東日本学生選手権(東インカレ)の2日目。新体制になって初めての団体戦に、早大の精鋭6名が挑んだ。種目ごとに全員が演技を行い、チーム内で上位5名の得点が団体戦に反映される。夏に控える全日本学生選手権(インカレ)の前哨戦とも言えるこの大会で、早大の成績は6位。インカレ同様3位を目指していた早大にとって、順位だけ見れば振るわない結果だったかもしれない。しかし、初めて団体戦に出場した選手の活躍もあり、実りある内容となった。
1種目目・鉄棒の1番手は、初めてチーム入りを果たした佐藤崇太(スポ2=福井・鯖江)。緊張感が漂う中、「思い切った演技ができた」(佐藤)と幸先の良いスタートを切る。流れに乗りたい早大だったが、落下のリスクが伴う種目で動きが硬くなってしまい、それぞれが本来の力を出し切れず。一方、ゆかでは脚力が強い選手の活躍が光る。中でも、最後に登場した浅野佑樹主将(スポ4=東京・明星)は高い跳躍を披露し、さらに着地も止めてチームを大いに盛り上げた。悲劇が襲ったのは早大の鬼門・あん馬。6名中3名が落下し、他校との点差が開いてしまう。「試合の雰囲気にのまれると、これだけ失敗が出てしまうのか」(浅野)。あん馬の攻略が、チーム全体の課題になってくるだろう。
ミスが相次いだあん馬
悪い流れを断ち切るべく、迎えた種目はつり輪。上位に食らいつくためには、早大が得意とするこの種目でいかに点を伸ばせるかが重要になってくる。この大事な場面で後半演技者を任されたのは竹中貴一(スポ3=福井・鯖江)と高橋一矢(スポ2=岐阜・中京)。ポイントゲッターである2人がしっかりその役目を果たし、次々と高得点をたたき出す。終わってみれば、種目別での得点は強豪・順大に次いで早大が2位。全員の演技がつながったときの強さを証明した。続く跳馬も、ほとんどの選手がEスコア(出来栄え点:10点満点からの減点方式)8点台後半以上という質の高い実施を見せつける。跳馬で全日本種目別選手権(全日本種目別)への出場が決まっている柏木寅冶(スポ1=千葉・市船橋)はチーム内最高難度の技に挑戦。惜しくも転倒してしまったが、「調子が良すぎた」(柏木)とこのミスを前向きに捉える。そして最終種目の平行棒。前半種目では失敗が目立っていた近藤宏紀(スポ3=福井・鯖江)が、着地までピタリと止める演技を披露。他の選手も、疲労がたまる中で粘りながらも通し切った。総合順位は6位だったが、おのおのがレベルアップするための好材料を見つけたに違いない。
チーム内で一番Eスコアが高かった近藤の平行棒
個人では、高橋が個人総合で7位、種目別つり輪で3位と大躍進を見せる。白井健三(日体大)や萱和磨(順大)などといった、世界で活躍している選手と同期である高橋は『黄金世代』の一角を担うべく、「まだ伸びる」とさらなる成長を誓った。総合力と種目別での強さを兼ね備える高橋の存在は、チームにとって良い影響を与えるはずだ。3か月後のインカレまでに早大がどのような進化を遂げるのか、目が離せない。
(記事 大浦帆乃佳、写真 中村ちひろ)
結果
男子団体総合 | ||||||||
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選手名 | ゆか | あん馬 | つり輪 | 跳馬 | 平行棒 | 鉄棒 | 合計点 | 順位 |
浅野佑樹(スポ4) | 14.400 | 12.750 | 13.950 | 14.800 | 14.050 | 13.700 | 83.650 | 27位 |
竹中貴一(スポ3) | 14.400 | 14.150 | 14.550 | 14.150 | 14.000 | 13.850 | 85.100 | 16位 |
近藤宏紀(スポ3) | 13.450 | 12.500 | 13.750 | 13.700 | 14.450 | 12.900 | 80.750 | 42位 |
高橋一矢(スポ2) | 14.350 | 14.400 | 14.850 | 14.700 | 14.450 | 13.850 | 86.600 | 7位 |
佐藤崇太(スポ2) | 13.950 | 12.600 | 13.450 | 13.400 | 14.300 | 13.700 | 81.400 | 39位 |
柏木寅冶(スポ1) | 14.450 | 13.200 | 13.250 | 14.300 | 12.350 | 13.000 | 80.550 | 44位 |
チーム得点 | 71.550 | 67.100 | 70.550 | 71.650 | 71.250 | 68.100 | 420.200 | 6位 |
コメント
馬場亮輔監督(平18年人卒=埼玉栄)
――きょうの団体戦を振り返っていかがでしたか
他大学があまり調子良くないって聞いていたので、そこにうまくうち(のチーム)がはまれば3位も狙えると思ってたんですけど、それ以前にうちが1種目目の鉄棒で自滅したので。落下のリスクがある難しい種目からのスタートだったのであまり攻めることもできなくて。演技を見ていてる方も、噛み合ってない感じがしたのではないかと思います。経験が少ない選手たちだから、演技が硬くなってしまいましたね。この経験が今後生きてくれればいいと思います。
――この試合が初めての団体戦だったという選手について、どうご覧になりましたか
この東インカレという大会は、インカレに向けてのステップアップという位置づけで、正直勝負をするぞという感じではあまりなかったです。1年生とか、団体戦の経験のない佐藤とか、そういった選手に敢えてチャンスを与え、その選手たちがまた切磋琢磨(せっさたくま)してくれることを願ってチームに入れました。いろんなことを考えてのメンバーでした。
――東インカレに向けてのチームの調子はいかがでしたか
1か月前がすごく調子悪くて、大丈夫なのかなっていう感じはしたんですけど、1週間前くらいにだんだん良くなってきて。練習の強度をだんだん軽くしていって体の疲れを取っていったら、最後の試技会で420点が取れ、やっと試合になるかなと。なので、そのときの調子を維持してきょうはできたんじゃないかなと思います。
――あん馬では3選手の落下がありました。そのときのチームの雰囲気は
近藤がチームのムードメーカーなんですけど、初めの3種目で失敗していましたね。そのムードメーカーが、失敗したことで一気に声を出さなくなってしまって。そこで「お前が静かになっちゃだめだ。いいから声出せよ」って喝を入れました。その後の種目はしっかりやってましたね。
――後半種目はチーム的にも勢いが感じられました
つり輪と跳馬はうちの得意種目で、最後の平行棒はまた苦手な種目で。ことしのチームは、僕が4年間早大で指導してきた中で一番弱いです。力がない。だからこそ、開き直るしかないですね。
――伸びしろがたくさんある、ということではないでしょうか
1年生の南(亜蘭、スポ1=大阪・太成学院大高)をはじめ、1、2年生が今後楽しみですね。
――今後チーム全体で得点を上げていくためには、どのようなことが必要になってきますか
非常に難しい問題ですね。技を入れればそれだけ難しくなって、失敗するリスクが高くなる。でも、守りに入ってしまうと堅い演技になってしまったり、(構成が)通ってもそこまで点が伸びない。何かを得るためには何かを犠牲にする必要がありますからね。種目ごとに点数の取れる5、6番手に挑戦させるとか、それより前に演技する4名は堅い演技をさせるとか。試合状況によって5、6番手にそれぞれの持ってる最高難度の構成で演技させるか、それより1歩手前の構成にするか、っていうのを臨機応変にしていけたらな、と思います。
――きょうの団体戦に点数をつけるなら
チームは、試技会通りの点数が取れたので70点はあげたいですね。個人個人で点数をつけるのならば、90点から30点と幅が出てしまいます。
――インカレまでに修正していきたい点は
僕の指導論は『うまい選手』ではなく『強い選手』を育てることなんです。強い選手って何かって言ったら、失敗しないことなんです。体操って結局6種目終わったときの点数が大事になる競技です。何か1種目で高得点を取れても次の種目で失敗したら意味がない。だからずっと踏ん張れる、忍耐力のある、そういう強さを選手に求めています。高橋はそういう強さを発揮した試合でしたね。なんでこういう試合ができるかっていったら、実力もそうなんですけど、そういう練習をしてるから。団体戦も、自分たちの体操をノーミスで、36演技(6種目×6名の演技)やれば、おのずと結果はついてくるし、それで、たとえ2部に落ちたとしても、僕は選手たちを褒めてあげたいですね。内容より先に結果を求めてしまうとそこにしか意識がいかなくなってしまって、それをコントロールできなくなってしまうんですよね。自分ができる範囲のことをちゃんとやる、それにつきますね。
浅野佑樹主将(スポ4=東京・明星)
――きょうのチームとしての目標は
3位を取ることです。
――主将として臨む初の団体戦でしたが、個人としての目標はありましたか
個人としての目標は特別なくて、チームで3位を取るためにいかに演技をつなぐかということを意識して取り組んできました。
――チームの雰囲気はいかがでしたか
僕自身はすごく楽しい雰囲気でできたし、練習でやってきたときよりも試合に入った感じはすごくいい雰囲気だったんです。ただ、始まってみたら色んなトラブルがあったりして。個人個人それぞれの気持ちに少しつまずきみたいなものが見られて、そこが残念でした。
――演技を振り返ってみていかがですか
僕自身練習があまりうまくいっていなくて、すごく不安でした。試合でもやっぱりそういうキメの甘さとか着地を止め切れなかったりとか、倒立をビシっと止められなかったりしたので、そういうところが自分の中で課題になりました。
――あん馬で落下が相次ぎましたが、どうご覧になりましたか
あん馬は僕らがすごく苦手としている種目だったので、練習に取り組んできたのですが、環境が変わって試合という雰囲気にのまれてしまうと、これだけ失敗が出てしまうのだなと改めて感じました。
――浅野選手は演技後にガッツポーズや笑顔が多く見られました。特に納得のいく種目はありましたか
跳馬がすごくうれしかったです。
――課題がみえた種目は
課題は、やっぱり演技をどうつないでいくかということだと思います。チーム戦ということで、人の演技まで気にする必要はないのですが、気持ちで戦っていかないといけないと思うので、そこをしっかりやりたいと思います。
――インカレに向けた収穫はありましたか
高橋がすごくいい活躍をしてくれました。こういう得点を取れる演技者がいるということは、チームとしても僕としても安心しますし、見ている人は俺も俺もってなってくると思うので、そういった人がもっと増えていけばいいかなと思います。
――主将として、インカレまでにどういったチームをつくっていきたいですか
僕自身体操を楽しみたいので、みんなで楽しく試合を回れるようなチームを目指したいです。そこで結果はインカレ3位を目指しているので、練習から430点というところを目安にして、いかにその点に近づけるか、そしてこれからそれを乗り越えられるよう頑張っていきたいと思います。
近藤宏紀(スポ3=福井・鯖江)
――きょうの演技を振り返って
全然だめでした。
――それでも、後半の3種目は演技を立て直されていたように感じました
後半も良くなかったです。良かったと言えるのは平行棒くらいです。その平行棒も、練習してきた技を抜いたので、力を出し切れませんでした。
――あん馬の演技後に馬場監督から喝を入れられたそうですが
そうですね、あれは効きました。
――平行棒はEスコア(出来栄え点)が8.85という質の高い実施でした
そうだったんですか(笑)。でも、さっきも言ったように技を抜いたので納得はしていないです。インカレでは、きょう抜いた技も入れて通したいです。
――インカレに向けて、どのような点を修正していきたいですか
失敗しないことですね。普段の練習では失敗なくできたのに、試合で失敗してしまったので、それは何か理由があると思うし。感覚でやってるところが多いので、そこをちゃんとやっていかないといけないなと思います。
――インカレへの意気込みをお聞かせください
インカレはこんな試合をしないようにしたいです。今回、チームのみんなにも迷惑をかけてしまったし、インカレではしっかりといい結果を残して、できるところを見せられたらなと思います。
竹中貴一(スポ3=福井・鯖江)
――きょうはどのような意気込みで試合に臨みましたか
きょうは自分のできることだけやろうと思っていました。
――やりたかったことはできましたか
途中まで良かったんですけど、最後(の平行棒)で手を着いちゃって失敗してしまいました。そこがなかったら、ちゃんとやり切ったかなと思います。
――試合全体を振り返ってみていかがですか
前の人の演技とか見ていると自分はそれにのまれてしまうので、なるべく人の演技を見ないようにしてきょうはやってきました。なので、きょうはどうだったとかあまり言えないのですが、あん馬で前の二人が落ちてしまったので、ちょっとつらめな演技になってしまったかなと。(演技を)やる前はつらかったかなと思います。
――あん馬では他の選手の演技をご覧になっていたのでしょうか
見たというか、落ちている雰囲気があるなと感じました。
――その雰囲気を受けてプレッシャーは感じましたか
ちょっとつらかったです。
――そのあん馬の演技を振り返ってみていかがですか
自分的にはそんなに悪くなかったのですが、一瞬慌てた感じになってしまいました。
――良かった種目は
ゆかが多分良かったと思います。
――課題が残った種目は
最後の平行棒の着地しかないです。
――インカレに向けた収穫は得られましたか
周りの大学とのレベルの差とかが分かったのが良かったと思います。
――今後の目標を教えてください
インカレまでにレベルアップして団体に貢献したいと思います。
佐藤崇太(スポ2=福井・鯖江)
――団体戦初出場となりましたがどのような意気込みで試合に臨みましたか
今回は初めての団体ということで、結構前から団体を想定した練習をしてきたのですが、その練習の段階からすごく緊張していて。緊張が今までの中で一番というくらいの試合だったので、あん馬は落ちてしまったのですが、それ以外は大きなミスなくやれたということはすごくいい経験になりました。
――団体に向けた練習とは
団体でまとまって練習をしていました。自分はほとんどの種目でトップバッターだったので、次の選手にいい流れで演技がつなげていけるようにということを意識して練習していきました。
――トップバッターとしてのプレッシャーはありましたか
すごくありました。
――試合全体を振り返ってみていかがでしたか
あん馬は器具があまり合っていなくて、心配な部分がありました。失敗はしてしまったのですが、他の種目は大きいミスなくまとめることができたのですごく良かったと思います。
――チームの雰囲気はいかがでしたか
初めてだったのですが、今までで一番楽しい試合ができたんじゃないかなと思います。
――納得がいく演技ができた種目は
鉄棒は1種目目の一番手だったので、緊張する中での演技だったのですが、「思い切ってやれ」と監督から言われた中、その指示通りに思い切った演技ができたので、鉄棒はすごく良かったと思います。
――きょうの試合を通して得た収穫はありますか
新しく入れた技とか部分的に成功したところもありますし、失敗が出たところでは改善点も見つかったので、悪かったところは次のインカレまでに直して、さらにいい演技を目指したいなと思っています。
――今後への目標を教えてください
今後はさらにDスコア(技術点)を上げて、チームに必要な存在になりたいなと思っています。
高橋一矢(スポ2=岐阜・中京)
――今シーズン初試合でしたが、演技を振り返っていかがですか
久しぶりの試合だったんですけど、特に緊張することもなく、楽しく(試合を)回れました。やっと戻ってこれたかなという感じです。
――4月にあった全日本種目別選手権トライアル(トライアル)には出場されませんでしたが、やはりけがの影響でしょうか
そうですね。ことしの年明けくらいまで全然動けなくて。トライアルは出ようと思えば出れたんですけど、そこで無理をして東インカレやインカレに出られなくなるくらいだったら、トライアルは出場せずに、その時期は調整に充てようと思って。今も、他の選手と同じくらい練習したらすぐにだめになってしまうので、先生と相談しながら練習内容を減らしてもらったり、いろいろ調節しながらやっています。その調整が今回うまくいってよかったです。
――あん馬では高難度の技ブスナリを構成に入れていましたね
ことしの2月くらいから取り組み始めてなんとか、という感じでしたね。やっぱり試合で使うとなると緊張しちゃうんですけど、うまくいってよかったです。
――つり輪の演技は圧巻でした
自信を持っている種目ですし、自分の持っている力を出せば点も伸びると分かっているので、不安もなくできました。その分良い演技ができるし、なんといっても自信があるので大丈夫です(笑)。着地は狙ってました。
――着地といえば、跳馬でも着地を止められていました
あれは結構ギリギリで、(着地で)立てるか分からなかったです。まあ、立っちゃってた、って感じでした(笑)。尻もちすれすれだったので、審判にアピールするという意味でもガッツポーズしたりしました(笑)。
――6種目合計で86.6という点数について
ノーミスで演技できれば86~7くらいの点は取れると試技会で分かっていたので、実際に試合でノーミスでできたのはすごく自信になりました。
――オフシーズンに取り組んできたことは何ですか
力技の強化ですね。つり輪の後転中水平だったりあん馬のブスナリといった、難度の高い技ですかね。
――今シーズンの目標を教えてください
インカレで団体3位に絶対入ることが最大の目標で、個人的には6種目で87点を取ってU-21日本代表に入り、らいねんの全日本(個人総合選手権)の出場権利を獲得したいです。
――インカレに向けて反省点はありましたか
きょうみたいな試合ができればいいかな、って思うんですけど、あん馬の降り技だったり、まだ取りこぼしている箇所があったのが課題です。そこでしっかり点を伸ばしていけたら87点にも乗せられると思います。まだ伸びます(笑)。
柏木寅冶(スポ1=千葉・市船橋)
――大学での初めての団体戦でしたが、いかがでしたか
試技会などで、チームでたくさん練習してきたんですけど、いつもと違う緊張感があって、ガチガチになってしまう部分がありました。
――ゆかではさすがの安定感がありました
ゆかは自分ができるだけの演技を実施できたと思います。
――跳馬では難度の高いロペスに挑戦しましたね
実施としては結構良かったんですけど、(調子が)良すぎた部分もあって着地が乱れてしまいました。この技は、本当は跳ぶつもりじゃなかったんですけど、当日監督から、走り始めてからいけそうだったらやれと言われていて、実際にできる気がしたので挑戦しました。
――平行棒での降りで最後手を着いてしまう場面がありました。考えられる原因は何でしょうか
これを言ったら言い訳になってしまうんですけど、最終種目というのもあって、疲れが出てしまいました。
――次戦の全日本種目別に向けて、意気込みをお願いします
今回転倒してしまったロペスに挑戦して、着地までまとめられるようにしたいです。そして予選を通過して決勝の舞台で戦いたいです。