【連載】2016年度インカレ直前特集『Everglow』 第3回 長沼園佳女子主将

体操

 少数精鋭で戦う早大体操部。中でも女子部員は非常に少ない。今回登場するのは長沼園佳女子主将(スポ3=群馬・中央中教校)。昨年は全日本学生選手権(インカレ)への出場権を手にするも、直前に負傷し棄権となった。2年ぶりの大舞台を前にした長沼の心境に迫る。

※この取材は8月2日に行われたものです。

「悔しい、っていうよりまだ次がある」

けがで出場できなかった去年のインカレを振り返る

――昨年のインカレはけがで棄権となりました。そのときの心境は

長沼 ちょうど1か月前に、足指の少し手前の中足骨を折ってしまって。でも指の骨折くらいなら1か月でどうにかなるだろう、バー(段違い平行棒)だけでも出られればと思っていました。だからけがをしたときはそんなに諦めた感じでは なくて、間に合うかなって思ってました。でもまだ2年生だし、無理はしないようにしていました。

――「悔しい」という気持ちではなかったのでしょうか

長沼 そうですね。まだ出られると思って練習していましたし、実際出られなかったけど前を向いていたって感じです。

――インカレではサポートに徹したと思いますが、そのときの心境は

長沼 松葉杖の状態で新潟(去年のインカレ開催地)に行ったので、サポートといっても声を出すくらいしかできませんでした。あとは団体のチームの得点の記録くらいしかできなくて、本当に申し訳なかったです。けど、キャプテンの藤原さん(藤原昇平前主将、平28スポ卒=埼玉栄)もけがをしてしまって、それに比べたら自分はまだ2年あるし、悔しい、っていうよりまだ次があるっていうことが自分には大きかったですね。

――けがはどれくらいで治りましたか

長沼 結構かかりましたね。本当は交流戦(関東新人交流選手権)も出られると思ってたんですけど出られなくて。思ったより長引きましたね。

――足指ってかなり重要なんですね

長沼 そうですね。バーでぶつけちゃったんですけど、女子はバー以外の3種目が足を使う種目なのでなかなかきつかったです。

「ワセダは自分の考えてる練習ができる環境」

長沼得意の平均台

――体操を始めたきっかけは

長沼 お兄さんが2人いて、2人とも体操をやっていたので送り迎えで一緒にいつもついて行ってて。なんか自然に始めたって感じでした。

――「やりたい」と言って始めたわけではないのですか

長沼 私もやるのが当たり前なんだろうなって思って、自然に始めてました。

――ワセダの体操部に入部した理由は

長沼 私、早稲田大学自体に受かると思っていなくて。選択肢はいろいろあったんですけど、体操だけをやりたいとは思っていなくて。体操だけをやるなら日体大とかの1部校に入ることも考えられたんですけど、体操だけじゃ人生難しいなって考える、ちょうどそんな年頃だったので、勉強もして、ちゃんと社会に出られるような大学生活にしたいと思って早稲田大学を選びました。

――体操部の雰囲気は

長沼 女子選手はほとんどいないってことは調べていたので分かってました。施設とかを見に来て、しっかり練習できる器具もそろっているし、あとは自分次第で練習はどうにでもできるかなと思ってました。女子部員はそんなにいないんですけど、自分の考えてる練習ができる環境を選びました。

――体操部の推しメンは

長沼 推しメン(笑)?えー、みんなそれぞれいいところがあって、みんないい子ですけど…。浅野さん(浅野佑樹主将、スポ4=東京・明星)はみんなに気を配ってくれるし、どんなことを言っても真面目に考えて返してくださって。みんないいところあって決められないです(笑)。2年生も1年生の面倒を見てて、面倒見いいですし、私たちがやってあげられなかったことまでできているので、本当にすごいと思います。

――憧れの体操選手はいますか

長沼 アメリカのカイラ・ロス選手ですね。アメリカってダイナミックでガツガツした体操をするんですけど、その中でもしなやかで丁寧な演技が魅力的です。

――ライバル視している選手は

長沼 ライバル…そうですね、自分ができる技って限られてますし、体操って試合で決まるっていうよりは試合までの練習の過程で決まっちゃってるところがあるので、そんなライバルっていうのは考えていないです。けど、明大に武田千幸選手っていう、去年までたまにワセダにきて練習してた選手がいるんですけど、高校からインターハイ(高校総体)とかで同じ班で回ってました。高校の時から知ってて、大学も近くで一緒に頑張ろう、みたいな感じでやってます。ライバルって感じではないですね。

――自分との戦い、という感じですか

長沼 そうですね。ここまできちゃうと私にはできない技ってあると思いますし、「あの子がやっているからやろう」っていってできる年でもないので、もうライバルっていうよりは自分との戦いですね。

――試合前のルーティンはありますか

長沼 私、緊張して眠れなくなっちゃうんです(笑)。すごい緊張して、平均台とかプルプルしちゃうんですよ。もう本当に緊張しちゃうけど、「眠れなくても大丈夫だし」って考えたり、お昼寝をしないようにして夜寝れるようにしたり(笑)あとは緊張して会場練習をすると次の日絶対筋肉痛になっちゃうので、できるだけ少ない本数で集中して、できなくても1本にしよう、と次のことを考えてやってます。

――印象に残っている試合は

長沼 1年のときのインカレはいろんな技に挑戦したんですけど全くうまくいかなくて。でも挑戦できたことが自分にとってすごく大きかったので、印象に残っています。

――ゆかの演技で使用する音楽にこだわりはありますか

長沼 私の第一のこだわりは、技をやっても疲れないようなものにすることです(笑)。本当は見せる演技がしたいんですけど、省エネできる曲を選んでます(笑)。

――どのような構成ですか

長沼 1節目をやって、本当は折り返しで次のタンブリングにいっちゃいけないんですね。技やって技やるっていう連続はルールで減点されちゃうんですけど、ちょっとそこで何かやってからいくと大丈夫らしくて。そこでジャンプとか挟んじゃうと2節目の前に疲れちゃうんで、1回休んで、2節目にいけるように考えてます。

――緻密に考えられているんですね

長沼 体力がないので(笑)。

――振り付けはご自身で考えられているんですか

長沼 そうですね、今回は。

――今回、ということは

長沼 以前使っていた曲はジュニアのクラブチームに所属していたときの先生が考えてくれたんですけど、疲れちゃうんで変えようと思って(笑)、自分で考えました。

――今シーズンの目標で「最終日の種目別決勝に残りたい」とおっしゃっていましたが、手応えはありますか

長沼 そうですね、平均台は残れれば残りたいですし、平均台しか可能性はないかなって思っていて。最初にD難度の技(※体操競技の技はAから易しい順に難度が振り分けられている)を入れるんですけど、それが(平均台に)乗るか乗らないかで全部が決まるんで、落ちたらそのあとのびのびと、落ちなかったら慎重にやりたいと思います。

――ということは最初の技が重要なんですね

長沼 井上和佳奈選手(筑波大)もやってる、ロンダートをやってスワン(伸身宙返り)の脚を開いて後方に乗る技なんですけど、曲がったら「曲がる」って分かる技なんです。「和佳奈ちゃんはなんであんなに乗るんだろう?すごいなー」って思ってます(笑)。

――恐怖は感じないんですか

長沼 平均台が見えるんでそんなに怖さはないですけど、ちょっとでもぶれたらもう失敗ですね。試合で成功させたことが1回くらいしかなくて、難しいですね。

「今まで練習でやってきたから」

早大女子体操部のエースとしてインカレに挑む

――現在のコンディションは

長沼 そんなに悪くもなく、いい感じです。私、基本的に痛いところがなくて、慢性的な痛みがそんなにないので、一瞬でバキッとやらない限りこのままいけば大丈夫です。

――調子は上がっていると感じますか

長沼 ここまで歳を感じたことはなかったんですけど、この歳になると上がっていくことはそんなにないんですよ(笑)。ちゃんと自分でオフを作って体を休めるのも大事って思っていて。試合までにグングン調子を上げていくと
いうよりは、今の調子を保って、今できることを試合でもそのままできるようにやろうと思います。

――以前、試合前にけがをしてしまうとうかがったのですが

長沼 そうなんですよ!今回は上げていこうとは思わないで、このまま、今のままで力まずに鯖江(ことしのインカレ開催地)に行こうと思います。

――けがは不安要素ですか

長沼 そうですね。私はあまり感覚もよくなくて、技を目を閉じてやっちゃったりもします。男子選手は小さいころから基礎を積んでいて、「ここでゆかを確認して、今自分がこれくらいの角度でいるから、脚をもっといれよう」とか考えてやっているから試合でも確認して、絶対に失敗しないようになってて。私はそのポイントがまだつかめてなくて、勢いでやったり、力で押しちゃうところがあるので、試合での不安は多いと思います。けど、開き直って、「今まで練習でやってきたから」って思って、堂々とやりたいと思います。

――インカレ直前の今、意識して取り組んでいることは

長沼 私、跳馬で小学5年生から同じ屈身ツカハラって技をやっていて、10年くらい同じ技なんで前に進んでいないんですね。「跳馬どうしよう」って思っていて。伸身にするのもなかなか難しくて、屈身ツカハラなんです。けど、4月に足の指を脱臼して、有名な治療院で治してもらうときに、「跳馬見せて」って言われて跳馬を見せたら、「助走が問題だよ」って言われました。なので助走の練習をしています。屈身ツカハラでも勢いのある実施とそうじゃない実施とで点数が変わってくるので、ちゃんと走れるように頑張っています。

――助走のスピードということですか

長沼 そうです。私、基本的に運動が苦手で、泳げないし走るの遅いし、球技もできないし(笑)。なので走る練習から始めようと思って。バック転練習の補助とかで使う、柔道とかの帯を後ろからトレーナーに引っ張ってもらって、走る練習をしています。今まで跳馬は「まあいいかな」って思っていたんですけど、助走から変えることにしました。

――距離も変わってきますか

長沼 距離もなんか短いんですよね、私。なんかテレテレテレって走っちゃうし(笑)。

一同 (笑)。

長沼 後ろから走ると疲れちゃうんですよね(笑)。みんなより3メートルくらい前から走ってます(笑)。

――注目してほしいポイントは

長沼 ゆかの屈身ダブル(後方屈身2回宙返り)が東日本(東日本学生選手権)では決まらなかったので、それをインカレではちゃんと(着地を)立ちたいと思います。

――インカレへの意気込みは

長沼 今回は西日本(西日本学生選手権)の勝ち上がってきたメンバーと東日本の勝ち上がってきたメンバーが混ざった組でやれるので、普段東日本のメンバーとしか関われないことが多いんですが、西日本のメンバーの演技を見られたり、「一緒に頑張ろう」ってなれて。苦手なゆかからで最後が平均台で、緊張感をずっと保ったままになると思うんですけど、インカレのために各地で練習を重ねてきた他大のみんなと力を合わせて、ゆかから頑張ります!

――ありがとうございました!

(取材・編集 榎本透子)

今回の色紙のテーマは「自分の体操を一言で表すと?」

◆長沼園佳(ながぬま・そのか)

1995年(平7)5月31日生まれ。身長155センチ。群馬・中央中教校出身。スポーツ科学部3年。試合前の勝負メシは『即効元気ゼリー』だそうです。理由は「なんか元気が出そう」「持ってるだけで即効元気って感じ(笑)!」。インカレでも元気いっぱいの長沼選手に期待です!

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