【連載】関東大学選手権前特集『歩』 第1回 末廣哲彦副将×末廣祥彦

空手

 絶対に負けられない戦いがある。全日本大学選手権の出場権を得るためにも、非常に大事な大会となってくる関東大学選手権。悔しい前期を経て、迎える団体戦シーズン。今回は早大空手部を引っ張る兄弟、兄・末廣哲彦副将(スポ3=東京・世田谷学園)と弟・末廣祥彦(スポ2=東京・世田谷学園)に団体戦への意気込みと、その素顔に迫った。

※この取材は9月14日に行われたものです。

悔しい春を経て、二人はなにを思うのか

明るく対談を盛り上げる末廣哲

――兄弟対談が実現されましたが、きょうはどのような意気込みで臨まれていますか

末廣哲 お互いにそう思っているかは分かりませんが、兄弟というよりは、空手の先輩後輩としての付き合いの方が長いので、そこまで意識はしていないです。

――お二人は対談取材も初めてということですが、緊張などはされていますか

末廣哲 そうですね。初めてのことなので(緊張)しますね(笑)。

末廣祥 取材には緊張しますけれど、今回は兄弟なので別にあまりないですね。

――先日まで合宿をされていたとのことですが、どのようなことに取り組みましたか

末廣哲 夏合宿は自分も4年生たちと一緒に練習メニューを作ったのですが、何回も監督(福田聡監督、昭54政経卒)にダメ出しされました。どのタイミングでどんな目的で何をすればいいかまで一つずつしっかりと決めていきました。これで本当にいいのかという不安も抱えながら合宿も始まりましたが、もっとやれたな…という思いが正直ありました。ただ自分個人としては、そのメニューはやり切れたので、来年はもっといい合宿にできたらいいです。

末廣祥 キャプテン(永田達矢主将、商4=東京・早稲田)と副将(末廣哲)がメニューを練っていたのは知っていました。自分は練習の中でそれにアドバイスを挟んだりしますが、結構いいメニューだなと思っていました。自分としては中身のあるいい練習ができました。

――具体的にどのような練習をされたのでしょうか

末廣哲 今回は『前に出る』ということを一つのテーマとしてずっと続けてやってきました。技を制限して、その中で自分がどうやって前に出るかを考えさせたりなどしました。技を制限しないと、下がってしまったり技を出さずに試合が終わってしまう選手がいるので、技を制限してどうやったらいいかを考えさせるようにしました。ワセダは選手のレベルの幅も広いです。大学から競技を始めた人から日本代表クラスまで、いろいろな人がいるので、そのあたり夏合宿は初心者の人たちに合わせた練習をしていました。大学から始めた人たちもすごく高い意識を持っていて、それぞれに目標を持たせるようにはキャプテンが意識させています。その中で誰よりもモチベーションが高いのがキャプテンなので、すごい人です。

――永田主将はどのような主将なのでしょうか

末廣哲 これまでで一番練習が厳しいですね(笑)。夏合宿はもちろんですが、普段の練習メニューを作るときでも主将は1分1秒を無駄にしたくないと毎回言うんですよ。量がすごいですね。丸山先輩(丸山政宏元主将、平26社卒)の時はシンプルな練習をして、薬師寺先輩(薬師寺拓哉主将、平27商卒)の時もシンプルな練習を重ねて実戦練習を積むという感じでしたが、いまはいろいろな動き方から何まで永田先輩が指示してくれます。

末廣祥 薬師寺先輩は高校時代の実績がすごい方だったので、自分たちは付いていくだけでしたが、いまはみんなで考えて無駄のない練習をしようと。自分たちもきょねんよりは発言量も増えましたしそれが練習に反映されるので、自分たちで考えてやることができるようになりました。永田先輩はチームの作り方がうまいです。

末廣哲 自分たちは空手をやっていた環境がずっと一緒なので二人から新しい意見が生まれにくいのですが、そこで今尾(光、スポ2=大阪・浪速)や1年生が出してくれたりすれば、もっともっといい部活になっていくと思います。あと(永田先輩は)人と話すのがうまいので、いろいろなことを話しやすいですね。

――ことしの前期を総括していかがでしたか

末廣哲 きょねん東日本(東日本大学選手権)ベスト4という実績を作ったばかりだったので、OBなど周りの期待値は高かったですね。その割に団体で結果を出せなかったので、大事な部分で勝ち切れませんでした。個人的にはケガから始まってケガで終わったシーズンだったので、ふがいない感じですね。

 

末廣祥 自分はきょねんの前期は団体でチームに貢献できたと思いますが、個人戦で簡単に1回戦や2回戦で負けてしまっていました。ことしは個人のレベルを上げて、個人戦でも勝てるようにした結果でチームのためになればいいなと思っていました。個人戦はきょねんより勝ち上がることはできましたが、団体の時に勝ち切れなかったので、勝てるコマで勝たないといけないなという課題が残りました。チームもいまに比べれば出来上がっていませんでしたが、団体としての試合が今後は続くので、前期の反省が生かされればいいなと思います。糧にはできる前期でしたが、結果は良くなかったですね。

――昨年の前期はルーキーでしたが、チームになじむのは早かったですか

末廣祥 思い切ってやっていいよと先輩方が言ってくださったので、自分のできることも思い切ってやることだけだったので、それがいい結果につながりました。ことしは下の代も入ってきて、勝たなくてはいけないという重りがあったので、今後はそういった思いをなくしてやっていけたらいいですね。

――祥彦選手はケガの影響もあり、全日本学生選手権(全日本学生)では思うような結果が残せなかったかと思われますが、いかがでしたか

末廣祥 全日本学生はまず、関東のレベルが高いため出ることの難しい大会です。(全日本学生に)出場するということが第一の目標でしたが、ケガもあったとはいえそこで終わってしまいました。気持ち的にも目標は全日本学生出場だったので、優勝を目指してやっている選手にはかないませんでした。そこは団体においても同じですが、出場を目指すのではなく勝つことを目標にしていかないとすぐ負けてしまうと思います。(全日本学生は)勝つことを目標にしないといけないなと感じさせられた大会でした。

――同期の今尾選手は同大会で好成績を収められましたが、祥彦選手にとって今尾選手はどのような存在なのでしょうか

末廣祥 同期としてみたら、こんなに心強い同期はこれまでいなかったですね。チームとして、あれだけ勝ってくれる力強い人はいませんでしたし、そういうところではありがたいですし自分もやりやすくなっています。チームが勝っていく上では絶対に必要な人物ですが、一緒に入学したとなると、負けられないなという思いもありますし、高校時代からもライバルの関係だったので、今後もそういう関係の方がチームのためになるのかなと思います。実力や結果で劣っていても、負けないぞという思いでやっていけたらいいです。今尾をもっとあおっていきたいですね(笑)。そうしたら今尾も自分ももっと伸びていけるので、いい関係でいたいです。

――哲彦選手から、後輩たちの活躍は先輩として兄としてどう映っていますか

末廣哲 二人共入った時から完成されて入ってきているので、最初は焦りもありました。いまはチームとしてやっていく上で二人共率先してやってくれますし、2年生にも1年生にも厳しく言ってくれるので、チームの戦力としても助かる部分は多いですし、チームをまとめる立場になってからも助けられていますね。結果でこの二人にはいま自分は追い付けていませんが、負けるつもりもないので、一人の選手として尊敬していますし、いいライバルですね。

――永田主将も以前、空手部全体の底力が上がってきているとおっしゃっていましたが、チーム状況などは現在いかがでしょうか

末廣哲 いまは2年生がぐんぐん伸びてくれているので、この二人に引っ張られている感じですね。2年生は真面目ですし、夏休み中も朝から夜までいた人もいるらしいですし。いろいろなことを吸収しようという意識が一番高い代なので、それに祥彦と今尾が加わって伸びているのかなと思います。3年生も来年最上級生になることを見据えて、後輩の指導をやってくれています。

――哲彦選手は昨年の早慶戦でも大将を務められるなど期待は大きいと思われますが、そういった期待に対してどう受け止めていますか

末廣哲 早慶戦や全日本大学選手権で後ろの方を、そしてことしは副将を任されているので、やらなくてはという気持ちになりましたね。いまは後輩もたくさんいますしやらなくてはいけないので、いろいろ任された方が自分も気が引き締まります。責任感やプレッシャーはいい方向に持っていけているのかなと自分では思っています。自分は4年生と下のパイプ役なのでチームをまとめるためにももっとうまく動かないといけないですね。

兄弟であり、先輩・後輩であり、そしてライバル

言葉を選びながら丁寧に質問に応える末廣祥

――お二人にはお姉さんもいると伺いました

末廣哲 ことし24歳になる姉がいますが、姉も含めて兄弟感がないですね。友達みたいな感じです(笑)。自分たちはいま実家を出ているのですが、実家に帰ると三人でカラオケに行ったりします。小さい頃から一緒にいると「友達?」と言われたりします。それくらい歳の差はあまり感じないですね。二人ではバッティングセンターに行ったりビリヤードやったりよく遊んでいました。

――カラオケに行くとおっしゃいましたが、どんな曲が好みですか

末廣祥 いつもよくわからない曲ばかり歌っているよ?

末廣哲 わからないかなあ?ケツメイシが好きですね。

末廣祥 わからなくないじゃん(笑)。

一同 (笑)。

――カラオケには頻繁に行かれるのですか

末廣哲 実家にいるときは1カ月に1回は行っていましたね。あと空手部でカラオケに行くときは僕らも一緒になります。

――何を歌われるのですか

末廣祥 自分は福山雅治をよく歌います。

末廣哲 みんなで行けばPVとか見て盛り上がりそうな曲歌うよね。いろいろな曲を歌える準備はしています(笑)。

――話は変わりますが、早大を選んだ理由は何でしょうか

末廣哲 ワセダはスポーツ推薦がないと聞いていたので違う大学を親とずっと探していたのですが、自分が高3の時にスポーツ推薦が復活しました。高校の先輩でもある丸山先輩に、ワセダは勉強も部活もしっかりやるということをいろいろ聞いて、将来のことも考えて、空手も強い先輩がいてなおかつ空手だけじゃなくて勉強もしっかりやれるところがいいと親と話をして決めました。

末廣祥 自分は絶対兄とは違う大学に行こうと思っていました。スポーツ推薦の枠も一つだったので、自分は行かないと思って他の大学をいろいろ検討していたのですが、ワセダのスポーツ推薦の枠が二つになるかもしれないという話を耳にしました。高校の先生も通っていて、インターハイや全国で勝っている先輩方もいるいい大学でということで。全然行くつもりはなかったのですが、今尾も同期だという話も聞いたし、ワセダに行けるのであればそれがベストかなと思いました。

――実際進んでみて早大空手部の印象はいかがですか

末廣哲 仲がいいなと思います。あと、やるときはやるメリハリがありますし、その中でもみんな伸び伸びとやっているイメージです。

ここからは俺たちのステージだ

――後期は重要な大会が多いですが、特に重要視しているものは何でしょうか

末廣哲 最初の関東大学選手権(関東)は全日本大学選手権(全日本)の切符が懸っている絶対負けてはいけない大会なので、まずそこで勝つことを第一にしていきたいと思います。ただ全日本も出ることが目的ではないので、関東をステップとして全日本でベスト8を目指していきたいです。ここ数年ずっとベスト16から上に行けていないので、そのカベを破りたいです。関東と全日本はいまのレギュラーでやれる最後の試合になってくるので、一つも負けないつもりでやっていけたらなと思います。

末廣祥 僕は全日本に焦点を置いて、関東は通過点のようなイメージで行きたいです。足下をすくわれたら元も子もないですが、一番大事なのは全日本ですね。いまはまだその切符を持っていないので、そのために関東で勝ち上がって、全日本でチームの名をとどかせることが楽しみですね。

――後期に向けた個人的な目標は

末廣哲 自分は後期、個人戦は国体と関東学生体重別選手権があるので、どちらも勝ち上がって結果を残したいです。団体としても自分たちが核となって勝たなければいけないと思うので、負けない空手をやっていきたいと思います。

末廣祥 チームの目標を達成するために自分はチームの中で勝てる駒になれたらいいと思っています。今尾が100パーセント勝ってくるのであれば、自分は90パーセントでも勝って、試合には絶対二つ勝ちがある状態にしたいです。

末廣哲 そこで自分も80パーセントくらい勝てれば…。

末廣祥 チームの中で勝てるということは、チームの目標を達成するには十分かなと思うので、それくらいやっていけたらいいと思います。

末廣哲 状態が上がっていけば自分も全日本で勝てると思うので頑張ります。

――キーマンはそれぞれご自身だとお考えですか

末廣哲 僕しかいないでしょう(笑)。

末廣祥 そうならないといけないなというのはあります。

――4年生とプレーできるのは残りわずかとなりましたが

末廣哲 そうですね、やはり寂しいものはありますね。自分が1年生の時からずっと一緒にやってきたので、いてくれる安心感があります。

――二人は性格違うのですか

末廣哲 違うよね。

末廣祥 対照的とはよく言われます。その方か面白いのかなと(笑)。

末廣哲 考え方など似ているところはありますけれどね。自分はいつも喋りますが、祥彦は静かですね。

――改めて今後への意気込みをお願いします

末廣哲 自分は国体から始まりますが、そこで自分が結果を出すことでチームが勢い付くと思うので、全日本と早慶戦まで2ヶ月間全力でやりきりたいと思います。

末廣祥 前期の反省を生かして、試合に臨むときはあまり気負わないようにしたいです。それでも勝てる組み手をやっていければ、チームのためになるかなと思います。なので、関東でどこまで勝ち上がれるか、全日本でどこまで勝ち上がれるかという目標は立てながらも、試合に臨むときはいつも一緒で、チームに勢いを付けられる強い組み手ができたらと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 谷口武、中村ちひろ)

兄弟ならではの息のあった対談でした

体格がとても似ているお二人に幽体離脱をしていただきました!

◆末廣哲彦(すえひろ・あきひこ)(※写真左)

1994年(平6)4月25日生まれ。身長172センチ、体重68キロ。東京・世田谷学園高出身。スポーツ科学部3年。先日行われた夏合宿ではたくさんのいたずらを仕掛けたという兄・哲彦選手。そんな合宿の最中一番驚いたことは、同期の松浦佑樹選手(スポ3)の布団の周りに、大量の毛が落ちていたことだそうです

◆末廣祥彦(すえひろ・よしひこ)(※写真右)

1995年(平7)5月2日生まれ。身長172センチ、体重67キロ。東京・世田谷学園高出身。スポーツ科学部2年。お兄さんとは異なりおとなしめな弟・祥彦選手。同期の今尾選手は一目置く存在ですが、野菜嫌いどころか口にすらできないということは理解しかねているとのことです