【連載】体操全日本インカレ直前特集『熟』第3回 首藤匠×渡辺向祥

体操

 全日本学生体操競技選手権大会(全日本インカレ)直前対談の第3回を飾るのは、団体戦メンバーである首藤匠(スポ3=三重・暁)と渡辺向祥(スポ3=千葉・市船橋)の3年生コンビ。お互いにライバル視しているという二人に、全日本インカレへの意気込みを伺った。
※この対談は、8月16日にオンラインで行われました。

「渡辺向祥に勝つ」(首藤)

元気に話す首藤

――まず始めに他己紹介をお願いします

渡辺 匠は元気だと思います。初めて会った時から元気だなと思って、喋るのがすごく好きなんだろうなっていう感じですかね。あと、話しだしたら結構止まらないです。体操の方で言うと結構自己主張が強いというか、個性が強いって感じで。人があんまりやらない技をやっているので、個性強めだなと思いました。

首藤 自己主張は強めですね(笑)。他の人と同じことしても面白くないので、自分を出していきたいなと思って、個性を出してみんながやっていないことをやっています。

――では渡辺選手の紹介をお願いします

首藤 向祥には大学で初めて喋ったんで何も知らない状態だったんですけど、高校の時試合でちょっと見た時は「めちゃめちゃうまいな」と思っちゃって。「これ同期か―、大丈夫かな」っていうくらい(笑)。でも入試とかで喋って「お、意外と話が合うな」と。結構そのまま仲良くなっていって、同期全員良い感じに仲がいいんですけど、話も合うからすごく楽しくて。体操面でもめちゃめちゃ真面目だし。市船(市船橋)だった人はなんでそんなに練習できるんだろうってくらい練習熱心で、うらやましいけどケガしないでくれよっていう思いが強いですね。でも彼はめちゃくちゃ真面目なんで安心して見ていられますね。

渡辺 真面目な方だとは思いますね(笑)。

――3年生同士というところで、部活以外で接点はありますか

首藤 授業が被ってたり、日曜日とか土曜日はご飯に行ける時はたまに行ったりって感じですね。

――今回の対談がなぜこの組み合わせになったかご存じですか

渡辺 いつも一緒に柔軟やってるから(笑)。

首藤 (笑)。

――実は主務さんに「首藤選手が渡辺選手をライバル視している」とお聞きしたのでこの組み合わせにさせていただきました

首藤 (笑)。いやー、多分僕がライバル視しているんですよね(笑)。僕の今年の目標がU-21のナショナル入りと、もう一つが「渡辺向祥に勝つ」という目標で。向祥はケガが多いんですけど、やっぱり大学2年生の時も結果を残しているし、全日本インカレはその時出られなかったからあれですけど。やっぱり結果を残していてしかも同期で。自分はまだ一回も試合に出ていないし、今年が全国大会初めてなんで、そこでライバル視もあり、いい仲間というか、楽しくしゃべれる同期でもあって。そこで「勝負したいな」という思いが強いですね。

渡辺 体育館に今年の目標が貼ってあるんですけど、そこに「向祥に勝つ」って書いてあって、最初そこですごくびっくりしました。でもそう思ってもらえるのはすごくうれしいなと思いますし、匠も今年結構調子上げてきて、全日本インカレに向けての試技会でも何回も負けているので、僕もライバル視していますし、インカレ本番では二人でお互い高めあって、負けないように頑張りたいです。

――お二人とも団体戦のメンバーに選ばれましたが、どのような心境ですか

首藤 どうぞどうぞ。

渡辺 今年は結構みんなレベルが高くて、メンバーの争いもいつもより厳しいところで。僕もケガがあってあんまり万全の調子ではなかったんですけど、なんとかメンバーに入ることができたので、入れなかった人の分までしっかりインカレの本番で結果を出したいなと思います。

首藤 選考会は3回の平均でメンバーが決まるって感じでした。結構緊張しやすいタイプで、もう「どうしようかな、また出られるかな」という感じで始まって。でも1、2、3回目全部大過失が少なくて、いい感じに試合の流れもつくれていたんで、このまま1回コロナになって気持ちも切れそうになったけど、チームにもう迷惑もかけちゃってるので、残り早稲田で練習できるのは2回なんですけど、ちゃんと復活したよっていう姿を見せて、試合は楽しく回れたらいいなと思っています。

――試技会のお話もありましたが、振り返ってみていかがですか

首藤 結構体操競技でも難しいというか、失敗が多いあん馬の種目で3回とも大過失がなくて、そのままうまく演技をつなげられました。試技会を通して1回もミスが出なかったのは自分の中ではうまくなったっていうか、ちょっと緊張感にも強くなったのかなというのが感じられたので、試合でもそこまで緊張しなくてもいけるのかなというのを思いましたね。

渡辺 僕は正直あんまり満足のできる内容ではなくて。すごいミスをしたっていう訳ではなかったんですけど、完璧には程遠いっていう感じの演技でした。少し悔しさは残るんですけど、本番まであと少しなので、コンディションを整えていければ大丈夫かなという風に思っています。

――特に反省の残る種目はありますか

渡辺 僕はつり輪がちょっと苦しんでたというか。今回新しい力技を入れようと思ってたんですけど、そこがなかなかうまくいかなくて。結局それは今回やめるっていう決断をしたので、そこは割り切って、できることをしっかりやろうと思っています。

「ようやくつかんだチャンス」(首藤)

――お二人の現在の調子は

首藤 自分は本当に数回しか練習できなくなってしまったんですけど、調子はそんなに落ちてないですね。むしろコロナになっちゃって体休められたっていうか(笑)。それまで追い込んでいて体がもう結構きつくて、ちょっと休みたいなと思っていて、まさかのかたちで休めるようになっちゃったんですけど、なってしまったものは仕方がないので、それを逆にプラスにとって。で土曜日から練習行って、筋力は大分落ちたんですけど普通に体は動いて。調子は上がってきているので、この調子で今週も上げすぎないようにして日曜日の試合を迎えるという感じで体をつくっていきたいなと思っています。

渡辺 ちょっと痛いところが何個かあって、体の調子はそんなに良くはないかなという感じですけど、練習はしっかりできています。

――現在のチームの雰囲気はいかがですか

渡辺 団体は結構いい雰囲気でできていると思います。匠が1週間くらい抜けてたんですけど、それまでも結構いい雰囲気でできていたし、結構みんなで盛り上げながら、雰囲気的にも演技の内容的にも、かなりみんな調子が良くできているので、今年は結構いい結果が出せるんじゃないかなと思います。

――特に盛り上げている方は誰になりますか

渡辺 結構みんなで。匠がいた時は(匠が)盛り上げてくれていましたね。

――田口陸斗(スポ3=福岡・自由ケ丘)選手、向中野蓮(スポ2=千葉・市船橋)選手の対談では「怖い主将からプレッシャーをかけられている」と伺いましたが、主将についてはいかがですか

首藤 主将はどちらかというと褒めなくて、「やってこいよ」みたいな感じなんで(笑)。逆にそれがいいプレッシャーになっているのかなっていう。

渡辺 プレッシャーというか、それに近いかもしれないですけど、厳しくというか。締めてくれるような言葉をかけてくれるので、それで気合が入るんじゃないかなと。試技会の時に、冗談で「何点以下取ったら坊主だぞ」みたいなの言われました(笑)。

――今回の団体戦は上級生が中心のチームですが、これはどのように捉えていますか

首藤 他の学年が、引退している人もいますがさぼるじゃないですけど。でも3年生は真面目に練習に取り組んで、ちゃんと目標を持って練習できていたから、その結果が今年の全日本インカレのメンバーでは、4年生筆頭に3年生が一番メンバーの中で多くて、うまく支えてっていう感じになっているのかなと自分的には考えてますね。向祥はどう思ってるか分からないですけど(笑)。

渡辺 うん、確かに。学年というよりは冬場もちゃんと練習して、まじめにやってきた人が入ってきているんだろうなという感じですかね。

――渡辺選手にとっては2回目の全日本インカレとなります。1回目を振り返っていかがですか

渡辺 1年生の時に初めて出て、かなりミスをしちゃって本当にチームに迷惑をかけたし、すごく悔しい試合になりました。そこから2年たって成長したところは結構あると思うので、そこはリベンジというか、しっかり自分の仕事をしたいなと思います。

――ご自身で特に成長を感じる部分はどういったところですか

渡辺 試合までの練習の仕方とか、試合中の気持ちの持っていき方が結構変わったなと思っています。昨年の全日本選手権に出たあたりから、試合でどうやって気持ちをつくったらいつも通りの演技ができるかっていうのが少しつかめたところがあったので、そこが成長できたところかなと思います。

――首藤選手にとっては初めての全日本インカレとなりますがいかがですか

首藤 地元(三重県)開催なので、そこに住んでて。体育館は国体(国民体育大会)で新しくなったんですけど、その会場でも1回はやったことがあるので、それを武器にして。全日本インカレは1年生の時は出られずに、2年生も出られなくなってしまって、やっと3年生でつかんだチームで。他の大学では自分の名前は「誰だこいつ」っていうくらい知られていないと思うので、「こいつやべえな」っていうのを会場練習から見せていこうかなと思っています。

渡辺 3年目にしてね、初めてだからね。

首藤 ようやくつかんだチャンス。

「少しのミスも許されない」(渡辺)

真剣に話す渡辺

――今年度の大会を振り返ってみて手応えはいかがですか

渡辺 それまでもあんまり調子良くなくて、ケガして今年度に入った感じだったので正直結構きついところはあったんですけど、いろいろな人に支えられて、早慶戦(早慶対抗定期戦)である程度いい結果を残せたので、なんとか戻ってこられたかなという感じですね。本当に周りの人たちのおかげでっていう感じです。

――いつ頃にどのようなケガをされたのでしょうか

渡辺 3月に膝の前十字靭帯を損傷して、断裂とか手術っていうわけではなかったんですけど、それで2カ月くらいできなくなりました。

――首藤選手は今年度を振り返って手応えはいかがですか

首藤 ようやく演技のまとまりも出てきて、新人戦はあったんですけど、(自分にとって)東日本インカレ(東日本学生選手権)が大学の初戦みたいな感じで。最後にミスは出てしまったんですけど、結構新構成で新しい技入れて試合に臨んで、点数的には評価されてたので、このままいけばいい感じに点数もついてきそうだなというのを東日本インカレでつかみました。早慶戦では、鉄棒で早大では誰もやっていないカッシーナを取り入れて演技を組んで。今年は体力的に心配はあるんですけど、カッシーナとコールマンを両方入れて絶対に演技するっていう気持ちが強いので、評価をしてもらおうっていう。全日本インカレで「こんなやついたんだ」っていうのを見せて、このまま調子を上げていきたいなと思っています。

――今年度一番調子が良かった時期は

渡辺 僕は今年度で言ったら今は調子がいいです。膝のケガはほとんど良くなってきて、跳馬のロペスっていう技も最近やっと戻ってきたので、今は結構調子が良いと思います。

首藤 冬場は結構練習できていて、そこから1回腰をまた痛めて、東日本インカレ前にしてちょっと調子落ちたんですけど、まあぎりぎり私生活に問題ないし、練習もちょっと落としながらしたらうまくいっていました。全日本インカレ前でまた腰は痛いんですけど、うまく落として練習を積めたので、体の反応も良くなってきているし、調子は今が一番いいかもしれないです。

――東日本インカレでは392.550点で団体5位という結果でしたが、これについてはどのように捉えていますか

首藤 1年生が2人(メンバーに)入っていて、多分あんまり試合慣れもしていないし、いきなりの試合で緊張してしまったっていうのもあるし。1種目目の平行棒は動きづらいっていうのもあるんですけど緊張もするし、そこで結構ミスが目立っていました。団体として練習のやり方というか、もうちょっと緊張感を持ってできてたら、もうちょっといい点数が取れたんじゃないかなと見ていて思いましたね。練習の盛り上げ方とかやり方の工夫をもうちょっとしてたら良かったのかなというふうに思います。

渡辺 僕はその時はまだケガで練習できていなくて、周りから見ていたんですけど、試合としてはミスもあて、目標の点数にはちょっと届いていなかったけど、最初にミスがあってその後立て直せたところは良い試合にはできたと思います。全日本インカレはすごく大事な大会なので、少しのミスも許されないというか、そこは東日本インカレ以上に気を引き締めないといけないなと思いました。

「『任せてくれ』って感じです」(渡辺)

思わず笑みをこぼす渡辺

――お二人の得意種目は

首藤 僕は全部ですね。

渡辺 僕はゆかと跳馬ですね。

――では力を入れている種目は何ですか

首藤 僕は鉄棒ですね、やっぱり。

渡辺 僕は鉄棒と跳馬ですかね。跳馬はロペスが戻ってきたっていうのと、鉄棒は落ちたくないっていうところです。

――演技全体でこれまでと構成を変えた種目はありますか

首藤 鉄棒ですね。東日本インカレから変わったところとしては離れ技の難度が上がったのと、バーに近い技。アドラー1回ひねりのE難度で、本当に最初は全然できなかったんですけど、この3カ月くらいで大分鉄棒を自分で動かせるようになってきて。そこで「あれ、自分鉄棒得意種目なんじゃないかな」っていうふうに思って、そのままどんどん伸ばしていこうっていう気持ちです。鉄棒が一番演技構成は変わっていますね。

渡辺 僕も鉄棒は今年から、コバチっていう新しい技を入れました。今まで失敗とかが怖くて逃げてきた技で、今年から挑戦しているので、成功させたいなって感じですね。安定はしているのでそんなに心配はしていないんですけど。あと、ゆかのゴゴラーゼっていう技を2つ入れて、そこはゆかで見せられるところかなと思うのでしっかり見せたいなと思います。

――反対に苦手意識のある種目はありますか

首藤 平行棒ですかね。苦手なりに他の人がやっていない技を入れて個性を出しているんですけど、高校から苦手意識があって。あん馬も苦手だったんですけど、あん馬は点数取れるようになって、「あ、これは苦手種目じゃないか」っていうふうに割り切りました。平行棒の降りが本当に苦手で、今降り技も変えて、大学生ではほとんど誰もやっていない技で降りているんですけど、どうしても着地で失敗することが多いから苦手意識はありますね。

――どのような心持ちで苦手に対して向き合っていますか

首藤 苦手意識は強いけど、逆にもう割り切っています。6種目ノーミスで演技するのが一番いいことだけど、1ミスしても大丈夫と気持ちに余裕を持たせて演技して、成功したら「まだ1ミスできる」って気持ちを持って6種目回るっていうのを高校の時の先生に言われて、そこからずっと自分の中ではそういう気持ちで演技したらうまくいくって感じになってるので、平行棒の時は特に思ってますね。

渡辺 苦手というか一番失敗が出やすいかなって思うのは平行棒で。同じになっちゃう(笑)。平行棒は緊張が演技に出ちゃうっていうか、試合とかで緊張しているときに焦ってしまって、そこでミスが出ることが多いです。気持ちをしっかりつくっていくように、練習から細かいところまで意識して、時間をかけてやっています。

――今回の団体戦のキーパーソンは誰だと思いますか

首藤 渡辺向祥が多分やってくれますね。跳馬から今回はスタートなんですけど、大学生で最近飛んでいる人は多いんですけど、その中でいきなり飛んでくれるロペスという。早稲田は跳馬めちゃめちゃ弱いんで、しっかりとそこで決めてもらいたいなというのは強いですね。僕は渡辺向祥を推します。

渡辺 (笑)。ロペスは自信があるので「任せてくれ」って感じです。(キーパーソンは)みんななんですけど、匠もそうですし陸斗、あと蓮とか。匠は今年調子を上げていて、ミスも少ないので、みんな安心して任せられるというか、チームに安定感を出してくれる選手だと思います。陸斗も調子を上げていて、着地も強くて。練習でも着地をワンバウンドで止めてチームに勢いをつけているので、試合でも盛り上げてくれるんじゃないかなと思います。蓮は今回団体のトップバッターが多くて。トップバッターは結構ミスをしなければチームに勢いをつけるところでもあるし、緊張もしやすい、プレッシャーがかかるところでもあるので、2年生で団体の中では(学年が)一番下なんですけど、しっかりやってほしいなと思います。

――今お話で首藤選手も出てきていました

首藤 僕の中では演技もまとまってきていて、1、2年の頃よりはミスも確実に減っていて、自分でもあんまりミスするなとも演技中思わなくなりました。いい感じに周りからも安定しているように見えているし、ミスは最小限にするので、「俺が勢いをつけてやる」って感じでみんなに見ていてほしいですね(笑)。

渡辺 (笑)。

――全日本インカレの意気込みを教えてください

渡辺 まずはミスをしないことと、自分の演技をしっかりすることっていうのが一番の目標で、その先にU-21に入ることと、団体でしっかりみんなで演技をつなげていい結果を出せたら良いかなと思います。

首藤 初めての団体戦なんですけど、ミスをしたらちゃんとチームでカバーして、団体3位が目標ではあるんですけど、3位は厳しいかもしれないので、4番を狙って3番にいくっていうのを自分の中では目標を立てて、あとはやっぱり初めて全日本インカレに出るので、新しい人生ではないですけど、そういう気持ちを持って試合を運んでいきたいなというのが強いです。その中で自分の目標であるU-21と「向祥に勝つ」ことを最優先にしていきたいと思っています。

――普段であれば目標を色紙に書いていただいています。オンラインのため実際にはありませんが、もしあるとしたら何と書かれますか

首藤 自分は「新星」ですね。今まで全然出ていないし、名前も知られてない人なんで、面白い演技を見せて会場を盛り上げてやろうかなと思います。

渡辺 演技中に落ち着くっていう意味で「呼吸」で。呼吸をしていきたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 荒井結月)

◆首藤匠(しゅとう・たくみ)

三重・暁高出身。スポーツ科学部3年。アニメ『リコリス・リコイル』にはまっているという首藤選手。日々のモチベーションになっているそうです! 

◆渡辺向祥(わたなべ・こうしょう)

千葉・市船橋高出身。スポーツ科学部3年。『ONE PIECE』の映画を2度も見に行ったという渡辺選手。一から漫画も読み直しているそうです!