【連載】2016年度インカレ直前特集『Champion』第1回 荒木進監督

男子ハンドボール

 全日本学生選手権(インカレ)直前特集初回を飾るのは、荒木進監督(平5人卒=熊本商)。最後の大一番を前に、指揮官は何を思い、選手たちに何を求めるのか――。チームへの思い、そしてインカレへの意気込みを伺った。

※この取材は10月23日に行われたものです。

「熟成という意味ではいい流れで来ている」

秋の戦いを振り返る荒木監督

――まず、関東学生秋季リーグ(秋季リーグ)を振り返って感想をお願いします

荒木 ディフェンスに関しては及第点というか、選手たちの意識も高まって失点を防げていたと思います。でも試合の入り方やシュートの1点の重みに対する意識、試合中に自分たちで修正して立て直すこと、相手の高いディフェンスに対しての対応などはまだまだだと思います。1対1やパスアンドラン、クロスなどそういう部分も完成度を高めていかなければいけないなと感じています。オフェンスに関しては好不調の波が激しいので、そういった意味ではディフェンスでカバーしていければなって思っていたんですが、それにしてもセットオフェンスはまだまだお互いのコンビネーションが欠けていたなという感じはありますね。

――今大会は大混戦だっただけに細かい部分でのミスが悔やまれるのではないでしょうか

荒木 確率論で言うと、とことん固く守ってというかたちが確実ではあるんですけど、そうすると速攻が出にくい状況になってしまうので、多少リスクを冒してでも速攻にいかなければという部分はあります。ただ、やはりセットオフェンスはまだまだ精度が欠けていたので、そういった細かい部分でミスを減らして確率を上げていく必要がありますね。

――監督としての反省点などはありましたか

荒木 速攻っていうのは確率論的には低いところがあるんだけれども、やっぱり学生スポーツなので勢いをつけることも必要なのかなと思っています。止めるところは止める、ということをもっとメリハリ付けてやっても良かったのかなっていうのが自分の中ではありますね。

――特に印象に残っている試合はありますか

荒木 日体大戦(〇32-25)かな。常に追う展開で後半の中盤くらいから自分たちのやってきたディフェンスも機能してきて、そうやってしぶとく食らいつくというか辛抱して辛抱して最後に逆転勝ちっていうことで印象に残っていますね。そこらへんが今のチームの真骨頂という感じです。去年はタレントがいっぱいいたけど、ことしはディフェンスを全員でしっかり共通認識してそこから守って速攻というかたちが持ち味だと思います。

――秋季リーグで特に成長を感じた選手はいますか

荒木 みんな成長しているし、意識は上がってきていますけど、やっぱり今の2年生ですよね。小畠(夕輝、スポ2=岡山・総社)だったり、純平(山﨑、社2=岩手・不来方)だったり、三輪(颯馬、スポ2=愛知)だったり、奈音(永田、スポ2=宮崎・小林秀峰)もそうだし。下級生ながらにチームの一員だという当事者意識も生まれてきているだろうし、あとは1対1をどんどん仕掛けていくという下級生らしいはつらつとしたプレーを目指していってもらいたいです。それをフォローするのが3年生、4年生の仕事であるだろうし、成長という部分では2年生の力が必要不可欠だし、1年生たちのような縁の下の力持ちっていう働きがあるから我々もこうして戦えるわけなので。そういったところは感謝していますし、チームで戦っていると感じます。去年のインカレからチームワークは特に重視してきたし、熟成という意味ではいい流れでここまで来ているんじゃないかなって思います。

「一番うれしいのはチームが勝ってみんなが笑顔になること」

チームの話になると笑顔も見えました

――次に、早大で監督をするに至った経緯を教えてください

荒木 最初はコーチとしてチームに戻ってきました。まさか自分がその後監督をするとは思ってなかったんですけど(笑)。監督をしないかという話が来たときは結構悩んだけれど、やっぱり僕も大学で4年間お世話になったので「何か恩返ししたいな、現役諸君を手伝っていきたいな」という思いがあって。技術的なことなのか精神的なことなのか分からないけれども、やっぱり手伝えればという恩返しのつもりではやっています。

――監督を務める上で大事にしていることはありますか

荒木 監督としての立場は結果が全てだろうけども、やっぱりプロセスの重要性も学生諸君は気づいて欲しいなと思ってやっています。優勝するため、勝つためには何が必要なのかというと、結局は練習でやったことを試合に生かせるかっていうことで、そういうことを気づいてもらいたいです。試合に勝つっていうのはそのプロセスがきちんとできていたから勝つということにつながったんじゃないか、仮に負けたとしてもどこが足りなかったのか、と考えることが勉強につながるんじゃないかと思います。あと、選手たちには伝えてはいますけど、自分たちのチームだという当事者意識も持ってもらいたいと思います。やっぱり自分のチームに対して何か一つでも二つでも貢献できるということを持ってもらえればなっていう風に思います。

――監督としてやりがいを感じるのはどういったときですか

荒木 やっぱり勝ったときですよね!結果が出るとそのプロセスもずっと見てるから、それがつながってるなということもうれしいなって思いますよね。自分が一番うれしいのは、チームが勝ってみんなが笑顔になることですね。やっぱり日頃のきつい練習とかが報われた感じで選手にとっても一番の良薬だと思います。

――逆に監督を務める上で難しいと感じることはどういったことですか

荒木 全員に気を配らなくてはいけないというのはちょっと大変かな。チームを預かっている以上きっちりやっていこうとは思いますけど、やっぱり一人一人違う人間だし。チームとしてまとまらなきゃいけない部分もあるけど、個人として資質を伸ばせる特徴っていうのを早く見抜いてあげなきゃなっていうのもありますね。ただ、土日の練習や試合のときに指示できることはあるけど、毎日来ているわけではないので密度の濃い関係性というのはなかなか難しいなって思います。

――毎日という意味では、去年までは大城章氏(平18人卒=沖縄・那覇西)がコーチとしていらっしゃいましたが、退任されてから変わった部分はありますか

荒木 彼に対しては負担をかけていたし、すごく貢献して頂いた部分もありますね。いい意味で彼が残してくれたワセダイズムというものがあるわけだから、それを継承しつつ一人一人で考えることや、試合を想定したプロセスなどを培って欲しいと思いますね。

――監督として尊敬している人物はいらっしゃいますか

荒木 今ぱっと思い浮かべるのは、競技こそ違えどラグビーのエディ・ジョーンズ氏は感慨深いというか、見習わなきゃいけないなと思いますね。学生スポーツとは違うかもしれないけど、試合に対する準備であったり、意識改革とかそういったところが尊敬できるところですね。プロ意識とまではいかないけど、意識を高めていく手腕という意味で自分はまだまだだなって思います。色々な監督それぞれ一長一短あるだろうし、そういう人たちのいいとこ取りをやっていかなきゃいけないなっていうのは常々思ってますね。あとは誰を尊敬するかって言ったら自分の中では両親がそうだし、今まで自分に様々な環境を与えてくれた方々ですね。歴史上の人物だったら杉原千畝さんとかはいいですよね。自分の信念を持つという部分で非常に尊敬できますね。

――次に、監督の学生時代を振り返っていただきたいのですが

荒木 言っていいことと悪いことがあるからなあ(笑)。まあ、今の子たちはまじめすぎると感じますね。手を抜けっていうわけじゃないけど、遊び心というか斬新なアイディアやクリエイティブさがもっとあってもいいのかなって。一生懸命やるのが大事っていうのも重々分かってるけど。それを体現できてるのは川島(悠太郎副将、スポ4=福井商)ですかね。『見ていて楽しい』っていうのと『勝つ』っていうのは違うかなという部分もあるけど、僕の中では『見ていて楽しいハンドボールで勝っていく』、それが理想ではあるかなと。僕自身やっぱり高校までは九州で厳しくやってきて、高校3年間というのも本当にありがたいことでしたが、それにプラスで大学4年間っていうのは本当に考えさせられるというか、自分たちで考えていくというプレーを学んだような気がします。GKとしての責任感もあるし、自分のチームだっていうチームに対する当事者意識はありましたね。大学に入ってきた時、チームは前年インカレ優勝していたんですよ。「主力も抜けてことしは入れ替え戦だ」なんて言われてるプレッシャーの中で、「じゃあどうすればいいか」って考えていくようなプレーも必然と生まれてきますよね。突き詰めていくっていうわけじゃないけど。そういう部分はやっぱり今の学生さんたちは足りないのかなって思いますね。まじめすぎるほどで。

――大学在学中のリーグ戦8回のうち、7回のベストセブン受賞という輝かしい功績に関しては振り返っていかがですか

荒木 自分がそこまでやれた理由は二つあって、1年生から試合に出させてもらう環境を与えてもらったっていう部分と、それだけ責任感というものが生まれて、自分で考えるプレーをできたという部分ですね。入ってきた時大学のプレーに慣れるまではすごい時間がかかって。前年インカレ優勝しているチームに入って、1年から自分をほぼレギュラーで使わざるを得ないような状況に置かれたら必然的に考えますよね。その頃、明治大学ってまだ2部だったんですよ。でも練習試合をした時に相手にボロボロに負けたんですよね。これはチーム全体で危機感を持ってやらなくてはいけないということで、女子部の脇若さん(正二監督、昭50教卒=岐阜・加納)が所属していらっしゃった日新製鋼(現在は廃部)で急きょ合宿を組ませてもらって練習試合をしたんです。やっぱり実業団のシュートって速いから自分の中で恥も外聞もなくシューターに頼んでゴールのところにいって「ゴールマウス入らせてもらえませんか」っていうお願いをしましたね。自分が話しかけていくと相手もやっぱり色々教えてくれて、「その位置取りはちょっと違うんじゃないか」とかそういうふうに言われてやっていって。スピードに慣れてくると自信も芽生えてきて、そういう意味では春季リーグに向けていい準備ができました。そのおかげでベストセブンという結果も付いてきたというか。それは結果かもしれないけど、そういったプロセスがあったっていうのは今の子たちにも大事にしてもらいたいなというのはあります。

――今でも特にキーパーの指導は熱が入るものでしょうか

荒木 難しいですね(笑)。自分の考えの押し付けになってないかなっていう。僕も指導者のプロじゃないからそこは本当に紙一重なのかなという部分はあります。GKは特に自分でやってきて結構我流のキーピングを持っているから、基本は言えるけどそこから先は自分にあったキーピングというのを見つけてもらいたいなというのがありますね。例えばサイドシュートに対して「面が作れてないよ」ってことは多少は言えるけど、「このシュートに対してはこのキーピング」という自分の考えを押し付けるわけにもいかないっていうのがなかなかね、難しいですね。

――ハンドボールに携わっていないときは何をしていますか

荒木 仕事がメインで、それ以外だと子供と遊んでるかな。あとはスポーツを見たり。ラグビーとかサッカー、スポーツ全般的に好きですね。

――マイブームはありますか

荒木 焼き鳥かな(笑)。まあ前からずっと好きなんだけど(笑)。あとは温泉に行くくらいかな。銭湯よりも温泉ですね、ちょっと旅行したりして。最近はちょっと遠出がしづらいから近所のスーパー銭湯に行ったりしています。でもやっぱりハンドボールに対して考える時間が増えてきたなって感じますね。大城コーチがいなくなって特にそうなってきた部分があって、マイブームだったり趣味だったりってのがだんだん減ってきてて(笑)。

――やはりインカレ前ということで考えることも増えますか

荒木 そうですね。けど、それもいいのかなって。前向きにとらえています。

「日本一になればこれまでの努力が報われる」

インカレの話題になると真剣な表情に

――インカレに向けてどういったことを重点的に練習していますか

荒木 やっぱりディフェンス。あとは一人一人が複数ポジションこなせるほうがいいかなって思ってます。毎日来ているわけではないので、試合の中で違ったポジションを試したりしています。でもやっぱりまずはディフェンス強化。というよりは春からやってきたディフェンス強化の継続ですよね。あとは守りから速攻というところが大事なのかなって思ってます。

――一発勝負のトーナメントの難しさっていうのはどういった部分にあるでしょうか

荒木 自分自身がやる分には1チーム1チーム全部なぎ倒していくくらいの気持ちがあるんだけれども(笑)、やっぱり監督になって選手たちに求めることは、プレッシャーを感じて変に縮こまるんじゃなくて前向きに考えて楽しんで欲しいということですね。「一発やったろうかな」っていう、旋風を起こすじゃないけど、そういった気概はいい意味でも悪い意味でもワセダの持ち味なのかなって思うのでそういう気概を早く持ってもらいたいですね。自分自身乗っていけるような、そしてチーム全体を乗せるようなプレーを心掛けてほしいなというのはありますね。やっぱり前にもお話した通り、倒れ込んでボールをキープするとかそういうことを意識してやるとかそういうこと。勇気や気迫が伝わって、チーム全体をプラスの方向に持っていけるんじゃないかって思います。言葉は悪いけど早く乗ったもん勝ちですよね。一発勝負で大事なことは技術的な部分、体力的な部分っていうよりも精神的な部分だと思いますね。

――1年間インカレでの日本一を目指してやってきたと思いますが、インカレとはどういう存在ですか

荒木 結局僕も大学4年間で日本一っていうのは経験していない部分があって。大学日本一を経験するっていうのはやっぱり自分の存在意義が認められたり、プロセスのところで認められたりすることだと思うんですよね。「この練習をやっていて良かったんだ」、「自分の考えが良かったんだ」っていう。一種のお披露目会というかね。大学日本一になれば、それまでやってきたことが報われるというところなのかなと思います。

――最後に、インカレに向けての意気込みをお願いします!

荒木 やっぱりやるからには日本一を目指してやるわけだし、もう本当に去年と同様に一戦必勝というところでやっていきたいと思います。そして今まで応援して頂いたすべての方々に恩返しができるような戦いを見せたいです!

――ありがとうございました!

(取材・編集 田中一光)

◆荒木進(あらき・すすむ)

1970年(昭45)3月14日生まれ。熊本市立商業高出身。1993年(平5)人間科学部卒業。男子ハンドボール部監督。仕事と監督業を両立する多忙な日々の合間を縫って選手たちと食事に行くなど、コミュニケーションも大切にしているとのことです。インタビュー中も言葉の端々からチームへの愛情が感じられました。インカレでは闘志あふれる指揮でチームを『Champion』に導いてくれるはず!