)、益田恵理花(創理2=東京・早実)が団体形を披露。無観客の会場に選手の気迫と張り詰めた緊張感が広がり、戦いの雰囲気が作られていく。
気迫あふれるパイク―を演武する細田
その後高校自由組手を経て、大学自由組手が開幕した。先鋒の土居笙太(商3=東京・早実)は格上相手に黒星を喫したが、次鋒の長沼俊樹(スポ2=東京・保善)が威力ある上段突きを軸に得点を重ねて快勝。昨年のリベンジを果たし、1-1での立ち上がりとなった。その後は劣勢の試合が続き、9人を終えた時点で2勝6敗1分けと後がない状態になってしまう。しかし、早稲田もこのままでは終われない。ここから男子団体組手のレギュラーメンバーが意地を見せる。まず四将で登場したのが野澤颯太(法2=長野・松商学園)だ。野澤は昨年の早慶戦でも大熱戦を制し、チームに流れを引き寄せた。今年は互いに見合ってカウンターを狙う展開となったが、突きのスピードで上回り勝利。重いムードの中で価値ある1勝を挙げた。
相手の攻めに冷静に対処する野澤
続いて登場したのは吉田翔太(スポ3=埼玉・栄北)。早慶戦はこれまですべて無失点で勝利しており、頼れるポイントゲッターだ。吉田は「落ち着いて相手の隙を見れた」と振り返るように、序盤から相手の作戦を逆手にとり、技のタイミングに緩急をつけて主導権を握る。中盤で中段突きを決められ追い上げられる場面もあったが、最後は再びリードを広げて勝利。優勝へ僅かな望みをつないだ。しかし反撃もここまで。副将の土谷菜々子(スポ2=北海道・札幌南)は強敵に果敢に挑むも及ばず、チームの敗北が決まった。
リーチの長い上段蹴りで仕掛ける吉田
勝敗がすでに決した中で迎えた大将戦。芝本航矢(スポ4=東京・世田谷学園)は早稲田の大将として、そして主将として「来年につなげる」思いでコートに立った。強気の攻めと技の速さで勝ち星を重ね、上級生になってからは団体戦で全勝という成績を残していたが、今日もその強さを発揮した。開始直後にいきなり上段突きで先制すると、その後は焦って前に出る相手を迎え撃ちさらに得点を重ねる。最後は鮮やかな上段裏回し蹴りを決め、わずか42秒で8点を挙げて完勝した。「すべてを出し切れた(芝本)」と振り返る会心の試合を見せ、溜飲を下げる形で最後の早慶戦を終えた。
中段蹴りを決める芝本
13対13で行われ、部の総力を挙げて臨む早慶戦。上位3人または5人で行われる公式戦とは異なり、層の厚さが求められる。早大は昨年のメンバーの約半分が卒業し、その穴を下級生が埋めることとなった。そのため、この試合が初の対外試合となった選手も多い。彼らにとっては苦いデビュー戦となったが、伝統の一戦で得た経験は来年に活きるだろう。対照的に、今年のメンバーで抜けるのは芝本ただ一人。絶対的エースが抜けるのは痛手だが、この経験を経た下級生の奮起に期待が高まる。これからは次期主将の吉田を中心とした新体制。吉田は「上級生も下級生も、推薦入部も初心者入部も関係なく」全員が一丸となって高めあえるチーム作りを目指す。そして、「先輩方の悔しい思いをばねにまた1年間練習して、来年この場でやり返したい(吉田)」。来年は早稲田での開催となる。この悔しさを糧に、ホームの地で必ず宿敵を破ってみせる。
(記事 名倉由夏 写真 名倉由夏、布村果暖)
※掲載が遅くなり、申し訳ありません
結果
▽大学自由組手
早大 ●5-7(1引分)慶大
先鋒 土居笙太(商3=東京・早実) ●1-7
次鋒 長沼俊樹(スポ2=東京・保善) 〇3-1
三鋒 田部明音(法3=東京・早実) ●0-4
四鋒 伊坂夏希(スポ3=鳥取・米子東) ●1-7
五鋒 塩冶城春(人1=山口・岩国) ●6-0(反則)
六鋒 アルフォルテさくら(国教1=フィリピン・ラサール・ゾベル)●0-2
中堅 秋元雅宇(法2=東京・早実) 〇0-6
六将 溝井郷介(政経2=東京・早実) ●1-5
五将 天本菜月(スポ1=宮崎・宮崎第一) △0-0
四将 野澤颯太(法2=長野・松商学園) 〇2-1
三将 吉田翔太(スポ3=埼玉・栄北) 〇5-2
副将 土谷菜々子(スポ2=北海道・札幌南) ●1-4
大将 芝本航矢(スポ4=東京・世田谷学園) 〇8-0
▽優秀選手賞
芝本
コメント
芝本航矢(スポ4=東京・世田谷学園)
――最後の早慶戦が終わりましたが、今の率直な気持ちをお願いします
まずコロナ禍の中で早慶戦ができるということに感謝や喜びを感じながら試合をしました。今大会は早大とつけて出る最後の試合でしたので、もう思い残すことなくすべてを出し切ろうという思いでした。本当に楽しく試合ができました。
――団体では惜敗、個人としては圧巻の勝利で終えました。こうした結果についてどう捉えていますか
やはりチーム全体で勝つのは早稲田と慶応のどちらかなので、それに関しては負けたということは本当に悔しいことでした。もう決着がついた状態で回ってきたのですが、来年は自分以外がみんな残るので、私は大将として来年に繋げる思い、来年も頑張ってほしいという思いであの組手をしました。結果は負けてしまったのですが、こういった負けがあることが次のステップにつながる大きな力になると思います。この経験は一番の強くなる原動力になると思うので、来年それを力に変えて頑張ってほしいと思います。
――早慶戦には独特の雰囲気がありますが、今回は特に下級生中心で挑んだ中で早慶戦についてどのようにアドバイスしましたか
早慶戦が初めてのメンバーも多かったので、下級生には一昨年や昨年のビデオを何回も見せて、こういう雰囲気でやるんだぞということを伝えました。今年はコロナウイルスの影響で大きな歓声は無かったのですが、早慶戦の独特の雰囲気のイメージは常に持って練習に取り組んでいました。
――今回はコロナウイルスの影響で無観客試合となり、普段の早慶戦とはまた違った雰囲気でしたが、その中で心がけたことはありますか
プラス面で考えると、自分自身に集中できるというか、周りの声がない分冷静になれる時間があるのかなと思います。そういった所は部員には伝えていました。
――早大空手部としては今回が最後の試合となりましたが、今早大空手部での4年間を振り返ってどんなことを思いますか
これを話すと1時間くらいかかるのでここでは語れないのですが(笑)、本当に早大に入学できて、空手ができて、そして試合に出場できて、その中で色々な先輩方、同期、後輩という素晴らしい方々に出会えて本当に私は幸せ者だと改めて感じました。
――特に唯一の同期であり、今年共にチームを引っ張ってきた細田副将兼主務(悠乃、社4=沖縄・開邦)についてお願いします
私一人ではもちろんやって行けないので、悠乃の存在は非常に大きかったです。主務も副将も務めて、部の運営でしたり本当にたくさんの役割を何一つ不満を言わず、率先してやってくれていたので、本当にそこには感謝しかないですね。4年生は二人ですが、悠乃という素晴らしい人に出会えて本当に良かったなと思います。
――空手部のこれからを担う後輩たちにメッセージをお願いします
この早慶戦があるのは早稲田と慶応しかないので、その早稲田にいられることを誇りに思ってほしいです。そしてこの結果や悔しい思いを次で絶対晴らすんだという気持ちを一年間持ち続けて、一日一日を無駄にしないで稽古に励んでほしいなと思います。それは皆が心に持っていることなので心配していないです。次は吉田が主将になりますが、吉田ならしっかりやってくれると思います。期待してるの一言です。
――個人としては12月の全日本選手権が大学最後の大会となります。全日本選手権に向けての意気込みをお願いします
社会人になってからも空手は続けるつもりではあるのですが、全日本が学生では最後ということで今までの空手人生の全て、集大成だと思っています。自分らしく最後の最後まで諦めずに日本一を獲りたいと思いますし、命を懸ける思いで挑みたいと思います。
細田悠乃副将(社4=沖縄・開邦)
――団体形では流派が変わりましたが、3人で合わせてみてどうでしたか
元々練習は関東団体でやっていた燕飛と今日の形もやっていました。こっちは得意形で決勝の形として練習していたのであまり披露する機会がなくて、せっかくだからやろうかということでやったので。よかったです(笑)。
――この試合にはどんな思いで臨みましたか
基本的にはもう早慶戦って他の試合と違って一体感がすごくあるので、自分は形でしたが競技が違ってもやっぱり一体感があって。そういう意味では、私が、というよりはワセダとして勝ちたいという思いがありました。
――大学最後の試合を振り返っていかがですか
最後の試合だから逆に言えば気負いもなくて演武も伸び伸びとできたし、他のメンバーの益田恵里花(創理2=東京・早実)とかアルフォルテさくら(国教1=フィリピン・ラ・サール)も、自分と一緒にアーナンをやるのはこれで最後ですが、今後もどこかでこういう機会があればいいねという感じで、将来につながるような感じで良かったと思います。
――大学での4年間を振り返っていかがですか
私は部活を大学で初めてやって、それまではずっと道場だったので本当に結果だけを考えていて、仲間とかはなくて。そういう意味では大学の部活に入って学ぶことも多かったし、大変なこともありましたが、部活に入って良かったなと思います。
――大変だったのはどんな点ですか
やっぱり集団なので空手だけやればいいっていうものじゃなくて、仲間とのコミュニケーションだったり仕事だったり色々あるんですけど、そこは今までと違ったので大変でしたね。
――4年生は芝本航矢主将(スポ4=東京・世田谷学園)と2人でしたが、芝本さんはどんな存在でしたか
こう言ってはなんですが、芝本と私はたぶん同じ部活じゃなかったら絶対関わらなかったようなタイプなんですよ(笑)。ちょっと理解できないなみたいなところも沢山あるんですが(笑)、友達としてとかだと中々うまくいかなかった部分があるんじゃないかと思うのですが、でもやっぱり同期としてはすごく良かったなと思って。大学に入ると空手以外のことも考えなきゃいけなくなるんですが、そういう大変な中でも航矢が同期だったから空手の結果を目指して日々練習できたし、そのモチベーションが決して落ちなかったのは航矢が同期だったからなので本当に良かったなと思います。
――後輩へのメッセージはありますか
私は後輩が入ってきて部活を楽しいと思えるようになったところがあるので、一人一人に伝えたいことは沢山あるのですが、全体としては、これから後輩たちは色んな試合があるし、みんな勝てる選手なのでもっと上を目指してほしいなと思います。個人的には次の代も女子ひとりで、初心者というハンデはありますが、みんなを引っ張っていってほしいなと思います。あと恵理花(益田)は形で一番指導しているので、もっともっと伸び伸びやってほしいなと思います。
吉田翔太(スポ3=埼玉・栄北)
――早慶戦を終えて今の率直な気持ちをお願いします
やっぱりチームで勝ちたかったなと思いますね。チームで勝つためにきつい練習も芝本主将のもとで頑張ってきたので、チームとして慶応に勝てなかったのは残念です。でもそれに向けて頑張ってきたことは絶対無駄にはならないと思っているので、この悔しさをばねに来年頑張りたいです。
――自身は三将戦で勝利しましたが、自身の試合を振り返っていかがですか
落ち着いて相手の隙を見れたかなと思います。相手は自分が前拳で入るところを中段(突き)で狙おうとしていることが向き合ってすぐに分かったので、敢えて前手で行くように見せて逆手から入ることによってタイミングをずらせたかなと。狙い通り試合を運べて勝ちを一つ持ってこれたので、ちょっと安心しましたね。
――もう1敗も許されない展開での登場となりましたが、その時の心境を教えてください
今まで練習してきたことを信じて、自分がしっかり勝って大将の芝本主将に繋げて行こうという気持ちでした。もう1敗もできないという縮こまった感じではなく「やってやるぞ」という勢いで、勝敗は気にせず思い切り今までやってきたことを出すだけだと思って臨みました。
――早慶戦はやはり独特の雰囲気がありますが、3回目の参加で慣れなどはあるのでしょうか
普段の試合にはない歓声の大きさだったり、観客の方々が近くにいるという面では、審判の声とか周りの声が聞こえなくなるくらい盛り上がるのが早慶戦でした。今回はしーんとして逆にやりづらい感じだったんですけど、静かだからこそ色々冷静になれる部分もあって、上手く試合を運べたかなと思います。
――吉田さんにとって4年生はどんな存在ですか
3年間も一緒に練習してきて、一番近くにいてくださったので、本当に一番長くお世話になった先輩方です。正直先輩方が引退されて自分たちの代になって引っ張って行けるのかということは少し感じます。ですが、今日先輩から「来年やり返すチャンスがあるのはお前たちだから」と言ってもらったので、先輩方の悔しい思いをばねにまた1年間練習して、来年この場でやり返したいという気持ちで頑張ります。
――これからは主将となりますが、どんなチームを作っていきたいですか
上級生も下級生も、推薦入部も初心者入部も関係なく皆で声を掛け合って、気付いたところを皆で言い合えるチーム、試合中も「あそこ狙われてるぞ」とか「今の技良かったよ」とか声掛けして皆で盛り上げられるチームにして行きたいなと思います。どうしても推薦で入学した人の言うことの方が説得力があるような雰囲気になったり、初心者だからと言って控え目な人もいるのですが、そういうのは関係ないぞと。気付いたことがあったら言ってほしいし、皆でやっていきたい気持ちがあるので、雰囲気のいいチームにして空手を楽しんでいきたいです。
――最後にチームとして、そして個人としての意気込みをお願いします
自分としてはもう4年生になってしまったかという思いはあるんですけど、一つ一つの大会、一日一日の練習をしっかり考えて、自分なりに工夫して、一つ一つ地道に頑張った結果が良い結果になれば最高かなと思うので、地道に頑張っていこうと思います。