今シーズンはケガに苦しんでいる浅野佑樹(スポ3=東京・明星)と岸本邦秀(スポ3=兵庫・市尼崎)。全日本種目別選手権(種目別)では、それぞれ得意種目での出場権は持っていたものの、ケガの影響で破棄せざるを得ず悔し涙をのんだ。だからこそ、この全日本学生選手権(インカレ)へ思いは人一倍強い。良きライバルとしてお互いを高め合っているお二人に、ことしのインカレにかける思いを語っていただいた。
※この取材は7月29日に行われたものです。
「中途半端にするくらいなら絶対にいい結果は得られない」(浅野)
浅野
――ことしの大会を全体的に振り返ってみていかがですか
岸本 全日本トライアル(全日本種目別選手権トライアル)では結構失敗してしまって、その悔しい思いを東インカレ(東日本学生選手権)にぶつけてやろうと思っていたのですが、東インカレもいい試合ができたという感じではなくて。点数的には冬の成果が見られたんですけど、失敗してしまったというのが残念なところで、インカレこそしっかりやっていきたいと思います。
浅野 冬の練習で技をいっぱい詰め込んで通しをしていたのですが、結構失敗が多くてこのままじゃだめだなと思っていて。全日本個人総合選手権では技を落として自分なりに通せる構成にしましたが失敗してしまって。もっと回数かけて練習しなきゃいけないなと思ってガンガン練習していたら足首を捻挫してしまいました。東インカレは辞退ということで、それ以降我慢の状態が続いています。インカレは今のところ補欠なのですがチームに入れたらいいなと思っています。
――冬に強化したこととは
岸本 僕はEスコア(出来栄え点)が残ることを自分の武器としてやってきたんですけど、それだけだと大学では戦っていけないので、Dスコア(技術点)も上げる意識で冬は練習してきました。
――浅野選手はオフシーズンに海外の試合を経験されたと思いますが、いかがでしたか
浅野 スタンフォード大対抗戦に出場させてもらって、日本とは違って盛り上げる能力が高くて。会場がざわついたり日本人選手が演技する時だけめちゃくちゃ盛り上がったりしてやりづらかったというのはありますけど、雰囲気は楽しめたのでいい経験になったと思います。
――お二人のケガの具合はいかがですか
岸本 東インカレが終わって1週目に右足をケガしてしまって。結構長引いてしまってまずいかなと思っていたんですけど、最近は良くなってきて、ケガする前と同じくらい動けるようになりました。
浅野 僕はまだ痛みが残っていて、技とかはかなりできるようになってきたのですが、まだ本調子ではないし、ゆかを得意にしてた分、もっとできるはずと思っているところができないのが悔しいです。インカレまでにどう治すかというところで、前の通しにして足首に負担はかかるけど自分の持ち味である高さを出すようにするか、足首に負担をかけないようにする通しにしてこじんまりさせるかで悩んでいます。
――ケガの影響で種目別予選を辞退されたと思うのですが、出たかったという思いはありましたか
岸本 ありますね。でもコーチと相談してインカレに合わせるために種目別を辞退しようっていう話になって。インカレにしっかり合わせられるようにやってくれているんだな、と捉えることでモチベーションを保てたと思います。
――一番に考えているのはインカレということですか
岸本 はい、そうです。
浅野 僕もインカレのために今は我慢せざるを得ないかな、という感じです。自分が演技できるとは思ってなかったけど半強制的にでも出場できたらいいなと思っていて。でもそんな中途半端にするくらいなら絶対にいい結果は得られないので、それだったらインカレに向けて気持ちを切り替えようと改めて思って辞退しました。
――昨年のインカレはお二人にとってどのような大会でしたか
岸本 2年目のインカレで、団体で出ることを目標にしていたのですが、出られなくて個人での出場になってそこであまりいい演技ができませんでした。その後の団体チームが相当いい演技をするのを見て、やっぱり違うな、らいねんは絶対にここで(団体メンバーとして)演技したいな、と感じ自分も1年かけてこの中(団体メンバー)に入って、チームを引っ張っていけるような選手になりたいと強く思った大会でした。
浅野 昨年のインカレは、自分の試合としてはすごくいい試合ができて、団体としても(早大体操部の)歴史的に一番高い点が取れました。その日ぐらいは満足していいよ、と先生にも言われて、すごく嬉しい気持ちでインカレを終えました。そこからどんどん向上していかないといけない、ということで僕はDスコアを上げなきゃいけないなと思って取り組んできたんですけど、1年経ってみてそんなに上がってないな、と今感じています。
「誰にも弱みを見せられない」(岸本)
岸本
――藤原選手(昇平、スポ4=埼玉栄)率いることしの体操部の雰囲気はいかがですか
岸本 藤原主将は口で言うタイプではなくて、演技で引っ張っていってくれていると僕は思うんですけど、最近はチーム練習をするようになって、ここは踏ん張りどころだからしっかり頑張ろう、というような声かけや、みんな疲れているなと思ったら気遣ってくれたりして、本当に頼りがいのあるキャプテンの下練習できていると思います。
浅野 新入生で高橋一矢(スポ1=岐阜・中京)がチームに入っていて、上級生と混じって練習するのは精神的に疲れたりプレッシャーを感じると思うんですけど、それを感じさせないというか、自分の演技を堂々とやってくれているのですごく安心感があります。佐藤崇太(スポ1=福井・鯖江)はインカレに個人として出場して、藤原康平(スポ1=愛媛・新田)は新人戦に向けて自分の取り組みたい技を必死に練習しているところです。まだ落ち着きはないかな、って感じです。
――ケガの治療中はどのような練習を行っていましたか
浅野 基礎練習ですね。倒立を1分じゃなくて2分など、いつもより長めに行っています。倒立2分間って頭がくらっとしてしまうのですが、そういうのも「足、ケガしているしできるかな」ということで負荷をかけて上半身はトレーニングしました。
岸本 それと、足を使わない種目を重点的にやって、僕はそのおかげもあってあん馬の通しをことし変えたのですが、以前は全く通らなかったのが、通る確率がだいぶ上がったのかなって実感しています。
――ケガに対して個人的に気をつけたり、取り組んでいることはありますか
岸本 足首は少し前までずっと圧迫して挙上して寝ていたのですが、今はだいぶ治ってきています。あと高3の時から左肩をケガしていて、左肩を下にして寝ると次の日めちゃくちゃ痛くて。なので寝るときは仰向けか右肩を下にして寝る、というところに気をつけています。1年生のときに駅の階段でありえないスピードでダッシュして捻挫しちゃったので(笑)。電車に乗るときは時間に余裕をもって行動するよう気をつけてます(笑)。
浅野 僕は好きなだけ食べちゃう傾向にあるので、ケガをしてからは太っちゃいけないというのが自分の中でキーポイントになったかなと思います。スポーツ栄養学という授業を取っていたので、食べるときにバランスよく食べればいいや、と思っていたのが、必要な時に必要な分食べられるように自分で考えて、コンビニに行ったら商品の裏に書いてある表示を気にしてみたりしています(笑)。ケガをしてからは意識することが増えて、食べる、食べないというのを考えるようになりました。
――特に食べた方がいいものはありますか
浅野 食べた方がいいものは、その日によったりするのですが、摂らない方がいいものは脂質ですね。脂質って、自分の好きなものを食べていたらどんどん摂取してしまうので、表示がついていたら脂質ができるだけ少ないものを選んだりしてます。あとは、魚を頑張って食べることですかね。僕はあまり魚を好んで食べなかったのですが、魚の脂はいいって聞いたので肉を選ぶか魚を選ぶかってなったときに、だいたい肉を選んでしまうんですけど(笑)。5回に1回か、6回に1回は魚を選ぼうかなと思います(笑)。
――そうすることで変わった部分はありますか
浅野 体重がかなり減りました。
――メンタル面で強化していることは
岸本 僕はあん馬のときに緊張しやすいので、ことしぐらいからなんですけどあん馬の通しをする前に、練習でも試合でも完璧に通るイメージを一本つくってから演技に入るようにしています。
――そうすることで以前と比べてやりやすくなりましたか
岸本 はい。それでも緊張はするのですが、イメージの中で、演技しているときの考えている場所とか、実際に演技しているときの頭の中と一致させてやると、最近は良くなってきているんじゃないかと思います。
――試合前のルーティンはありますか
浅野 ルーティンはまあまああるほうだと思います。無意識にやることが多いんですけど、靴下を左から履いていたら「あ、嫌だな」とか。気にしてもないんですけど、なんとなくいつも履いている方から履こう、とか。プロテクターを着ける順番もきっちり守りたいですね。アップは自分の中でやることは決めているのでそんなにブレはないのですが、アップまでに慌ててプロテクター取り出して右だか左だか、ってなったときには絶対左からなどは決めて、アップまでの過程できちんとルーティンを守るようにしています。
――体操を続ける上でケガとはどのように向き合っていますか
浅野 その日の調子を見ないようにするのが僕流です。その日の調子によってきょうは痛いからこの技ができない、今日は調子いいからいっぱい練習しちゃおう、というふうにしているとコンディションが崩れるので、一週間のプランを立てて、一週間で技がちゃんと確認できればいいかな、というふうにしていくとあまり焦らずにいられるかなと思います。
岸本 僕自身、気が抜けているときっていうより、気持ちが入って頑張ろうとしているときにケガすることが多いんです。そういった時にケガの注意をしないといけないんだなと思いました。いつも思っているつもりなのですが、今回もそういう感じのときにケガしてしまったのでさらに気をつけようと思いました。
「全員が力を全部出し切れば必然的に団体3位の目標が達成できる」(岸本)
良きライバル関係である浅野(右)と岸本
――東インカレで団体メンバーとして演技をしていた岸本選手を見て、何か感じたことはありましたか
浅野 正直、一緒に試合回りたかったな、というのがすごくありました。失敗は少しずつあったと思うんですけど、その中で岸本の持ち味のきれいな体操というをしっかり見せてくれたのが嬉しかったです。またそれを見て一緒に試合回りたいな、というのをさらに思いました。
――ライバルとしている選手はいますか
浅野 今は特に岸本ですかね(笑)。
岸本 僕も浅野ですね(笑)。団体メンバー争いをしているうちの一人なので、負けてられへんなあと。一緒に選ばれるのが一番なんですけど、4人くらいの中で誰が抜けてもおかしくない状況なので、誰にも弱みを見せられないというか、緊張した空気の中で最近練習しています。
――団体メンバーはまだ変わる可能性があるのですか
岸本 はい、十分あると思います。
浅野 いつ変わるか分からない、というのはあります。
――岸本選手の憧れの選手は星陽輔さん(元セントラルスポーツ)と以前うかがったのですが、3年生になって近づけたと思うところはありますか
岸本 今パッと分からないですけど、今も憧れているのは変わらないです。近づけているのかもしれないです(笑)。
――星さんのどのようなところが憧れなのですか
岸本 めちゃくちゃきれいで、動き一つ一つが本当に「きれいっ!」って感じで(笑)。同じ動きしていても全然違う感じがします。平行棒と鉄棒はもう本当にすごいです。
――浅野選手の憧れの選手は
浅野 ドラグレスク選手です。自身の名前が付いた技である跳馬の技ドラグレスクを僕もかなりやりたいと思っているんですけどなかなか難しい技で。どうやって取り組んでいったらいいのかなっていう感じです(笑)。
――練習はされているのですか
浅野 トランポリンではしていたんですけど、今はずっとドリックスを跳んでいて、ドラグレスクの半分ひねらないローチェっていう技があって、それも今は足首の関係で練習していないんですけど、いつかは跳んでみたいなとは思っています。
――高3の時の種目別でローチェを跳んでいたと思いますが、ケガが治ったら使っていく予定はありますか
浅野 それはもう、跳びたいです。今すぐにでも跳びたいです(笑)。
――お互いの第一印象は
浅野 本気の本気の第一印象は、賢そうだなと思いました(笑)。賢そうだったのにな、って今は思います(笑)。
岸本 高1の時のインターハイ(全国高等学校総合体育大会)を見に行ったときに佑樹がローチェを跳んでいて、やばいやつおるな、って思っていました。それが後々こいつだと分かりました(笑)。
――高1からローチェを跳んでいたのですね
浅野 高1から跳びましたね。そのときはおしりで着地するようなかたちで、これは技として認めてもらえるのか、というような跳躍だったのですが、点数も良く出ました。
――練習中はお互いにアドバイスしあったりしますか
浅野 なるべく周りを見て意識して声をかけるようにはしているんですけど、どうしても自分の練習に没頭してしまう面があって。どう?ちゃんと声かけれてる?
岸本 佑樹は結構周りの選手にアドバイスとかしてくれます。僕はアドバイスというより雰囲気を盛り上げるようにしています。
――東インカレでチームに声をかけている姿が印象的でしたが意識して取り組んでいるのですか
岸本 練習中から雰囲気作りっていうのは意識しています。特に3年生になってから、もう上級生ですし、盛り上げて引っ張っていくくらいの気持ちでやろうかなと思いました。
――夏休みは体操部みんなで遊びに行く予定などはありますか
岸本 はい、バーベキューをしに行く予定があります。
浅野 時間が作れそうなら行くんですけど、無理にではなくて、リフレッシュしに、行ける人だけでも行こう、みたいな感じで。
――息抜きや休みの日は何をされていますか
浅野 休みの日はずっと病院に通っていて、病院から帰ってきたらごはん食べてって感じですね。僕3回ごはんを食べるのがすごく好きで(笑)。そこでリフレッシュしています。
岸本 僕は寮生活をしているんですけど、そこで部員とわいわいしたりはしゃいだりするのが最大の息抜きかなと思います。
――インカレでのご自身のアピールポイントを教えてください
岸本 昨年より進化した岸本を見てほしいなと思います。
浅野 ゆかのマンナっていう技が得意なのでぜひ見てほしいと思います。長めに止めておくので(笑)!
――インカレまで1か月を切りましたが、今の練習で特に意識していることなどありますか
岸本 ミスをしないことですね。一個一個やっていって6種目ミスなくそろえることができたら自分の目標であるU-21日本代表入りもかなって、チームも3位に入れるんじゃないかと思うので、そこを意識してやっています。
浅野 徹底的に着地の練習をしています。高橋から教わったのですが、着地に向けて演技で疲れないためには呼吸をしろ、と言われて「はい!」って(笑)。僕は力んでしまう癖があり、力んでしまうと呼吸が止まって演技の最後の方は手がプルプルしてきちゃうんですけど、そこを意識して呼吸しておくと手が震えないのが分かったので、最後の着地もうまく狙っていけるんじゃないかと思っています。
――後輩からアドバイスを受けることがあるのですか
浅野 僕は受け取りに行くというか、後輩といっても長くても3年しか学年は違わないし、15年くらいやってきている体操選手ってそれぞれいろんな成長の仕方をしてるので、差はないのかなって。自分にないものはもらっていかないともったいないと思います。アドバイスはするしもらう、というふうにやっていけたらいいなと思っています。
岸本 僕も結構後輩からもアドバイスをもらうことは多いですね。種目ごとに得意な選手がいい感じにバラバラなので、いろんな人に聞きに行きます。
――今までの試合と演技構成を変える予定はありますか
岸本 ゆかを0.1上げます。つり輪も東インカレから0.1上げて臨みます。
浅野 つり輪で、難度は変わらないのですが減点のないように技を入れ替えました。昨年はホンマ十字という技が十字とホンマという技に分割されてしまって悔しい点数だったので、そんなことがないようにアザリアンに変更しました。ゆかと鉄棒は難度が下がっているのですが、Eスコアを上げていきたいと思います。
――インカレを間近に控えている部の雰囲気はいかがですか
岸本 みんな気合いが入っていることは間違いないです。
浅野 熱くなりすぎて、練習が終わるとみんなでグターってなっている風景は見られます(笑)。
――目標である団体3位への手応えはいかがですか
岸本 毎年それを目標にしていて、いつも届かなくて、昨年は本当に惜しくて。ことしはかなり狙える年だと感じます。
――最後に、インカレへの意気込みを教えてください
岸本 残り一か月、自分のできることを全部やって、夏休みに入って体操に集中できるので、インカレで全員が力を全部出し切れば必然的に団体3位の目標が達成できるんじゃないかなと思うし、個人的にもずっと目標にしてきたU-21日本代表入りを達成できると思うので、そこを目指してやっていきます。
浅野 今は直接団体3位には関われない立ち位置ですが、もし個人で出てしまったときに、やっぱり浅野を団体に入れておけばよかったと思わせられるような演技がしたいです。まだ時間があるのでしっかりアピールして、団体に入って、インカレ団体3位という目標達成に直接貢献したいです。
――ありがとうございました!
(取材・編集 大浦帆乃佳)
インカレでは自分のここを見てほしいというアピールポイントを色紙に書いていただきました!
◆浅野佑樹(あさの・ゆうき)(※写真右)
1994年(平6)11月24日生まれ。身長164センチ、体重62キロ。東京・明星高出身。スポーツ科学部3年。ゆかのめずらしい技、マンナを得意としている浅野選手。色紙をお渡しした際、迷うことなくこの文字を書いてくださりました。よくご覧ください!「マ」の文字、人がマンナをしているポーズになっているんです。こだわりがたくさん詰まった浅野選手のゆかの演技に注目です!
◆岸本邦秀(きしもと・くにひで)(※写真左)
1994(平6)年7月18日生まれ。166センチ、60キロ。兵庫・市尼崎高出身。スポーツ科学部3年。陽気な関西弁で対談を盛り上げてくださった岸本選手。インカレについてのお話では、ことしこそは団体メンバー入りをしたいという熱い思いが伝わってきました。昨年とは一味違う進化した岸本選手なら、団体3位に貢献してくださるはずです!