心で勝ち獲る“頂点”への道

準硬式野球
三回戦 10 11 12 13
 中 大 
 早 大 
1X

(早)石田、河合、○沼座-松下、市堰
◇(本塁打)上野(二塁打)栗田2

 『日本一』という夢を、どれほど目指してきたのだろう。ときには、あと一歩のところまでつかみかけたこともあった。ときには、周りの期待に応えられず涙を流したこともあった。関東地区選手権3回戦。今大会の第1シードであり、昨季全国優勝を成し遂げた中大との一戦は、その夢を叶えるための大きな分岐点となる――。

殊勲打を放った市堰を囲む早大ナイン

 きのう行われた中大との試合は5回6-6というかたちで雨天ノーゲームとなり、戦いの決着はすぐにはつかなかった。新たな気持ちでグラウンドへと走っていく選手たち。早大の先発・石田翔太(スポ4=神奈川・川和)は人一倍の強い想いを抱きマウンドに立っていた。「誰よりも悔しい思いをしてきた。」早大不動のエースとして期待され続けた石田が、試合後に語った言葉だ。1年では全日本大学選手権準決勝の舞台で先発し敗戦。2年では初戦に先発し惜敗。3年の春季リーグ戦では自身のケガから、チームの調子も悪くなり、全日への出場さえ逃してしまう。大学日本一へ向けて、チーム全員が精一杯努力していることを知っているがゆえの悔しさだった。そんな石田だからこそ、昨季の大学日本一の中大には負けるわけにはいかなかった。毎回走者を背負うも、味方の好プレーにも助けられ7回を無失点に抑える。8回には中大の4・5番に連打を浴び、その後1点を失ったものの、最後の打者を三振に討ち取りエースの貫禄をみせつけた。継投した河合亮太(スポ3=茨城・茗渓学園)、そして沼座翔平(スポ2=広島なぎさ)は要所を抑える素晴らしい投球で打撃陣を援護した。

 「毎試合ピッチャーとの間合いの取り方などを試行錯誤しながら一生懸命やっています」と語るは沼田駿希(政経2=東京・早実)。ムードメーカーでもある沼田が打撃でもチームを勢いづける2安打を放った。3回、先頭の駒田開(スポ4=福岡・修猷館)はバント安打で出塁すると、続く沼田の打席で立て続けに盗塁を決める。走者の動きを待ってからの難しい打席となったが、沼田はカウント3-2からきっちりと左前へ運び先制点をもたらした。6回には1死から右前安打で出塁。それが口火となってチームは4得点を奪う猛攻を見せた。小柄だが、状況に応じて2番打者としての自分の役割を考えて実行することができる沼田。打撃好調の早大打撃陣の中でも日に日に存在感が増している。

 先制点は3回、9番・松井克成(スポ3=東京・早実)のチーム初安打から生まれる。左前安打で出塁し、盗塁を決め、1番・駒田開主将(スポ4=福岡・修猷館)が適時中前安打を放ち打点をあげた。2点目は4回、3番・上野雅之(スポ4=岐阜)の右中間へのソロ本塁打。そして、6回にも松井が中前安打で出塁し、相手の失策と暴投が絡み3点目を追加した。才能がある選手がたくさん集まるチームだけが強いとは限らない。昨季の早大打撃陣は、他大学からも一目置かれるほどの才能あふれる選手が集っていた。それでも叶えられなかった夢。一番への挑戦。だからこそ、新チーム発足当初から『一体感』にこだわるチーム作りを意識してきた。中大が執念の追い上げをみせ、8・9回で同点とし延長戦へ突入すると、そこからは互いに一歩も引かぬ戦いを繰り広げていく。延長13回、先頭打者・栗田拓磨(人4=茨城・水戸第一)が左中間への二塁打を決め、続く嘉悦崇将(人4=大分・大分上野丘)が敬遠、児玉恵佑(スポ3=長野)が内野安打で無死満塁の好機が到来した。この瞬間、選手たちは想いを一つにする。「この試合を観てくれているベンチ外の部員のために点をとろう。」4時間を超える死闘の中、最初から最後までベンチからもベンチ外からも応援の声が聞こえた。「次があるから。」「お前なら大丈夫。」先輩も後輩も関係なく、全ての部員が『一心』になって戦っていた。8番・市堰啓嗣(スポ4=東京・佼成学園)に打席が回り1-1からの3球目。打球が左前へと抜けた瞬間、部員たちは全員、自然と立ち上がっていた。歓喜に沸く早大、笑顔があふれるとともに今までの努力が実を結ぶ。大学日本一の強豪中大に、心で勝った証だった。

チームの期待を背に投げ込む石田

 中大との戦いはあくまでも夢の通過点にすぎない。悲願の大学日本一への道のりはまだまだ遠いだろう。しかし、選手たちはこの戦いでとても重要な宝物を手にすることができた。仲間の絆はそう簡単に壊れることはない。強さとは何かを追い求めていくとき、きっと見えてくるのは心のつながりだ。どこまでも高みを目指して、最後には最高の仲間と頂点をつかみ獲ろう。

(記事 倉本彩絵花、写真 小川朝煕) 

※記事中の学年は新年度のものです。

  

  

  

  

  

  

  

三回戦・早大打者成績
打順 守備 名前 10 11 12 13
(二) 駒田  開 .250 左飛    中安①       空三振    三犧    見三振    空三振   
(中) 沼田 駿希 .429 投ゴ       ニゴ    ニゴ    ニゴ    三失    左安   
(右) 上野 雅之 .500 中飛       右本①    四球    四球    一ゴ    遊ゴ   
(三) 栗田 拓磨 .500    二飛    ニゴ    四球    空三振       右2 左2
(遊) 嘉悦 崇将 .364    右飛    右飛    右飛       左安    四球 四球
(指) 木藤 俊英 .400    見三振       二安    右飛    三失         
  走指 児玉 恵佑 .500                               三ゴ 三安
(一) 南  貴文 .385       投ゴ    ニ併    左安    捕飛    空三振 空三振
(捕) 松下 和樹 .000       遊飛    一ゴ    一ゴ               
  土屋  聡 .000                         二ゴ            
  市堰 啓嗣 .200                               空三振    左安①
(左) 松井 克成 .286       左安       中安                  
  堂園 武史 .333                      左安    三ゴ    左飛   

三回戦・早大投手成績
名前 打者 球数 安打 三振 四死球 失点 自責 防御率
石田 翔太 80/3 38 39 3.00
河合 亮太 13 0.00
沼座 翔平 17 77 0.00

コメント

石田翔太(スポ4=神奈川・川和)

――きょうの投球を振り返って
全体的には悪くなかったと思うんですが、四球が多かったことが反省点ですね。内容が悪い四球ではなかったですが、9回のあの場面で四球を出さずに投げていれば延長にならず試合は終わっていたので、内容がよくても四球は出さないようにこだわっていきたいと思います。
――中大打線はどうでしたか
センスはもちろんありますが手に負えないという感覚まではなかったので、自分たちの野球をやろうという意識で戦いました。
――昨季日本一の中大と戦うにあたって
このトーナメントが決まったときから、かなり意識してきました。相手投手の対策もしてきましたし、裏方のデータ班などが徹夜でデータを作成してくれていたので、チーム一体になれたからこその勝利だと思います。新チームが始まったときからずっと「一つになろう」と意識してきて、それが実ったのですごくうれしいですね。
――継投した河合選手、沼座選手はどうでしたか
河合には本当に申し訳ない場面で投げさせてしまって、僕がしっかりと決めておけば良かったと思いました。沼座については何も言うことないです。最高です。
――オープン戦のときから比べて、投球の調子が上がっているように感じましたが
初戦のころからフォームを少し変えて、そこから感覚がある程度戻ってきました。自分の中では結構納得していけるくらいになっていました。オープン戦の結果が悪かったことも、個人的にはそれほど心配はしていなくて、調整はできていると感じていました。
――昨年のチームと比べて
チームの一体感は全然違います。合宿のときから、この練習はこのためにやっているという共通認識を持つようにしていて、学年にこだわらずコミュニケーションがとれるようにしています。それが実って、ベンチ外も心から応援してくれたように感じます。

市堰啓嗣(スポ4=東京・佼成学園)

――まずは13回の打席を振り返ってください

その前に同じケースでサヨナラのチャンスを潰してしまっていたので、とにかく気持ちで。絶対返してやろうと思っていました。

――11回に同じような場面で外のスライダーを空振りして凡退してしまいましたが、どのような気持ちで次の打席に立ちましたか

基本真っ直ぐを待っていて、でも初球真っ直ぐが来たので次は変化球かなと思っていました。スライダーを良い感じに捉えられたかなと思います。

――10回に守備交代で出場してからは沼座投手(沼座翔平、スポ2=広島・広島なぎさ)を好リードし、中大に得点を与えませんでした。どのようにリードしていこうというものはありましたか

きのう雨で流れた試合で、河合(河合亮太、スポ3=茨城・茗渓学園)と組んだんですけれどその時にあまりボール球を上手く使えなかったので、沼座はスライダーが持ち味なので、それをボール球で上手く使って、真っ直ぐやシュートで打ち取ろうかなと。あいつの持ち味をうまい事出せたのかなと思っています。

――今日の勝利はベンチ、チーム一丸での勝利だと思いますベンチの声援は力になりましたか

最高に力になりました。ベンチだけじゃなくて、外で観ているメンバー外のみんなとか、応援してくださっているOBの方とかみなさんの声援が僕の事を押してくれたのかなと思います。

――全日本王者の中大を倒しての勝利になりました。きょうの勝利を一言で表すならどんな言葉になりますか

正直ここはまだ通過点だと思っているので、決勝までいかないと全日本にはいけないと思っているので、あくまでも通過点と僕は思っています。一言で表すとまぁ当然かなと思います。

――ここから連戦が続きます。優勝に向けて意気込みを

みんな打っていますし、ピッチャーも頑張ってくれているので、このまま冬やって来た事を出せれば優勝できると思います。この連戦も一試合一試合気を抜かずに頑張って行きます。

児玉恵佑(スポ3=長野)

――きょうはまさにチーム一丸となった総力戦だったわけですが、振り返ってみて

一言で言えば今日は楽しかったですね。ベンチ一体となって戦いました。今まで自分も経験したことのない出来事だったので、本当に楽しかったです。

――きのうのノーゲームからの再試合だったわけですが

とにかく気持ちを切らさないようにしました。きのうも良い試合をしていたので、新たな気持ちで臨めたのはチームとしても良かったと思います。

――11回と13回に走者二、三塁という同じ状況で11回にはバントを失敗するものの、13回にはきちっと決めたことに関して

同じミスは許されないので、強い気持ちで打席に入りました。1打席目はピッチャーに集中しすぎて周りが見えてなかったので、2打席目には周りを見つつ投手にも集中することを意識しました。

――きょうの勝因を挙げるとすれば

やっぱりチームの一体感かな。新チームになってからは一体感ていうのをすごい大事にしてきたので、それがこういった大事な試合で体現できたことは、すごい良かったと思います。この流れで3連戦を乗り切って一気に優勝したいです。